第675話 竜による王都訪問
先んじて、執事が声をかけてくれていたのか、応接室の前でペルティア達が集まっていた。
「済まぬな。ゆるりと仕事をこなすつもりであったが、王都にて所用が出来た。麦の生育は良いようなので、特に大きな問題が上がってくる事もあるまい。留守は頼めるか?」
「はい、あなた。ふふ、楽しそうな事。竜の方が窓から見えた時からわくわくしてらしたものね。ローディアヌス様に粗相のないようにお願いしますね。あのお方ももう国王なのですから、あまり叔父としてを前面に出されないように」
「分かっておる。では、暫く家を空ける」
ロスティーがペルティアと話し終わると、竜と挨拶を始める。敬意を表しているのは年上と言う事があるのかな。ブリュー達もちょっと下手に出られすぎて困っているようなので、助け舟だけを出しておく。
「ふむ。報せでは長き時を経たと聞いておった故な。何にせよ、王都までの途をお願いするのだ。ありがたい思いに変わりあるまい」
そう告げながら、握手を交わしていく。ブリュー達もはにかみながら、手を差し出す。
「目立って騒ぎにするのも問題か。しかし、徒歩で王都に入ると言うのも騒ぎにはなるか……。後の事を考えれば、竜で乗り込んでいった方が良さそうではあろうな」
ロスティーがノーウェと王都での対応に関して話をするのは良いんだけど、何というか物騒と言うか、出来れば穏便に済ませたいなと思っている私の斜め上に行動してくれる。王都の場所は竜達の方が上空から見ていて詳しいので、そのままお願いする。直線距離で進めるので、所要時間としては一時間弱というところだろう。ロスティー自身、今でも乗馬の訓練は行っているので、一時間程度の並足は問題無いとの事だ。館の中庭で変身し、預かってもらっていた鞍を取り付ける。
「では、行くか」
ロスティーが告げると、リズやラディアがペルティアと抱き合って別れを告げる。
「お婆様、またすぐに来ます……。ロスティスカの町も見てみたいですから」
「正式な挨拶もまだなのに、恐縮です。改めて父母と一緒に挨拶に参ります」
「ふふ、あまり大仰に考えないで。二人共もう家族なのだから。気が向いた時にいらっしゃい。特にリズは竜の方に頼めば、すぐでしょ? 楽しみに待っているわね」
そっとペルティエに二人が抱きしめられ、こちらに向かってくる。
「ご挨拶はきちんと出来た?」
「うん、大丈夫。また時間が空いたら、来ようね」
「秋の収穫が終わったら、時間も空くだろうから。その時にでも来ようか」
「うん、楽しみ」
そんな話をしながら、ブリューに跨る。ロスティーも歳を感じさせない身軽さで、竜に跨る。ベルト等の装着が完了し、全員が問題無くなったところで、ロスティー達がまずふわりと上昇し、それを追うようにノーウェ達、そして私達が上昇する。上空で、微調整をしながら、王都方面に向かう。一時間もかからず、定例議会の際に進んだ道が見えてきたと思ったら、そのまま上昇を始める。王都の人間の目になるべく入らず、そのまま急降下してロスティーの館に着陸するつもりらしい。王都が玩具のように見える高さまで上がると、ジェットコースターのように勢いよく、地上へと向かう始める。偶々上空を見ている人間でもいない限り気付かないだろうなという勢いで、ふわりとロスティーの館の中庭に、三体の竜が着陸する。狼や兵達が接近してくるが、懐かしい匂いを嗅いだのか、嬉しそうにしっぽを振り始める。
「これは……ロスティー公爵閣下ですか!?」
「うむ。驚かせて済まんな。危急の用だった。鞍を外すのを手伝ってやってくれ」
ロスティーが兵に答えると、ひらりと竜から降りる。それに合わせて、私達も竜から降りる。
「では、儂は陛下に会いに行ってくる。ノーウェは官僚側の対応をアキヒロと共に」
「分かりました、父上。ラディアとリズさんは館で待ってもらえるかな。済まないけど、護衛と馬車の準備を頼めるかな」
ロスティーと馬車に同乗し、護衛に囲まれながら王城に向かう。少なくともこれを考えた人間の計画は、時間的な部分で踏みつぶしているとは考える。後は、どう図ったかを詳らかにした上で、逆襲といこうかな。そんな事を考えていると、馬車は王城の門を潜り抜けた。
「では、儂は先に向かう。もしかすると呼び出すかもしれぬ。その際は、頼んだ」
ロスティーがそう言うと、侍従に声をかける。
「国王陛下に危急の用で面会を求める。なお、公爵としての訪問ではなく、あくまで叔父として、王家の者としての訪問だ」
そう告げると、公爵閣下ではなく様づけで呼ばれた後、そのまま上階へと進んでいく。
「さぁ、こちらは行政窓口の方に向かおうか」
ノーウェに連れられて不慣れな王城を歩く。幾つか扉の少ない大部屋を過ぎて、法務庁と記載された扉の前に到着する。ノックの後、ノーウェと私が部屋に入ると、用向きを聞いてくる侍従にノーウェが告げる。
「今期の議事報告に関して、重大な不備が見つかった。担当責任者を呼んで欲しい」
そう告げると、侍従が奥の扉を開き、中に消える。
「さて、いるかな」
ノーウェの楽しそうな顔を横に、どういう形で切り出すべきなのかなと考えながら待っていると、再度扉が開き侍従が出てくる。
「応接間にてお会いするとの事です」
「分かった。待っている」
そう告げて、扉を潜り、中にある応接間でソファーにかける。
「強行軍でしたが、体調はいかがですか?」
「ふふ、その挨拶が出ると言う事は大分落ち着いてきたのかな。私は大丈夫。馬に乗るよりよほど楽だからね。さて、本人が来たら私の方で話をまとめるよ」
「事情が分かりませんので、お任せします」
そんな話をしていると、ノックの音が響く。さて、法務関係の責任者かな。ノーウェがどうでるか拝見する事にしよう。
 




