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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第648話 将棋とジャーキーとザワークラウト

 執事が持ち込んでくれた盤をテーブルに置き、コマを並べ、反転し、同じく駒を並べる。


「へぇ。こちらは色の違いとかも無いんだね。美術的な価値は少ない感じだね……」


「遊び方が変わりますから」


 そう答えながら、各コマの動きを説明していく。チェスの動きに似ているので、その辺りはすぐに理解してくれた。プロモーションがあるので、裏返ったらコマの

動きが変わるというのもすぐに納得出来たようだ。ちょっと説明に困ったのは取ったコマを好きな場所に並べられると言う事だ。


「そんな事をしたら、すぐに勝負がついてしまうんじゃないのかい?」


「戦争でも、伏兵を用意したりは常だと思います。大丈夫ですよ」


 そんな事を言いながら説明していると、ノーウェがジャーキーを口に放り込む。


「ん!? これ、干し肉じゃないのかい? 塩味が少ないのに、香辛料の香りが強い……。それに……木の香り? 驚いたよ……」


「新しく開発した保存食です。従来の干し肉よりも塩分は少ないですが、日持ちはします。実際には燻煙という形で燻す工程も入ります。乾燥だけではないですね。ただ、香辛料をダブティアからの輸入に頼っているので、まだ価格が若干高いのが問題です」


「見た目に騙された……。どのくらいの価格なんだい?」


「他領の干し肉と同じくらいですか。塩の値段がありますから。林業がもう少し進み、香辛料に関わる作物を領内で栽培出来るようになれば、価格は『リザティア』で作る干し肉より高い辺りで生産出来ると見ています」


「ここの干し肉は安いしね……。ちなみにどのくらい保存期間は持つんだい?」


「今の干し肉よりは大分持ちますね。まだ試験中ですが、二、三カ月は伸びると見ています」


「味が良くて、その上で保存期間も延長される。値段は据え置きか、安くなる。完全に既存の干し肉は駆逐されそうだね。香辛料の配合と燻し方が妙なのだろうから真似も難しい……。製法が分からなければ独占か。塩といい、干し肉といい、生きるための根幹を狙ってくるね……」


「褒められているなら、嬉しく思います」


 その言葉にノーウェが苦笑を浮かべる。


「うん、褒めているよ。と言う事は、このキャベツの漬物も別物なのか……。酸味が強くて苦味すら感じるから、あまり好きでは無いのだが……」


 そう言いながら、フォークで刺して口に入れると、目を白黒させる。


「あぁ、まだキャベツの甘みが残っているのが、塩味と酸味と調和して美味しいね。何より、この甘い香りが堪らない……。良いね、これ……」


「まだ若いので。最終的には甘みがコクに変わってもう少し酸味が強くなります。これも香辛料を追加した物です。今までの保存食のキャベツですと、塩と酸味しか感じないですから」


「保存性が変わらないなら断然こちらを選ぶね……。料理で流通を塗り替えるか……。いや塩で、もうそれを見ているのに、これは再度認識を改めるべきだろう」


「ダブティア側の荷物、特に香辛料は日持ちするのでこちらの倉庫にまとめています。仰って頂ければ、流通させます」


 そう告げると、溜息が返る。


「価値が分からない状態で流通させても無駄って訳かい? 助かる。北に向かう際に、売り出せば、トルカとノーウェティスカの名産になるだろう……。借りばっかり増えていくね……」


「親の恩に報いるのに、貸し借りも無いと考えますが」


「そういう訳にはいかないよ。ちょっと本気で考える」


「では、その儲けで、地盤を確立して下さい。国内の安定があってこそ、他国を攻めやすくなります」


「さっきの話かい……。こちらが相談する前から解決策を用意されているというのは……。先を見て生きているつもりだったけど、君は、本当に……」


 歴史で見ていて、どうなるのだろうっていうのは大体予想は出来る。ならば自分自身が良いと思う未来のために準備するのは当然だ。お金は裏切らないし、どんな力にも変わる。


「盤上遊戯も現実の政治も、段取りが重要だと思います。では、先手を頂きます」


 そう告げて、角道を開ける。

 暫くコマの交換をしながら進めていたが、重装歩兵という名の銀将が近衛という名の金将に成った瞬間に、王手を宣言する。


「んー。こちらに逃げても、手持ちで止められる……。こちらも手を遅らせるだけか……。うーん、負け、かい?」


「そうですね。手を遅らせる程度しかないです」


「あー、君がリバーシ、チェス、そして、これを出してきた意味が分かった。盤上遊戯とは何かを理解させて、コマを動かして遊ぶという概念を理解させて、これ、かい……。良く出来ている。面白い、面白いよ!!」


「ありがとうございます。流行りそうでしょうか?」


「チェスを打つ人間には流行るだろうね。少し遊び方が特殊なので覚えるのが大変だが、流行るね」


「では、こちらなら量産もそう難しい訳ではないので、進めるようにします。取り合えずは温泉宿の遊戯室で置いて、お土産物として流通ですか……」


「温泉宿も凄いよね。見る人間が見たら垂涎の品で溢れているんだから……」


「元々、あそこを貴族文化の主流に出来ればと考えていたので、現状は望ましいですね。情報はノーウェ様、ロスティー様にお渡ししたら良いだけですし」


 そう告げると、ノーウェが苦笑を浮かべる。


「そういう部分まで気にしてもらえるのはありがたいけど……。そうだね、商売に関しては君の方が上手くやるだろう。話は広めておく。新しい遊戯が生まれた事と竜に関する事だね」


「はい。国内にいらない諍いを生む気はありません。ただ、攻められた際には抑止として用いる事は許可されています」


「はぁぁ……。本当の意味では脅威が何かなんて分からないだろうね……。個の脅威より、卓越した情報伝達手段の方が余程恐ろしいよ」


「そこまで考えが至る時点で、ノーウェ様も傑物だと思います」


「褒められているんだか、分からないね。まぁ、難しい話はさておき」


「はい」


「もう一局」


 コマを並べ直し、今日は少し夜更かしをするまで遊んだ。

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