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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
577/810

第574話 『リザティア』に関するちょっとした変化と旅の始まり

第一巻がGCノベルズより発売しております。


ISBN-10: 4896375912

ISBN-13: 978-4896375916


どうぞよろしくお願い致します。

 ここからは少し時が流れる。今日は、六月二十日。七月が組織変更と人事権の施行の為、王都に向かう事となる。この一か月は怒濤のように過ぎたが、ざっと追っていく。いつかどこかでまた詳しく述べられれば良いだろう。


 カビアとティアナに関しては、新婚旅行を楽しんで帰ってきた。出る時にはエステを終えて艶やかだったティアナがっゃっゃになって帰ってきたのだから、推して知るべしだ。カビアはちょっと干からびていた。ティアナ恐ろしい子。軽く白目を剥きそうだった。ちなみに、今回の旅行が好評だったので、海の村にもリゾート設備を別途に建築して、そこにお客様を招くプランを考えている。挙式、披露宴、新婚旅行(護衛付きの送迎)を含めたパッケージプランを格安に提供して、領民の慰撫(いぶ)が出来れば良いなと考えている。

 ちなみに、カビアがいない間は新規の話は何も進めていない。私がいない間に進めても問題無いが、マネジメントを司る人間がいない間に進めたプロジェクトは限りなく頓挫する可能性が高い。なので、思いついた案はカビアが帰って来てからと心の奥にしまっておいた。



 食生活の革命としては四点。まずは醤油の醸造に取り掛かった。味噌の醸造に関しては職人が増えてきたため、一部を醤油のラインに組み込んだ。半年以上かかる為、実際に口に出来るのは冬以降だろうけど。お刺身を楽しみに頑張るしかない。本当なら寒仕込みで一年醸造を狙いたいが、それはある程度形になってからだろうと見ている。


 二点目としてスルメや乾物が出回り始めた。スルメもホタテの貝柱もそうだが、良質な出汁が出る。味噌が一般家庭に徐々に浸透していくにしたがって、昆布と一緒に海の味として大衆に馴染んでいくだろう。時期が来れば、煮干し等他の乾物にも手が出せるし、保存がきくと言う事で冒険者や商家の人間に爆発的に売れている。


 三点目としては、ダブティアからトマトの苗木がもたらされた。どうも南の大陸から流れてきた実が繁殖したらしい。酸味があるのであまり好まれていないようだが、個人的には踊りそうになった。やっとケチャップやソースの開発に取り組める。ただ、土が栄養過多の為、態々土魔術で何と無く過酷な環境を作らなければいけないのはちょっと切なかった。


 最後に、ネスの方に頼んでいた蒸留環境が整ったので、蒸留酒の製造を開始した。ワインからブランデーをエールからはウィスキーを狙って貯蔵が始まった。並行してスピリットとしての運用もしているので、各種果実酒がこれから生まれてくる。梅の実はもう六月頭には回収が終わっているので、現在お砂糖と一緒に眠っている。梅干しはつい先日浸け終わった。ちなみに試しに作ったカクテルでカビアがべろんべろんに酔っぱらって、皆の前でティアナに愛を叫んだ瞬間は見物(みもの)だった。物凄くティアナに怒られたけど。と言うか、照れ隠しで上司を殴るのは止めて欲しい。あまりお酒が好きでないカビアでも飲める酒と言う事で少しずつ広まれば良いかなと。ただ、ワインを作るにも葡萄畑が無いので、現状は他領からの輸入が主だ。エールからのアルコール抽出が主になるので、ウィスキー派の人間には堪らない場所になるのだろうなと。



