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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第640話 れいぞーばこー

 気怠さを感じながら目を開けた私は、まだ薄暗い部屋を一瞥する。時間的にはいつも起きる時間だろうと思いながら、時計を眺める。窓を開けると、分厚い雲に覆われ今にも雫が垂れんばかりになっている。七月十九日は雨かな。湿ったひんやりした風が窓から吹き込む。温度が上がってきたら、むしっとするかもしれないな。ふわりと寝間着を羽織っただけだったのをきちりと着こみ直す。タロとヒメは少しお疲れ様なのか、私が起き出すといつも起きてきていたが、今日はきゅーんみたいな寝言を発しながら、ぐっすりだ。

 タライにお湯を生んで、布を浸して絞る。昨晩の跡が残るリズの顔を拭っていると無意識なのかふわりと微笑みを浮かべる。顔を拭い終わって、首から胸元を脱ぐおうとすると、薄く瞼が開く。


「おはよう、リズ……」


「……おはよう、ヒロ。うー、体中が辛い……。なんであんな運動みたいな状態になるのかな……?」


「倦怠防止?」


「意味が分からない……。でも、これは気持ち良い」


 昨晩の色々に文句は言うけど、熱しぼで体を拭われるのはやはり好きらしい。ざぁっと見える場所を拭い終わったら、新しいお湯と入れ替えて、布を渡す。


「後は自分で。じゃあ、タロとヒメの朝ご飯をもらってくるね」


「うん。ありがとう、ヒロ」


 そんな話をしながら、食堂で朝ご飯をもらって、二匹を起こす。眠っている二匹の前にご飯を置くと、ぴくっと動きが止まって、ちょっと幸せそうな顔になって、ぱちりと目を覚ます。ハフハフしだすのを、待て良しで食べさせる。


「私も体を清めちゃおうか」


 リズが身綺麗になって、着替えているのを見て、私も体を拭い、出られる準備をする。用意が出来て、今日の予定をリズと一緒に話していると、朝ご飯には随分と早い時間と言うのに、ノックが響く。声をかけるとティーシアだった。


「どうしまし……あぁ、アーシーネ」


「ふふ。朝起きて、わんわんはって。少しだけ待ってもらったけど、大丈夫かしら」


 ティーシアも苦笑交じりで言う。


「はい、大丈夫です。昨晩は大丈夫でしたか?」


「えぇ。素直に眠ってくれたし、夜泣きも無かったわ。良い子ね」


 ティーシアが慈しむようにアーシーネの頭を撫でると、目を細めて、ぐりぐりと顔をティーシアに押し付ける。


「さぁ、おいで、アーシーネ。ご飯を食べたところだから、あまり激しい運動は駄目だよ?」


「あい!!」


 朝から元気良く手を上げて、アーシーネが箱に近づく。タロもヒメも箱から出てきて、アーシーネにぐりぐりと首の下を擦り付ける。


『おきたら、あそびなの!!』


『しふく!!』


 嬉しそうに、タロもヒメも興奮しすぎない程度で、アーシーネを構いだす。ティーシアは微笑みを浮かべたまま、アストの用意の手伝いをすると言って、部屋に戻る。またノックの音が聞こえるが、時計を見ると、これも少し早い。声をかけると、アンジェという侍女だった。


「改めまして、アーシーネ様とタロ、ヒメのお世話を仰せつかりました」


 にこりと微笑む、闊達な侍女。


「そうなんだ……。タロとヒメのお世話はずっとしてもらっていたけど、アーシーネも一緒だと大変じゃないかな?」


「いえ。今は保育所への送り迎えが主ですので。領主様もリザティア様もお忙しい身。少しでも負担が減ればというのが使用人の総意です。将来的にはタロとヒメの家族の面倒も見るつもりです。下賜なさるというのであれば躾も必要です」


 その言葉にリズと顔を見合わせて、微笑み合う。


「うん、助かる。ありがとう」


「いえ、では、ご挨拶から」


 そう言いながら、丁寧にアーシーネに挨拶を始めるアンジェ。猟師の娘と言っていたが、弟か妹の面倒を長く見ていたのか、丁寧だがきちんと受け入れられやすいように話しかけている。アーシーネもこちらが頷くと、嬉しそうに抱き着いている。


 暫くアンジェが見守る中、二匹とアーシーネが元気に遊んでいるのをほっこりした気分で眺めていると、ノックの音が響く。


「さぁ、ご飯だよ、アーシーネ」


「ふわぁぁ!! ごあん!! ごはん!!」


 飛び回るように喜びながら、捕まった宇宙人状態で、食堂に向かう。食堂では、満ち足りた表情で他の竜達も待っていた。挨拶を終えて、食事が始まる。


「昨日はいかがでしたか?」


 そう問うと、ブリューが代表して、笑顔で答えてくれる。


「色々説明もしてもらいましたし、お風呂でしたか、楽しませてもらいました。今日からはティアナさんに引き続き説明をしてもらいながら、ゆっくりと風習などを教えてもらうつもりです」


