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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?

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第585話 式典前の憩い~マヨラーの誕生

 と言う訳で、やって来ました。市場です。もうね、加工品に関しては『リザティア』の方が進み過ぎて興味が無い状態なんだろうなと。少なくとも、リズ、フィア、ロット、リナが喜びそうなものが材料や産物の段階と言う形になった。


「ヒロ、どうする?」


 リズが、ちょっとわくわくした顔で、聞いてくる。ロットとも話したが、トルカ村の食生活に関して実は恵まれている。トルカ村の南の森の植生が豊かなので、大概のものが手に入る。手に入りにくいのは果物なんかだろうか。後、野菜野菜したものが量手に入らないぐらいだろう。日持ちするものや、種は持ち帰るのに買って、果物なんかはそのまま食べようかという話になった。


「あまり甘い物は好きじゃないけど、果物は好きかな。トルカや『リザティア』で食べられない物を探して買おう」


 そう告げると、皆、楽しそうに店舗を覗き込み始めた。


「あ、あれ見た事無い。ロット、あれ、美味しい?」


 フィアが指さした橙色のちょっと平べったい円形の果物。ロットも食べた事が無いらしい。私も日本で見た事が無かったので、三つほど買って、リズと私、フィアとロット、リナで味見してみる。


「うわ、汁気が凄い。でも、あまーい!!」


 フィアが目を輝かせて、はくはくと貪る。見た目でマンゴーみたいなものかと思っていたが、実際はちょっとねっとりした桃と言う感じだろうか。香りはもう少し濃厚で林檎のような揮発性っぽい香りが口の中に広がる。ハッカみたいな桃の香りと言うのが存在すれば、それが近いかもしれない。何というか、果実酒にしたい感じだ。


「結構甘みが強いから、冷やしても美味しいかも。甘みも後を引く感じじゃ無いし、さっぱりと食べられそうだね」


 そう言ってみると、皆が、考え込み、大きく頷く。ロスティーのところの従業員の分も含めて籠一杯を買ってみる。どうも種から育てても二年程で収獲可能だし、『リザティア』の気候でも十分育つらしい。


「あぁ、リーダー。これは少し酸味がしますが、爽やかですよ」


 ロットがそう言って、ちょっと厚めの皮の緑色の丸い果実を持って来る。カボスとかそういう感じの柑橘系かなと思ったが、剥いてみると袋は無くて、ぷるんとしたライチのような質感の白い果肉が詰まっていた。こんなに柔らかいとすぐに傷みそうだなと思いながら口に入れてみる。


「ふむ。果物を食べる機会もそうは無かったで御座るが、さっぱりとするで御座るな……」


 リナが感心したようにむしゃりむしゃりと頬張る。実際に噛んだ瞬間まではライチっぽい食感だったが、鼻に抜ける香りは柑橘とはまた違った酸味が広がる。ほのかな甘みと一緒になってヨーグルトの水分に砂糖を軽く加えた感じが近いのだろうか。なんだかサラダのドレッシングとかに使うと合いそうだ。


「これ、ちょっと乳製品に近いかな?」


 そう聞いてみると、皆が難しそうな顔をする。あぁ、そうか。ヤギやヒツジの乳が中心なので、その香りの印象の方が強いか。ヨーグルトなんて口に入る事は無いだろう。チーズ、バター辺りまでかな。


 そんな感じで、日本で見た事のある果物や野菜、見た事の無い果物や野菜を片っ端から購入していく。緑色のトマトっぽい物も見つけたが、味は完熟のトマトに近い。初夏のこの季節に旬を迎えるらしいが、これはこれで嬉しいな。少し悪戯を思い浮かべながら、若いキュウリと一緒に買っていく。後は中々手に入らない植物油や、野菜の種、乾燥野菜やキノコなどを購入し、大きな荷物を持って馬車に向かう。


「楽しかった?」


 皆に聞いてみると、先程の服飾屋で鬱憤(うっぷん)が溜まっていた分、爆発出来て楽しかったらしい。


 観光に回るかと聞いたが、テスラを含めて、興味が無いらしい。と言うのも、歴史に関してはまだまだ羊皮紙で残っているレベルの話だし、ワラニカ自体が新興国なので、英雄に絡む史跡なども無い。中途半端に玄人好みと言うか、オタク好みな王都と言うべきか。出来れば歓楽街の今後の為に王都の風俗関係も視察したかったが、南西側の入り口なので、貴族は行かないらしい。もし要望があれば、無名の馬車を迎えに寄越してデリバリーな感じで対応するらしい。ちなみに、視察と明言しているので、リズの機嫌も別に変りない。私が知りたいのは設備環境と衛生対応などだ。


 町の中の水道設備もほぼ無い。井戸はそこかしこに掘られているが、下水はドブがそのまま解放されて川の流れに沿って流されているだけだ。正直王都に入った瞬間思ったのは糞尿臭いのとドブ臭いのが入り混じった異臭が立ち込めているなという感じだろうか。トルカ村はその辺り結構整備されていたし下水は暗渠になっているので、匂いそのものはきつくない。これが都市計画無しで拡張を続けた都市の現実だろうなと思いながら、馬車に揺られて、屋敷に戻る。


 まだ、昼ご飯の時間には早いが、太陽は高く登り、かなり温度は上がってきている。折角なのでちょっと遊んでみようかと。皆には部屋で待っててもらう。執事にお願いして厨房の一角を借りる。


「何か作るの?」


 一緒に来たリズが少しわくわくした顔で聞いてくる。


「うん、ちょっとね。食事前に涼んでみる?」


「涼む?」


 リズが首を傾げている横で、若いキュウリや先程のトマトもどき、それにビール瓶を氷水をいれたタライに沈めておく。一応サルモネラ菌に感染していないか『認識』先生に聞いた朝採れの新鮮な鶏の卵と白ワインビネガーを分けてもらい、先程買ってきた緑色の柑橘系の汁を絞る。レモンより香りは高いが酸味はなめらかで少し青臭いレモン汁といった感じだろうか。

