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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第652話 お姉さんとして

 最終的に皆が集まってきたので、合同で訓練を行う。皆も兵達の指導に集中しているのと、マネジメント方面の仕事の処理が増えて、体を動かす機会が減っている。チャットも学校関係でずっと事務仕事ばかりだ。なので、良い機会と言う事で実戦的な訓練を行う。ダンジョンアタック前の最終調整という感じになるのだろうか。

 ちなみに、一番調子が良いのは、フィア。考えるより体を動かせを信条に指導しているので、あまり鈍っていない。軽装部隊は運動量が多い部隊なので、合っているのだろうなとは思う。逆に駄目なのは、やはり私とリズだろう。政務や教育などに時間が取られて、夜中に起きて抜け出して訓練をしていても、現状維持程度にしかなっていなかった。そこはもう諦めて、今日の所は汗をかく事にする。

 訓練内容としては、この前兵の訓練を行った際と同じように、ケースごとの事象を決めて、対処を考える流れでやっていたが、敵側がヒートアップして、難易度が極悪になったりするのはご愛敬だろう。

 訓練が済んだら、お風呂となる。女性陣から先に入ってもらい、男性陣が後となる。私達は、防具を外した姿で、ぽけーっと女性陣が出てくるのを庭の東屋で待つ事にした。部屋のソファーに汗だくで座るのも嫌だし、風が通る分涼しいので、日が落ち始めて涼をまとった風を感じつつ、ダンジョンに関する事前準備を打ち合わせる。私も、チャットからのまた聞きなので、何が正しいのかは分からない。ただ、罠はあるようなので、ロープや、十フィート棒は用意しないといけないかなと。食料は荷車が使えないので、背負うしか方法が無いのが大変だなとは思う。ゲームでダンジョンに潜る系のやつで、重量制限を設けている物もあったが、実際重さ的に問題無くても、鉄製の鎧ばかり大量に出たら、嵩張ってしょうがないと思うんだけどなんて、阿呆な事を考えながら、準備する物と分配を決めていく。ノーウェは明日も視察で明後日には帰る予定になったので、明日一日で用意を済ませれば良いだろう。

 取り合えず、一覧が出来たので、女性陣と打ち合わせて最終的に荷物にまとめるので良いかと思ったタイミングで侍女が女性陣が上がった旨を知らせてくれる。

 下着を取りに部屋に向かうと、丁度保育所から戻ってきたアンジェとアーシーネにばったり出会う。丁度良いので、一緒にお風呂に入れてしまおうという話になった。アーシーネとタロ、ヒメを連れて、脱衣所に向かう。先にタロとヒメを洗ってしまおうかなと思っていると、アーシーネがしゅぴっと手を上げる。


「おいたん、タロとヒメあらう!!」


 聞いてみると、保育所では遊んでもらっているが、お姉さんなので、お手伝いをしたいらしい。自立心と母性の目覚めっぽくて、少しだけ感動した。ロットとドルが体を洗う中、タライにお湯を張ると、いそいそとタロが浸かって、うっとりした目で縁に顎を置く。それをもにゅもにゅとアーシーネが揉み始める。


「もみ、もみ」


 アーシーネが真剣な表情で洗っているので、前に回ってタロの様子を伺う。漏れ出てくるまとまらない思考の断片を取捨選別すると、もどかしいけど、気持ち良いし、嬉しい感じみたいだ。お世話をしていたアーシーネにお世話されるのが嬉しくて、感動しているっぽいのだけど、ちょっと思考が複雑すぎて、うまく拾えない。


『きもちいいの!! まま、すきなの!!』


 結論としては、好きに落ち着いたらしい。緩やかにしっぽが振られる中、顔の辺りまで洗い終わったので、ざぱりと上げてタロを拭って乾燥させる。その横で、お湯を張り替えたタライにヒメが浸かる。しゃがんで洗っていたのがべたーっと座って洗うようになっているが、子供の身長よりも大きな二匹を洗うのだから大変だろう。でも、文句も言わず、真剣な表情で洗い続ける。


『かいかん!!』


 ヒメの思考はタロと少し違っていて、お姉さん的立場なので、何か喜ぶ事で返さないといけないななんて思っているのが女の子っぽくて、ちょっと可愛い。結局二匹洗い上げて、ぱたりと仰向けに寝そべる。ヒメを乾燥させていると、アーシーネがうんしょという感じで起き上がる。


「はふぅ、がんばった!! きもちよかったかな?」


 誇らしげににぱりと笑って、首を傾げるので、二匹に伝えると、てーっと近付いて、タロもヒメもアーシーネの顔をぺろぺろ舐め始める。ひゃーっという感じで、笑っているが、二匹が幸せそうにじゃれてくるのが嬉しいのだろう。きゅっと抱き着いていたのが印象的だった。

 洗い終わったタロとヒメを脱衣所に連れていくと、丁度、ロットとドルも上がったので、私達もお風呂に浸かる事にする。リズがいてくれれば、湯船を任せられるのだけど、いないので、先に自分をさっと洗って、アーシーネを洗う。一緒にお風呂に浸かって、はふーっとタロヒメのように顎を縁に乗せる。


