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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第576話 王都への旅路~アテン夫妻との語らい

 茜に染まりゆく中、懐かしいトルカ村の大通りに入る。ここも馬車二台分はすれ違えるが、Uターン出来ない幅なのは変わらないなと。そのまま西側の村の端まで移動して、ノーウェの御屋敷に入る。馬車が止まると、カビアが先に降りて屋敷の方に駆けだす。先触れは出していたので、トルカ村とノーウェティスカまでは訪問日程が伝えられている。カビアがドアノッカーを叩くと、侍従と侍女が出て来て馬車に向かって深々と頭を下げる。それを見て、私達も馬車から降り、挨拶に向かう。


「寝るだけとは言え、お手数をお掛けします」


 そう告げると、前にカビアが住んでいる時に見た侍女がにこやかに首を振る。


「いえ。何も出来ませんが、本日はゆるりとお過ごし下さい。荷物はどうなさいますか?」


 その言葉に合わせて、侍従がすっと前に出る。


「手荷物はまとめていますので。寝る場所だけお借り出来れば助かります」


「分かりました。では、ご案内致します」


 侍女が一礼し、屋敷の奥に進むと、侍従の方は馬車の方に向かう。テスラと調整して、馬車を駐車場に誘導して馬の世話をしてくれるのだろう。

 私達は、誘導されたそれぞれの部屋に分かれる。部屋の中に荷物とタロとヒメの箱を置く。二匹はひょこりと顔を上げて、部屋に出て、ふんふんと匂いを嗅ぎ始める。


「へへへ。なんだか、懐かしい」


 部屋に入ると、リズがにへらと笑う。


「ここに入ったと言えば……。うーん、冒険者ギルドの問題の時か……。あんまり良い思い出じゃないけど……」


「それでも、色々お話したしね。ふふ。年末だったもんね」


 あぁ、初めての夜前後の思い出がここからまとまっているか……。まぁ、確かにばたばたはしたしな。


「さて、お義兄さんとお義姉さんに会いに行こうか。大きなお鍋ってまだ残っているかな……」


「お母さん、荷物持ってこなかったから大丈夫だと思うよ」


「じゃあ、物だけ持っていこうか」


 侍従に親族に会う為、出てくる旨を伝える。夕ご飯は私達は別々だ。材料は渡してある。

 小分けにしたうどんの玉と水出しの昆布のお出汁、お味噌とお野菜、お酒を持参して、アスト宅……今はアテン宅に向かう。タロとヒメは大通りまで出ると、匂いで思い出したのか市場の方に走り出そうとするが、リードを引っ張ってぐえっとさせる。


『まま、おにくなの!!』


『たろがいのししくれる!!』


 ヒメも変わったなと思いながら、もうご飯だと伝えると、なら良いかと言う感じで、思い出深いアテン宅に向かっていく。もう、道も分かるのか、先導して小走りに走り始める。昼にあれだけ休憩の度に走り回っていたのに、本当に元気になった。散歩の途中で抱っこをせがんでいた頃が懐かしい。クンクンと懐かしい道を歩み、見慣れた家の扉の前でお座りする二匹。扉をかりかりと掻いているのを横目に、ノックをする。家の中からは女性の声が微かに聞こえる。ことりと鍵を落とした音が聞こえて、薄く扉が開きウェシーが顔を出す。


「お久しぶりです。お義姉さん。今は大丈夫ですか?」


「あら、男爵様。本日とはお聞きしていましたが、お早いお着きですね」


 驚いたような表情を浮かべて、ウェシーがそっと扉を開けてくれる。二匹も、すいっと避けて、家の中に入りたそうにする。


「今日は個人の用向きなので、アキヒロで結構です。お土産もありますので、入ってもよろしいですか?」


「はい。どうぞ。リズさんも、さぁどうぞ」


 タロとヒメの足を拭うと、たーっと部屋の奥に駆けていく。


「お義兄さんの部屋はどうされていますか?」


「私達はお父さんお母さんの部屋を使っているので、特に何もしていないです。掃除はしていますが」


 タロとヒメがててーっと戻って来て、扉を開けてとせがむ。


「少しだけ、この子達を遊ばせても良いですか?」


「はい。大丈夫です」


 ウェシーが頷くので、そのまま奥のアテンの部屋に向かう。ここもいつの間にか思い出深くなったなと扉を開けると、中は出ていった時のままだった。拭き掃除はずっとしているのか寂れた感じはしない。タロとヒメがクンクンと自分の匂いを確認しながら、箱を置いていた定位置まで向かうと、くるりと丸くなる。


