第671話 ロスティスカへ
「どうしたんだい、血相を変えて」
ノーウェティスカの領主館の玄関前で待っていたノーウェが驚きの表情を浮かべながら声をかけてくる。ん? この事態にも動じていないのが良く分からない。
「ご無礼とは思いましたが、火急の事態と思い馳せ参じました。竜の件はご容赦下さい」
そう告げると、ノーウェの表情が驚きから怪訝、そしていつもの表情に変わる。
「……。余裕が無いようだけど、何か起こったのかな?」
「議会報告書はお読みになられましたか?」
「先程、使者が到着したよ。今は館の中で待機しているけど」
これ、王家派も絡んでいるのかな……。どう考えても、うちに来るのとノーウェティスカに来るのが同じタイミングとかあり得ない。
「こちらをご覧下さい」
決定された議事と議事録をノーウェに手渡し、指さしてみると、表情が一気に固くなる。
「これは……。ん? 書状はいつ届いたんだい?」
「ほんの一時間ほど前です」
そう答えると、若干呆れ顔になる。
「予想を遥かに超えると言うか……。しかし、こうやって面と向かって話が出来るのはありがたい。これは由々しき事態だね」
「やはりそう思われますか?」
「君が何に対して慌てているかは分からないけど、懐剣は秘しているから意味があるんだ。誰が絵を描いているかだね」
伝家の宝刀は抜かないから効力を発揮する。国王の権利の行使を気にしているのか。
「内容として、今後の貴族のやる気を削ぐ内容だとは考えます。迅速に是正が必要かと思い、相談に参りました」
「助かるよ。しかし、差戻をするにしても議会の過半数の承認が必要になるよ。さてどうしようか……」
ノーウェが顎に手をやり、思案し始める。
「竜に関して三名で参りました。二人ずつは乗れます。まずは、ロスティー様を回収し、王都に向かうのが先決かと。また取り急ぎ政治資金として個人資産より一億ワールを用意しております。まずは王都にて、国王陛下へ真意を確認する事を急ぎましょう」
そう答えると、ノーウェが苦笑を浮かべる。
「それは……各領地の旅費分かい? 解決まで見越しているのか。私も現金はすぐに動かせないからね……。よし、護衛としてラディアだけ連れる。運んでもらえるかな?」
「喜んで。東門を出た場所にて待機しております。荷物に関して、必要な物は王都にて買い求めましょう。今は時間が惜しいです。またロスティー様の領地の情報が分からないので、竜に伝えて頂けますか?」
「分かった。先に待っておいてくれるかな。使者の対応と、領内の調整を行う。そう時間はかからないよ」
にこやかに言い、ノーウェが頷き、領主館に戻る。
リズと一緒に東門で待っていると、そう時間も経たずにノーウェがラディアを連れて現れる。
「ふむ、準備不足と誹られかねないね。こちらで用意出来たのは同じく一億程度だよ」
ノーウェが申し訳なさそうに言ってくるが、私はただ使い道のない金をプールしているだけだ。事情が違う。
「いえ。状況によっては工作資金として金を使う必要も出てくるでしょう。あればあるだけ良いかと。では、高い場所は平気でしょうか?」
「私は大丈夫。ラディアも訓練があるから大丈夫だよ」
ラディアが頷くのを見て、竜へと案内する。ノーウェが乗り込むのを手助けして、ラディアを引き上げるのを確認する。
「ベルトを締めてしまえば、後は馬の早駆けと一緒です。では、先導をお願い致します」
そう声をかけて、私達もブリューに跨る。ノーウェ達が先に上昇し、次いで私達が付いていく。ノーウェとラディアの様子を見る限りは高所恐怖症の症状は出ていない。さて、実対応の方針決めはロスティスカで決めてしまおうか。地図で見る限りは四十分強程度の旅だ。会えるのは嬉しいがこんな事態で会わなければならないのは寂しいな。そんな事を考えながら、変わりゆく地表の様子を眺めた。




