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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第547話 テラクスタとの模擬戦

 馬車を降りて、リズと一緒に部屋に戻る。扉を開けると、タロとヒメの耳がぴくりと動き、ぽてんと箱の壁に前脚を乗せてこちらを確認すると、目を輝かせる。


『まま!! まま!! さみしいの!!』


『ぱぱ!! さみしい!!』


 箱からぴょんと飛び出た二匹が、猛烈な勢いで突進して来て、周囲をくるくる回る。


「あは。やっぱり」


 リズが笑いながら、私の荷物も受け取って、中身を仕舞い始める。

 私が二匹の勢いに負けてソファーに倒れ込むと、もう、もみくちゃが始まる。顔と言わず、首と言わず、舐めまわされて、ぐちゃぐちゃになる。


「リズー。助けてー」


「だーめ。タロとヒメが可哀想」


 ニコニコしながらリズが作業をしていると、少し収まって来たのか、脇の辺りに入り込んで、お腹をたしたしと前脚で叩く。私のお腹を叩いても、乳は出ないのだが、幼児返りをしている。もう体は大きくなったのに、いつまでも甘えん坊だ。フンスフンスと嗅ぎまわりながら脇の辺りで微調整をしながらぐりぐりと接近してくる。両手で、撫でていくと、激情が収まって来たのか、安心した顔で目を細め、されるがままになる。なおも撫でまわしていると、ころりとひっくり返り、お腹を出してくる。


『いいの、まま、すきなの』


『ぱぱ、すき』


 足の付け根から、お腹まで撫でまわすと、満足したのか、先程までの勢いも忘れて、箱に戻って水を飲んで至福と言う顔で伏せている。


「うわぁ、首までベタベタだ」


「顔、洗ってからの方が良いんじゃないの? テラクスタ伯爵閣下と訓練だよね?」


「うん。嫌だよぉ。あの人、絶対に強いし」


「訓練なんだから、大丈夫よ。色々教えてもらったら良いじゃ無い」


 タライにお湯を生み、シャツを脱いで、顔と首元を洗う。


「はぁぁ、諦めるか」


 リズに布を渡されて、顔から拭っていく。動きやすい服に着替えて、リズと一緒に練兵室に向かう。


 室内では、テラクスタが模擬戦用の木剣と盾を持って、素振りをしている。あれ、当たったら、痛いで済まなそうで嫌だ。そう思いながら、諦めて、柔軟運動を始める。体が温まった辺りで、穂先側に布を丸めて縛りつけた棒を振り回す。薙刀の基本は円運動の連続だ。手数が稼げない分は、最短距離で回転を繰り返して、牽制し続けるしかない。


「では、始めるか。魔術はどうする?」


「初めは使いません」


「分かった」


 部屋の中央で相対するが、正直存在と威圧感だけで体が竦みそうになる。将としての迫力は全然現役だ。このまま見合っていても、こっちの集中力が切れて一方的にやられるだけだ。気合一閃、棒を突き出す。その瞬間、読んでいたようにテラクスタが右手側に軽く動き、盾で棒を巻き込もうとする。中サイズまでの盾の強みは逸らして大きく隙を作らせるか、そのまま巻き込んで相手の獲物を奪うかと言う二択にある。このままでは棒を奪われかねないので、前に出した右足に力を篭めて振り降ろしながら、背中側で石突を跳ね上げて、そちらで切り付けるように打ち込む。この動きも読んでいたように、木剣で大きく払われる。その反動を利用して、何とか穂先側をぶん回し、牽制をしながら、一歩引く。


「ふむ。基礎は問題無いか。魔術士と聞いていたが、やるな」


 テラクスタが微笑むと、体の中央に盾を構え一気に前に出てくる。ままよと穂先側で、右腕の方を狙って切り付けるが、くるりと背中を向けながら盾で巻き取り、そのまま体を反転する勢いで、棒を引っこ抜かれる。カランと言う音を立てて、遠方に投げ捨てられた棒を見て、両手を上げる。


「まだまだ、素直な動きだな。経験不足な相手なら問題無いが、熟練の兵だと、かなりきつそうか。ただ、筋は良い。鍛錬と経験で伸びるな」


 そう言いながら棒を拾い上げて、こちらに放り投げる。


「次は魔術有りで構わん。威力は絞ってくれ。速度は手加減しなくても良い」


 そう言うと、先程までの余裕が嘘のように空気がぱきりと固まったかのような、雰囲気を醸し出す。おいおい、これ、怖いよ。

 土魔術で牽制をしようかと考えた瞬間、こちらの考えを読んだかのように盾を動かす。シミュレーターでもかなり速度を上げても止められる未来しか見えない。はぁぁ、これが熟練の戦士って訳か。しょうがないと、棒を短い間隔で突き出し、牽制に入る。


「どうした。腰が入っていないぞ。そんな腕だけでの突きでは刺さりもせんぞ」


 盾で払われそうになるも、そもそも重さをかけていないので、そのまま引いて、牽制を続ける。数合は付き合ってくれたが、こちらの精彩に欠けた動きに飽いたのか身を低くして、棒を上部に跳ね上げて、一気に前に出て来ようとする。その瞬間、何かを感じたのか、びくりと動きを止めて、首元に手をやる。


「何かが触れたが……」


 テラクスタが振り返るも、何も無い。その瞬間、背後から、再度鉄片がちくりとテラクスタの首に触れ、からりと床に転がる。


「ふぅむ……。これか。しかし、魔術の動きは感じられなかったが……」


「はい。それは……」


 要は手品みたいな物だ。棒で牽制を打っている間に、足元に鉄片を生み、死角に入るように壁沿いまで念動力で移動させる。そのまま壁伝いにテラクスタの背後まで移動させて、死角から首元まで移動させたと言う形だ。


「少し特殊な魔術を覚えまして。それのお蔭です」


 そう告げると、テラクスタが難しい顔をする。


「なるほど。このような魔術もあるか。直線的な動きが主と思っていたが、確かに不可解な視線の動きは有った。その結果がこれか。いや、勉強になった。再度手合わせ願えるか?」


「いえ、これも一回限りの遊びのようなものです。仕掛けが分かれば幾らでも対応出来るかと思います」


 そう答えると、苦笑が返る。


「ふむ。魔術と言うものも、少しずつ変わっておるか。面白い。貴重な時間を済まぬな」


「いえ。ご期待に沿えたのであれば幸いです」


「うむ。面白かった。やはり、国が兵としての実力、将としての実力を買っただけの事はあるのだろう。楽しかった。私は少し、先程の動きを確認しながら訓練をしておる。自由にしてくれ」


 そう言い終わると、テラクスタが再度集中して、先程の私の動きを思い出しながら、対応を想定し始めているのが分かった。もう二度と通用はしないだろうなと心の中で頭を抱える。後は飽和攻撃くらいだが、それすらも突破して来そうな怖さがある。ロスティーが信を置き、任せるだけの実力はあるのだろう。少し柔軟性に欠けるところがあっても、住民からは尊敬を感じた。出来れば末永く隣人としてやって行きたいものだと、溜息を吐いた途端、緊張が解けて、背中から冷汗がどっと湧いてきた。リズが心配そうに駆けてくるが、大丈夫と震えを噛み殺し手を振り返すのがやっとだった。

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