「たのちい……。ちあわて?」


 ぽつりと、少しだけ微笑みながら、アーシーネが呟くので頭を撫でる。会ったばかりの時は幼さしか感じなかったけど、急速に成長しているのが分かる。色んな事を吸収して、どんどん思考も複雑化しているし、他人と自分みたいな距離感も理解し始めている。元々自我が生まれるまでは空虚な生き方だし、自我が生まれてからも孤独な生き方だったアーシーネが、幸せになってくれればと切に願う。湯当たりしない程度に温もったら、さっさと上がる事にする。減ったお湯を足してから、脱衣所に向かう。

 部屋に戻ると、窓辺のソファーで涼んでいるリズが迎えてくれる。アーシーネを任せると、厨房にタロとヒメのご飯をもらって戻る。食事を済ませた二匹がアーシーネに構わないように気をそらさせておく。また汗まみれになったら大変だ。お風呂も入ってご飯も食べたので、二匹はもうちょっとで寝るはずだし。

 そんな感じで、日暮れは過ぎていく。ノーウェが帰ってきたのは、日が落ちて少し経ったくらいだろうか。どうもテディに説明という事で、大分接待を受けたらしく、夕ご飯はスープだけで良いと言う事だった。そうなるのを見越して軽めの食事内容だったので、冷製スープだけを出す事になったが、それはそれで楽しんでもらえたので良かっただろう。

 夕ご飯の後はアーシーネをアスト達にお願いしに行く。アーシーネもタロとヒメと遊ぶのが楽しいだけで、二人には良く懐いている。部屋に入った途端、ふわぁと欠伸をして、きゅいきゅいとティーシアの服の裾を引く。川の字で寝たいらしく、引っ張っていくのを横目に、部屋に戻る事にした。

 そんな感じで七月二十三日は更けていく。


 明けた七月二十四日は薄曇りだが、過ごしやすい温度になってくれた。ノーウェは朝も食べずに温泉宿に視察に向かった。朝の接待の部分を含めて、確認するつもりらしい。その合間を縫って商工会とも輸出入に関して調整を行うと言っていた。朝ご飯を終えた私達は、会議室で必要な物を改めて見直し、買い出しに出る事にした。一日駆け回ってへとへとになって戻ってきたら、ノーウェもへとへとになって帰って来ていたので、お互い苦笑で顔を見合わせる事になった。


 そして、七月二十五日の早朝。英気を養った近衛部隊に囲まれたノーウェの馬車が、領主館前のロータリーに到着する。


「では、突然の訪問だったけど、ありがとう。色々と助かったよ」


「いえ、あまりおもてなしもできず、申し訳なかったと考えます」


 領主館総出でお見送りとなる中、私とリズが馬車までついていく。


「じゃあ、ティルトの件、手数をかけるね」


「はい。到着が早いようだと、私達がいないですが。フェンに現状提示可能な情報はまとめてわたしていますし、初期教育の指針も作りましたので問題無いかと考えます」


「じゃあ、竜の皆様にもよろしく伝えて欲しいかな。次は……結婚式かな」


「そうですね。贈り物、考えておきます」


「もう、既に貰ったけどね」


 少し困ったように苦笑しながら、ノーウェが馬車を見つめて、乗り込む。


「糸と布。販路の件はフェンと調整している。基礎研究の件も軽くは聞いた。君のところで開発が滞っている物は開明派の方で巻き取っても良いと考えている。学術上、そちらでやるべき事、他に投げても良い事で分担を考えて欲しいかな。開明派全体に利益になる事だから、出来れば進めて欲しいし、一人でなにもかもする必要は無いよ。困った時は必ず話してね」


「はい。その点に関しては全く問題にしておりません。そう考えたので、竜の件もご報告致しました。ご心配なさらずに」


「うん。じゃあ、結婚式で。またね」


 そんな言葉で短い滞在を終え、ノーウェ達がトルカの方に向かって動き出した。台風のようにあっという間の出来事だったけど、喜んでもらえたなら良かった。


「しかし、『リザティア』の下見に行く時もそうだけど。私が予定を立てると、必ず最初に躓く気がする……。盗賊とか竜とか……」


 はぁっと溜息を吐くと、リズがくすくすと笑う。


「ヒロは会った時からそんな感じだったよ。だって、イノシシと戦うとか思ってなかったよね。でも、頑張って良い風に解決しようとしてきたから、今があるのだと思う。人生なんて長いんだから、少しくらい回り道しても良いと思うよ」


 のほほんとしたリズの言葉に癒されつつ、玄関前の皆に向き直る。


「じゃあ、手数をかけるけど、私達はダンジョンに潜る事になる。後は任せるね」


 そう告げると、テスラが馬車を回してくれる。今回は同行となる。アーシーネはお留守番だが、ブリューが連絡役として付いてきてくれる。回り道か……。連絡手段は少し気になっていたので、万事塞翁が馬かな。

 そう思いながら、皆で馬車に乗り込み、出発した。さぁ、久々の冒険だ。

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