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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第636話 梅干と副産物は色々使えて便利過ぎると思います

 食堂に皆で向かう。竜達はまだ少し警戒しているのか、十人がまとまって移動している。ただ、うちの切り込み隊長のフィアが話しかけている様子を見ると、コミュニケーションに問題は無いようだ。一番年下でも中学生程度には見える。アーシーネだけが特別小さい感じだ。


「へぇ……。村とかで仕事をしていたんだ?」


「はい。農作業などをお手伝いして、食事をご馳走になるという機会はありました。他の子であれば、冒険者として薬草を集めたりで食堂にお邪魔したりですね」


 ブリューがいうと、他の竜の子が私ですと手を上げたりする。そんな世間話をしていると、食堂の前に到着する。食堂奥の厨房からは既に漏れてくる匂いで否が応でも竜達の期待が高まるのが分かる。


「おいたん、ごはん?」


 抱き上げていたアーシーネが耳元に顔を近付けて聞いてくる。


「そうだよ。お昼になったからご飯を食べよう。食べるのは好き?」


 そう聞くと、目を見開き、元気良く手を上げる。


「あいっ!!」


 その愛らしい姿に小さい頃の妹の思い出が蘇り、微笑ましく感じる。扉を開けてもらい、それぞれ席に着く。アーシーネはちょっと高い椅子に座ってもらった。


「では、用意を始めます」


 侍女達が、優雅に動き出し、昼食の準備を進めてくれる。竜達も食事は摂った事があるため、マナー周りはなんとなく分かるようだ。カトラリーを見て、何か分からないと言う事は無かった。


 昼食は、大麦の粥と鶏を焼いた物、それにサラダとなっている。アーシーネの前には食べやすく切り分けられた物がワンプレートで置かれた。


「わぁぁ……。こえ、たべていいの?」


 こてんと首を傾げながら、アーシーネが聞いてくるので、皆の準備が出来たら良いよと告げると、物凄くワクワクした顔で待っている。ただ、椅子から伸びた足は正直でパタパタしており、かなり我慢しているようだ。

 皆の前に食事が並び、食べましょうと伝えると、皆が食事を始める。アーシーネもきゅっと匙を握って粥を掬って口に入れた瞬間目を白黒させる。


「おいちい!! うわぁぁ、おはなみたいなにおいがつう!!」


 左手を頬に当てて、うっとりするように味わっている。私も一掬い口に入れる。深い昆布の香りと、低温でじっくり煮だした鶏ガラの香りとコク。そこに鮮烈な植物の香り……。これ、梅だ……。梅干を干した時に梅酢の説明はしたけど、粥を注いだ後にさっと僅かに振りかけたのだろう。適度な塩味と梅の香りが口の中で広がる。個人的に、水炊きの鶏に梅干を刻んだ物を山葵のように乗せて食べるのが好きだが、それに近い取り合わせなのだろう。


 次に鶏を焼いた物と言うか、照り焼きを口に運ぶ。


「ふわぁぁ。あまい!!」


 アーシーネが足をぱたこんぱたこんしながら咀嚼している。

 重石を乗せた長期熟成用の味噌から出た僅かなたまりと蜂蜜を煮て水分を飛ばした物を、焼きたての鶏に絡めてすぐに出してくれたのだろう。皮の方はまだサクサクとしており、中はふんわりジューシーで零れ出る肉汁が強いとろみのタレと相まって、口の中を至福で満たす。醤油と蜂蜜より雑味は強いが旨味も強いので私はたまりで作った照り焼きも好きだ。

 サラダに関しても夏野菜にマヨネーズがかけられている。これだけの量を作るのはかなりの手間だと思うのだが……。

 んー、違和感。これ、今の料理長だと作れないと思う。少なくとも、梅酢は使わない……。


「アレクトリアが来ていたら、呼んで欲しい」


 侍女に伝えると、少し笑いを堪えたように、少々お待ち下さいと言われる。

 竜の子達もアーシーネと同じように、喜びを顔いっぱいに表現しながら、食べ進めている。その匙やフォークの動きを見ていれば、どれだけ喜んでいるかは分かる。


「どうでしょう。お口に合いましたか?」


 ブリューに聞いてみると、こくこくと頷かれる。


「食べると言う事自体が珍しく、楽しい事でしたが……。ここまで美味しいと思う事が幸せだとは考えていませんでした。非常に満足しています」


 最後の粥を匙で掬って食べた後に、余韻に浸るように口を軽く開けてぼへーっとしている姿を見ていると、喜んでもらえて良かったなとは思う。


「お呼びでしょうか。領主様」


 皆が食べ終わったかなというタイミングで、アレクトリアが食堂に入ってくる。


「アレクトリア、温泉宿は?」


「本日は貴族の方も豪商の方も予約が無いので、大丈夫です!! 下拵えと引継ぎはきちんと済ませました。竜の方が来られると聞いたので、是非美味しい物をと……」


 まくしたてるように言うアレクトリアの顔を見て、私は顔を手で覆ってしまう。


「頼むから、事前に相談して欲しい。引継ぎを最低限しているなら現場の放棄をしていないようだから今だけは許すけど……。後、梅酢、使って良いって言ってない」


「あぅ……。それは……。干す時に使い方を教わったので、使ってみたいかなぁなどと……」


 斜め上を見ながら、胸の前で組んだ両手をわちゃわちゃしているのを見ていたら、怒る気が失せた。


「デザートはそのままだよね?」


「はい。自信作です!!」


 そう告げると、侍女達が小皿と小匙を配り始める。皿の上には湯葉にジャムが乗せられている。ジャムは苦味の強かった柑橘類だが、どうかなと思いながら、口に入れてみる。


「おいたん!! おいたん!! こえ、つきー!! こえ、つきー!!」


 アーシーネが口に入れた瞬間、目を見開き、うっとりしたと思ったら、叫び始める。淡白な生湯葉に苦味が飛んでコクと甘さと香りを存分に引き出したジャムが素朴な甘みを口いっぱいに広げてくる。くにゅりとした食感の後にほのかに残った皮のアクセントが歯に気持ち良い。


「ご馳走様。美味しかった。きちんと教えるから、勝手に使わないでね」


 最後はアレクトリアに向かって言ったが、あんまり懲りている気がしない。相変わらず扱いの難しい子だなと、苦笑が浮かぶ。


 食後は、一旦それぞれの自室に向かってもらう事にした。十人に関しては、大部屋にベッドを並べた。初めての場所で分かれ分かれと言うのも寂しいかなと思って、取り合えずは同じ部屋にしてみた。アーシーネに関しては、きちんとアストとティーシアを紹介してみた。


「ぱぱ……? まま……?」


 くてんと首を傾げながら、舌ったらずに呼びかけると、アストもティーシアも相好を崩す。アーシーネちゃんと呼びながら抱きしめると、アーシーネが嬉しそうに微笑む。


「やっぱり、子供は可愛いわね。リズの子供の頃みたい」


 ティーシアが思い出を蘇らしているのか、微笑みを浮かべながら、抱きしめている。


「私も、一番下だから弟か妹が欲しかったけど……。ふふ、新しい妹が出来たみたい」


 リズも嬉しそうに呟く。取り合えず、ここで寝るというのを説明すると、ぱぱとままと眠るというのが新鮮らしく、はしゃいでいた。

 一頻り説明が終わると、最後の家族に紹介するべく、自室に戻る事にした。

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