第637話 わんわんとの初めての出会い
部屋の扉を開けると、音に気付いたのか二匹が箱の縁に顎を乗せてこちらを確認する。私が入ってきたことに気付いたのか、しっぽがしぱたんしぱたんとゆっくり大きく揺れているのが確認出来る。飲みかけの水の皿が置かれているので、アンジェが昼ご飯を上げてくれたのは分かった。リズがすっと前に出て、二匹を箱からそっと出してくれる。ハフハフしながら近づいてくるかなと思ったら、アーシーネを見つけたのか、立ち止まり、ワフワフウォフウォフと威嚇にならない感じで鳴き始める。馴致には誰、誰? と言った感じの感情が流れ込んでくる。
「わんわん? はぁぁぁ、わんわん!!」
アーシーネが初めてオオカミを見たのか、鳴かれて少しおどおどしていたが、鳴き声を真似てそれから嬉しそうにこちらを向く。
「タロとヒメだよ。私達の家族。右手を少し舐めて、両手で擦ってから差し出してみて」
アーシーネにそう言うと、ちょこりと座り込んでアーシーネが言われた通りに手を差し出す。タロとヒメがその姿を見て、てーっと近付き、クンクンと左右の手を別々に嗅ぎ始める。
「ひゃぁぁ、くつぐったいの!!」
肩を竦ませながら、やんやんと呟きじっと我慢する。
『まま? うー、まま、ちがうの……!! でも、ちいさいの!!』
『かくにん』
完全に人間と同じだと、昨日聞いていたのだが、匂いは違うのかな。少しタロもヒメも戸惑っていたが、いつも遊んでいる子供と一緒なのかなと思いながら、クンクンと腕を上がっていき、肩から背中、首筋を嗅いでいく。
「ひゃー」
くすぐったいのか、じたばたしながらされるがままになっているが、楽しそうなので、とりあえず見守る。
「たお……たお! たろ、タロ!! ヒメ!!」
少し発音がおかしかったのも何度か呼んでいるとそれらしく聞こえる。呼ばれたと認識した二匹が眼前にある、アーシーネの鼻に鼻をくっつけて挨拶をし始める。
「こんちは」
アーシーネが笑顔で告げると、二匹がペロペロと顔を舐め始める。余程くすぐったいのか、寝転がりながらバタつく。
『ちいさいの!! あそぶの!!』
『ゆうぎむすぶ』
二匹も、力を加減しながら、てしてしと叩いて反応を見たり、囲むように伏せて、温もりを感じたり、色々調査している。
「タロとヒメ、かぞく?」
「そう、家族。大切な、家族」
そう答えると、にこーっと微笑み、タロをきゅうっと抱きしめる。嬉しかったのか、タロがハフハフしながら、ペロペロと舐め倒しはじめる。
「うきゃー」
ぱたんと倒されて、二匹に顔から、露出しているところをペロペロとされる。辛そうなら止めるが、大興奮で喜んでいるので、少し様子を見ようかなと。
「ふふ。二匹とも、楽しそう。アーシーネは大丈夫かな」
「うん。喜んでいるし、もう少し好きにさせてあげようかなって」
アーシーネも負けずに、ヒメを下から抱きしめたり、二匹を撫でたりと、嬉しそうに動き回っている。
「うひゃー、あたたかい!! うひー、くつぐったいー!!」
暫くくんずほぐれつ遊んでいたが、ちょっと疲れてきたかなと思って止めようとすると、その前に二匹が脇の下辺りで伏せて大人しくなる。しっぽは依然としてぱたぱたと忙しく振られているが、保育所で力加減を学んだのか、休憩タイムに入ったようだ。
「はふーはふー、おいたん!! おねーたん!! タロとヒメ、つき!! かぞく、つき!!」
はぁはぁと息を切らせながらも満面の笑みで、二匹の頭を撫でながら、報告してくる。
「うん。好きになってもらえて良かった」
私も座り込んで、アーシーネの頭を撫でながら言うと、手を上げて、
「あい!!」
と叫ぶ。
「さて、少し休んだら、保育所の方に挨拶に行こうか。ティーシアさんも行くんだよね?」
「うん。様子を確認してから行くって言ってた。一緒に行こうと思っているけど」
リズの回答を聞いて、部屋の外で待機する侍女の人に、ティーシアへ一緒に行く旨の伝言とブリュー達に案内をするがどうするかの確認をお願いする。
タロとヒメの頭を撫でて、水の皿に追加を注ぐと、二匹が近づいてきてぺしゃぺしゃと舐め始める。遊んだら、流石に喉が渇いたようだ。
「アーシーネ、他の子供達に会いたい?」
タライのお湯に浸した布で、ペタペタになった顔や腕などを拭きながら聞く。
「こどもぉ? うー……あい!!」
しゅぴっと手を上げる。食事の時にブリュー達とも話をしていたが、同い年くらいの竜がおらず、中々遊ぶ経験も無かったらしい。ブリュー達は竜同士でじゃれあったりと交流を深めていたが、そういう集団経験が無いのは将来的にあまりよくないと思うので、早めに保育所などの同い年と遊んでもらおうかなと。
「竜に勝手に変身したりしないって約束出来る?」
「あい!!」
元気よく返事するアーシーネに微笑みかける。元々温厚な性格とは聞いているので、そこは大丈夫かな。私もリズに目配せして、用意を進める。ブリュー達の返事が来たら、すぐにでも保育所に向かえるように準備を始めた。




