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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第638話 初めての保育所

 準備が整ったくらいで侍女が訪れる。ティーシアはいつも通り工場に顔を出すようだ。アストは時間的に猟に出るのは難しいので、ティーシアの職場見学として同行するらしい。ブリュー達は、フィア達が現状を説明すると言う事で、ブリュー以外は部屋に残るようだ。ブリューは報告を聞いて理解が出来るようなので、アーシーネに付き添ってくれるらしい。

 結局私とリズの間に捕まった宇宙人みたいな感じでアーシーネが楽しそうに歩き、アストとティーシア、タロとヒメ、そしてブリューと一緒に工場に向かう事にした。


「なるほど、自我が生まれてから学習を始めると言う事なんですね」


 一緒に歩いていたブリューから竜に関して少し話を聞かせてもらう。


「そうですね、記憶は曖昧ですが、竜は生まれた時から主の指示で飛び続けますし、足りない魔素を補うためにスライムを食べます。だが、食欲も性欲も睡眠欲も希薄ですし、ただ空を舞うだけの存在です。百年も同じ生活をしていると、何故生きなければならないのだろうと疑問が生まれます。こういう思考が生まれれば、後は次々と現状に対する疑問が沸き上がってきます。これが自我が生まれると言われる状態ですね。この頃に主が色々と生きていくための手解きをしてくれます。年の近い同族と遊んだり、言語として他者と交流し、思いを伝えあい、自我を確固たるものにしていく感じですね」


「アーシーネはかなり幼い印象を受けましたが?」


「そうですね。年が近い竜がいれば交流を出来るのですが、アーシーネは丁度近い子がいなかったのです。ただ、自我が生まれて四、五年といったところなので、この程度かと思いますよ」


「なるほど。自我が生まれても学習をしていた訳ではないから、百年学んだような知性は生まれないと」


「はい。レデリーサ様からは言葉を解するのは人間だけだから、人間の言葉を教えられた形ですね。人間の子供も四、五歳程度なら片言の言葉を話し、自立して動き回る程度でしょう。その中で遊びなど自分の興味がある事を実施して、少しずつ学習すると思います。竜は、姿を変えたりとかそういう部分は本能的に理解していますが、交流などは学習して実施するものです」


 ふーむ。変身して子供を作るのは性行為を本能的に行うのと同じ感じなのかな。『変身』『念話』辺りは皆、高レベルでまとまっていた。これはスキルというよりも種族特性なのかも知れないな。


「しかし、私達が勝手に学習させても良いのですか?」


「そうですね。竜にとって他者とは神、同族、言葉を解す相手、言葉を解さない相手の四種でした。レデリーサ様から神に祝福された、謂わば比較的価値観が似た人間が存在する町が生まれたと聞きましたので。そういう相手となら、交流を広げても良いのかなとは思います。今後、その対象が広がるかは分かりませんが、関係性を深化するつもりは大いにあります。その為にも学習機会を与えてもらえるなら嬉しいですね」


 ブリューがにこやかに返事をしてくる。ふーむ、えらく『リザティア』を買われているな……。


「分かりました。まずは初等教育前に子供を保育する設備という物を見てもらえればと考えます」


 そう答えると、ブリューがにこにこと楽しみですと返事をしてきた。アーシーネの両手を上げてブランコみたいにゆらゆらさせたりと遊びながら歩いていると、工場に到着する。ティーシアとアストはそのまま職場に向かうようだ。私とリズは管理の人にアーシーネの説明をする。その間にタロとヒメは颯爽と保育所の中にててーっと走っていく。子供達の歓声が響くと、アーシーネが目をキラキラさせ始める。服の裾を摘まんでくいくいと引っ張ると、


「おいたん!! こえ、きこえゆ!!」


 とワクワクソワソワした状況を隠さない。管理人の人もそれを見てにこりと笑い、ささっと手続きを済ませてくれた。保育所に入ると、いつもの喧騒に包まれている。


「アーシーネ、皆と遊ぶ? 大丈夫?」


「あい!!」


「喧嘩はしない事。何かあったら、私に言ってね」


「あい!!」


 目は子供達に釘付けだが、きちんと返事はしてくる。思わず苦笑が浮かぶが、行っておいでと伝えると、アーシーネが元気良く、子供達の集団の方に向かっていく。


「までてくだたい!!」


 その声に子供達が新しい仲間が来たと、嬉しそうに周りを囲む。『リザティア』自体が新しい町なので、閉鎖性はほぼ無い。子供達も色々なところから来ているので、新しい仲間には寛容だ。そんな事を考えていると、女の子達が率先してアーシーネを連れて、タロとヒメに向かっていく。今日は追いかけっこなのか、したたーっとタロとヒメが逃げるのを幾つかの集団が追っていく。