 海の村に関してだが、カビアが戻った段階で戸籍の見直しを行い、現在の村民は千五百をやや下回る状況になっている。千人近くは人魚さんだが、その分の税金は塩と乾物の売り上げで十分以上に賄えている。赤ちゃん達もすくすく育っているようで安心した。鳩を置けるようになったのでこまめに連絡は取っているし、塩のラインも完備されたので、爆発的に流入量が増えた。並行して警備も厳重にしているが、まだ塩ギルドの干渉は無い。王国全土に広まっている訳では無く、まだ開明派の中だけの話なので、塩ギルドも売り上げ減の正体が見えていないのだろう。またローマ街道の整備が完了したため、新型馬車での移動距離は三日で確定した。将来的に鉄道を引く下地も出来上がったので、ほっとした。


 人魚さんの方は相変わらず、各地の調査を進めてくれている。ただ、海の村『フィア』に来たら、旦那さんをゲット出来ると広めるのは止めて欲しい。もう、下手な軍集団以上に精強な自衛軍が出来上がる程に男手が持っていかれた。泣きそう。その噂を聞いて、『フィア』に来る人魚さんも増えているらしい。その内、大陸中の人魚さんが来るんじゃないかとちょっと戦々恐々としている。ただ、自分でお仕事が出来る人達なので、ウェルカムではあるのだが。


 合わせて村の規模も大きくなったため、正式に国の方に村の名前を『フィア』として登録した。功臣に報いる形と言う名目でフィアから名前を借りたが、珍しくフィアの面映ゆい顔なんて見れたので良かったかなと。ロットは喜んでいたが、次に村を作る時には『ロット』になるのは気付いていないのだろうか。



 『リザティア』と『フィア』の物流に関して、コスト削減を検討していたが、物流コスト自体を下げるには時間も開発も進んでいない。よって、物資の方のコストを下げる方向性で進めた。


 ダブティアの方は平地が多く、綿の流通量も多く安い。ワラニカの他領から僅かな綿を運ぶより、ユチェニカ領から綿を流してもらった方が早いし安いし多い。ちなみに、七月にはユチェニカ伯爵の息子が予定通り領地を正式に受け継ぐらしい。ただ、もう実質息子の方が領内を回しているし、現実が分かっている人間なので、どんどんとこちらに綿を流してくれる。その分、色々と向こうにも流しているが、ユチェニカ領自体には儲けが出るように調整している。ダブティア王国全体で見れば、もう土管状態になっているのは明白だが、まだ向こうは気付いていないので、このまま不均衡が明るみに出るか出ないかくらいまで進めていこうと考えている。


 で、輸入した綿だが、当初予定していた工場に設営した水車式のガラ紡で一気に紡いでいっている。元々種を抜いて綿打ちまでしてくれている綿なので、そのままガラ紡に搭載して紡ぐ事が出来る。その後は機織りまで工場で済ませてしまう。元々その労働力の集約の為に作った工場なので、引退した機織り職人が指導して若手を育てる環境は整った。現在、ティーシアが商工会からの依頼で工場長となっている。品質管理から指導まで一式をお願いしたが、計画を渡したら大爆笑された。どうも実家で夢としてこう言う設備を作れれば良いなと思っていたようだが、それが現実になっているのだから、笑うしかないらしい。と言う訳で、十分以上に給与は払っているのだが、布自体までのコストで考えてもとんでもなく廉価になっているし、品質は一定以上に保たれるようになった。


 また、布が大量供給されることによって、服飾業界にも革命が起こった。布が高価な為、服の値段は高いままだったし、職人の成長機会も少なかった。それが安価に大量にもたらされた事により、練度の上昇がとんでもない事になっているらしい。デパートに行った時も拝まれたが、そのレベルで育成が進み始めている。型紙の件も含めて、早晩服飾に関しては『リザティア』と呼ばれるようになるだろうなとは考えている。


 という形で、食料はすぐには難しいが、消耗品の布が安価になったので流通コストは格段に下がった。

 ちなみに、工場に併設して第一号の保育園が完成した。まずは工場に働くお母さんと周辺の赤ちゃんの預かりを試験的に始めたが、大好評だ。子供を気にせず仕事が出来ると言うのは女性にとって大きな利点だ。後、タロとヒメが物凄く喜んでいる。実際の開園はつい最近だが、一度訪問して以降、タロとヒメはずっと保育園に行かないのかと言い続けている。獣可愛い。


