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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第603話 ワラニカ王国における暗闘 ~前王妃の影

 はぁ? 流石に顔が歪んだ。意味が分からない。保守派に絡む案件なんて全く無い。人魚さんの件もテラクスタの手柄になっている。そこまで考えて、ふとじっとりとした視線を思い出す。


「前……」


 口に出そうとした瞬間に、デーマルキーンの顔を見て、口を噤む。その姿を二人が見ていたのか、何かを察したように、無表情になる。


「身柄の確保と言うには物騒だったが、勝算はあったのか?」


 ロスティーが問うと、デーマルキーンが(かぶり)を振る。


「そのようなもの、あり得ません。商家の方の護衛契約を解除したとしても、集められるのは百にも満たない数です。公爵閣下の屋敷を襲撃するのにはもう一桁必要でしょうし、そうなれば動きが読まれます。市街戦となれば勝ち目などそもそも無いのですから。それに誤算と申した通り、成功するはずも無い契約です。我々はアキヒロ様のお顔すら知らないのですから」


「では、何故、態々襲撃を……!!」


「ノーウェ。先程から言っておろう。契約だ。お前も混同しておる。今まで王都において、傭兵ギルドが犯罪を犯したか? 冷静になれ。出来ぬとやらぬには大きな溝がある。それが分からぬでも無かろう。ユチェニカの小童の件で目が曇っていないか?」


 ロスティーが告げると、ノーウェが肩を落とし、考え込む。


「しかし、此度の件は流石に庇えぬぞ? 実施してしまった話故な」


「はい。だからこその申し開きです。また、ここで罪に問われぬのであれば、色々と噂にもなりましょう。そもそもが此度の件の謝罪が一番の目的ですので」


 デーマルキーンが一礼しながら言うのにロスティーが目を細める。


「謝罪と申すか……。誤りを認めると?」


「ワラニカの貴族で出せぬ金額を提示すれば引くと見たこちらの誤りです。それは真摯に受け止めるつもりです。双方に犠牲が出なかったのは僥倖なだけですので」


 デーマルキーンの瞳が再度こちらを向く。


「はぁぁ……、面倒な。政務担当者を回せ。此度の件は厳重注意とする。暫しの間はワラニカでの活動に(かせ)が嵌るのは堪えよ」


「畏まりました」


「此度の件は、王都屋敷の護衛の質を見極めるための夜襲訓練と言う名目で対応する。ただ、手違いがあって、実施日がずれた故に儂が混乱し、開明派の貴族に迷惑をかけたのは傭兵ギルドの落ち度。その分は泥を被れ」


「温情頂き、ありがとうございます。では、今契約に関しては改めて締結致します。指示の手違いは私が行った形ですね。王都に無用な混乱を招いたのは傭兵ギルドの責任。暫しの間は大人しく護衛業の方に邁進するよう致します」


「うむ。良しなに」


「その場合ですと、契約が被りますので、保守派の契約が浮きます。出来れば、ワラニカ唯一の公爵閣下の方で正しく処理頂ければと考えます」


「怪我人は出たのに、現場は問題ないのか?」


 ロスティーが問うと、デーマルキーンがこくりと頷く。


「元々死ぬ前提で集ったものです。手傷は負いましたが、それも癒してもらっております。現場は恩義にはうるさいので。昨夜の件に関しては訓練であった旨を伝えるように致します。ただ、圧倒的な力と温情を併せ持つアキヒロ様の噂は広がるでしょう」


「力の方は広める事を許さぬ。泥の内だ」


「畏まりました。現場もアキヒロ様のためにならぬ話では広めもしません。賊として捕らえられてもなお癒してもらった程度で広めるでしょう」


 流石に人の口に戸は立てられないので、何かは広めないといけないだろう。二人は渋い顔をしているが、私が指揮個体戦の時に神術を使っていた経緯を伝えると、渋々頷く。


「また、何かございましたら、良しなに」


 そう告げて、デーマルキーンが立ち上がる。先程の計画に合わせて処理が必要となる。その対応を進めるか。今回保守派の契約を結んだ人間を直ちに移動させて、今回の話をデーマルキーンが被れば神明裁判でも問題は無い……か。口裏を合わせられる弁護士が双方に付けば、穴は無くなる。依頼をした方の保守派には、別依頼と被っていたとでも告げて、金はロスティーに一旦預けたとでも言えば良いのだろう。バッティングしたのは傭兵ギルドの手違い、金に関してはより高位の人間に処理を頼んだという形になるのか。まぁ、きな臭い金のため直接返すのを怖がったと見るだろう。経歴に傷が付くのは傭兵ギルドだ。


