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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第627話 新しい力~ 飛び掛かる獣と折れる心

 流石にこの人数差相手に無手でやりあうのは分が悪い。魔物と言ったからには手加減もしなければいけない。と言う訳で、『警戒』を全開にして、個々人の所在を完全に特定する。ここからは少し今までと違う。レーダーチャート内の光点だけだった対象に『探知』で形を与える。元々『探知』は良く知った物を見つけるという目的とは別に、その対象の形状を明確に認識出来るという利点が『警戒』とは違って備わっている。

 それを掛け合わす事によって、私の脳裏には、大昔のポリゴン程度の精度だが、人型と盾そして剣を持った人間達を俯瞰する視点と斜め後ろからカメラワークしながら写す視点の二面を表示させる事が出来る。これもシミュレータで意識の分離に慣れていなければ難しいだろうし、そもそもゲームとかでこの視点に慣れていなければ想像も出来なかっただろうな……。

 こうなってしまえば、サッカー選手がサッカーゲームの視点を使って実際のプレイを行うのと一緒だ。神の視点を持った時点で、全周の挙動を捉える事が出来る。


 リーダー格だと思った人間が叫びながら、近付いてくるが、減点だな。司令塔が指示を出さなくてどうする。そう思いながら、体を前方に軽く傾け、ホバーのスラスターを調整して、逆に猛スピードで接近していく。

 こちらが怯んで防戦に入るとでも思っていたのか驚愕の表情を浮かべながら、歩数があっておらず腰の入っていない斬撃を放とうとする兵の目の前でスラスターを左側から噴かし、九十度の角度で横に出た瞬間、そのまま盾に棒をぶつける。棒の先の方にスラスターを取り付けて噴出させているイメージで放った一撃は重く、盾ごと相手を薙ぎ飛ばす。そのままホバーで接近し、その腹に棒を軽く突き立てる。その姿を見ていた背後の二名が、掛け声を上げて切りかかってこようとするが、これも減点。相手がどんな攻撃手段を持っているのか分からないのに攻勢に出るとは、あり得ない。時間差を置いて、接近してきた二名の腹に、土魔術で野球ボール程度の礫を作り、両者の腹に叩き込む。嘔吐しそうな悲鳴を上げて崩れるポリゴンを確認し、向き直り、棒を軽く突き立てていった。

 一連の流れで及び腰になった残りの十八人だが、これも減点だ。味方がやられて怯懦を感じていては、チャンスを活かせない。ここは、獲物に食らいついている間に包囲に走らなければならない。今の状況は、ただ緩やかに周りを囲んでいるだけだ。何のプレッシャーも感じないし、烏合の衆を一対一で狩り続けられる。


「どうした諸君。味方が三人食い殺されたぞ? 七等級とはいえ、ノーウェ伯爵閣下のご厚意で点数稼ぎをした人間一人相手に何をしている。八等級と言えば、もう既に熊をも殺す猛者だろう。突っ立っていても状況は改善せんよ?」


 その挑発に乗ったのか、一人が裂帛の気合で斜め後ろから走りこもうとする。私はくるりと向き直り棒を相手の胸辺りの高さに構えて、ホバーでチャージする。リーチ差は見れば分かるので、相手も盾を構えるが、目前で棒の上部にスラスターを作り思いっきり振り下ろし、地面ぎりぎりのタイミングで、スラスターを斜め上に噴かす。ブイの字を描き、相手の左足を刈り取って、そのまま急速に後退して、まごついていた背後の二人に同じく土魔術を叩き込む。足を刈られた兵も穂先で刈られているので、負傷判定だし、痛みで悶えて動けなくなっている。これも減点だな。誰も助けに入ってこない。皆、委縮している


 後はフェイントを織り交ぜた突進と、誘いこまれた背後の兵を地道に潰す繰り返しで、二十一人が地面に這った。うーん、学習しないのは最悪だな。


 打ち身が出来ている人間を神術で癒し、練兵室の中央に集めて座らせる。


「まず問いたい。フィアは君達に戦場の心得を伝えていた筈だ。君達の戦場での目的は何だ?」


「敵を倒す事です」


 一番初めに倒れた兵が率先して答える。


「ふむ。そのように伝えていたのであれば、私はフィアを管理不行き届きで罰しなければならない。再度問う。フィアは目的は何だと伝えた?」


「戦場で生き残り、対象の敵を倒す事です」


「そうだ」


 大きく頷き、答える。


「生き残るのが前提で、その上で敵を倒せと言っている。生き残るために必要な事は何だ? 諸君らは自殺志願者か? 何故考えず、突っ込んできた?」


 そう問うと、誰も答えを返さない。


「私は初めに魔物と思って対処せよと告げた。見たままの二本の腕に二本の足で走る生き物とでも考えていたのか? 当初予定ならもう少し大型にするつもりだったが、基本は三メートル弱の熊の動きと変わりない。諸君らも一度くらいは相手にしたことがあるだろう?」


 基本コンセプトは熊なので、ホバーの速度もそこまでは上げていない。重量を乗せているのは熊の一撃を想定しているからだし、背後から近付いた相手を土魔術で迎撃していたのは、振り返っての攻撃だ。その為に態々時間差を設けているし、レンジを超えないように一定距離以上になればキャンセルして消えるように放っている。周囲に礫が落ちていないのを見ればわかるし、そもそも様子を見ていれば十分に気付く。ブイの字の攻撃は、下の方からの掬い上げでしかない。


 熊と聞いて、納得したのか、兵たちの間で軽い落胆の表情が浮かぶ。明かされてみれば簡単な話だし、熊が狩れる八等級が二十一人もいて一方的にやられているのは、私の姿に幻惑され過ぎだ。


「諸君らは、全く人の話を聞く気が無いな。それでいて権利を主張する。私は問題の本質を理解していないと言ったのを覚えている人間はいるか?」


 そう問うと、皆が俯く。んー、私の言葉は聞き流せば良いとでも思っているのだろうか。


「諸君らは比較的攻勢に回る役目を負っているが、だからと言ってそれが偉い訳でも何でもない。生き残るための一つの手段でしかないからだ。訓練でも実戦でも三人組で行動しろと言われた理由は分かるか?」


 返事は無い。どう諭していこうかなと考えていると、兵が一人近付いてくる。


「用意が完了したとの事です」


「分かった、入れ」


 そう伝えると、兵が入り口の方に戻る。


「これから、別の十八人の班がやってくる。諸君らは先程の自分たちの動きを思い返しながら、見学をする事」


 首をぐるりと回し、体の疲労度を確認する。そこまでは疲れていないし、過剰帰還も大丈夫だ。訓練室の周囲に先程の兵が並んだ辺りで、別の十八人が整列する。

 さて見せてもらおうか。フィアに伝えたドクトリンを芯まで吸収した兵の本当の実力ってやつを。

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