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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第538話 結婚式当日~朝の嵐

「リナを待っていたの?」


「いえ。途中で『警戒』の範疇に入りましたので、合流しました」


「そっかぁ……」


 二人でお茶を飲みつつ、詳細を確認する。やがて話が尽きて、沈黙が訪れる。レイが怪訝な顔を浮かべるのに然程(さほど)時間はかからなかった。


「男爵様?」


「レイ……。すまなかった」


 瞑目し、頭を下げる。


「何がでしょう!?」


 慌てるレイの気配は感じるが、一言きちんと謝っておきたかった。


「元々、兵を止める原因になっただろう汚い作戦を、人がいないと言う事で指揮してもらったから。人員不足は私の責任だから。レイにはすまなかったと考える」


「それは誤解です。頭をお上げ下さい」


 静かに、レイが告げる。その声に頭を上げる。


「確かに不毛な作戦には嫌気がさしていたのは事実です。ロスティー公爵閣下の部下と言っても、有能ですが必ずしも聡明とは限りません。目的が曖昧なままの指示と言うのは、やはりありました。情報不足で部下を死なせた事もありますし、必要の無い殺しを行った事もあります。その辺りを含めて、嫌気がさしたと言うのは確かに事実です」


 レイが言い募る。


「今作戦に関しては、指揮官としての役を受けての指示です。また十分な兵力を預かり、今後の『リザティア』に対する侵攻の芽を摘むと言う意味では有意な作戦です。それを行う事に、思う事は有りません」


 ふむぅと首を縦にゆっくりと振る。それを見たレイが続ける。


「現状でオークは明確な敵です。その攻撃部隊が出た後に、集落を襲う事は理に適っています。我々も斥候の構成のみで作戦を成功出来たのも、その援護が有ったからです。なので、気になさる事は有りません」


「そう……か。分かった」


「しかし、心痛は男爵様の方かと。お優しいと言うのもありますが、どうも他者の気持ちに入り込み過ぎるのかとは考えます。私に対してもそうでしょう。ましてや敵に対してまで、考えを及ぼすのは些か、行き過ぎかとは思います」


「言わなかったけど、分かるものかな……」


「幾度となく、共に旅をして参りました。根本的に明確に敵対しない対象を殺す事、傷付ける事がお嫌いなのは承知しております。ただ、それを私共にまで思い巡らして頂くのは、ありがたくは思いますが、少々辛いだろうとは考えます。問題が有れば、伺います。嫌だと思えば、気持ちをお伝えします。なので、そこまでお気になさらず」


 そこまで言うと、レイが微苦笑を浮かべる。


「それが人を惹き付けるのかもしれませんが、余計な事を引き寄せないとも限りません。部下には毅然と当たって頂ければと。それが安心感に繋がります」


「分かった。ありがとう、レイ」


「いえ。こちらこそ、ありがたく思っております。そこまで深く気にして頂けると言うのは非常に光栄です」


 そう告げると、微笑みを浮かべ、深く一礼をし、退出していった。

 ふむ。独り相撲だったか。まぁ、でも笑ってくれたのなら良いか。


 安心すると、ふわぁぁと欠伸が出る。さてさて、結婚式を控えて、何を夜更かしをしているのかと思い、さっさと部屋に戻る。再度ベッドに潜り込み、いつもの体温に戻ったリズを抱き締めて、そっと目を閉じる。



 半覚醒の思考中、腕の中で何かがじたばたとする感触。その後に、温かい物が口の中を蹂躙する感覚が広がり、ふと目が覚める。目の前にはリズの顔がアップで映る。


「おひゃよう、リズ」


「おはよう。ちょっと、放して、動けないよ」


 気付くと、昨日寝入った状態のまま抱きしめていたので、腕を解く。ほぅと息を吐き、もぞもぞとリズが布団から抜け出す。


「早いね、リズ」


 二日酔いと言う程でも無いが、全身に痺れのような痛みが残る。汗をかいて水でも飲んで流したい感じだ。


「式の事を考えていたら、起きちゃった。昨日の夜も、気付いたら寝ていたし。色々、用意したい事もあったのに……」


 くてんと俯き、肩を落とすリズをそっと抱きしめる。


「まだ朝も早いし、大丈夫だよ。昨日のリズ、可愛かったよ。好きーとかって、甘えてくるし」


 そう言うと、こつんと頭突きを喰らう。


「もう、覚えていないのに、そう言う恥ずかしい事言うのは無し。遊んでいる途中から、記憶が無いし……。お婆様に何か悪い事していなかったら良いけど……」


「まぁ、部屋までは戻っていたから大丈夫じゃ無いかな。飲まされたの?」


「んー。口当たりが良いねって、皆でちょっとずつ飲んでいたんだけど……。加減が良く分からなくて……」


 あぁ、ノーウェやテラクスタと一緒か。


「頭は痛くない?」


「うん、大丈夫」


 二日酔いは無いと。


「さて、衣装に着替える前に、お風呂に入ってさっぱりしようか。リズ、皆に伝えてもらえるかな。私はお湯を生んでくるから」


「分かった。また後でね」


「あ、リナも帰ってきているから」


「はーい」


 返事をしたと思ったら、飛び出していく。浮かれている部分も有るのかな。そう思いながら、よっこいしょとベッドから降りる。筋肉痛っぽい痛みと、アルコールのダブルパンチな気がする。そう思いながら、お湯を生み、大忙しの食堂に寄ってタロとヒメの朝ご飯をもらって部屋に戻ると、リズの姿は無かった。先にお風呂に行ったのだろう。そう思いながら、二匹を起こし、待て良しで食事を前に差し出す。


