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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第630話 流石にぽこぽこ落とされると敵わないです

「んと、大丈夫? 凄く疲れた顔していたけど……」


 練兵室の扉を閉めた時に、心配そうな表情でリズが呟く。


「疲れたというより、柄じゃないなぁと。私、体育会系のノリってあんまり好きじゃなかったから」


「タイイクカイケイ?」


 あぁ、流石に通訳できないか……。


「あー、冒険者みたいな小規模集団を管理するのと、軍を管理するのはまた別だしね。軍になると、生き死にの責任がもっと大きくなる。と言うか、死ぬ数が増えるのに、私みたいなのが偉そうに言って良いのかなって」


「でも、戻る時にはあの人達も、良い表情していたよ?」


 リズがクスリと笑いながら言う。


「それが、リーダーの役目とは分かっているけど、こそばゆいよ」


「あは。でも、後ろからの攻撃も分かるの?」


「なんか、新しいスキルが生まれた。良く分からないけど、後ろからの攻撃も分かるよ」


「ふーん、そうなんだ。ふふ、ヒロだけどんどん先に行くね」


 こっちはスキルの存在を『認識』先生で把握出来るからぽこぽこと訳の分からない能力を得られるだけで、ずるみたいなものだしね。


「きちんと訓練している人間に申し訳ないなとは思うよ」


 そう答えると、リズの笑みが深くなる。


「だって、移動中だってずっと訓練していたよね。ヒロ、頑張り屋さんだから」


 そう告げられた瞬間、思わず凝視してしまう。


「気付いていたの?」


「うん。変な風が吹いたり、水たまりが出来ていたら気付くよ」


 ふふっと笑うリズを見て、頭を抱えそうになる。あぁぁぁ、恥ずかしい。自分の頑張りに気付かれるのって嫌だ……。


「ほら、嫌そうな顔していないで。タロもヒメも待っているよ」


 リズがぎゅっと右腕を掴んで駆けだす。それに引きずられるように部屋まで戻る。


『ふぉぉぉぉ!! ままなの!! さんぽなの!!』


『かんき!!』


 箱からちょこりんと覗いていた二匹のしっぽが、わっさわっさと激しく揺られている。


「ほら、おいで」


 二匹に首輪とリードを装着すると、嬉ションをせんばかりに興奮しながら、まとわりついてくる。軽く撫でて、興奮を静めて領主館を出発した。

 リズと先程の訓練の話をしながら工場に向かう。二匹はクンクンブルドーザー状態で、夏になって生い茂ってきた草花の匂いを確認しながら、じりじりと進む。途中で自分たちの匂いに気付いたのか、工場に行くと理解して、二匹のご機嫌が有頂天になる。

 しかし『梟の瞳(グラウコーピス)』かぁ……。スキルって概念が分かっているから、合作出来たけど、全く新しい概念でも作られるのかな……。んー。その内『星魔術(メテオ)』とか作られるのかな。ゲームとかで状況は分かるし、そこそこの大きさのデブリくらいなら今でも宇宙を回っているだろうし……。


<告。既存概念から外れるスキルを確認しました。新しいスキル要件を受領しました。要件定義、完了しました。設計、完了しました。構築……。構築完了しました。ソースを申請します……>


 ぎゃー、冗談!! やめて!! 『識者』先生。使いどころ、きっとないです!!


<告。申請は満場一致にて否決されました。改善項目は、影響範囲が広すぎる事と環境への影響が大きすぎる事です。要件及び要件定義を修正して下さい>


 はい。すみません。冗談でも考えないようにします……。


 そんな一幕がありつつ、工場に到着する。足を拭いて首輪を外すと、ててーっと二匹が先行する。保育所の扉の前で、はふはふしながらお座りで、開けてという、つぶらでキュートに濡れた瞳で見上げてくる。扉を開けて、管理の奥さんに挨拶をすると、ぴゅーっと二匹が子供達の元に駆けだす。子供達ももふもふきたー!! っと叫びながら集結し始める。


「リズ、子供の様子は見ておくから、ティーシアさんに会ってきたら?」


「ん? どうして?」


 リズがきょとんと首を傾げる。


「布の腕を確認したいって言ってたよ」


「えー。いーやーだー……」


「まぁ、今となっては買った方が早いしね。ただ、ティーシアさんが仕事をしているのは見ておいた方が良いかも」


「どうして?」


「今日の人達もそうだけど、指示を出す人がどう動くべきかって、操兵だけじゃないんだよ。何気ない、普通の生活とか、お仕事でもコツみたいなのは隠れている。そういうのを見ても良いんじゃないの? ティーシアさんが工場でお仕事しているのを見る機会も中々無いし。行っておいで」


「うー。手伝いはしないよ?」


「うん。見学だけ」


「分かった」


 そんな返事で、嫌々おっかなびっくりに工場内へと向かっていった。私はちょっと疲れたので、ころりと横になり、二匹が子供達と戯れるのをぼけーっと眺める。あぁ、こういう時間って大切だな。そんな事を考えながら、殺伐とした雰囲気を振り払い、癒される事にした。


 暫く、子供が変なこけ方をしそうなのを念魔術で優しく支えたり、ころころしていたら子供達がでーんと乗ってきたりとかを繰り返していると、リズが戻ってくる。


「ん、戻ってきた? 早かったね」


「ヒロ、結構時間経っているよ。もうそろそろお迎え来るよ」


 窓を覗くと、かなり赤みを帯びている。あぁ、子供達を眺めていたら思った以上に時間が過ぎていた。十分癒されたかなと思いながら、立ち上がる。


「そういえば、リズ。ドル含めて、重装部隊の引継ぎをするのにどのくらいかかるの?」


「んー。引継ぎ自体はずっとしているから。明日一日あれば、問題無いと思うよ」


「分かった。そのつもりで外出の計画を立てておくね」


「うん。ダンジョンだよね?」


 リズが二匹を目で追いながら聞いてくる。


「目的はそう。合わせて、隠れられればいいかなって感じ」


「ん。分かった。準備進めようね」


 二人で何を持っていくべきかの話を進めていると、徐々に子供達が減っていき、最後の一人が帰ったところで二匹と一緒に保育所を出る。


『ぬくいの!! ぺとぺとなの!!』


『しふく……』


 満足そうな二匹にちょっとだけ苦笑を返しながら、領主館への薄闇を二人でとぼとぼと歩いた。

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