『ここ、すきなの』


『あんしん』


 二匹がふにゅりっと顎を落とすので、飽きるまではそのままにしておこうかと、扉だけ半開きにしてリビングの方に向かう。テーブルには、リズとウェシーがかけてお土産の説明をしているようだ。海産物の干物が中心だが、ウェシーが目をキラキラさせながら、調理方法を聞いている。


「お義姉さん、夕ご飯の用意を進めても良いですか? 出来ればイノシシの肉を少し分けてもらえれば助かるのですが」


「あ、はい。昨日の獲物の分が残っています。ちょっと待って下さいね」


 ウェシーがぱたぱたと家から飛び出していく。庭の倉庫の方の在庫なのかな?

 暫く待っていると、(かめ)を持ってキッチンまで来てくれる。でろんと布で包んだ肉を出してくれるので、ありがたく預かる。


「寄られるかなと思っていましたので、残していました。お使い下さい」


 売りに出さずに取っておいてくれたのかと、少し申し訳ない気分になるが、そこは美味しい物でお返ししようと、キッチンを借りる。


「え……。アキヒロさんが料理をなさるんですか? リズさんじゃなくて?」


 きょとんとした表情を浮かべるウェシーを見て、リズと一緒に苦笑を浮かべる。


「私の性分ですので、お気になさらず。リズと中々ゆっくりと話す機会も無かったでしょう。この機会にお楽しみ下さい」


 そう告げると、申し訳なさそうにウェシーがリビングの方に戻る。程無くすると、キャッキャと明るい話声が聞こえるので、良かったなと。タロとヒメにあげる分を考えても結構な量のイノシシなので、残れば残ったで明日の朝食にでもしてもらえば良いかなと。薪を熾し、鍋の中に出汁を入れて、(かまど)の上に置く。まな板の上で、野菜の下拵えを済ませ、イノシシを薄く削いでいく。うどんは最後にまとめて湯がけば良いか。その時は熱湯を出すだけだし。


 外が茜から藍に染まり始め、そろそろ蝋燭を灯そうかというタイミングで、玄関からノックの音が響く。ウェシーが嬉しそうに立ち上がり、リズと一緒に玄関に向かう。そろそろ良いかと、沸々としている鍋に味噌を溶かし、薄切りのイノシシ肉を投入していく。色が変わったら、肉を隅に寄せて野菜を投入して蓋をする。


「あぁ、お久しぶりです、アキヒロさん」


 アテンがリビングからキッチンに降りて来て、声をかけてくれる。


「お久しぶりです、お義兄さん。突然お邪魔して申し訳無いです」


「いえいえ。王都に向かわれるというのはお聞きしていました。お手数をおかけしています」


「こればかりは趣味のようなものですので。今日は獲物の方はいかがでした?」


 聞くとアテンが嬉しそうに微笑む。


「はい。イノシシの大きいのがかかっていたので、連日ですね。父さんたちの頃は借金で大変でしたが、イノシシ一匹での純利益も増えたので、助かっています」


 石鹸や蝋燭、出汁としての骨なども合わせると、結構な額が生まれる。徐々に貯蓄の方にも回せているようなので、子供が出来たとしても全然問題ないようだ。

 そんな話をしていると、再度沸騰してきたので、鍋をあげてテーブルへと運ぶ。リズが小鉢や匙、カップを並べてくれるので、テーブルにかける。


「前回お越しの際にはまだ出せなかったのですが、今、領地で作っている酒です」


 ワインクーラーの中から、ビンを取り出して、コルクを抜く。氷温で冷やされたビンが拭いた端から汗をかき始める。こっこっと言う音を鳴らしながら、皆のカップに注いでいく。


「久方ぶりの再会に」


 アテンが告げて、カップをあげるのに合わせて唱和しながらカップをあげる。私とリズはもう慣れたので、こくこくと飲んでいく。アテンとウェシーはくんくんと嗅いでから、ビールを飲んでいく。まず、炭酸に驚き、喉越し、甘み、ホップの香りと表情が変わっていくさまが分かる。


