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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第569話 お母さん方との別れと『リザティア』への帰還

「ぎゃー、超疲れたー」


 力尽きたように、草地にごろりと転がったフィアが叫ぶ。リズが慰めるように、頭を撫でると、(すが)り付いている。

 うん、この光景、昨日も見た。宴は終わり、皆はそれぞれの場所に戻った。フィアが()りずに倒れ込んでいるが、皆も変わら無い様子なので、そこは申し訳無いとは思う。ただ、領地の慰撫(いぶ)も責任者の務めだ。私の直属と言う事は、こういう事態もあると言う話なので、そこは努力してもらうしかない。その対価は信頼と報酬で支払うしかないので、色々先を考える。


「はいはい。昨日に引き続き、お疲れ様。と言う訳で、夕ご飯を作るね」


 網焼き分の材料は残っているので、それは皆に任せて、私はリズと一緒にお好み焼きを焼いていく事にする。どうも、引っ繰り返しているのを見て、うずうずしていたらしい。フィアもやりたいと叫んでいたが、ちょっと怖いので、タネが十分に残っている時にしてもらう。海鮮焼きの具材はもう無いので、今回はフルに鉄板が使える。リズがタネを流し込むところから、横に付いて指示をしていく。


「そろそろ生地をかけても良い?」


「うん、大丈夫」


 葉野菜の底から湯気が上がり、乗せたイノシシの肉が若干白く熱せられ始めたのを合図に、タネをかける。


「じゃあ、引っ繰り返すね」


「お願い」


 リズが恐々(こわごわ)コテを差し込み、引っ繰り返すが、勢いが足りず、半分に潰れる。


「あ……」


 これは私の分だなと思いながら、コテを借りて、形を整える。


「もう少し、勢いがあっても大丈夫。怖がらないで」


 そっと耳元で呟くと、リズが次のお好み焼きに向かう。今度は少し慣れたのか、上げる分が甘かった裾の方が巻き込まれた程度で引っ繰り返る。それも直し、次に向かう。今度は成功。


「おめでとう、上手くいった」


 微笑みながら伝えると、自信がついたのか、勢いよく、くるりと引っ繰り返していく。全員分が焼き上がる頃には網焼きの方も焼き上がっていた。


「じゃあ、連日お疲れ様でした。明日までは迷惑をかけますが、よろしくお願いします」


 テーブルに皆が着席したところで、頭を下げると、苦笑が返る。


「では、食べましょう」


 そう告げると、わぁっと皆が皿に手を伸ばす。それぞれが円盤を切り分けるのに個性があって、見ていると面白い。ピザ状に切ったり、格子に切ったり、食べる度に一口サイズに切ったり。あぁ、世界が変わっても、こういう部分はそんなに変わらないんだなと少し面白い。


 サトイモを入れたお好み焼きは、軽い感じに仕上がる。少し、パンケーキみたいな感じだろうか。ヤマイモだとぽってりともちもちした食感と言うのが近いだろう。ソースがあれば良いのだが、魚醤なのでどうしてもチヂミを思い出しながら、頬張っていく。


「うぁ……。柔らかい。熱いけど、昨日のやつとは違うのかな……。でもお肉も入っているし、美味しい!!」


 フィアがはふはふと口を開閉させながら、しみじみと呟く。


「ふわふわしているし、まわりのサクサクした食感との違いも気持ち良いわね……。昨日のはタコが美味しかったけど、野菜も楽しめるこっちの方が好きね」


 ティアナが上品に細かく刻みながら、咀嚼(そしゃく)している。表情は嬉しそうなので、気に入ったか。

 チャットは大雑把に切って、口に入れては悲鳴を上げているし、ロッサは少し多かったか、ドルの皿にちょこんと移している。ドルはドルで、サザエのつぼ焼きに若干味噌を投入した物を次々と食べている。きっとワタの部分が好きなんだろうなと眺めて苦笑する。

 ロットはロットでタコ焼きよりも野菜が多いので、好きなのか、パクパクと食べ進めている。几帳面に均等な格子に刻まれたお好み焼きの姿はロットらしい。リナは猫舌なので、タコ焼きと同じく警戒しながら、少しずつ食べている。

 昨日とは若干違う網焼きのバリエーションもあって、好評だった。ちなみに、イカの一夜干しを試してもらったが、やはり干した方が美味しいと言う意見が多かった。乾物の方ももう少し手を出していくべきだなと改めて認識する。


