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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第632話 魔物化とはなんぞいや?

 私はレデリーサに食べ方を説明しながら、鯵の干物を切り分け、皮を剥いて口に入れる。凝縮した旨味に頬が痛みすら感じながら、あの独特の香りが鼻を抜けるのに、至福を感じる。陽光で熟成された強い旨味と、自然な塩味が調和して、そこに脂の甘みが加わり舌を蹂躙する。季節的にも旬だし、非常にうれしい。レデリーサもフォークとナイフの使い方に迷いながらも切り分け、口に頬張った瞬間、笑み崩れる。


「幸せです……。そう、幸せなんです」


 実感が篭った、強い言葉だ。


「私は……」


「はい?」


「私は、核が生じる生き物は魔物であり、こうやってコミュニケーションは取れないと考えていました。しかし、竜の方とはこうやって話が出来る。それは何故なのでしょう」


「あぁ、なるほど。人間と魔物と先程告げた部分ですね。私はハッカーでしたか? システムに対して干渉可能になった際に神より教えてもらいました」


 レデリーサが杯をこくりと傾ける。


「魔素適合型生物体試験初号。通称竜プロジェクトと呼ばれた産物が私達、眷属です」


「それだけを聞くと、何か実験されたような感じで嫌な感じがしますね」


 そう告げると、レデリーサは微笑みを浮かべる。


「元々はこの世界に充満する魔素を利用して、エネルギーを循環するだけで生きられる完全生物を構成すると言うのが神々の意向でした。そのプロジェクトは半分成功して、半分失敗しました」


「成功……失敗……ですか?」


 良く分からず、眉根に皺が寄るのを感じながら、聞き直す。


「竜と言う生命体は生まれましたが、自然吸収の魔素だけでは活動出来ません。どこかのタイミングで核を定期的に摂取して、拡大及び維持に利用しなければ、死んでしまうのです。完全に自前で吸収出来るだけの魔素では生き続けられないと言う事ですね」


「なるほど……。限りなく成功に近いが、失敗と言う訳ですか……」


「いいえ。本当の意味での失敗は、竜プロジェクトに利用されたプロパティ変換のプログラムにバグが有った事です」


「バグ……ですか?」


 んー。意訳で分かりやすいけど、実際にどんな表現をしているのかは気になる。


「はい。本当はこのシステムが完成すれば、他種族に広めていく予定でした。その素地の部分はあらゆる生命体のプロパティに存在します。ただ、そこの要件定義と検証が甘かったため、濃い魔素の中で生活をしていると、核の無い生き物が魔素に適合して、核を生成可能な状況になりました。これが、あなた方が言う魔物化という現象です。その際に本来動作するはずのない核の生成と魔素の吸収、循環、利用のプロセスを体内に構成する際にバグが顕在化します。プロパティの乱れと脳構造の変異。これがコミュニケーションの断絶を生みます」


 ふーむ。アレクトアは魔物化はプロパティが変更される現象だと言っていたけど、それって構築ミスのバグなのか……。あの時点で詳しく説明されても分からなかっただろうし、さくっとした説明で問題無かったのだろう。


「と言う事は、人間でも魔素の濃い所で長期間生活していると、魔物化すると言う事でしょうか?」


「いえ。何度かパッチが当たっています。魔素を脳内の意識とリンクして、変質、利用するためのシステムが組まれています。これがこの世界の魔術システムとリンクされています。核を作るのではなく、脳そのものを魔素と魔力のジェネレーターにする形ですね。そうすれば、バグが顕在化する前に、排出処理が自動的に動きます。これもパッチのお蔭ですね」


 ふむ。魔術を魔力に変えるのは自然に行ってしまうけど、何もしなければそのまま排出しちゃうと。魔術士は魔力を事象に変換するから、魔力の残滓が脳に溜まっていく。だから過剰帰還が起こる。また、魔素の濃い場所に行ったら、勝手に魔素から魔力に変換しちゃうから『術式制御』が生えると。納得出来た。


「しかし、人型の魔物と言うのも存在しますが……」


「はい。それは、過去パッチが適応される前に魔物化した名残です。神は言いませんでした? 遍く愛してやまない対象だと。根本的に生物は同じ根から派生しています。なので、神は全てに愛を向けます」


 これが、歴史の情報なのか、ハッカーとして得た知識なのかは分からないけど、この言葉を聞けただけでも出会った価値はあるな。少なくとも魔素が濃い場所で活動しても魔物化を恐れる必要はないと。また、コミュニケーションに関しては、そもそもの通信プロトコルが変質してしまっているから、通信出来ないようなものなのだろう。


「では、何故人間以外に魔物化が発生するのでしょう?」


「神も有能ですが万能では無いです。ハッカーに頼るくらいですから。まだ、パッチが当てきれない対象は存在します。将来的にはパッチが当たる可能性はありますが、現状は大型で脳容量が多い生物から優先して対処されているはずです。脳容量が大きな生き物の方が処理の規模が大きくなるので、その分影響が大きくなります。その為優先度が高かったのでしょう」


 ナイフで毟った鯵の身をフォークで刺して、口に入れて、両頬を抑えるレデリーサ。くぴくぴとカップを傾けるので、追加をカップに注ぐ。


「これは……長くなりそうですね……」


「いえ。このような話が通じると思っていなかったので、驚きましたし、楽しんでいます。ただ、長々と話すよりはまた機会を決めた方が良いかとは思います」


 至福といった表情で、レデリーサが言う。


「そうですね。あぁ、後一点。もしよろしければなのですが」


 そうだ、忘れていた。


「はい」


「眷属の方って人間を一人か二人くらいって乗せられます? 後、その際にコミュニケーションが取れるかと、維持にどの程度の食料、核ですかが必要なのかが知りたいです」


「そうですね……。お友達になって下さるなら、喜ぶと思います。空を飛ぶのは魔術で飛んでいますので、重装というのですか? その状態で一人を乗せても飛べますよ。竜の核は元々設計されていた規格に合されていますので、通常の核よりも高出力です。なので、風魔術に変換した際もロスがあまりなく小規模な行使で空を飛んでいます。コミュニケーションに関しては、百歳も超えれば何とか可能ですね。うちの娘で百七歳です。大体自我が確立するのが百歳前後なので、それまでは本能に基づくか、主の指示に従って生活します。食料に関しては、人間がスライムと呼ぶ生き物の核を年に十個も摂取すれば大丈夫です。人間のように他を食料としてはみなしません。身は守りますし、その際に処理した物の魔素、魔力を取り込む事はありますが、それはやむを得ず狩りを行った際の人間と同じと考えれば納得出来る話かと思います」


 ふーむ、思った以上に省エネ設計な。


「娘さんを預かるのは良いのですが、少しこちらの利点が少ないかなと考えていました。核は用意しますので、興味がある竜の方を十程お借りする事は可能ですか?」


「はい。特に目的も無く、ただ空を駆けるのが生活です。竜の形態では服も必要ないですし、住処も出産の際に必要な程度。食事もほぼ必要ないので、基本的に暇を持て余しています。偶に降りてきて、コミュニケーションを取って食事ももらえるなら、刺激も増えますので、喜ぶと思います」


 おぉぉぉぉ、文字通りの竜騎兵が作れる!? ドラゴン、ゲットだぜ!!

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