「ふぅぅ……。ワインより飲みやすいですね。それにこの刺激が喉に気持ち良いです」


 アテンが驚いたような顔で呟く。


「あまりお酒は好きではなかったですが、これは麦の香りが気持ち良いですし、甘みも良いです」


 ウェシーもにこやかに呟く。


 鍋の蓋を開けると、濃厚な味噌の香り、昆布の淡い香り、そしてイノシシの脂の甘い香りがリビングに広がる。お玉でそれぞれが掬い、食べ始める。


「これは、『リザティア』で食べた料理にも使われていた調味料ですね。肉の脂と合わさって、美味しいです」


 アテンが、嬉しそうにぱくぱくと匙を進める。


「ふふ。向こうで頂いた時も美味しかったですが、今日は少し濃い目なんですね。このとろりとした感じも美味しいですし、濃い香りが良いですね」


 ウェシーの方も味噌は好みなのか、喜んで食べてくれる。

 部屋に広がった匂いを嗅いだのか、タロとヒメがてくてくとリビングの方に出てくる。


『まま、おなかすいたの』


『くうふく』


 廊下でへにゅっと伏せて、わふ、ぅぉふと少し憐れを誘う声で鳴くので、残しておいたイノシシ肉を土魔術で出した皿に乗せて、待て良しであげる。


「オオカミと言えば、領主様がダイアウルフですか、あの大きなオオカミを駆除してくれたので、オオカミ達も妊娠しているようです。草食の獲物も徐々には増えているので、早晩元に戻るだろうと冒険者ギルドから話が来ていました」


 アテンがはふはふと鍋を突きながら言う。


「そうですか。それは良かった。しかし、ゴブリンなんかも獲物にしていたようなので、冒険者としては稼ぎに困るんじゃないですか?」


「グリーンモンキーなんかは大丈夫だったようですね。ゴブリンはかなり数を減らしたので森の奥の方に潜んでいるようです。今は九等級と八等級の人間が比較的深い場所に入り込みやすいので、そこでスライムを狩っていると言う話です」


 スライムが狩れるなら、九等級としても美味しいか。徐々に獲物が増えれば、元には戻りそうかな。


「ゴブリンが減ったのなら、今年の指揮個体は発生しないか、発生したとしてもそこまで大きな話にはならない可能性がありますね」


「ありがたい事です」


 そんな話をしながら、鍋を突いていく。思いの外、皆が食べてくれたので、具材が無くなりかけたところでキッチンに再度立つ。大き目の寸胴鍋に熱湯を生み、再度薪を熾す。すぐにグラグラと沸いてきたところに塩を軽く一掴み入れて、うどんをぱらぱらと鍋に投入する。まとまって水面で対流し始めたら、ザルにあける。先程まで突いていた鍋を火にかけて、水魔術で冷水を生みながら、うどんのヌメリを洗い流し、締める。鍋が沸騰してきたところでうどんを投入し、焦げ付かないように注意しながら、再度沸騰したところでテーブルに運ぶ。


「あぁ、これも『リザティア』で食べました。ウェシーが凄く気に入っていました」


 アテンの言葉にこくこくとウェシーが頷く。フォークを土魔術で生みだし、皆に配る。


「小麦と水、それに塩だけで作る事が出来ます。作り方はこちらになりますので、どうぞ。パンを買うよりも安く上がりますよ」


 そっと懐からレシピを取り出して、ウェシーに渡すと嬉しそうに受け取り、眺めて、頷く。農家のお嫁さんだけど、読むのは大丈夫なのか。余裕のある農家だったのかな。


 食事を終えて、軽く談笑をした後に土間の樽にお湯を生んでから、暇を告げる。どうも、余裕が出来たし、二人での生活なので風呂は毎日入っているようだ。今日は少しサービス。


「では、また帰りに寄ります。お義兄さん、お義姉さんどうかお元気で」


「兄さん、元気でね」


 二人に別れを告げて、半分寝ているタロとヒメを担いで、屋敷に戻る。


「元気そうで良かった」


「生活も余裕が出来ているみたいだから安心したよ」


 そんな事を話ながら、月明りに照らされた屋敷への道をゆっくり歩んでいった。

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