第575話 王都への旅路~トルカまでの移動
荷物の最終確認をリズとしていると、タロとヒメが足元に遊んでと言う感じでまとわりつく。ふむ。保育所通いでちょっと甘えん坊がまた出てきた感じかな。
『また旅行に出るけど、着いてくる? それとも、留守番して保育所に通う?』
『馴致』で聞いてみると、二匹がお座りしてちょっと迷ったように、首を傾ける。
『まま、いっしょ!!』
『ぱぱ!!』
逡巡もほんの少しで、さくっと結論は出たようだ。王都近くで獲物が獲れなかった場合に少し心配だが、鳥ならばどこにでもいるかと二匹の頭を撫でる。
「ヒロ、大丈夫。数揃っているみたい」
リズが荷物の確認を終えて、報告してくれる。
「じゃあ、積み込みは最後だから、玄関まで出しておこうか」
そう告げて、タロとヒメの住処と一緒に、荷物を移動し始める。
玄関に向かうと、テスラが既に馬車を回してくれており、皆が荷物を積み込み始めている。
「男爵様。そろそろ出立ですね」
振り返ると、レイがにこやかに佇んでいる。
「今回も留守番で申し訳ない。軍の統括の方任せるね」
そう告げると、こくりとレイが頷く。
「はい。そちらはご心配なく。政務の方は……」
「うん。今回はカビアを連れて行くから、政務官僚の方に任せる。先月に新規の産業は出尽くしたから、難しい決済は無いし、代理決裁が可能な範囲は指示したから大丈夫。軍権は引き続きレイが統括してもらって構わない。政務の方では判断出来ないだろうし、レイの望むように処理してもらったら良いよ」
いつもならカビアを代官として残すが、流石に式典に家宰を連れて行かないのはまずい。今後の交友関係の部分も生で見てもらう必要があるし、各領主との顔繋ぎもある。政務に関しては、ある程度細かい範囲で決裁権は元々委譲し始めていたので、今回はその範囲を少し広げて、期間限定で渡している。問題が無いようなら、ここまで広げて良いし、駄目ならもう少し待つしかない。尻拭いが出来る範疇なので、まぁ、やってみせてどうかだろう。土地の売買、『リザティア』『フィア』への移住承認、新規の商取引、人事権は停止させている。それを除けば正直、問題が大きくなるネタは無い。
「畏まりました」
レイが微笑むと、仲間達から声がかかる。積み込みが完了したらしい。最後に私達の荷物を積み、領主館の前に集まった使用人達に出立の挨拶をする。手を振る皆に見送られながら、馬車が走り始める。
『リザティア』の南門を抜けて、ローマ街道に乗って、西に進路を取る。この時間に出発したなら、三日目の夕方にはトルカ村に着けるかなと予測している。結婚式から二カ月と経っていないけど、アテン夫妻は元気かなと。トルカ村で一泊はする予定なので、挨拶が出来ればと考えている。
馬車の中では、飽きもせず遊具の方で皆遊んでいる。私は今回時間があるので、政務から離れて遊具のバージョンアップを考えている。現在、チェスに関して、駒の大きさに合わせて台座のサイズを変えているが、この規格を一緒にしようかと考えている。今までは作りやすいと言う事で当初の規格から変える事はしていなかったが、馬車の旅の際にはちょっと使いづらい。その為、チェスもリバーシもバックギャモンも盤の方に窪みを作って、そこに駒を入れる形にしようかなと思っている。ただ、問題は塗装が面倒なところだが、まずはモックアップからかと、土魔術でサンプルを作る。
「遊んでいるところ申し訳ないけど、試しに改良版を作ってみたんだけど。こちらで遊んでもらっても良いかな?」
そう告げて渡してみると、皆が取り替えてくれる。そのままわいわいと遊ぶのを横目にカビアとティアナに『フィア』の新しい町作りに関しての方針を説明していく。どうも新婚旅行中に色々考えた結果、ティアナは斥候隊の指揮よりも政務に携わる方を選んだらしい。ただ、斥候として冒険には付き合ってくれると言う話なので、訓練はそのままにカビアのフォローをお願いすると言う事で一旦まとまった。
「と言う訳で、将来的には外部向けも含めて、包括的な結婚式からのサービスを始めたい。その為に、観光用の町を新規で興したいかな」
そう告げると、カビアはこくりと、ティアナは若干複雑そうに頷く。
「ん? あんまり乗り気じゃない?」
ティアナに聞いてみる。
「そういう訳では無いわ。ただ、見透かされているようで嫌だっただけ」
若干紅潮した顔でそっぽを向きながら答えるところを見る限りは、新婚旅行はまんざらでも無かったのかな。
「まだ塩作りに関しては、領内の人間にも開示はしない。だから、観光用の町を新規に作って隔離する。ついでにそこの保守・運営も雇用の受け皿になるし、良いかなと思うけど」
「そうですね。『フィア』の西側にはまだまだ利用可能な土地も残っていますし、そこを囲んでしまって隔離すると言うのは良いと考えます」
カビアも賛同してくれるし、ティアナも自分に絡まない部分に関しては素直に良いと答えてくれる。
「予算は、一旦個人資産からの持ち出しになるかな……」
「まだ、村を建設する予算が残っていると言う話ではなかったかしら?」
ティアナが首を傾げる。
「んー。村の一カ所は鉄鉱山の開発をノーウェ子爵かロスティー公爵閣下に委託しようかと考えている。残りは、街道上の宿場町を建設したら、使い切るだろうとは考えている」
「宿場町……。どこの経路でしょうか?」
「『リザティア』からトルカまでかな。『リザティア』から『フィア』までの経路にも建設しようと考えていたけど、基本はディード達の商隊の移動にしか使わないし。将来的に新婚の移動に使うにしても、馬車の方で宿泊出来る設備を整えれば、あまりメリットが無いかな」
「そうですね。移動の頻度を考えれば、その経路でしょうか。ユチェニカ領への経路はどうなさいますか?」
カビアが頷いた後に、聞いてくる。
「元々ベティアスタが嫁いだ後は、街道を通して、宿場町もダブティア側で作ってくれるという話だったけど、それも遅々として進まないしね。ワラニカ国内に関しては、こちらで進めるべきかもしれないとは考えている。ロスティー公爵閣下とも相談するけど、もし許可が出るなら、予算はそちらで使う形かな」
そう答えると、少し考えたカビアがふむふむと頷き、試算に移る。ティアナと一緒にテストケースを考えながら、相談しているのを確認し、私はタロとヒメのご機嫌を取る事にする。着いて来るとは言っていたが、赤ちゃんに会えなくて寂しいのか、二匹でグルーミングをしながら慰めあっているので、少し気晴らしをさせようかなと、もふもふと撫でる事にした。
馬車の旅は順調に進み、予定通り、六月二十二日の夕方にはトルカ村の姿が見える場所まで辿り着いた。




