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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第674話 裏工作

「さて、慌てなくて良いと言ったのはワラニカとしてみた場合だ。慌てるに足る理由があると言うのならば、先に告げよ」


 ロスティーがカップを傾けた後、そう問うてくる。


「実際に王都での処理に関しては分かりません。まずは報告、連絡をすべき相手に情報を提供する事を第一に考えていました。また、『リザティア』に伝令が滞在しておりますので、その対処も考えなければとは考えています」


 現状で書状をもらって、三時間強。昼ご飯を食べて、お風呂に入ったくらいの時間かな。


「ふむ。伝令に関しては捨て置いても構わぬ。どうせ、移動期間の分は休まねばならぬのでな。情報の共有に関しては、見習わせたくは思うな。どのような対応をするにせよ、最終的には過半数を集め対応せねばならぬ故、早めに指示が出せたのは僥倖だろう」


 ロスティーが微笑みのまま頷く。


「具体的な対応方針は存在するのでしょうか?」


「そこを考えてみよ」


 ふむ……。これが授業か。一般的には、責任者の問題にするのが大きいかな。


「新規の法整備の不備なので法務大臣、もしくは税収に関わる不備なので内務大臣の責任問題でしょうか」


「一般的に考えれば、そうであろうな。正しい。ただ、組織の長の仕事は上申された情報を判断採択するのが仕事だ。少なくとも、儂と同じ侯爵位の人間が、その影響を考えぬ訳はない。通常の経路を通したなら、必ず差し止められておったであろう」


 任命権の責任問題の可能性もあるけど、情報が上がっていないなら、官僚レベルの問題で抑えられるのかな……。


「と言う事は、実務者になんらかの圧力がかかったとお考えですか?」


「それが妥当だろうな。王家の指示が入った故、急ぎ処理せよと言われれば現場として否は言い辛かろう。相談する相手は、領地まで戻っておるでな。報告すべき相手より上位の人間の指示だ。通常の経路とは違うと言っても、処理は通さざるを得まい」


「それは……。では、何の罪も無い官僚に罪を被せますか?」


「罪が無いとは言えまい。業務の流れに関しては決まったものだ。例え上位者とはいえ横入りしたものを是としたのだ。そこに問題はあろうて」


 うわぁ……。王様の指示で動いたのに、業務フローを無視したから罰を与えられますという流れか……。現場はきついな……。超法規的処置を実施する時は同じ流れになるだろうに。現場のモチベーションを損なわない方針を考えないときつかろう。


「それは……。しかし、納得がいかないかと思いますが……」


「うむ。ただ王家の権威を考えれば致し方ない。次善の策を講じるしか無かろう。此度の件であれば、法務事務の責任者の問題であろうな。現職は退かざるを得まい。なれど……」


 ロスティーが悪戯っぽく笑う。


「今の給与を考えれば、他の職でも引く手数多であろう。年次の法務処理の数は膨大。しかも、それを責任者としてこなし、問題を起こさずやってきた強者(つわもの)故」


 官僚職の古参、それも古強者(ふるつわもの)か……。


「現在、『リザティア』の業務に関してですが、ダブティア側の商人との折衝が増えており、契約件数が異常に増えております。出来れば、知識があり、責任を持って任せられる相手が欲しくは思いますが……」


「うむ。在地か法衣によるが、給与と考えれば、今の職よりは稼げるであろうな。折衝はこちらで行う。責任者として罪は被る形にはなるが、職を退く形が望ましかろう。その上で、然るべき職と地位を与え、開明派内ではその裏を共有しておれば問題無かろう」


 うーん。本当は罪も無い人間が処分される形か……。若干感情的には納得いかないけど、本人がよしとして、こちらに益があるなら良いのかな。汚いか汚くないかで言えば、微妙な感じもするけど、清濁を併せ呑むとは決めたし、国を護持する方が重要というならしょうがないか。


「分かりました。出来れば折衝の際に人となりを見極めたく思います。同行をお許し下さい」


 そう告げると、ロスティーが鷹揚に頷く。


「基本方針はこれでよかろう。儂としてはあのワイバーンの件の方が気になっておるが……。交流が出来たと言うのはノーウェより鳩で報告が来ておったが」


 ロスティーがノーウェに告げる。


「父上に鳩は投げたよ。ただ、実際に『リザティア』に入って感じた部分に関しては情報量が膨大だったからね。書状にまとめて伝令は出したよ。ただ、緊急で出した訳ではないのでまだ届いていなかったんだろうね。こんな問題が発生すると思ってもみなかったし、こんな移動手段で移動するとも思っていなかったからね」


 ノーウェが肩を竦めながら苦笑を浮かべる。


「ふむ……。ワイバーン……竜か。竜と友誼を深めたという話は聞いたが、指示に従うという話なのか? 急な話ゆえ、領民にはお主が雇ったと一旦は伝えておるが」


「命令権がある訳ではないです。あくまで友誼に対して、一宿一飯の恩を返してもらっているだけです。部下ではないので、無茶は言えません」


 そう答えると、ロスティーが少し思案する。


「友誼……か。脅威と見る者も出てこよう。儂とて、驚きはしたゆえな。その辺りも、今後の課題となろうか。しかし、現時点では問題は無いということか……」


「はい。否応なしは不可能ですが、相談は出来るでしょう。戦争行為に従事させる気はありませんが、最悪搬送などで手伝ってもらう可能性が無いとは言い切れません。それは都度竜側と協議します」


 そんな話をしていると、ノックの音が響く。先程の執事から、伝令と鳩の出発が完了した旨が告げられる。それに合わせて、ロスティーが立ち上がる。


「では、王都まで参るか。叔父として相談せねばならぬだろうしな。竜の乗り心地というのも少し楽しみゆえな」


 きりっとした表情でお茶目な事をいうお爺ちゃんだなと、ちょっと呆れながらノーウェと一緒に席を立った。

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