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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第581話 王都への旅路~ロスティーの屋敷としばしの休憩

 荷物を持って屋敷に入ると、簡素ながら上品な装飾が随所に施されており、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。タロとヒメはリズに任せて、お土産の味噌樽などを担ぎながら、汚さないように慎重に廊下を進む。


「長旅ご苦労だったの。休憩の後は茶でも用意しておく。儂もまだ仕事が残っておるのでな」


 部屋まで送ってくれると、ロスティーとペルティアが軽く一礼し、奥へと進んでいく。私は後を付いてきていた侍従と侍女にお土産とレシピを渡して、部屋に入る。中は広いリビングと寝室、それに執務室が入った豪勢な作りとなっていた。


「はぁ……。豪華だね……」


 一歩入って高い天井に呆れていると、リズがぐいぐいと押してくるので、二匹の箱を預かる。


「本当。凄いね……。ふふ、お客さんって感じでちょっと楽しいかも」


 リズが嬉しそうに、寝室を覗き込んでベッドを確認したり、執務室の椅子の座り心地を試したり、リビングのソファーに転がって見たりしているのを横目に、二匹の箱を部屋の隅に設置する。


『しらないばしょなの……』


『ちょうさ』


 ひょこっと頭を出した二匹がきょろきょろと周囲を確認し、クンクンブルドーザーになって、部屋を嗅ぎまわり始める。まぁ、少しの間泊まる形になるし、好きにさせておくか。タロとヒメが仲良く二匹で連れ立って、テーブルやソファーを嗅いでは、こしこしと耳の後ろやお腹の辺りを擦り付けて、次の標的を探している。まぁ、昼ご飯は食べたし、夕方まではこのままで良いかな。


「リズ、体調は大丈夫? それなりに長い旅だったけど」


「うん、大丈夫。ヒロこそ平気? お仕事しながらだったよね」


 ソファーにちょこんと座ったリズが上目遣いで見つめながら、聞いてくる。可愛い。


「ティルト男爵の件を進めないといけないかなって。今まで、こちら側から出向いて商売を(すす)めるという事が無かったから。ちょっと予算とかをどうしようか迷っただけ」


 テーブルの上に伏せて置かれていたカップを表に向けて、冷水を生み、リズに手渡す。ありがとうの声に合わせて受け取ったリズがこくりとカップを傾ける。その横にカップを手にしたまま、そっとかける。


「でも、これからお仕事なんだよね……。移動して、仕事して、また移動して帰るって、大変だね……」


「付き合わせてごめんね」


 ふぅっとリズが溜息混じりに呟くのに合わせて、そっと謝る。


「ううん。一緒にいたいし、王都でも私の仕事があるんだよね。お婆様にもお会いしたかったし、王都も見てみたかったから」


「はは。ノーウェティスカもまだきちんと観光出来ていないのに王都と言うのも不思議だね。帰りはノーウェティスカに少し寄って観光しようか?」


 そう問うと、リズがむむむと考え込む。


「早く戻って『リザティア』がどう変わっていくのか眺める方が楽しいかな。知り合いも増えたし、保育所のお手伝いもしたいよ」


「そっかぁ……。ティーシアさんも張り切っていたしね。赤ちゃんも寂しがっているかも」


 笑いながらリズに答えると、赤ちゃんと言う単語を聞きつけたのか、ソファーの背もたれの方に二匹が前脚をかけて、フンフンをこちらを覗き込みながら嗅いでくる。


「あは。ヒロが悪いよ。タロもヒメも赤ちゃん大好きだもんね」


 リズが二匹の頭を撫でると、二匹は目を細めながらなされるがままに頭を揺らしている。


「そうだね。お母さん方も赤ちゃんの機嫌が良いって喜んでいたから、なるべく一緒にいさせてあげたいね」


 そっと二匹に顔を近づけると、頬を擦り付けてくる。休憩の際に散歩には連れ出していたが、移動続きだったのでストレスも溜まっているだろう。そう思いながら、二匹のなすがままにされていると、ノックの音が響く。返事をするとロスティーの侍女でお茶の支度が出来たとの事だ。リズの方を見るとこくりと頷く。二匹はノックの音が聞こえた段階で、離れて再度部屋の調査に戻った。広い部屋なので、お茶の時間くらいは二匹も調査を楽しめるかなと。ソファーから立ち上がり、リズに手を差し伸べる。掴んだ手を引き、そのままつないだ状態で部屋を出る。


 侍女の後を追っていると、立派な扉の前で止まる。両開きの扉を押し開けると、ちょっとしたホールくらいの大きさがある食堂に出る。庭に面しているので、壁を開放してウッドデッキにダイレクトにつながっている。芝と庭木が美しい調和で並ぶ姿は、長い年月をかけて育まれた一体感を醸し出し、何とも言えない風情を感じさせる。


