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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第595話 懇親会の終わりと波乱の幕開け

「あ、お風呂の対応ありがとう。何だい、その箱は?」


 談話室に入ると、男性陣がそれぞれソファーに座って和やかに会話をしていた。偶々入り口近くに座っていたノーウェに声をかけられる。


「リバーシは大分普及してきましたが、チェスはまだ中々のようなので。お配りしようかと」


 そう答えると、貴族連中が目の色を変える。仕事の話はしていなかったようなので良いけど。庭で会った時の奥様方の姿を思い出しながら、それぞれの駒を作っていく。受け取ると、激しい勢いで握手を求められる。どうも、ノーウェが流通している量だけでは全然足りないらしく、ずっと待っている人も多いらしい。ルールは普及しているので、仮の駒を作って遊んだりしているため遊び方は知っているが、駒を見るのは初めてという人間が大多数だ。将棋の時はもう少し量産が楽だから大丈夫かな。そんな事を思いながら、土魔術で大理石の白、御影石の黒で次々と仕上げてはほいほいと提供していく。まだお酒も入っていなさそうなので、早速テーブルの上で激戦が繰り広げられ始めている。


「我が孫は、雰囲気を一変させるのにかけては天才だな」


 ロスティーが騒ぎに置いていかれて、苦笑を浮かべる。


「これからお仕事をする相手ですし、ご挨拶も兼ねてと思いましたが、ご迷惑でしたでしょうか?」


「謙遜はよい。あの顔を見れば言うまでもなかろう。まぁ、もうこうなっては飽きるまでは止めまい。今後の流れを軽く話すとするか」


 ロスティーが指したソファーに座ると、侍女がお茶のカップを置いてくれる。そのカップを傾け、ロスティーに向き直る。


「今まではノーウェティスカがワラニカの外交の玄関口になっておった。そこで使者を持て成している間に、各地に鳩を飛ばして対応を検討するという流れだな。今後は『リザティア』がその役目を担う。元々ノーウェも書状等は受け取るだけで判断はこちらで行っておった。今後は『リザティア』で受け取った書状をノーウェが判断し、対応を検討するところまで担う形になる」


「責任は重くなりますが、対処は迅速になりますね」


「ノーウェも伯爵故な。そのくらいは働いてもらわねば困る。それで、今後に関しては『リザティア』の歓楽街がその舞台になると考える。負担はかけるが、よろしく頼む」


 ロスティーが若干申し訳なさそうに告げる。


「いえ。元々玄関口になるだろう事は想定しておりましたので、予算を付けて頂いて温泉宿を建てました。国賓級でも大丈夫とは聞いていますので、あまり気にはなさらないで下さい」


「うむ。あの設備ならば問題なかろう。従業員の教育も行き渡っておるしな。問題は従業員の家族から情報が流出する可能性か……」


「はい。それも大丈夫です。各家族には賄賂、恐喝、人的接触があった場合は、報告をしてもらえれば褒賞を出すようにしています。家族ぐるみで相互に付き合いをしてもらうようにしていますので、人質にでも取られれば、即座に分かりますし、対処します」


「その辺りはお見通しか。そこまで先を見越しておるなら、役目は十分に務まろう。結婚式の事を考えれば、特に問題も無いだろうしな」


「はい。先程の流れでは、ノーウェ様の方で一次対応を進めながら、各家で根回しをしてロスティー様が統括、最終的な対応を陛下に上奏するという流れでしょうか」


「基本はそうだな。過去はノーウェティスカから王都までの距離が短い故、中々足止めも難しかったが、良い場所に良いものを作ってくれたとは考える」


「もう、そうしろと言わんばかりの立地でしたし。温泉に関しては、神様の指示ですが……」


「ふふ。町を作るのに神の名が出る時点で傑作だがな。では、その方針に異論は無いか?」


「はい。派兵要求が出るならば、先遣隊としても動けるよう兵数を増やします」


 そう答えると、ロスティーが若干眉を顰める。


「提出した資料を読んだが、二百弱という報告はのう……。現状の実際の数はいかほどなのだ?」


「そうですね。一度引退した兵は予備役扱いになっていますが、『リザティア』では普通に運用していますし。新兵を入れても『フィア』に向かうと人魚さん達に食べられてしまうので、実数は上がりませんね。新兵としての練兵過程が終了している人数で約三千は超えている計算です」


「ふぅむ……。その数だけを聞けばとんでもない規模なのだがな……。兵数だけでいえば伯爵の規模を超えるか……」


「と言っても、『フィア』の中で村人として生活している人間が殆どです。ただ、非常時には兵として機能するように鍛錬は続けてもらっていますし、士官も駐在させています。集まればの話です」


「分かった。一度『フィア』の方にも足を運ばねばならぬだろうな」


「そうですね。製塩に関しては、北の海でも可能でしょう。ただ、今すぐに持っていかれると少し困りますので、塩ギルドとの確執が始まって一段落ついたら程度ですか……」


 そう答えると、苦笑が返ってくる。


「孫の儲けの種を横取りする気があろうか。どのような村を築いておるのか、気にはなるのでな」


「ふふ。『フィア』の方も、暖かい地域ですので、少し観光を取り入れた村として変換中です。そちらが完了すれば、是非に」


「暖かい地に訪れるというのは楽しそう故な。ペルティアも喜ぼう」


「はい。ゆるりと過ごして頂けるよう、準備中です」


「ありがたい」


 ロスティーが答え、カップを傾ける。ここからは、実際に議会に参加しての感想や、国政に関わる四方山話が主になった。周囲では、ノーウェが先生役になって、チェス大会という感じになっている。雑談をしていると、お風呂体験が終わったのか、子爵の女性陣が三人、談話室に入ってくる。先程までの印象と打って変わって華やいでいる。実際に体をきちんと洗った事と奇麗になったという自信が相乗で、その身を輝かせているのだろう。その姿を見た貴族の人間からはどよめきが生まれる。


