第653話 ダンジョンアタック 不思議な扉
『リザティア』から東の森の奥の方にダンジョンがあると言う噂が流れたのは、冒険者や公からの情報ではなく、森に住んでいたエルフからだった。ただ、アーティファクト特に若返りのために戦う意味が少ないエルフとしては、無視する対象だったので、今まで全くアタックされていない稀有なダンジョンらしい。チャットから予備知識をもらいながら、馬車の荷物を見回す。正直、慣れていない集団なので、かなり荷物は多いだろう。チャットから散々減らせと言われたけど、布とか洗い替えは用意したい。石鹸も持ち込んでいる。正直、風呂に入る気も満々だ。どんな状況かは分からないが、ストレスを溜めながらアタックするのは性に合わないので、なるべく気持ちよく過ごせるようにを第一に考えている。戦利品が何かは知らないが、金品というなら、また別の日に再度チャレンジすれば良いかなと。私の領地なので、一般開放するか否かも、私が決めて、私が私の権限で入り口を守れば良いだけの話なのだから。
そんな事を考えていると、馬車が森の入り口に到着する。既にオークの駆逐も完了しており。魔物らしい魔物は比較的低位なものしか住んでいない。ゴブリンもオークに追われたのか、目撃例はかなり少ない。基本的にどこにでも住んでいるのに、徹底的に排除されたのかな……。
「じゃあ、チャット、先導をお願い。ロットはフォローしつつ、『警戒』を頼むね。じゃあ、荷物は手分けして」
慣れた手つきで、荷物を下ろしていき、背負う。基本はトルカに住んでいた時に北の森にアタックしていた頃と変わらないのだが、皆、物凄く丸々と膨らんでいる。荷車の偉大さが改めて身に染みる。
テスラの同行はここまでで、馬車の世話をお願いする。ただ、竜同士の念話があるので、待ってもらう必要ってあんまりないのだが、万が一の際に即座に動く事が出来る足は用意しておいて欲しいという意見が多かったので、申し訳ないなと思いつつ、待機してもらう。
「テスラ、長引くようなら、戻ってもらって問題無いから。もし何かあっても、ブリューは守るし、そこから『リザティア』の竜に通知が行く。どちらかと言うと、それを確認してから動いてもらった方がありがたい。なので、待機の命令に関しては除外しておく。個人の判断で行き来を自由にして良い」
そう伝えると、こくりと頷き、お待ちしておりますと返ってきた。んー。分かってくれたのか、ちょっと怪しいけど、信じるしかないか。
と言う訳で、荷物を持って、森の中を進む。猟師の出入りが増えたので、獣道よりましな踏み固められた道が細く走っている。その中でチャットが地図と照らし合わせながら、進んでいく。危険な生物はいないが念には念を入れて、ロットの指示に従い、どんどん奥に入っていく。二時間ほども歩いたら、目標となっている洞窟が発見出来たので、周辺の警戒をしながら、お弁当でお昼となる。
「灯りとは別に松明を持って、前方を照らして欲しい。もし急に火が弱まったり、消えたりした場合はすぐに後退して欲しい」
ガスが溜まっているとか洒落にならない。可燃性ガスならどうするのかという話だが、定期的に風魔術で散らしながら前に進むしかないかなと。入り口を入った途端、長年掃除をされずに利用されている公衆便所のような糞尿のきついすえた臭いが鼻腔をくすぐる。
「ぐ、きついかも……」
皆が鼻を押さえる。蝙蝠とかではなく、大型生物が根城にしていたのだろう事を想像させる。しかも、肉を食べる系なのだろう。ごろごろと大型の骨が散乱している。
「これ、イノシシでもかなり大きいね。ほら、大腿骨」
リズが差し出してくる大腿骨も猟師が狩っているイノシシより、少し大きい。罠を使わずに狩るのは少々以上に手間と危険を伴うと考える。猟師達に注意して見てもらっていたが罠などの痕跡は、私達が入る以前には無かったらしい。と言う事は何か大型の生物がいるのか、いたのだろう。
松明の炎が微かに揺らめくので、どこかから空気が入ってきているのだろう事は分かった。ガスが発生していたとしても、散ってくれているかな……。ただ、出来ればこのすえた臭いを飛ばしてくれるくらい吹いてくれていたら、良かったのに。
「ロット、『警戒』に何か引っかかる?」
「いえ、小動物程度です。大型生物は全くかかりません」
そのまま三十分程かけてじりじりと中に入っていくと、唐突に風景が変わる。黒く変色した血痕などがそこかしこに点在する。
「争った跡?」
探索していると、物品などは回収されていたが、偶々落ちていた槍の穂先で少なくとも一方が何かは分かった。
「これ、オークが持っている槍だろうね。前に見た作りとそっくりだ。人間なら何十年前の話だし、こんな大規模に兵を送る余裕は無かっただろうしね」
死体を含めて回収する理由が良く分からないが、何か理由があるのだろうか。ただ、色々調査しながらの三十分なので、実際には十分もかけずに入り口から、ここまでは到着出来る。この辺りが居住区画だったのだろうとは思う。長く火を使った跡や、土器の類が散乱している。松明やランタンの灯りだけでは詳細は分からない。斥候や諜報を入れて、調査をしてみようと思いながら先に進む。支路は殆どなく、有ったとしても小さな貯蔵スペースみたいな物を掘った後のようで、例外なく執拗なまでに荒らされていた。
もう三十分程かけて、一番奥に到達する。やや広めの空洞になっているが、台座みたいな形で比較的奇麗に土が盛られているが、その上に有ったであろう何かは潰されて跡形もない。
「魔物の住処になっているだけの穴やったんでしょうか……。ここで行き止まりですやん……。噂もあてにならへんですね……」
チャットが言うと少し残念そうに皆が同意するかのように頷く。
だけど私はその言葉の意味が分からない。空洞の奥には緻密な模様で浮き彫りされた、立派な観音扉があるからだ。え、あれ? あれが見えるのって私だけなの?