 もう一点、大きな出会いがあった。つい先日の事だが、冒険者ギルドに視察に行った際の話だ。


「久しいな、アキヒロさん。いや、今はもう、アキヒロ男爵とお呼びするべきか」


 生活系の雑務に関して、商工会と調整の上、どんどん十等級の業務として冒険者を活用している。その辺りの調整をハーティスと行った後、エントランスに降りた時に、懐かしい声に呼び止められた。


「へ? あ、あぁ。ディードさんじゃないですか。お久しぶりです。今日は冒険者としての訪問なので、口調は結構ですよ」


「そうか、助かる。話を聞けばあの後、すぐに七等級まで上がったと聞いて驚いていたところだ」


 ディードが苦笑を浮かべながら、言う。


「色々有りましたからね。ちなみにお仲間の方々は?」


「あぁ、こっちだ」


 ディードに連れられて、エントランスの大き目の個室に入ると、アリエとワティス、それに老齢の男性が一緒に座っていた。この人がベルダかな。


「あー、爺さんとは初めてか。こちらアキヒロ男爵。話はしたが、前にトルカで世話になったお方だ」


「初めまして、男爵様。ベルダと申します」


 ロスティーと同じか少し年下くらいだろうか。理知的な瞳と、少し前髪が後退したおでこが印象的な人だった。


「初めまして。指揮個体戦の際はお世話になりました。両翼が崩壊していたら、大きな損害が出るところでしたが、皆さんのお蔭で生きて帰る事が出来ました」


 そう告げると、温かい微笑みが返る。


「ぷにぷにが偉くなっている……」


「アーリーエ……」


「ひぃっ!!」


 アリエがぼそっと呟いた瞬間、ワティスがアリエの首根っこを掴む。相変わらずだなと思っていると、腕の婚約腕輪が無くなり、指輪に変わっている。しかもアリエが左手の薬指に指輪を嵌めている。ワティスは左手の人差し指だ。


「あぁ、ご結婚おめでとうございます」


 そう告げると、ぼっとアリエの顔が紅潮し、下を向いたままごにょごにょと呟く。


「ありがとう……」


「はぁぁ……。後で覚えておきなさい、アリエ。ありがとうございます、男爵様」


 ぎょろりとアリエを見据えた後に、ワティスが微笑んでくれる。


「いえ、今はアキヒロで結構ですよ。東の方に向かわれたとお聞きしていましたが、どうされていたのですか?」


 話を聞くと、指揮個体戦の後、ダブティアのダンジョンに潜っていたようだが、そこで五年物の若返りのアーティファクトを四つ見つけたらしい。それで八千万程の資本が出来たので、引退して商家にでもなろうかとワラニカに帰ってきたらどでかい町が出来ていてびっくり、その上領主が私と言う事で尚びっくりだったらしい。


「そうですか。商家と言う事は何を扱うつもりですか?」


「まだ決めてはいない。食料関係ならば堅いと見ているが、先輩の意見を聞きながら考えるつもりだ」


 ディードが腕を組みながら答える。ふーむ。信用出来る人なんだよなぁ。それに戦力的にも申し分ないし。貸しもあるなぁ。


「それならば、どうです? 南の方に村があるのですが、そことの交易をやってみますか? ちなみに、現状の往復にかかる護衛の料金が……」


 ささっと懐の紙に書いて、そっとディードに渡す。それを見た瞬間、ディードが目を見開き、覗き込んだアリエがぶふぉっと噴き出し、ワティスが額に手を当ててくらりとし、ベルダがふぉふぉふぉと笑った。