「しかし……」


 思わず口を突く。


「傭兵ギルドに利点が無いですね……」


 その言葉に、デーマルキーンがふわっと微笑みを浮かべる。


「ありがとうございます。そのお気持ちだけで幸いです。国の安定こそが我らにとっても優先です。国単位の総長はそのために存在致しますし。傭兵ギルドとしての総意もそこは変わりません。実際にギルド員が暮らすのは個々の国ですので。どこかで戦乱が発生すれば敵と敵として相見(あいまみ)える事もありましょうが、それは詮無い話です。では、またお会い出来る事を楽しみにしております」


 一礼し、デーマルキーンが部屋を出て、執事に連れられ去っていく。


「父上……」


「ノーウェ。昨夜より、話がずれておると思っていたが、私情を優先しておったか……。確かに直接攻撃を受ける場所で小競り合いを続けさせたは儂の非であろうが……」


「知っている兵も亡くなっております。頭で分かっていても、やはり難しい部分はあります」


 初めて見る、ノーウェのばつの悪そうな顔。


「うむ。酷な事だったか。すまぬな」


 ロスティーが少し悲哀を浮かべながら、ノーウェに告げると、ほぅと溜息を吐き、いつもの顔に戻る。


「いえ。昨夜前線に出たのは私の役割でしたので。しかし、傭兵ギルドもここまで聞き分けが良いのですか?」


 ノーウェが問うと、ロスティーがこくりと頷く。


「根無し草になる訳にもいかぬしな。それに話にもあった通り、国が富めば交易も増える。護衛こそが今の収入の大半故な。戦争としての傭兵は一時儲かったとしても、長くは続かん。消耗すれば、支出だけが増える故な。なので、傭兵ギルドは国に睨まれぬように動く。それを上級貴族になったお前に見せるというのが主眼であったが……」


「申し訳ございません。差し出がましい口を挟みました」


「構わぬ。それで本質が知れたなら、本望よ。して、我が孫よ。先程、口にしようとしていたのは?」


 ロスティーがノーウェに納得の顔が広がったのを確認し、こちらに話を振ってくる。


「前王妃殿下はディアニーヌ様の薫陶を受けておられるのか、そして、前国王陛下の遺産をどういう形で引き継いでおられるのかが少し気になりました」


 そう告げると、二人が黙り込む。


「直接ディアニーヌ様の薫陶を受ける事は無いかな……。遺産に関しては、現国王陛下と分配して引継ぎを受けて……。もしかして、このお金の出処を……?」


 ノーウェが話の途中で絶句する。


「私を確保して、何らかの対処をしたい人間を考えました。前王陛下を弑した人間として恨みに思っている人間がいるとしたら、前王妃殿下かなと」


 それを聞き、ロスティーが深く息を吐く。


「式典の際、お主も気にしておったな……。ふぅむ……。真意はまだ分からぬが……。前王妃殿下も元は保守派との融和の為に嫁がれた方。可能性は無くも無いか……」


 うーん、知らない話しが色々出てくる。あの人は元々保守派かぁ。融和と言うより、おいたが過ぎるから宥めたって感じなんだろうけど。うーん、これだから人を殺すと恨みを買うんだよな。ロスティーが上げた策としても、未来に安心して逝ったと言う話だから、献策した人間がいるのは分かるだろう。その話をこれから死ぬ人間がしていないはずがない。となると、最右翼は前王妃殿下か。目に見える権限が無いだけに戦い辛い……。


「まずは、金の動きを洗って頂けますか? 後、私はどうしましょうか。明日には『リザティア』に戻るつもりですが」


 その言葉に二人が顔を見合わせて、相談し始める。ロスティー側は王都で匿う形を推しているし、ノーウェはノーウェティスカと『リザティア』で守った方が良いという方向で話をしている。


「ふむ。どちらにせよ調べる時間は必要であろうな。匿うよりも、自領に戻った方が手を施しやすかろう。結婚式の時の手腕は見ておる。暫し、守れるか?」


「はい。後ろ暗い手を選ぶなら、対処は可能です。問題は正道で手を出された場合ですが……」


「正道とな?」


「国王陛下には拝謁した際にお伝え致しましたが、前王妃殿下が絡むなら、少し分かりません」


 重石らしくどっしりしてくれれば良いけど……。はぁぁ、面倒くさいな……。これからの対応に関して、注意点を教えてもらいながら、話が終了したのは日がかなり傾いてからだった。

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