 今日は前番なので、さっさと皆をお風呂に入れて、焚火の世話に入る。リズの思いの部分が知れたのが今日の収獲かなと思いながら、今後の産物の調整を考える。スルメが成功したら、ホタテの貝柱やナマコのキンコとこのわたまではいけるかなと。後は、出汁用の煮干しもそろそろ作っていくべきか。時期的に合うなら、ちりめんじゃこなんかも作りたいな。そんな事を考えていると、時間が来たので、リナを起こす。テントに戻ると、リズが眠っている横にタロとヒメが揃って眠っている。二匹共、赤ちゃんの世話をしていて、逆に甘えたい部分が強くなっているのか、接触の機会は増えている。でも、私が寝る場所が無いので、そっと抱き上げて箱に戻すと、無意識にくるりと丸まる。体温がほのかに残る毛布の中に潜り込み、目を瞑る。潮騒のかすかな音をBGMに、意識を手放した。


 五月十三日は若干雲が出ていたが、昼頃には散っていた。明日にはテラクスタ領に戻ると言う事で、お母さん方も引継ぎに一生懸命の様だった。

 私は、村長の方と今後の乾物の生産計画と、サトイモもどきの利用法に関して、調整を行った。麦に関しては定期的に『リザティア』から送っているし、備蓄も生まれているが、何らかの問題で途絶えた時の主食として使ってもらえればと思い、出来る限りのレシピを手渡した。その内、海水浴に来て、海の家でお好み焼きやタコ焼きが食べられるようになるかもしれない。

 タロとヒメは元気に子供達と遊び、虎さんにちょっかいを出し、赤ちゃんと優しく触れあって、一日を満喫しているようだった。

 夕方には連日のように宴になり、結局フィアのぼやきが三日連続になった形だ。葉野菜が多目だったので、主食はお好み焼きにしておいた。村長もサンプルと言う事で食べに来ていたが、評価は上々のようだ。タコ焼きはちょっと作り方が特殊なので、鉄板だけは渡しておいた。その内、タコ焼きでは無い何かを作る道具になっていそうで、それはそれで楽しみだ。


 明くる五月十四日。からりと晴れ渡った朝、テラクスタの近衛騎士達が集まり、お母さん方の馬車の警護に付く。

 

「では、レールズさん。道中の無事を祈っています」


「歓待頂き、感謝致します。お礼に関しては改めて領主よりお送り致します」


 馬の横でにこやかに微笑むレールズと握手を交わし、大き目の巾着を渡す。


「これは?」


 じゃらりと重い音がするのに、(いぶか)()な表情を浮かべるレールズ。


「お母さん方にお渡し下さい。こんな御礼しか出来ませんが、本当にありがとうございました」


 一人頭で五十万ワールずつ包んでいる。これに関しては予算は無いので、個人資産から出している。せめてもの御礼だ。


「畏まりました……。別れの際に渡すよう致します」


 真摯な顔でレールズが告げると、ひらりと馬上の人になる。お母さん方の馬車の方では、リズを始め仲間達が最後の挨拶をしている。赤ちゃん達もタロとヒメとの別れを何と無く気付いているのか、ぐずっている。


「男爵様、本当にありがとうございました。赤ちゃんの方、よろしくお願いします」


 お母さん方も短い間とは言え、乳をあげた赤ちゃんと別れるのは寂しいのか、涙ぐむ人も少なくなかった。


「はい。海の村は重要拠点です。不足の無いようしっかり運営します」


 そう伝えると、ほのかな笑顔に変わる。


「では、男爵様。そろそろ出発致します」


 レールズの声に合わせて、近衛騎士達が隊列を組む。


「では、ご無事で」


 最後の声をかけると、レールズが手をあげて答え、そのまま歩を進め始める。


「いっちゃったね……」


 リズが背後から、そっと呟いてくる。


「うん、まぁ、また会いに行く機会もあるさ。その時を楽しみに、私達も家に帰ろう」


 朝ご飯の前には、テントなども片付け終わっている。そのまま皆で馬車に乗り込み、一路『リザティア』に向かって駆けだした。

 ほんの少し早い夏休みと新婚旅行は、これで終わり。また、日常へと戻るんだなと思いながら、ほのかに香る潮風を振り切り、走り続けた。

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