「ぷに……男爵様。これ、高過ぎませんか?」


 アリエが若干放心気味に聞いてくる。


「いえ。儲けは十分に出ていますので」


 そう告げると、四人で協議に入った。ただ、個人的にはもう一歩踏み込みたいと考えている。


「ふぅむ。この金額なら、八等級を後六人足しても十分に利益は出る。馬車の手配などは若干時間がかかるが、それを待ってもらえるならば好都合だ」


 相談の結果、ディードが提案してくる。


「それを聞いた上で、一つ提案なのですが。もしよろしければ、『リザティア』と『フィア』の交易に関して、司りませんか? 現状、練兵のため兵士も護衛に組み込んでいます。そちらの指揮権を含めて、お渡しします。その場合、部下と言う形になりますので、給与制で儲けは減りますが。ディードさんには交易隊隊長として付いて頂きます。また、出来れば戦争が発生した場合には、そのまま防衛に入ってもらえれば助かります」


 そう告げると、四人の怪訝な顔が返る。


「元々結婚したので、安定した仕事に付きたいと言うのが本音だ。私達としては願っても無い条件だが……。良いのか?」


「人材は何が何でも欲しいですし、信用出来る人間は尚欲しいです。何より命の貸しもありますし。両方に利益があるなら良いかと」


 そう告げると、ぷくくとディードが笑い始める。


「なるほど。いや、借りは返したく思っていたが……。そうか、忠誠か。ふーむ、爺さん。もう暫くは忙しくなりそうだが、構わんか?」


「どうせ死ぬまで働くつもりだ。構わんよ」


 ふぉふぉふぉと呑気な声で笑いながら、ベルダが頷く。アリエとワティスもこくりと頷く。それを見たディードが剣帯から鞘に入った剣を抜き、目の前でゆっくりと鞘から剣を抜いたと思ったら、柄をこちらに向けて差し出して、最敬礼を取る。それに合わすように他の三人も跪く。


「これより御身の元にて生涯を捧げます」


「ありがたく預かります。私はこの権限と剣と民の思いを以って、領地を治めます。貴方は民として幸せに生きていく権利を有します。故に私は、それを侵す者に剣を振るいます」


 懐かしいなと思いながら、差し出された剣の腹を額に当て神々にディード達の息災を祈り、頭を下げたディードの肩に剣の腹を当てる。


「御身の思い、しかと受け取りました。これより、我らは御身の剣となります。どうぞ、ご存分にお振るい下さい」


 瞑目し朗々と謳いあげるディード。その刹那、剣の先に紫色の光がほのかに灯った気がした。

 立ち上がったディードに剣を返す。


「商工会の方と調整をしますので、もう暫くお時間は頂くと思います。その間はどうなさいますか?」


「村を出た時点で身内もいない。出来れば、ここを終の棲家と考えている。まずは町の下見と家の調整だろう」


「分かりました。良い土地を探しておきます。ベルダさんもご一緒でよろしいのでしょうか?」


 聞くと、こくりと頷くので、ちょっと大きめの土地を北の方で探しておくか。


「宿は基本的に歓楽街になりますので、そちらでお泊り下さい。お風呂は是非楽しまれた方が良いと思います」


 その後は簡単な打ち合わせを済ませて、そのまま分かれた。と言う訳で、もう少ししたら、交易の護衛のコストもがくりと下がる。何より、七等級なんて戦術級の人間だ。ゴブリンとは言え、四人で百や二百近く倒したはずだ。対人レベルで考えても、オーバーキルな護衛が格安でゲット出来たと言う事でラッキーだった。戦争の際にも員数に考えられるのがありがたい。



 そんなこんなで、町の方も少しずつ変化してきた。ただ、まだ一月(ひとつき)程度、カビアが帰って来てからで考えても三週間弱の話なので、今まで考えていた事が少しずつ形になった程度だろうか。

 そんな事を考えながら、朝食を食べ終えて、部屋に戻る。さて、子爵を拝命する為に、王都に向かいますか。

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