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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第三章 異世界で子爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第590話 議会の開催~ダブティアとの国際問題に関して

 控室に戻ると、少し心配そうなリズが駆け寄ってくるが、大丈夫と笑顔で手を振っておく。


「兄上の件か……」


 ロスティーがやや沈痛な面持ちで囁いて来るのに、軽く頷くと、溜息を一つ吐き、表情を戻す。


「お主は愛されておるな……。功績に対して欲目が無いのと、国を発展させる事に注力しておるからだろう……。故に、誰もお主を責められん。明日は我が身、翻って自らの功績を考えるとな……。まぁ、このまま進めば良い」


 優しい目でこちらを眺めると、ロスティーが奥の扉を指さす。


「今日よりは、誰憚(だれはばか)る事なく子爵だ。着替えて来るが良い」


 カビアがシャツと袖を入れた袋を渡してくる。議事に参加出来るのは子爵以上だ。正式に子爵となった今、装いも新たにせよと言う事だろう。はぁ、正装を作る時に念の為、一式作っておいて良かった。扉をノックして誰もいない事を確認し、中に入ると六畳ほどの部屋が広がっている。高級デパートの試着室がこんな感じだったなと思いながら鍵を閉めて、上着を脱ぎ、シャツを着替え、袖を付け替える。脱いだシャツと外した袖を畳んで袋に仕舞い、扉を開けるとカビアが待機していて、袋を受け取ってくれる。


「よくお似合いです」


 囁くように伝えてくるが、家宰(かさい)は着替えなくて良いのが楽だよなと。


「シャツと袖が変わっただけだよ。皮肉っぽい」


 そう伝えると、二人で苦笑を浮かべる。結局、昇進なんてこんなものだ。そう考えながら、ボックス席の方に戻る。議事進行に関して、ロスティー達と話していると、お茶会の準備が出来た旨を城の侍従が知らせてくる。


「じゃあ、リズ、ティアナ。申し訳ないけど、頑張って」


 エールを送ると、二人がにこりと挑戦的な笑顔を浮かべて頷き、ペルティアと一緒に歩いて行く。まぁ、開明派内で情報公開をするくらいなら全然構わないし、保守派や王家派と喧嘩でもしない限りは問題無い。リズのフォローはティアナがしてくれるだろうし、そこはもう信じるしかないだろう。


 少し時間をずらし、議場の用意が出来た旨を知らせてくれる。先程と同じくロスティーを先頭に議場へと向かう。大きな観音扉を抜けると、そこには広い半円の議席が広がっていた。中心には演壇があり、議長席には議事進行係の老人が座っている。役職としては過去の日本でいうところの枢密院のような組織を国王が持っており、その長が議事の進行を務める。


 式典と同じく、開明派が右奥から順に席に着いていき、中央から正面にかけて王家派、左奥から保守派と言う形で半円を埋めていく。私とカビアは何故かロスティーとノーウェに挟まれ、背後にはテラクスタが座っている。周辺もカビアに教えられた侯爵や伯爵でもかなり上位の人間ばかりが集まっており、非常に居心地がよろしくない。


 ざわめいていた議場の中が次第に静まってくると、議事進行係が年齢に似合わない、伸びやかな声で朗々と宣言を始める。


「では、今年度のワラニカ王国議会の開催を宣言する。予算審議会より状況が動いた議題に関しては……」


 大まかな流れとして、ダブティアとの外交問題の報告、オーク襲撃による他国への支援をどうするか、税収状況の好調に伴う再投資先をどうするかの三点が俎上(そじょう)に上がっている。ちなみに、議会の開催権は国王が持っている。年次では四月の予算審議会と七月の本会議が常会になっており、それ以外に大きな問題が発生した場合には国王の命により臨時会が設けられる。


「ダブティア王国との外交問題に関して、ロスティー公爵。報告を」


 議事進行係が告げると、ロスティーが演壇に立ち、簡単な経緯とダブティア王国内で交わした約定に関しての報告、結果としてワラニカ王国にどのような影響が発生するかの予測を述べる。この辺りの内容は、貴族内には派閥関係無く、事前に報告されており、周知は徹底されている。改めて、ロスティーがそれを明示的に報告しただけだ。開明派側、王家派側の全員が頷きながら聞いているのでシャンシャンで終るかと思ったが、保守派の子爵が挙手する。


