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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第571話 タロはにんきもの

 持ち帰った海の村の海産物を主体にした夕ご飯が終わり、執務室に向かう。館の使用人達にも食べてもらえるだけの量は持ち帰ったので、今晩はお魚三昧だろう。そろそろ七輪を作りたい。十中八九、鍛冶屋の耐火レンガに使われているのも珪藻土だろう。まだ、材料を見た事が無いが、一番簡単に作る事が出来る耐火レンガなので間違いないだろうとは思っている。出来れば、王都に行った時にでも答え合わせをする時間が有れば良いが。


 部屋に入ると、先に上がったカビアがすでに書類をまとめていた。


「改めて、お帰りなさいませ。男爵様」


「ただいま。留守の間は苦労をかけたよね。助かった。ありがとう」


「いえ、その為の家宰(かさい)です。男爵様の留守をお守りするのが役目です」


 カビアが姿勢良く一礼する。様になるのが羨ましい。


「さて、急ぎの案件は何かあるかな?」


「危急の案件はありません。決裁は溜まっておりますが、急ぎかつ予算上動いている話は代理で決裁致しました」


「うん。それで大丈夫。後で一覧だけ教えて欲しい」


 頷くと、カビアが書類の束を用意する。一覧だけで良かったけど、注釈まで付けてくれているのか。助かる。


「はい、それは用意しております。後、開明派の各領地からお祝いの書状が届いております」


「お祝い?」


「結婚祝いです」


 そう言われて気付いた。あぁ、ロスティーが王都から情報を出したか。貴族の婚姻情報は公知される。通常は寄り親が出すが、ノーウェは自領の片付けがあるので、報告はロスティーに任せたはずだ。それが回ったのだろう。


「うわぁ……。何通くらいあるの?」


「ご心配なく。皆様、この手の話には慣れておりますので、寄り親がまとめて出しております。開明派のみで合わせて、三十強です」


 十分に多い。侯爵、伯爵辺りまででまとめてくれているのかな。連名で返せるなら楽か。


「分かった。返事は書くよ。ちなみに、返事に合わせて塩のサンプルを送りたいのだけど、大丈夫かな?」


「ふむぅ……。どうでしょうか。食べる物を送るのは余程親しい間柄ですね……」


 流石に毒の警戒はするか。一足飛びにトップダウンで広めたかったが、今回は諦めるか……。


「後、先程開明派のみと申しましたが、一通だけ王家派より届いた書状があります」


「知っている貴族かな?」


 聞くとカビアが(かぶり)を振る。


「いえ、王都近くの子爵ですね。特産もありませんし、特徴も無い領地です。本人も商家上がりですが、商売は他人に譲っているので、今は領地開拓のみですね」


 それを聞いて、私も眉を(ひそ)める。


「よく分からないなぁ……。何の利点を見たんだろう……。王家派に情報は回っていないよね?」


「はい。塩の流れも開明派のみですし、情報を流す利点はありません。また、流すとしたら、もっと大きな貴族に流すでしょう」


「だよねぇ……。ふーむ、分からない。良いや、取り敢えず中身は後で確認して、返事を書くよ」


「よろしくお願い致します。後は、保育所ですか。そちらの求人を出したところ、乳母の経験がある方より多数の応募がありました」


「それは朗報だ。ちなみに、現状出産後の人間は?」


「はい。そちらも要件に含んでおります。初期の保育所分は十分に(まかな)えます」


 カビアが言った瞬間、安堵でずるりと椅子からお尻が動く。


「良かった。得体の知れない話だから中々こないかと思っていた」


「いえ。元々農家では出産が近い人間が協力し合って子供を育てると言う事は良くあります。その辺りの人材はそれなりにおりますし、話としては理解しやすい話です。給金も良いですし、負担になりがちな母親にとっては現金収入の機会が増えるのは望ましいでしょう」


 カビアの太鼓判も押されたし、保育士さんはそのまま進めようか。


 そこからは開発の状況や畑の野菜の植え付け、兵の訓練状況などの報告が続く。報告書と合せながら、決裁出来るものは決裁していく。一段落着いたのは夜もかなり更けてからだった。お風呂は食後にお湯を張ったので、交代で入っているだろう。


