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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第629話 新しい力~ 折れえぬ心と新しい概念

「まず、伝令はどうした?」


 先程圧勝した十八人のリーダーに尋ねる。


「接敵の前、有視界に入った段階で士官に報告に走らせました」


「その理由は?」


「前提が輜重部隊の接近のため、逃走が不可能だとの事でしたので。輜重が接近しているのであれば、防戦で時間を稼ぐしかありません。増援の判断は士官に任せます」


 『リザティア』の軍組織の優先順位では、将、輜重、兵の命になる。古来より、輜重を焼かれたり、補給路を断たれて敗走するなんてごまんとあるので、輜重の優先順位は限りなく高い。最悪、兵が死んでも、食料があれば立て直せる。食料が無ければ、兵は死ぬ。

 この優先順位に関しては、新兵訓練の二日目には叩き込まれる。その判断が出来ているなら問題無いだろう。


「よろしい。大筋での対応に関して問題は無いかと考える。一点気になった点に関しては、クマを想定した場合、掬い上げの攻撃は高い確率で発生したと思われる。防御の甘さから一名怪我人を出したが、その部分に関してどう考えていたか知りたい」


 聞くと、若干考え込んだ後、リーダーが口を開く。


「その点に関しては、包囲を優先すると共に、盾で受けきれない攻撃を受けた際に、即座に後退する余地を残していました。予備兵力を用意出来る状況でしたので、致命傷は避けられたと考えます」


 リーダー側としては少々の傷は負っても、死ぬことが無ければ増援になんとかしてもらえる。その代り、輜重側に影響を出さずに、時間稼ぎをし続けるという形で答えが返ってきた。死なずに兵を帰せて、目的を達成出来るなら何をしても構わない。戦術はリーダーが判断する事だ。ふむ、このリーダーならもう一隊任せても大丈夫だろう。出来れば下士官ではなく士官として局面を見ていってもらっても良いかな。

 フィアの教育、訓練の努力が私の思いとずれていない事にほっとする。


「納得したよ。問題無いかな。あー、ユレーティカ。確か、九等級の……」


「はい。八等級のパーティーの荷物持ちをしていました。状況を見る事は多かったですが、私自身の剣の才能はあまりなかったようです」


 はにかんだような、少し苦い笑みを浮かべる。


「それは構わないよ。それ以上に存在する才能が見つかったのだから、喜ぶべきだと思う。訓練の最中にすまなかったね。今日はもう上がって良いよ」


「了解しました!!」


 リーダーの敬礼に対して、答礼を返すと、がやがやと話しながら練兵室を出ていく。もう、上がって良いと言ったので、特に気にしないし、そもそもがやがや話しているのは先程の訓練に関するブリーフィングだ。圧勝してもたゆまず反省点を探せるんだから、偉いと思う。先程声をかけてくれた兵も付いていったので、フィアには結果と終業を報告してくれる。

 と言う訳で、残った二十一名に向き直ると、びくっと反応される。


「さて、まず聞きたいのは目的を確認しなかったのはなぜかかな。フィアは絶対に訓練の前に状況設定をしてから、訓練を始めるはずだ。その上で、質問も許している。何故確認しなかった? 私が言葉を続けていたから? 考えもしなかったかな?」


 そう聞くと、おずおずとリーダーが口を開く。


「詳細な説明があると考えていました」


「訓練なので手加減はするけど、何を知りたいかは聞かれないと答えられない。何が分からないかが分からないからだけど。それは私のせいかな?」


 そう聞くと、押し黙る。


「かかってこいとは言ったけど、別にあの時点で聞いてくれたら答えるしね。逆に目的が分からないと、何をしたら良いか分からないよね。今回だと、輜重部隊への影響を避けるために何らかの対処をしなければならないのは前提。だけど、手段は色々あるよね? 倒すのも一つだし。あまり良い手ではないけど、散開して威嚇し続けて、一定の時間を稼いでくれれば、それでも合格だったよ。そういう訓練もしたよね?」


 そう聞くと、納得が返る。んー。訓練に受け身になっちゃってるな……。


「で、リーダーは何故指示を出さなかったのかな? 状況も分からずに一人で攻めてどうにかなる訳ないよね? 二十一人を用意しているんだから、二十一人を使ってやるべき訓練なのは何を知らなくても分かるよね」


「……はい」


 リーダーがこくりと頷くが、本質は理解していないかな。正直、リーダーなんて、指示を出しているだけでも良い。他の二十人を動かすのが仕事なんだから。プレイングしながらマネージメント出来るならやれば良いけど、出来ないなら指示に集中して欲しい。


「次は、指示が無くて混乱したのは分かるけど、何故背後から攻撃が来ないなんて、判断したの? ここにいる人間の冒険者時代の実績は確認したけど、クマの討伐ってそれなりに経験しているよね? 動きも分かっているし、背後への攻撃もあったはずだ。私だから、後ろから攻撃したら分からないとか考えた?」