 全卵を撹拌し、ワインビネガーとレモンモドキの汁を匙で測って、塩と一緒に加える。よく混ぜ合わせて、菜種油を少量入れては死ぬ気で混ぜる。馴染んだところでまた追加、撹拌、追加を繰り返す。がー、泡だて器開発してからの方が良かったかな……。そんな事を少し後悔しつつ、匙でまったり、ぽってりとするまで延々混ぜる。最終的には滑らかなマヨネーズソースモドキが完成する。少し舐めてみると、レモンモドキの香りの所為か、日本で手作りをしたマヨネーズより若干油のくどさが薄れ、その代わりちょっと森みたいな香りがする。リズが物凄い期待の眼差しでこちらを見つめながら、右手の人差し指を軽く噛んでいる。エロ可愛い。


「はい、味見」


 リズに小匙を差し出すと、ぱくりとそのまま口にする。その瞬間酸味を感じたのか、一瞬きゅっと目を瞑って頬を押さえるが、ぱっと目を開けて、微笑みを浮かべる。


「え、なにこれ。濃厚だけどさっぱりしている。美味しい……。うー、もうちょと食べたいかも……」


 リズはマヨラーだったか……。


「まだだめ。後で皆と一緒に食べよう」


 そう告げると、残念そうな顔を浮かべる。渡していた味噌樽から軽く味噌をもらい、極少量の水出しの昆布出汁で溶く。粘度は残しながら、混ざりやすくなったくらいでマヨネーズモドキと合わせる。これで完成かな。執事にロスティー夫妻とノーウェ、仲間達を東屋に呼んでもらうようにお願いする。 


 リズに味噌マヨネーズを入れたボールを持ってもらい、野菜と氷が浮いている大きなタライは私が持って、東屋に向かう。

 皆、既にテーブルに座って待機してくれている。ロスティーやペルティア、ノーウェも含めて、皆が期待の眼差しでこちらを見つめてくる。あー、チャットとティアナ、ドル、ロッサはまだ帰ってきていなかったか。またの機会にご馳走したら良いかな。


「珍しい物を作っていると聞いて、期待していたよ」


 ノーウェが超爽やかな笑顔で声をかけてくる。


「故郷で夏場の暑い時に食べる物ですね」


 そう告げながら、テーブルにタライを置く。味噌マヨネーズは小鉢を生んで、各自に分ける。杯に残り最後のエールを注ぎ、回していく。


「では、野菜をこのソースに付けてお召し上がり下さい」


 気温は暑いが、風が通る東屋の中、皆がそれぞれ野菜に手を伸ばし、ソースを付けて、むしゃぶりつく。


「ん?んん!! 甘い……!! この緑のやつ、さっき食べた時は酸味を感じたのに、凄く甘く感じる。それにこのソースが濃厚で、合わさったら、美味しい!!」


 フィアが、目を見開きながら、ソースとトマトモドキを見回す。


「これは良いね……。キュウリの青臭さが若干苦手だったけど、その青臭さが逆にアクセントに感じる。味噌の香りと合わさって、何とも風情を感じさせるね……」


 ノーウェも嬉しそうに、ぽりぽりとキュウリを齧っている。


「咀嚼が終わったら、ビールと一緒に流し込んで下さい」


 そう告げると、皆が杯を傾け、こくりこくりと飲み始める。


「ぷはぁ……。これは……止まらんな。このソースは見事だ……。若干発酵させた匂いのようなものを味噌には感じていたが、ビールと合わさると、ここまで豊かな香りに変わるか……」


 ロスティーが呆然と呟く。ペルティアも上品に小口で噛み千切る度に嬉しそうな表情を浮かべる。


「暑い夏に冷えた美味い物を食べて、冷えた美味い物を飲む。そうして、暑気(しょき)払いをするのが故郷の流儀ですね」


 そう伝えると、皆が椅子にもたれ、東屋を渡る風を感じて、穏やかな表情を浮かべる。


「何とも贅沢だな、この時間は……。このような夏を過ごせるとはな……」


 ロスティーがしみじみと呟くと、ペルティアがそっとその手に手を乗せる。


「このソースなら、パンに付けても食べられそうだね」


 ノーウェが味噌マヨネーズを指さしながら言う。


「はい。その場合は、塗ってからオーブンで軽く炙って下さい。そうすれば酸味が飛んで香ばしさとうま味が増します」


「レシピはもらえるのかな?」


「はい。ただ、味噌がまだ流通可能なレベルになっていないので、本格的に食べられるのはもう少し先ですね」


 そう言うと、ロスティーとノーウェが苦笑を浮かべる。


「きちんと使い道を提示してくるからずるいよね。あぁ、早く本格的に流通してくれないかな……」


 ノーウェがお道化て言うと、皆から笑いが零れる。今まで鶏の卵を延々『認識』先生で調査していたが、サルモネラ菌なんかは見つからなかった。菌の毒性は下がっている筈なので、もし混入してても大丈夫そうかなとは思う。レシピには念の為、注意書きと保存期間は明記しておこう。基本は作ったらその日の内に食べるようにしていれば、当たる事も無いだろう。在来菌に関しては三十分程置けば良かったかな、確か。


 皆、ビールを片手に談笑を楽しむ。私も、夏の空の下、久々の昼ビールと言う事で、味噌マヨネーズの懐かしい味と昔懐かしい感じの濃く青臭いキュウリの香りを楽しみながら、流し込む事にした。

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