「カビアの方は視察の準備は大丈夫そう?」


「はい。ただ、ティアナの体調を考えれば、休みを一日頂いた方が良いかと考えます」


「分かった。そこは本人と調整してもらえば良いよ。急ぐ旅でも無いし、楽しんでもらえれば良いさ」


 そう告げると、若干紅潮した頬でチベットスナギツネな視線を送ってくる。(さげす)むの? 恥ずかしいの? どっちかにしてくれ。


 書状の束をまとめ、席を立つ。


「急ぎの案件はこの程度かな。書状の方、読み進めて、返事を書くよ」


 そう伝えて、執務室を出る。部屋に戻ると、リズがタロとヒメの相手をしていた。


「あ、おかえりなさい」


 そう告げるリズから湯上りの香りがして、少しだけくらっとした。


「仕事は終わり?」


「結婚祝いの書状が届いているから、確認して返事を書かないと駄目かな」


「そうなんだ……」


 そう言いながら、リズが、タロとヒメのお腹をわしゃわしゃと撫でる。ハフハフしながら、二匹が左右に(もだ)えている。


「んー。でも、タロもヒメも元気になったみたい。ヒロ、何かした?」


「特に何もしていないよ。元気が無かったのは赤ちゃんと会えなくなったからみたいだし。また会いに行けば良いねとは伝えたよ」


 そう告げると、リズがにこりと微笑む。


「そっか。そうだね。また会いに行けば良いね」


「それに、保育所の方だけど、人は集まりそう。設備が出来たら、実施だね。その時はタロとヒメに赤ちゃんの遊び相手になってもらおうと思っているよ」


 赤ちゃんの単語が聞こえた瞬間に、二匹の耳がぴくっとなって、振られていたしっぽの振り方が、大きなものから細かい動きに変わる。余程気になっているのだろう。


「ふふ。人魚さん達の赤ちゃんとも遊んでいたし、大丈夫だよね」


「その辺りは、実際にお母さん方に確認はするけどね。それで問題無いなら、偶に遊びに行ってもらおうか、散歩がてら」


 赤ちゃんの次くらいに大切そうな散歩という台詞に、しっぽの動きは激しさを増す。


「こらー、タロ、ヒメ。今日じゃないよ、興奮しないの」


 リズが笑いながらお腹を撫でると、楽しくて気持ち良いのか、少しずつ大人しく体を預けていく。


「任せて大丈夫かな? お風呂入ってくるよ」


「うん、大丈夫」


 リズの頷きを確認し、下着と室内着を持って、お風呂に向かう。念のため脱衣所を確認して、誰も入っていないのを確かめ、浴場に向かう。使用人達も入り終わったのか、お湯は抜かれている。後でカビアが入るはずなので、少し熱めのお湯を生んでおく。ささっと頭と体を洗い、湯船に浸かって、ほっと息を吐く。移動ばかりで大変だったが、人魚さんに喜んでもらえたなら価値はあったのかなと。暫く、今後の計画を考えて、上がる。


 部屋に戻ると、二匹共おねむなのか、箱の中で丸くなっている。


「リズ?」


「ん、何?」


 ソファーで書類を読んでいたリズの背後から、そっと抱きしめる。


「どうしたの? ヒロ」


「何を読んでいるの?」


「お婆様から頂いたの。礼儀作法の教本だよ」


 じゃんっと言う感じで見せてくる。中を見ると、目上の貴族と会った場合の配偶者の行動とか結構具体的に事例ごとにまとめられている。虎の巻なのかな。


「ありがとう。大変なのに」


「ううん。楽しいよ。知りたい事を知る事が出来るのは。お母さんのはちょっと辛いけど……」


 そう告げるリズの頭をぽんぽんと撫でる。そのまま立ち上がらせて、ひょいっとソファーの後ろから、横抱きにお姫様抱っこをして、ベッドに向かう。


「あ、ちょ、ヒロ。勉強ぅ……」


「明日でも良いんじゃないの?」


「ヒーロー!!」


 ちょっとぶすっとした顔で睨んでくるリズの唇に口付け、そのまま侵入する。暫く感触を楽しみ、ぽすりとベッドに横たえる。


「むー。ちょっと勝手!!」


「うん。分かっているけど、中々落ち着く暇もなかったから」


「ふーん……。まぁ、良っか。ふふ、ちょっとだけ、ヒロ、子供みたい」


 ご機嫌斜めな顔を微笑みに変えて、リズが頬に手を伸ばしてくる。少しだけすりすりと擦り付けて、そっと手首を握り、ベッドで押さえる。


「大好きだよ、奥様」


「私も好きだよ、旦那様」


 お互いに告げて、そっと、口付けを交わす。蝋燭の火を念動力で押さえて消すと、窓からは欠けて弱まった月の青白い光が差し込んでくる。その光に照らされて、真白なリズの首筋にそっと唇を這わして、そのまま下に移動していった。

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