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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第568話 兵庫県民としてタコ焼きを先に出しましたが、関西人としてはやはり!!

 引継ぎの方は順調そうなので、お母さん方の様子を確認し、集会所を後にする。


「リズ……」


「ん? どうしたの、ヒロ」


 上機嫌で、先を行くリズを呼び止める。


「ごめん、私の都合で無理をさせているかも」


 自身が渋面を浮かべているのは理解している。ただ、これは為政者として、妻に対する負い目だろう。口では一年は難しいと言っているが、それは私の都合なのだから。


「無理って、子供の事?」


 リズが首を傾げる。


「もう、その件はきちんと話をしたよ。赤ちゃんは確かに可愛いし、欲しいって思うけど。育てる苦労を考えれば、まだ無理だよ。私だって、ヒロの背中を支える為に、勉強している最中だしね」


「リズ……」


「お母さんにも色々教わったよ。タロのお世話も大変だったのにヒロがやってくれていたし。それに、まだ体が成熟しきっていないから、もう少し待った方が良いってお母さんにも言われた」


 リズが、少しだけ寂しそうに呟く。


「だからね、ヒロ。もう少し、成長して、憧れじゃ無くて、本当に欲しいと思った時に、一緒に頑張ろう。私も頑張る。ヒロだけが辛い状況にはしない。だから、今はヒロのお世話の方が先」


 そう言うと、にこりと微笑みを浮かべる。あぁ、この子の方が余程覚悟を決めているか。


「ん。そっかぁ。ありがとう。リズの子供だから絶対に可愛い子が生まれてくるだろうし、楽しみだね」


「ふふ、それだと、ヒロに似て、格好良い子が生まれるかも」


「あまり太らないで欲しいかな」


「いっぱい一緒に運動したら大丈夫だよ」


 そう言うと、リズが砂浜を駆けだす。キラキラと弾む髪、慈母のような微笑み、抜けるように白い肌、南の陽光に照らされた海の反射も相まって、その姿は輝かんばかりに美しかった。

 追いかけていく姿を客観的に見ると、テレビのコマーシャルみたいだなと少し気恥ずかしくなる。それでもと、追い上げて背中から抱き寄せる。


「捕まえた」


「ふふ、捕まったー」


 肩越しに振り返るリズの顔は曇る事の無い、笑顔だった。


 一旦テントの方に戻ると、皆も訓練を終えたのか、休憩がてら涼んでいた。風呂に浸かるかと聞いたが、汗もかいているのでそのまま食材探しに出ると言う。リズもロッサと一緒になってまたイノシシを探すらしい。皆も方々に散っていく。私は元気が有り余っているタロとヒメを人魚さんの子供達の遊び相手にしようと、連れて砂浜の方に向かう。


「あー、オオカミさんだー!!」


「ふかふかの子だー」


 海岸で潮干狩りやマテガイを獲っていた子供達が、二匹を見つけて飛んでくる。お母さん方も嬉しそうに迎えてくれる。子供達の娯楽も少ない。虎さんと遊ぶとか海の中で追いかけっこをするとかしかない。そう言う意味では、タロとヒメは良い遊び相手のようで、一緒になって遊んでいる。


「うわー、舐めてくるよ」


「重いー」


 抱きかかえたり、走り回るのを追いかけたりと忙しない。私はお母さん方と話していて、色々と食材の事についても話が聞けた。どうもここまで南の方に下ってくると、南国系の芋とかがあるらしい。独特のえぐみがあるので、どうしても炭水化物を摂取したい時は食べたりしていたらしい。そう言う話を聞いていると、タロイモやサトイモ系なのかなと思い出す。少し、海から上がれば自生しているとの事なので、案内してもらう。村とは逆のもう少し西側に行くと、やや湿地帯に近くなる。水源が湧き出ているのか、小さな流れが無数に海に向かって流れている。中々ここまでは足を運ばなかったが、人魚さんが指さす先には、傘っぽい葉っぱが広がっている。あぁ、芋茎(ずいき)だと思いながら、引っこ抜くと結構立派なサイズの芋が付いている。丁度良いかとある程度貰って、お母さん方にお礼を伝える。皮を剥いて齧ってみると、やはりえぐいと言うか渋いと言うか、口の中が痛い。生煮えのサトイモを食べた時のあの感じだ。ならばと火を点し、小さめに切った芋を火で炙る。中まで火が通った辺りで塩を振りかけ食べてみると、独特の甘さとねっとりとした食感が口に広がる。ふむと、擂鉢で皮を剥いた芋をすりおろしていく。寸胴鍋に近い容器を土魔術で作り、どんどんと注いでいく。後は昨日の残りの卵を入れて、昼に用意しておいた水出しの昆布出汁を入れて伸ばしていく。さらさらになった辺りで小麦粉を少しずつ加えてダマにならないよう混ぜていく。タネはこれで完成か。また使う時に混ぜ直せば良いかと、厚めの石板で蓋をして、氷で冷やしておく。葉物の野菜を持って帰ってくれればありがたいなと思いながら、人魚さんの子供達の遊びに混じる事にする。