 そのまま侍女に導かれ、庭が良く見えるテーブルへと向かう。既にロスティー夫妻とノーウェ、そして仲間達はテーブルに着いていた。


「お待たせ致しました」


「いや、構わぬよ。少し遅らせたのは儂等故な。『リザティア』の温泉宿から眺める庭も見事だったが、ここもそれなりには楽しめよう」


 子供が大切なおもちゃを自慢する時のようにわくわくした顔でロスティーが告げる。


「えぇ。美しい庭ですね。何よりも時を重ねて生まれてきた雰囲気が、心を落ち着かせてくれます」


 そう告げて、リズの椅子を引き先に着席させ、私もその隣にかける。


「改めて、仕事とは言えお世話になります」


「構わぬ。寄り子の世話は親の務め故な。今後はノーウェも屋敷を構えるだろうが、時はかかろう。それまではここを自らの家と思い、使うがいい」


 ロスティーがのんびりした風情で告げると、侍女達がカップに紅茶を注ぎ始める。ロッククッキーのような焼き菓子に蜂蜜がかかった物がお茶請けに出ている。ひょこりと顔を覗かしているのはクルミなのかな?


「では長い旅路、大儀であった。無事の到着は喜ばしい。式典は七月一日よりという事で、明日はゆるりと寛げば良かろう」


 ロスティーが告げながら、カップを上げると、皆がお茶を楽しみ始める。私も燻る香りを楽しみ、そっと口をつける。お茶の産地が近いのか、水のせいなのかは分からないが、ノーウェティスカで飲む物より香り高く感じる。ロッククッキーは卵は入っているが流石に牛乳やバターは入っていない。ただ、その素朴な生地に蜂蜜の甘みとクルミの感触が加わり、上品に楽しめる一品に仕上がっている。


「旅の際は中々繊細な物を楽しむ余裕も無かったので、本当にありがたく感じます」


 私がロスティーの方を向いて、微笑みかけると、ふふふとペルティアの方から笑い声が聞こえる。


「喜んでもらえて嬉しいわ。私の得意なお菓子なの。皆が来ると言う話だったから焼いてみたのだけど、お口に合ったのなら良かったわ」


 ペルティアが周りを見渡しながら、皆が喜ぶさまを眺め、上機嫌で微笑む。


「あの、お婆様……」


 リズが、そっとカップを置いて、ペルティアに話しかける。


「あら、何かしら。私の可愛いリズ」


「もしよろしければ、このお菓子の作り方を教えてもらえますか? 料理は母より学びましたが、お菓子までは難しいのです。ヒロも喜んでいるので、出来れば私も作ってみたいです」


 リズがそう告げると、満面の喜色を浮かべるペルティア。


「まぁ、どうしましょう。ねぇ、あなた、本当に嬉しいの。だって、女の子と一緒にお菓子を作るだなんて。それも私の孫なのよ。ふふふ、女の子が生まれなかったから、こんな機会は来ないかと思っていたけど、嬉しいわ。アキヒロさんのお邪魔にならないのであれば、是非、歓迎するわ」


「はい。大丈夫です。明日は王都を見学するつもりですが、明後日以降はそこまでリズが忙しい事は無いでしょう。式典の際には付き添ってもらいますが、それ以外はペルティア様のお傍で預かって頂ければと考えます」


 そう告げると、にこにこと嬉しそうにペルティアがうんうんと頷く。


「そうね。じゃあ、この後少し時間をもらっても良いかしら。日持ちがするものだし、折角だから、明日王都を回る時に持ってお行きなさいな」


 ペルティアの言葉にリズがそっとこちらを向くがこくりと軽く頭を下すと、微笑みを浮かべて大きくペルティアに向かって頷く。


「嬉しいです、お婆様。ありがとうございます」


 そこから、リズとペルティアの談笑が始まる。二人とも楽しそうで、まるで本当の祖母と孫のように見えて、勝手に頬が緩む。ふと、ロスティーの方を向くと儚げな微笑を浮かべ、ペルティアを見ている姿に自分の表情を重ねて苦笑が浮かぶ。私の場合は保護者気取りなのかな。


「ロスティー様。私は王都に訪れるのは初めてなのですが、何か見ておくべきものはありますか?」


「ふむ……。歴史はある故な。史跡はあるが、あまり興味もあるまい。町の作りと言っても『リザティア』の方が余程手が込んでおるしな。市場で珍しい物と言うてもダブティアの産物がほぼ故、あまり新鮮味は無かろう。ふむぅ、そう考えると、中々に難しいな……」


「分かりました。もしよろしければ町の構成をこの目で確認したく考えます。後は大きな市場があれば、そちらを訪れてみたく思います」


 そう告げると、ロスティーが部屋の隅で待機していた執事を呼ぶ。軽く耳打ちをすると、こちらに向き直る。


「では、侍従を一人付ける故、そちらに望みを伝えれば良い。何か面白い物があれば教えて欲しい。我が孫の手にかかれば、儂等にとっての当たり前も大きく変わるだろうしな」


 ロスティーが楽しそうに言うが、まぁ、確かに何か面白そうな食材でもあればとは考えている。後は、『リザティア』に無い植物の種があれば持ち帰りたいかな。


「ふむ、良ければ、庭でも見てみるか? 案内しよう」


 お茶を飲み干したロスティーが席を立つのに合わせて、私も席を立つ。ふむ、何か話でもあるのかな……。そう思いながら、大開放からウッドデッキに出て、そのまま庭へと歩いて行った。

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