「ふふ。楽しそうですね」


 ブリューが目を細めて、アーシーネを見つめる。私はタロとヒメ用の水飲み皿を用意しながら聞いてみる。


「竜はこういう事はしないんですか?」


「同じ年代の子供というのがそうは多く無いです。私達の世代は過去の乱獲の時期に生まれたので比較的多いですが、注意の仕方が分かった後はそう減る事も無かったので、子供の数も少なくなりました」


 竜は減ったら子供を作るスタイルのようで、数自体は微増微減で推移しているようだ。乱獲というのはワイバーンの罠猟を指すのだろうし、一定期間以降は険しく高い山で出産をするようになったので、ほぼ狩られる事も無くなったらしい。ワイバーンは高く売れるとは聞くけど、実際に狩っている冒険者と言うのを見た事が無い。もっと上の等級がやっているのかなと思ったが、竜側が警戒して廃れているようだ。ちなみに、精を受けるのはその種族の姿だが、竜が生まれる際は、それなりに育つ期間が長いため、相手と別れて自身だけで生み育むらしい。生まれた時から二メートルくらいの竜と言う事なので、そりゃ変身を解かないと無理だろうし、竜に男性がいなくてよかったとも思う。


「今後、初等教育という形で、読み書き算数を教える場を作ります。皆さんもどうですか?」


「それは……楽しそうですね。言葉はレデリーサ様に教えてもらいましたが、文字までは教わっていないです。それに算数も全く知識が無いので。順番に教えてもらって、それを共有する形なら、良いかもしれませんね」


 竜は『念話』が有るし、情報共有は容易か。


「ふぉぉぉ!! まてー!!」


 器用に撹乱しながら二匹が逃げるので、集団がごちゃごちゃになりながら、追っていく。その姿が面白いのか、赤ちゃん達もご機嫌であーうーと言っている。ハイハイが出来る子達は、徐々に追っているが、危ないのが分かっているので、タロもヒメも大きく迂回していくし、移動経路を調整している。思った以上に周囲が見えているなと改めて思う。


 暫くリズとブリューと一緒に眺めていくと、櫛の歯が欠けるように力尽きて倒れこむ子供達が増えていく。管理の人がさっと抱えて、隅の方に寝かせて布を被せていく。様子を見てきたアストが合流して、慈愛に満ちた瞳で眺めている。


「本当にリズの小さな頃を思い出す。可愛らしいな」


 やがて、アーシーネも力尽きたのか、ぱたりと倒れこむ。


「あらあら……」


 ブリューが抱えて、隅の方に寝かせ、布をかける。


「竜と言っても、人間の姿に変わった場合は影響を与えないのですか?」


「そうですね……。脳と体の影響は姿を変えた相手に寄っていきます。ただ、脳容量、脳構造にも影響を受けるので、魔術なども一から覚え直しです。ただ、経験は記憶にあるので、覚える期間は短いですね」


 ブリューがアーシーネの頭を撫でながら答えてくれる。

 ふむ。インターフェースにもらったスキルは魂に刻まれているが、それ以外は思考、脳に影響を受けるか、行動、身体に影響を受ける物ばかり……。そう考えると言っている事も納得出来る。


 追いかけていた最後の子供が眠ると、タロとヒメが水を補給して、赤ちゃんの方に近づいていく。


『ぬくいの!! ぺたーなの!!』


『そいね!!』


 そんな思考を飛ばしながら、赤ちゃん達と交流をしている。

 暫くしたら、赤ちゃん達も寝てしまったのか、静かになって、タロとヒメも一緒に伏せて休み始める。私とリズは、世間話を。アストはアーシーネを預かるにあたっての注意事項を話しながら時間を潰す。そう長い間を待たず、迎えのお母さん方が訪れ始める。最後に工場の人達が出てきて、ティーシアが顔を出したら、アーシーネを起こして、領主館に戻る。


「楽しかった?」


「あい!!」


 ブランコ状態で聞いてみると、アーシーネが本当に嬉しそうに元気に答える。


「明日もまた行く?」


「ふぉぉぉ、あい!!」


 聞くと目を見張りながら元気に答える。その姿を皆が微笑ましい目で眺めながら、楽しそうに笑いを浮かべた。

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