第628話 新しい力~ 砕けぬ盾と貫かれる獣
練兵室に入ってきたのは九等級の後半から八等級の前半の混成で作られた十八人の集団だ。元々十二人の部隊だったが、リーダーの指揮能力が高かったため、小隊をもう一帯分付与している。将来的には二十四人の部隊になる予定だが、まだ途中という形になる。しかし練度は高い。入ってそこまで間もないが、新兵訓練から素直に取り組んでくれたおかげで、フィアの薫陶が篤い集団と言う事になるだろう。
「集合完了しました」
リーダーが整列を確認し、告げてくる。若干、周囲の兵は気になっているようだが、こちらから何も言わないので、聞いてはこない。
「ご苦労様。では、突然で申し訳ないが、訓練を行いたいと思う。私を魔物と想定してかかってくる事」
そう告げて、距離を取ろうとすると、リーダーが手を上げる。
「領主様。状況設定と情報開示をお願いします」
ふむ、きちんと確認してくるか。当たり前だ。訓練なんだから、目標が何か、対応すべきが何か分からない状態で取り組めないだろう。
「森の中の開けた場所で、進軍中に斥候の報告から漏れた魔物を発見した状況を想定。輜重部隊が接近中のため、逃走は不可能という前提となる。可視情報としては、三メートルほどのクマのような魔物。事前情報は無い」
「分かりました。風の状況はいかがでしょうか? 後、伝令はいますか?」
「そちらが風下だ。伝令は別途二名が付いていると想定して良い」
「では、相談の時間はある程度ありますか?」
「よろしい。物音と気配を感じるタイミングになったら、声をかける。それまでの間にまとめよ」
私はそう告げて、二十メートルほどの距離を取る。暫く待機し、そろそろと思ったタイミングで、完了の旨がリーダーから告げられる。
「では、かかってこい!!」
私が叫んだ瞬間、リーダーと護衛二人を残し、三人ずつが移動を始める。
「四番、五番は後方に大回りに移動!! 一番威嚇!!」
後方で指示に徹しているリーダーが各員に声を上げる。目前の三人組の三組が扇形に広がりじりじりと接近してくる。中央の真ん中の兵が、盾を木剣で叩き、威嚇してくる。これは、誘われないわけにはいかんか。そう思いながら、ホバーのスラスターの角度を変えて、一気に接近。先程と同じく、目前で九十度のターンを行うが両脇に人が密集しているため、抜ける事が出来ない。しょうがなく、その場で勢いと棒の先のスラスターを使い、半円を描くように、薙ぐ。先程は、人一人だったので、吹き飛んでくれた。しかし、中央の人間が腕を曲げて盾を構え、その左右の二人が盾を盾で支えているため、じりっと押し戻された程度で済んでしまう。私はホバーでトントォンと後退る。
「三人での防衛、有効。今後、前衛は三人で防御」
様子を見ていたリーダーが声を出すと、それぞれの組が密集する。物凄くやり辛い。そのまま後退しつつ、背後に回った四番か五番の隊に接近し、土魔術を放つが、それも盾で防がれる。
「後方攻撃。振り返りざまの前脚と判断。盾での防御、有効」
指示が飛ぶと、後方は若干散開しつつ、追い込むようにじりじりと近付いてくる。んー。クマでも包囲されるのは嫌がるし、前方を攻めるか……。
何度かホバーで急接近しながら棒を当てるが、タイミングを合わせて、引きつつ密集して防御される。後方も攻撃を警戒して、盾を構えるのを前提で接近しかしてこない。本気で、ねちっこい。
意識を上方に集中させておいて、先程と同じく、ブイの字で目前中央の一人の足を刈り取る。
「二名、救護。後送しろ!! 空いた場所に入る!!」
リーダーが叫んだ瞬間、残った二名が足を刈り取られた一名の両腕を掴んで、一気に後送していく。空いた場所から一旦包囲を脱出しようと考えたが、リーダーの組が入り込んで潰される。
「腰を落とせ。包囲を狭める事に専念しろ!!」
リーダーが叫ぶと、全員が膝を曲げて上体を落とす。腹辺りに盾を置いているが、上でも下でも防御可能な状況になっている。暫く、ぐるぐると回りながら、フェイントを混じらせ、薙いだり、掬い上げたりを繰り返していたが、いよいよ追いつめられる。もう身動きが取れないなと思った瞬間だった。
「剣、構え!!」
全員が盾の横から、刺突するつもりで剣を構える。ここまで来たら、攻撃のモーションを見せた段階で、全員からめった刺しにされるだけだ。
「はぁぁ、降参。訓練、ここまで」
そう告げると、皆がほぉぉ、と息を吐く。リーダーは後送していった二名に指示を出し、怪我をした兵を連れてきてくれる。私はそれを神術で治した。
改めて、二十一名と、十八名を整列させる。先に訓練を行った二十一名に関しては、驚愕に近い顔をしている。ほぼ無傷で自分達が全滅した相手を制圧したんだから、驚くだろうなと。
「では、訓練内容に関してまとめようか。ちなみに、この場は糾弾の場ではない。自由に発言して良い」
そう告げると、後半の十八名は若干不思議そうに首を傾げる。残りの二十一名はきまり悪そうに俯いた。
さてさて、きちんと何が違っているのかを理解してもらわないと、困るので、総括を進める事にしよう。