 タロとヒメも赤ちゃん達と過ごしていた経験か、大分手加減と言うか、相手によって構い方を変えるようになった。子供相手の場合はかなり自分を抑えて、相手の好きなようにさせる。その分、私や大人には全力で甘えてくるが。追いかけっこや撫で合いっこをしていると、昼下がりは終わり、徐々に夕焼けの色に変わっていく。


 人魚さん達も漁を終えて、続々と浜に上がってくる。ベルヘミア達も昨日と同じく、食材を取って来てくれたようだ。今日はポリミリアも抽選に当たったのか、嬉しそうに魚介類の詰まった網を下げてぴょんぴょんと向かってくる。


 仲間達も採取の方が終わったのか、戻ってくる。リズとロッサは宣言通り、昨日より少し小ぶりだが、イノシシをきちんと狩ってきた。少し肉を貰って味見をしてみたが、今回も臭みの無いイノシシだった。ロッサに訊ねてみると、どうも川側で主に生息しているイノシシは虫やカニなどを食べているので、臭みが強いらしい。森の木の実や植物、芋類を掘って食べているイノシシの後を追って狩っているらしい。よくそこまで追えると、本気で感心するが、それが生業(なりわい)だったかと思い出す。


 昨日の晩とあまり内容が変わると、不公平になるかと、食事の内容としてはなるべく変えないようにした。ただ一点、折角なのでタコ焼きだけではない粉物も試してみるかと、鉄板の一角を占領する。そろそろ(よい)を迎えようとする頃になると、村で働いていた男衆も人魚さんを迎えに来る。そのままお姫様抱っこでこちらに向かってくるのは本当に微笑ましい。各料理の手筈は皆マスターしたので、それぞれに作業を任せる。

 私は鉄板の上にイノシシの脂を乗せて大きく広げる。先程作ったタネを薄めに広げる。キャベツに似た瑞々しい葉野菜を大量に確保してくれているので、それは下拵えの段階で千切りにしている。タネがある程度固まった段階で、キャベツもどきをこんもり乗せて、薄く切ったイノシシ肉を上に乗せる。その上に軽くタネをかけたら、鉱魔術で作ったコテを両手に装備して、ぽふりと引っ繰り返す。裏側は綺麗なキツネ色になっていた。どうも面白かったのか、周囲からは拍手が上がる。両面が焼き上がった段階で、魚醤を塗って、一口大に切り分けて、小皿に乗せて渡していく。人魚さんも村の男衆も、皆はふはふと頬張りながら、笑顔を見せてくれる。お好み焼きかチヂミか微妙なラインだが、一口味見をした感じでは、ねっとりもちもちとして、独特の甘みも感じる。葉野菜からは甘い汁が出て、それがしっとりとした食感を与えてくれる。肉の脂の甘さと相まって、強く複雑な甘みを感じさせるがそれを魚醤の塩味と若干の(にお)いがアクセントになってより複雑な旨味に変える。鉄板の上で熱せられた魚醤は生臭さが若干薄れ、その旨味の方が表に出てくる。それが絶妙にマッチしている。焼いた端から無くなっていくので、もう、お好み焼き製造マシンになったつもりで、延々と焼いていく。宵も過ぎ、辺りが暗くなる頃には、昨日と同じく、宴が始まる。


 昨日は作業に没頭していたので気付かなかったが、どうもこの宴、婚活パーティーみたいになっているのか、独身男性が人魚さんに猛アタックをしているのが散見される。そりゃ、あれだけ甘々を見せつけられれば当てられるかと、また兵を補充しないと駄目かと若干の嘆きが入り混じりながら、祝福を送る。人魚さん? 男性の総数が少ない状態なので、断られる可能性はほぼ皆無だ。偶に新任の兵が人妻にアタックして、旦那にどつかれているのを見ると、申し訳ないが笑いが込み上げる。先任の兵なので、その辺り立場は上だ。村に入っても先輩になるので、無理は言えない。一旦はしょんぼりした兵も、また好みの人魚さんを見つけて、再アタックしていくのを見ていると、バイタリティーがあるなぁと本気で感心する。まぁ、それで幸せになってくれるなら良いか。


 そんな一幕を楽しみながら、夜は更けていく。テラクスタのお母さん達も途中で合流して、宴はどんどんと盛り上がる。

 奏でられる音楽がやや欠けた月まで届けと言わんばかりに熱狂し、皆が踊りながら、楽しい時は過ぎていった。

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