「ロスティー公爵閣下。このような設備を使わせて頂き、感謝致します。領地の方でも運用が出来ないか検討致します」


 先程話をしていたネリティスが代表となり、ロスティーに女性陣が頭を下げる。


「構わぬよ。元々我が孫が気まぐれに作ってくれたもの故な。構造に関しては設計はもらっておるので、領地に戻って試験をして問題がなければ配布しよう」


 ロスティーがにこやかに告げると、女性陣も嬉しそうに集まって喜びの声を上げている。私は先程配偶者の人と一緒にいた姿を思い出しながら、チェスの駒を作って差し出す。


「あら、これ、私……。このように人には映っているのですね……。ふふ、旦那様も。アキヒロ子爵、ありがとうございます」


「いいえ。お近づきの挨拶のような物です。お気に召して頂けたら嬉しいのですが」


 女性陣が駒を見て、楽しそうに口々に感謝の言葉を投げてくれる。


「さて、今年はアキヒロの働きにより、常会が短期間で終わった。これより次回の予算審議までは銘々の努力にかかっておる。慢心せず、民のため、励むがよい。それでは、この時を以って解散とする」


 ロスティーが告げると、皆が、深々と頭を下げて、荷物をまとめ始める。ロスティーとノーウェ、私は玄関に向かう。子供の部屋に向かった奥様達と一緒だったリズも玄関に向かってくる。


「大変だったんじゃない? 大丈夫だった?」


「ティアナもいたから、平気。喜んでもらえて良かったよ」


 満面の笑みを湛えたリズを横に抱き、玄関で待っていると、各家の面々が次々に退出の挨拶に訪れる。健康を願い、次回の出会いを約束し、暫しの別れを告げていく。最後は、レーウェイルズ家族だった。レーウェイルズと私達が話していると、横ではリズがネリティスと別れを惜しんでいる。


「リザティアさん……。是非に北に来た際には寄って下さい。歓迎します」


「ネリティスさんも、是非『リザティア』に遊びに来て下さい。先程もお話しました大きなお風呂がありますよ」


「ふふ。楽しみです。リザティアさん、もしよろしければ、今後も友達としてお付き合いをお願いしても良いですか?」


「私で良ければ、光栄です」


 そんな温かな交流を見ながら、馬車まで見送る。走り出した馬車にいつまでも手を振るリズをそっと抱きしめる。


「良い出会いが出来て、良かったね」


「うん……。良かった……」


 少しだけ、別れに潤んだ瞳を見せたリズをそっと隠すように抱きしめて、背中を叩く。落ち着いたところで、ロスティー達と一緒にほっと溜息を吐く。


「さて、気疲れもあっただろう。夕食でも食べてゆるりと休め。明日は準備に使い、明後日に戻ればよかろう。それでも例年に比べれば、相当に早いわ」


 ロスティーが優し気に告げてくれるのに、こくりと頷く。


 リズと一緒に食事まで休憩と言う事で部屋に戻ると、タロとヒメが帰ってきていた。物凄く興奮しているが、服を着替えるまで待てをすると、思いの外聞き分け良く伏せている。ペールメントの教育から、色々動作がきびきびするようになった。私とリズが着替えて、普段着になると、てーっとかけてきて飛び掛かってくる。


『まま!! ままいたの、たくさん、あそんだの!! はしるのもしたし、ぬくぬくしてあげたの!!』


『ちいさいの、あそんだ!!』


 久々に赤ちゃんや子供と遊んだのが嬉しかったのか、止め処なく快の感情が溢れてくる。リズと手分けして、ブラシで梳いて、興奮を冷ますが、それでも甘えん坊モードで擦り寄ってくる。リズと一緒にしょうがないなと言う顔で、わしゃわしゃと撫でて遊んであげると、満足したのか、箱に戻って、二匹でグルーミングしあっている。


「久々に赤ちゃんにも会えたしね……」


「子供と追いかけっこもしていたよ。でもきちんと手加減出来るようになったんだね……」


 少しだけ、お父さんお母さんの顔で、二匹の成長を喜ぶ。笑いあって、リズからお風呂の話などを聞いていると、日が完全に傾いてくる。ノックの音が響き、夕ご飯に向かう。昼が重めだったので、野菜中心のシンプルな食事を取り、男性陣が順にお風呂に浸かる。

 部屋に戻ると、リズも大分緊張で気疲れしたのか、ベッドの上でうたた寝している状態だった。そっと抱き上げて、掛布団の中に入れて、私も潜り込む。流石にあの人数の前で色々と意見を言ったり、物事を考えるのは堪えたなと考えていると、いつの間にか意識を失っていた。


 意識が覚醒したのは、夜半を回って暫くしてからだろうか。ベッドの横で鳴くタロとヒメの声で目が覚めた。珍しい、寝入ったら朝まで起きないのにと思っていると、タロの方から緊迫した感情が流れ込んでくる。


『まま、てきなの!!』


『しょうしゅうめいれい!!』


 私達には聞こえないが、庭の狼達が鳴いているのだろう。常と違う緊張感を孕んだ空気に意識を切り替えて、リズを起こす。こんな夜中に何が起きているのか? 何が最善な行動なのか? それを考えながら、槍を手に、一旦仲間で集まるべくリズと一緒に廊下に飛び出した。

12月11日及び12月12日に関しては、所用の為更新が途絶える恐れがあります。ご迷惑お掛け致しますが、よろしくお願い致します。

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