 リーダー以外に質問が向くと思っていなかったのか、他の兵がびくりとして、首を横に振る。でも、何も答えない。


「最後に、戦術だから何も言わなかったけど、怪我した仲間は助けようよ。食われている間に、止めを刺されている間に戦況を覆すというのなら、それもありだろうよ。でも、そんな動き一切していなかったよね? どうやって生きて帰るつもりなの?」


 そう聞くと、全員が項垂れる。あー、新兵訓練の影響だな……。個を潰して、仲間しか頼る物は無い状況を作って、最後に認める。このプロセスが無ければ醸成されないか……。


「自分達の姿と、さっきの姿を比べて、どうだった? あぁなりたい? それとも、守ってばかりは格好悪いから、今より沢山給料をもらって、斬る訓練だけをしたい?」


 そう聞いてみるが、ますます項垂れていく。


「頼むから、聞いている事には答えよう。聞く事が出来ないだけじゃなくて、聞かれたことにすら答えられないのかな」


「あ、あの……」


 リーダーが食いしばりながら、口を開く。


「はい、どうぞ」


「……あのようになりたいです」


「守ってばかりで地味だよ? 待遇なんてそもそも一緒だけど、もっと求める?」


「地味とは思いません。待遇に関してはすみませんでした……」


 リーダーの言葉に、兵達も顔を上げて、同意の眼差しを向けてくる。


「分かった。もう一回新兵訓練を受ける気はあるかな? あのつまらない、苦痛ばっかりの。初期の頃の訓練の甘さという部分では、こちらにも責がある。だから、給与はそのままでいい。また、嫌だったら冒険者に戻ればいい。その場合は、瑕疵は無かったと伝えるから、元の生活に戻れるよ?」


「訓練を……受けます!!」


 顔を上げたリーダーが叫ぶと、他の人間達も力強く頷く。まだ、踏み止まれるのかな。大丈夫かな。もう少しだけ、見守っても良いかな……。


「分かった。フィアには伝えておく。今度会う時は違う姿を期待している。レオニード、ゲティス、バーティア……」


 二十一人の、その命に責任を持った人間の名前を告げる。


「……はい!!」


 力の戻った目を見開き、練兵室を出ていく。足取りには力強さが戻っていた。生き残って欲しいし、仲間を殺さない人間になって欲しい。もう一度だけ、見守ろうか。


 掌を眺めて、わきわきと握ったり広げたりを繰り返し、はぁぁと溜息を吐く。


「柄じゃないなぁ……」


 苦笑を浮かべて、棒を戻す。少し動き過ぎたので、ちょっと休憩と思って、しゃがみこむ。

 今回使った新しい視点に関して、何か適当に名前でも付けておかないと不便だなと、柄にもない事をした羞恥でいっぱいになりながら逃避する。ふむぅ、今までのスキルと同じというのも分かりにくいか。まぁ仮称だし、都市守護者(アテーナー)にちなんで『梟の瞳(グラウコーピス)』とでも付けておこうかな……。


<告。既存概念から外れるスキルを確認しました。新しい要件を受領しました。要件定義、完了しました。設計、完了しました。構築……。構築完了しました。ソースを申請します……>


 『識者』先生が唐突に告げる。あれ? 適当に名付けただけなのに、なんじゃこりゃ……。


<告。申請は満場一致にて可決されました>


<スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。『梟の瞳(グラウコーピス)』1.00。該当スキルを統合しました>


 あれ……。『獲得』先生まで……。新しいスキル作っちゃったよ……。確かに、あんなスキルとスキルを明示的に相互利用して使う人間なんていないか……。

 『識者』先生、『梟の瞳(グラウコーピス)』って何ですか?


<解。『梟の瞳(グラウコーピス)』は『警戒』及び『探知』を複合したスキルになります。『警戒』が上がれば、認識範囲が広がります。『探知』が上がれば、描写解像度が上がります>


 なるほど……。『警戒』が上がれば、俯瞰視点の対象が広がると。『探知』が上がれば、今のポリゴンよりもっと高精度になっていくんだろうなと。


「はは……。新しいスキル作っちゃった……」


 リズが見守る練兵室の中で、ぺちんと額を叩いて、苦笑を漏らす。


「めでたい……かな。古い価値観を捨てた、新しい仲間が生まれた……。そして、新しいスキルが生まれた。新しい力だね……」


 よいしょっと呟きながら、立ち上がる。さて、休憩は終わりだ。リズと一緒に工場に行かないと。こちらを少し心配そうに眺めていたリズに手を振る。さてさて、『リザティア』に取っての新しい力を得た事ですし、未来の力を見守りに行くとしますか。

 そう思いながら、リズの手を取った。

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