「レーミルトン子爵、前へ」


 挙手した三十にいくかいかないかの男性が演壇に立って、大仰な身振りで発言を始める。正直、意味不明な言葉の羅列なのだが、まとめるとワラニカ側が事の発端になったので、ダブティア側に改めて謝罪を行い許しを請うべきであると言う内容だろうか。また、そのような状況になったのは外務の責任を持つ開明派の失態であり、開明派の領袖(りょうしゅう)であるロスティーが責任を負うべきだと言う主張であった。開明派だけではなく王家派も失笑を堪えるのに必死なのだろう。どよめきが生まれる。

 何故失笑が生まれるかと言えば、外交の基本はハッタリの応酬であり、自分が悪かろうが相手が引けばその分押すべきである。態々(わざわざ)納まった話に謝罪をする必要などなく、必要最低限のやり取りとお互いに納得したと言う証拠さえ残れば良い。保守派の子爵の言では、わだかまりが残れば今後の外交に支障をきたす恐れがあると言う話だが、必要のない謝罪をすれば、その方が支障をきたす。

 若手の子爵が挙手したのもトカゲのしっぽ切りが容易だからだろう。もしここで何らかの成果が出せれば保守派としては万々歳。出せなくても若手の暴走と言う形で済ませるつもりなのだろう。本当にしょうもない。内輪の利益しか考えない愚か者の発想だ。何よりも、前国王の命を賭けた思いに唾を吐く行為に憤りを感じる。

 ロスティーの方を向くと、苦笑を浮かべながら、こくりと頷く。それを見て、私は挙手をする。


「アキヒロ子爵、前へ」


 呼ばれ、演壇に立ち、『カリスマ』を全開にして、大きく深呼吸をする。


「ダブティア王国は今件に関して、済んだ話であると明言しています。その上で、ワラニカ王国側が謝罪を行った場合の落しどころはどのような形と考えていますか? また、仮に金銭的な補償を求められた場合、どのような理由で予算を計上するのでしょうか?」


 告げて、席に戻ると、進行係が先程の子爵を呼ぶ。


「落しどころも何も、相手側の心情が良くなれば国益に適うでしょう。また、金銭的な補償を求められれば、その額が落しどころとなる物と考えます」


 あぁ、罠にかかったと心の中で喝采しながら、再度挙手をする。


「現状で相手側の心情は良くも悪くもありません。済んだ話と言うのはそう言う意味です。金銭的な補償を得られれば一時的な心証は良くなるでしょうが、それは難癖をつければ幾らでも金を払う国と侮るが故です。それが国益に適う物とは到底思えません。また、その補償額が例えば、ワラニカ王国を傾けるだけの金額になった場合、誰がその責任を負うのでしょうか?」


「常識的に考えれば、ワラニカ王国が支払い可能な額を指定するでしょう。その額を支払えば問題はありません」


「まず、常識的に考えて、謝罪をする必要のない事象に謝罪をする事が考えられない事です。また、その謝罪の対価はダブティア王国側が自由に設定出来ます。そこに常識は存在しないからです。その場合、ワラニカ王国側はそれを放棄する手段がありません。心証を良くすると言う目的で行った謝罪のため、相手側の心証が良くなるだけの対価を支払う必要が発生するからです。一度それを提示した段階で、こちらから覆す事も不可能になります。それを前提として改めて問いますが、謝罪の落しどころを明確にして下さい」


 席に戻ると、子爵が演壇に立つが、何も発言が出来なくなっている。保守派の侯爵を見ていると、微かに手を振った瞬間、子爵が撤回する旨を告げて、席に戻る。

 ノーウェが若干苦笑を浮かべながら、お見事と伝えてくる。向こうの若手がトカゲのしっぽとして出てくるなら、開明派としてもトカゲのしっぽが出ていくしかない。まぁ、問題無くばっさりと切れたので良かった。日本でもよくある話だし、外交に関して(おもんばか)る姿勢と言うのが害しか生まない。必要な事はやる。必要ではない事はやらない。ここをシンプルに決めておかないと、ドツボに嵌まるだけだし、内部工作でドツボに嵌めようと言うケースは多々と存在している。


 議事進行係が今件に関して、ロスティーの対応通りで進める旨が明示され、休憩が宣言される。なんやかんやで一時間程は経過している。控室に戻って、作戦の練り直しなどを想定しているのだろう。今の調子だと、オークの対応に関しても一波乱ありそうだなと、暗澹たる気持ちで控室に向かって歩いて行った。

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