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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第608話 ディアニーヌとの傭兵ギルド問答

 領主館に到着して、荷物を降ろして各部屋に戻る。夕ご飯の時間にはまだ余裕があるので、持ち帰った仕事を片付けようかと執務室に向かう。リズは疲れたのか休憩すると言っていたので、タロとヒメと一緒にソファーでうとうとしているはず。


 持って帰ってきた羊皮紙と紙交じりの資料をフォルダに分けて整理していく。会議で決まった大きな議題とは別に予算を決めないといけない細かい案件もいくつか決まったので、誰に担当してもらおうかなと思案する。ざっくりと資料を配分して指示出来る状況になったのが三十分程経ってからだろうか。


 執務室の椅子に背中を預けて、虚空を眺めながらぼそりと口に出してみる。


「傭兵ギルドの原型は民間軍事会社ですか?」


 少し間があってから頭に久しぶりの声が聞こえる。


『そうじゃな。地球の三十年戦争を考えれば、傭兵を野放しにするのは荒廃につながりかねない。じゃが、兵力を正規兵に頼るにせよ、領主の能力如何(いかん)の部分が大きい。なので、理性的に振舞えうる軍事力を考えた結果じゃな』


 やはりディアニーヌか。それに、神様の考慮した仕組みでも「うる」なのか。


『うると言う事は、何か不具合でもありますか?』


『その辺りはお主が想像している通りじゃ。契約と遵法を二本の柱にして純粋な軍事力の供与とその育成、兵站を成す組織としたかったがのじゃが、遵法の方の柱がへし折れた形じゃな。厳密には、大陸規模の組織故、大陸規模の法が制定されていればそれに則るが、民法や刑事法レベルの話の罰則規定は各国で違う。そこまで織り込むのが難しいので、契約の際の単価の上積みと言う形でリスクとデメリットを回避しようと考えた結果じゃろう』


『じゃろうと言う事は、もうディアニーヌ様の影響力は無いのですか?』


『全ての民に教育を施す程の余裕は無い。指導層への教育で手一杯じゃからな。その指導層が国許を離れた際に、新しい組織を作っていったのが互助組織、まぁ、お主がギルドと通訳翻訳して認識している組織じゃな。その原型を作る際に、地球の組織を参考にしたのは認めよう。この星そのものが似通った歴史を歩んで居るし、他の星では環境やそもそもの倫理が合わんケースも多々とあるのじゃ。それに一旦出来た組織の運営に関しては手出しはせぬ。人の営みは人の営みで完結するのが筋であろうしな』


『現状にそぐわなければ、何らかの制約を課するのは問題無いのでしょうか?』


『それは無論じゃ。遵法の柱が失われたのは、それが多岐にわたりすぎるのが原因じゃからな。決まり事があれば守るのが元々の組織のありよう故』


『それを呑みますか? 奔放な組織になっていれば、自由度の方を求める可能性はありますが』


『顧客側の利益を追求するようには設立の段階から教育はしておる。ただ、そういう意味では貨幣主義の概念は織り込んでいる故、他国との競争力が折り合わず、条件面で競り負ける場合はあろう。ただ、それは過去も現在も変わらぬがな』


 あんまり締め付けすぎると逃げるから気をつけろと。ただ、法を守る概念をきちんと持っているなら制御も出来るかな。ロスティーの信じている部分はここだろうし、ノーウェが今後変えたい部分はここが足りないからだろう。


『まぁ、地球の民間軍事会社も問題が多かったみたいですが』


『兵とは何かと言うのを明確にして、共有するのを渋った結果と言うのもあるがな。暴力装置に関するスタンスのみは思想の壁を越えて共有するべきであろうが、難しかろうな。思惑も基礎的な成り立ちも千差万別じゃしな。兵の概念が違いすぎる。使い捨てられる機材とみなすか、金の範疇で扱き使っても良いとみなすかは、極端であるがまた真理となっておる。雇われる側にもその覚悟を問うのが約定となろうが、人の資質の部分にも影響する話じゃろう』


 別に民間の軍事会社だから問題を起こすと言う訳では無く、人であれば問題を起こすのが当たり前と言う話か。


『ありがとうございます、少し、先が見通せました』


『構わぬ。お主はあまり他者に頼らぬのがな……。努力は美徳であろうが、先に進むために他者を使うと言うのは生き物に許された手段であろうに。損な性格なのじゃろうな』


『その辺りは織り込み済みです。性質なので、中々変え難い部分もあります』


『まぁ、追い込まれる事なきようにな。いつでも見守っておる。ではな』


 その言葉を最後に、頭の中で響いていた声は沈黙する。ディアニーヌの認識では対話可能な組織か。それが担保出来るなら、ロスティーとノーウェに任せても問題無いだろう。


 そんな思考を広げていると、ノックの音が響く。『警戒』で認識すると、レイ本人が立っている。珍しい。声をかけると、扉を開けて中に入ってくる。


「おかえりなさいませ。本日の訓練は終わりましたがお戻りになられたと聞いて、顔を出しました」


 にこやかにレイが机の前に立って、告げてくる。変わりないか。


「ただいま。特に連絡は無かったようだけど、問題は無かったかな?」


「はい。訓練も提出した通り、課程はこなしております。後、書状関係は政務よりまとめて預かっておりますので、そちらをお渡しに参りました」


 そう言って、小脇に抱えていた封書を差し出してくる。ぱらぱらと送り主を確認していると、傭兵ギルドの物が混じっている。


「これはいつ頃届いたのかな?」


「傭兵ギルドですか? 二日ほど前です」


 と言う事は、あの会談の後すぐに出してきた内容か。封を開けて中を確認すると、護衛業務が今後増えると言う事で『リザティア』に傭兵ギルドの家族を住まわせたいが許可が欲しいという内容だった。まぁ、人質として預かって欲しいという意味だろう。はぁぁ、手が早い事で。


 その後は王都に行っている間の『リザティア』の様子をレイと確認し、一緒に執務室を出る。書状に関して、急ぎの件は無かったようなので明日まとめて確認すれば良いだろう。そろそろ食事の時間だろう。部屋の扉を開けて、中を覗くと、ソファーに座ったリズと左右で伏せて微睡んでいるタロとヒメがあまりにも穏やかで少し癒された。

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