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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第612話 うるふらいだー

 リズが管理の奥さんと赤ちゃんのあやし方の手解きを受けている間に、工場の内の見学を済ませてしまおうかと思って、奥に進む。取り合えずガラ紡の様子を確認しに行く事にした。少し埃っぽいガラ紡の部屋に入ると、井戸からの動力を使って一定速度でガラガラとその名の通り、筒を回転させながら、()り子から糸を機械が紡ぎ出している。()り子に関しては、ダブティアから輸入してきた打綿を大きな櫛で繊維の方向を揃えてシート状にした物を丸めて切断した物となる。()り子を作る作業と、ガラ紡の機械に()り子を入れて、紡いでいくのを管理する作業に二名が付いている。手を振ると、マスクをした壮年の女性が気付いて手を振り返してくれる。筒毎に動力と結んでいるスイッチはあるが、壁際の大きな棒を上げると、水車側の動力が外れて全体が停止する。


「忙しいのに、申し訳ないです」


「いえ。お帰りになっていたのですね、領主様」


 両者とも元引退兵の奥さんになる。旦那さんと一緒に『リザティア』に来た。元々は農家や商家の手伝いをしていたようだが、工場が出来た際に、雇う事になった。二人とも機械の事は良く分からないようだったが、基本的に保守は商工会の方で行うので、通常業務と調子がおかしくなったら人を呼ぶのが仕事になる。紡ぎの際にどうしても綿埃は出るので、その掃除も業務範疇だ。マスクは埃っぽいので念のため着けてもらっている。


「工場が出来たところで出て行ってしまって、ご迷惑お掛けしました。その間は問題なかったですか?」


「はい、機械の方も順調に動いています。こんな物見た事も無かったですが、こうやって糸が勝手に紡がれていくのを見ると感動します」


 二人が顔を見合わせながら、嬉しそうに伝えてくる。


「まだ出来たばかりの機械なので、調子も問題ないですね。業後に商工会から人が世話をしに来ていると思いますが、何か言っていましたか?」


「いえ。試験機の方でも問題無かったようですし、手入れと油の注入だけなので、ささっと済まされているようです。ただ、やはり油を入れている場所に埃が入り込むので、ある程度使い込んだらきちっとした掃除をしないと糸の調子がおかしくなると言っていました」


「なるほど。動きが悪くなれば、糸の紡ぐ感じも変わりますしね。今だと毎日稼働させていますが、何日か単位で休みを作る事にしましょうか。皆さんも働きづめですし」


 そう言うと、少しだけ顔色が曇る。


「特に辛い感じはしないですが……。お休みとなると、お給料も変わると思いますが」


「あ、それは大丈夫です。こちらのと言うか、機械の都合でお休みをする形になりますから。給料は月次で決めた金額をお支払いします」


 そう告げると、ほっとした様子になる。仮に一週間単位で運用をすると、日曜日を作った場合は月次で大体一割強休む形になる。給料が一割減るとそれはそれで大きいかと。現状は日給月給


「そうですか。今まで見た事の無いお仕事をさせてもらっていますので、出来れば慣れるまではもう少し詰め込みたいですね」


 そんな感じで、結構前のめりの意見をもらう。この世界の人は余裕は持つようにしているが、仕事そのものに関してはいつも真剣だ。出来る事が増えると言うのは、生きる術が増えると言う事なので、そこには貪欲なのだろう。


「その辺りは木工屋や鍛冶屋の意見も必要ですし。また改めて相談させて下さい」


 後は近況や問題、やりたい事、足りない事などを聞いて、部屋を出る。外に出ると、またガラガラと機械が動く音が響き始める。

 廊下を戻って大部屋の扉をノックして入ると、ティーシアはじめ、機織りのメンバーが揃って機織りをしている。


「お疲れ様です。ティーシアさん」


 少し年嵩の女性と話をしていたティーシアに手を振ると、二人がお互いに頷き合って、離れていく。


「様子見かしら。あぁ、タロとヒメを連れてくるって言っていたわね」


「二匹とも赤ちゃんと子供が好きですから。少し休憩しますか? 川辺で涼しいといっても今日は結構蒸しますし、冷たい物でも用意しますけど」


 そう告げて、隅に置いているテーブルの上に土魔術でカップを作り、水魔術で氷と水を生んで注いでいく。ティーシアが苦笑を浮かべて休憩を告げると、黄色い声があがり、テーブルの周りに若い女の子達が集まってくる。その後には年嵩の女性達がゆったりと進んでくる。老若問わず、仕事の話やプライベートの話で一気に(かしま)しくなる。

 年嵩の女性に関しては、機織りの経験者達になる。ティーシアを筆頭にその技術をある程度体系化して、熟練者達が初心者に継承していく流れになっている。また、熟練者も並行して機織りの作業は行っている。若い女性に関しては、『リザティア』に移住してきた家族の奥さんや子供さんが主だ。


