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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第676話 人を口説く

「これは……ノーウェ伯、お久しぶりです。中々宴にも参加出来ないので無沙汰をしています」


 四十中頃から五十程の男性が入ってきて一礼する。優しげな雰囲気だが、目に浮かぶ光には意思の強さを感じさせる。


「こちらこそ、ユリシウス伯。ゆっくりとお話をしたのは去年の夏の園遊会でしたか。お忙しそうで何よりです」


「法衣貴族ですので。領地が無いので気楽ではありますが、その分仕事は多いので辛いものはあります。そちらは、アキヒロ子爵ですか。お噂はかねがね」


 こちらを見つめると、鷹揚に一礼をしてくれるので、返礼する。


「初めまして。定例議会の際にお顔を拝見したかと思いますが、話も出来ず申し訳ございませんでした。あの短い時間では、中々。法務大臣とはお話出来ましたが……」


「はは、別に構いません。リーダルト候も慣れない場で頑張っていると褒めていました。さて、本日はどのような用件でしょうか?」


 不思議そうに首を傾げるユリシウス。ノーウェが議事の書状を差し出すと、納得したように肩を竦める。


「あぁ、なるほど。思った以上に早かったですね。はい。この件に関しては、私が処理しました」


「そう……ですか。では、本日の訪問の意味もお分かりですね?」


 ノーウェが問うと、諦観したような表情で、ユリシウスが頷く。


「あまり分かりたくは無かったですが……。覚悟はしていました」


「詳細をお教え願えますか?」


 ノーウェの声に、力強く頷く。


「議事の書状に関しても草案の決裁が法務、内務より出て、清書を始めている時期なので、七月も下旬ですね。王家派の人間より書状の修正依頼がありました。内容としては、書いてある通りですね。私としては、再度決裁が必要になるので、別議案の処理として出せないかと相談しましたが……。王家よりの指示の一点張りでしたね……」


 無念の色を強く滲ませながらユリシウスが言う。


「それは……。例え王家のと言いながらも、無茶ですね……。決裁権は法務大臣にあるにも関わらずですか……」


 ノーウェが残念そうに言うと、淡い苦笑を浮かべながらユリシウスが頷く。


「王家の緊急処置に関しては、王国法にも記載されている正当な権利です。ただ、それは原則自由に振るえる訳ではない。国難に立ち向かうための(すべ)です……。再三それは伝えましたが、担当の王家派の人間も詳細が分かっていないようで、王家の意向と言う事で押し通されました」


「と言う事は……。このような事態になる事は想定されていましたか?」


 ノーウェが私の方をちらりと見ながら、ユリシウスに告げる。


「逆にそうならなければ、国として問題でしょう。此度の件は、王家の責を追求する訳にはいかない。また、王家派の依頼を取り込むにせよ、八月内での議事確認期間を延長するにせよ、各大臣の決裁は必要でした。どちらにせよ、あの時期に無理をねじ込まれれば、誰かが責任を取らなければならなかったでしょう。決裁の事実は無く、現場の判断により実施した行いです。部下は私の指示に従い、書状を作成しただけです。どうか寛大なご処置をお願いしたく思います」


 上層部の無理筋に潰される現場……か。それでも、自分が指示したと言う事で、それ以上に影響を波及させないように努力もしている。本人の言ではあるけど、法に基づいて権力からの指示に対しても、きちんと否は伝えている。ただ、斟酌されなかっただけだ。


「はい。そこに関しては相談です。ロスティー公爵閣下と本日同道しましたが望みとしては犯人を捜すと言うものではありません。あくまで、このような形で王権を無為に乱用すると、いざと言う時に軽いものとなります。それを避けるために、今は動いています」


「なるほど、贄……探しですか。在地貴族であればこの時期、領地の方も大変かと思います。それでも尚、国のために……ですか。私の力が至らないため、お手数をおかけします」


 ユリシウスがやはり無念は浮かべながらも、こくりと頷く。


「ただ、このような形で優秀な方を野に放つのは開明派、いや国にとっての損害です。で、ここからは相談なのですが……」


 ノーウェがそう言うと、こちらを見つめる。こほんと咳ばらいをして、私は口を開く。


「国の中で法衣伯爵として上り詰められた方にこのような事をお話するのは恐縮ですが……。現在、私の領地『リザティア』は、ワラニカとダブティア間での交易で大きな収益を上げております。しかし、煩雑な契約が山と増えており、如何ともしがたい状況なのです」


 ユリシウスの瞳を見つめながら、言葉を紡ぐ。


「出来れば、優秀な人材を法務の責任者として迎え入れたいと考えております。勿論、ある程度動き始めた後は、庇護の下で独立、法衣ではなく、在地の貴族として、新たな一歩を踏み出して頂ければと考えております」


 若干怪訝な表情を浮かべるユリシウスに言い切る。


「簡単に申しますと、私は……あなたが欲しいと考えています」


 ふむ、この言葉だけ切り取ると、いけない感じがしそうだな。軽口を頭の中で叩きながら、ユリシウスの反応を固唾を飲んで見守った。

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