「私はカビアの手伝いが主だから。今なら、まだ手が空いているわ」


 ティアナが心配するなという表情で口を開く。リズとドルは重装部隊、フィアは軽装部隊、ロットは斥候部隊、チャットは魔術士部隊、ロッサは弓兵部隊、リナは諜報の取りまとめとそれぞれ忙しい。特にリナは雑多な情報をより分けて、意味のある情報にまとめると言う事でかなり負担になっている。その中で、比較的体が空いているのがティアナとなる。


「ごめん、頼めるかな」


「えぇ。来賓のお世話ですもの。きちんとこなすわ」


 ティアナなら貴族側も庶民側も色々教えられるので、適任だろう。


「じゃあ、アーシーネ。保育所にはアンジェと一緒に行ってくれるかな。私達がいなくても大丈夫?」


 そう聞くと、くてんと首を傾げる。


「おいたんも、おねーたんもいないの……?」


 少し寂しそうにそう言いながらアンジェを見上げると、優しい表情でこくりと頷きが返る。


「あい!! だいじょーぶ!!」


「元々、レデリーサ様とも中々お会い出来ていなかったので。大丈夫です。竜の親子というのはそこまで干渉し合わないですし」


 ブリューが言うと、他の竜も頷く。


「分かった。じゃあ、また夕方ね」


「あい!!」


 元気良く返事をしたアーシーネが急いでご飯を食べ進めるのが微笑ましい。朝ご飯も竜達には大感激だったようだ。


 保育所に向かうアーシーネを見送って、リズが訓練所に向かうまで少し今後の計画変更を相談する。リズが部屋を出ていくのに合わせて、私も館を出る。ネスに頼んでいた物をどうなったか見に行きたかったのだ。てくてくと朝の喧騒が始まった職人街を抜けて工房に入る。


「おはようございます、ネスはいますか?」


「おう。(はぇ)えな。丁度良かったわ、使いを出すか迷ってた。出来たぞ?」


 丁度表の方に出ていたネスに会える。


「お、出来たというと?」


「夏場だから急いでくれつってたろ、あれだ」


「おぉ、それはありがたいです」


 奥に入ると、木の少し大きめのタンスのようなものが見える。上部に小さめの扉が、下には大きめの扉が見える。


「開けても良いですか?」


「おう。仕様通りに作ったが、これで良いかは分からねえ」


 ネスが少し気恥ずかしそうに、誇らしそうに呟く。

 木の箱、そう、これから水魔術士の地位を尚、高めてくれる。冷蔵箱だ。


 上部の扉を開けると、すのこの上に青銅の皿が乗っている。下の扉は、すのこで区切られて二段になっているし、棚部分も奥行きの半分程度で、前部に隙間がある。扉は分厚い板におがくずが詰まった青銅版が貼られており、周囲はパッキンの代わりに革が貼られている。開け閉めも想定通りで、閉めると適度にきゅぽっと抵抗がある。


「素晴らしい……素晴らしいです!! これで、各家庭レベルで生物(なまもの)が保管出来ます」


「ふうむ。どうも良く分からん。態々こんな大きな箱に仕舞う事も無いと思うんだが……」


「いえ。上には氷を置きますし。あー、冬に暖炉に火を入れると、部屋全体は天井の方から暖まると思います。暖かい空気は上に登りますから。では、冷たい空気は?」


「下にいくっつう訳か……。冬場は生の肉も長くもつし、それを夏でもって話か……」


「はい。それもありますが……。いうよりも実際に体験してもらった方が良いと思います。ワインか何かありますか?」


「お、おう。分けてもらったエールとワインはあるが」


「実際に冷やしてみましょう」


 私は上部の皿に氷を生み、扉を閉める。ネスが、下に瓶を数本入れて、ぱたりと閉める。


「今からなら夕方には冷えますよ。さて、普及には本格的に水魔術士を集めないと駄目ですね」


「ふぅむ。まぁ、使ってみねぇと分かんねぇな」


 首を傾げながら言う、ネスに改めて向き直る。


「ちょっと急ぎでお願いしたい話が出来ました」


 流石に、大きな話なので真剣な表情を浮かべると、ネスの方も察したのか、表情を変える。座った目でこちらを見つめるのを確認し、私は口を開いた。


「大型兵器の開発。それと、人が空を飛ぶための手段を作りたいです」


 飛ぶと言った瞬間のネスの顔は、ちょっと新鮮だった。

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