 ただ、中には歓楽街の風俗店から転換してきた女性も混じっている。この辺りはロルフとも話し合って、経営が可能なだけ貯蓄出来た人間への就労支援の一環となる。この工場だと、『リザティア』外に別の服飾店を経営する人材と言う事で機織りの修行に来てもらっている。最終的には、服の製造までを修行してもらい、機織りから製造販売まで一貫して学んでもらった後に、開明派の領地に店舗を出してもらう形で予定している。別に『リザティア』で出してもらっても構わないが、現状競争がかなりきついので、経営として入るよりはどこかの店に従業員として入って、暖簾分けしてもらう方がまだ楽だ。ただ、風俗業に携わってまでお金を求めている人間に関しては、独立したいという意欲の強いケースが多い。その辺りはロルフと資質を見極めながら、支援を行っている。


 基本的に人間の意識の中で職業の貴賤と言うのは無いので、テーブルでも明るい顔で皆が楽しそうにお冷のカップを傾けながら、話し込んでいる。


「技術継承の方はどうですか?」


 ティーシアに問うと、少し考えこむ顔になる。


「まだ始めたばかりだから何とも言えないわ……。それでも糸が大量に生産される状況だから、上達は早いと思うわね。一般的に家庭で使う布なら二、三年も織っていれば過不足は無くなるけど、そのくらいなら半年も本気で取り組めば可能だと思うわ」


「そうですか。機織りだけではなく、裁断や縫製の方もあるので、どんどんと先に進めれば良いですね」


「服飾で考えているなら、布に関してはそこまでの技術は必要ないわね。どちらにせよ町や村で通用する品質で問題ないもの。半年で次の工程に移れる形で考えておくわね」


「助かります。じゃあ、リズの元に戻りますね」


「あら、あの子も一緒なのね……。久々に腕が訛っていないか、確認したいのだけど……」


「今日は完全休養の予定です。それに昨日旅から帰ってきたのですから、少しは休ませてあげたいです」


 そう告げると、ティーシアが綻ぶように微笑みを浮かべる。テーブルから立ってお(いとま)を告げると、皆から感謝の言葉を告げられるが、笑顔だけ返しておく。


 保育所に戻ると、三歳くらいの大きめの子がタロの背中に(またが)っておぶさるように乗っている。ふふ、ウルフライダーだけど、しがみ付いている感じなので勇ましくはないかな。タロがそろそろと歩くと歓声を上げているし、その後ろからは赤ちゃん達がはいはいしながらカルガモの親子みたいになっている。一番後方ではヒメが様子を伺って、上に乗っている子のバランスが崩れそうになると、タロに伝えてバランスを取り直している。リズの横にはわくわくした顔の幼児達が順番の列を作っている。まだはいはいが出来ない子達も腹ばいになって、歩いているタロやはいはいしている子供たちを見て上機嫌にあーだーと声をあげている。


「楽しそう?」


 リズの横に立って聞いてみると、こくこくと頷きが返る。


「子供達が上に乗ってくるから、そのまま立ち上がって歩き始めたら、凄く上機嫌になっちゃったの。タロとヒメもさっきからぐるぐる回り続けているの。本当、見てて可愛いの」


 破顔したリズがタロを指さして、嬉しそうに告げてくる。戻ってきたタロがこちらに気付いたのか、ぽてっと子供を降ろして、はふはふと寄ってくる。


『うまなの!! あるくの!! のるの!!』


『じょうば!!』


 頑張っている、偉いから誉めてと言う思いが伝わってくるので、ちょっとよだれとかでぺとぺとしているタロとヒメをわしゃわしゃするとひゃーっと言う快の思いが伝わってくる。並んで待っていた幼児達もそれを見て混じって撫で始める。


『ちいさいのすきなの!!』


『もえ!!』


 ヒメがどの思考から引っ張ってきたのか不明な単語を思っているが、まぁ、言いたい事は分かる。はいはいしていた子供達も混じって、またよじよじと登るタイムが始まる。登れない子供は、タロやヒメの顔に近づいてペロペロと舐められながら、ぺしぺしと顔や足を叩いて楽しんでいる。


「可愛いね」


「うん、可愛い。すごく楽しそうで、見ていて幸せになる」


 リズが、本当に心からリラックスした口調で告げる。


「リズ……」


「ん、分かってる。ヒロが、じゃないよ。私がまだ学ぶ事が沢山ありすぎるよ。今、子供が出来ちゃったら、それに付きっきりになっちゃう。だから、もう少しね」


 リズが微笑みながら、こちらの目をそっと覗き込む。


「そっか、ありがとう……」


「ううん。こうやって触れ合えるだけで今は幸せ。色々と分からない事を教えてもらってから、自分の子供を一番愛せたら、もっと幸せかな」


「うん、いっぱい愛せたら良いね。一緒に大切に育てよう」


 そんな話をしながら、タロとヒメが交代しながら繰り広げられる乗馬ごっこはお母さん方が戻ってくる夕方まで盛況のまま続いた。

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