 窓を全開にして空気の入れ替えをする。まだ、少しアルコールの香りがする。澱んだ空気と入れ替えに春の少しひんやりとした爽やかな風が吹き込む。空は春にしては珍しく、抜けるような青空だ。五月六日は晴れ。少し天気が崩れるかなと懸念していたが、問題は無いようだ。


 食べ終わって、水を飲み終わった二匹がたーっと近寄って来て、構って、構ってと思念を送ってくる。今日一日、ばたばたと忙しくなるし、リズが戻るまでとわしゃわしゃと撫でまわす。


『いいの、まま、すきなの……』


『とうとい』


 リズがさっぱりした顔で戻ってくる頃には、お腹を晒してハフハフ言っている。ただ、ヒメの言語学習が良く分からない。何かを意訳しているんだろうけど、ちょっと面白い。女の子の方が成長が早いのは、人間も狼も一緒なのかなとおしゃまなお姫様と可愛い王子様を抱えて、箱にぺいっと入れる。満足したのか、食休みと言う感じでくるりと、丸くなる。


「じゃあ、入ってくるね」


「いってらっしゃい」


 リズが笑顔で手を振ってくれる。どうも、ティーシアにも声をかけたのか、アストやアテン、フィアのお父さんや兄と弟も入ってきている。レイも疲れを見せず起きだして入っている。今日は警備で頑張ってもらわないと駄目なので、ちょっと申し訳無いなとは思うが、本人が大丈夫と言うので信じる事にする。皆で仲よくわいわいとお風呂に入り、部屋に戻ると、リズがソファーに座って、瞑目していた。


「緊張している?」


「ん? 大丈夫。でも、結婚するんだなって改めて考えていただけよ」


「そっか。リズ」


「うん」


「これから長いけど、一緒に歩いて行こう。永遠に手放さないって誓ったしね」


 そう告げた瞬間、リズの目が大きく開き、にこりと大輪の花を咲かせる。


「私も……私も、ヒロと一緒。ふふ、凄く嬉しい」


 そっと抱きしめ、口付けを交わそうとすると、ノックの音が響く。何か、監視装置でも仕掛けられているのかと思う程には毎回タイミングが良いが、朝ご飯との事なので、ロスティー達が待つ来賓用の食堂に向かう。朝は一般的な食事なので、テラクスタも安心したように楽しんでいる。今日の打ち合わせをしながら、食事を楽しむ。リズもペルティアやガレディアと打ち解けて話をしている。


 朝ご飯の後は着付けと言う事で、女性陣が応接にまとめられて、着替えが始まる。リナは直しも有るので大変だろうなと、正装に着替えて、風呂場の鏡を覗き込む。


 部屋に戻ると、屋敷全体のにぎやかさに興奮を誘われたのか、二匹がうずうずしているが、毛が付くので飛びかかるのはダメと伝えて、注意しながら、撫で続ける。


 と、ノック無しにばたんと扉が開く。ちょっと驚いて二匹と一緒に固まっていると、上着を持ったカビアがわなわなと口元を震わせながら、立っている。


「どうしたの? カビア」


「どうしたも……。男爵様、これは?」


 服飾屋に頼んでいた新しい政務服。今までと少し違うのが、略式紋章では無く、紋章になっている事。背中と胸に入った、十弁桜の刺繍。よくこの短時間で仕上げてくれたと喝采したい。


「カビアの服」


「それも分かります!! この紋章は……家宰でなければ着れません!!」


 正式に紋章を引き継ぐので、代理決裁権を持つ人間しか着られない。家宰として代官の権限を持つのはカビアだ。くてんと首を傾げると、カビアの顔が赤く染まったので、流石におちょくるのも不味いか。まぁまぁと手で制する。


「カビアは立派な家宰だよ」


「しかし!! 若輩故。現状の繁忙を抜ければ正式な家宰を入れるつもりでは無かったのですか?」


「いや、そんなつもり無いよ? 誰がそんな事言ったの。また誰かに教えるとか面倒臭いし、間違い無くカビアの方が優秀なんだから」


 そう告げると、顔に朱が差す。あぁ、まだまだ若いか。はは、その辺りの腹芸はもう少し頑張ってもらおう。


「まぁ、きちんと家宰としての形式を整えると言うのも無かったしね。折角なんだから、今回体裁を整えてみようかと」


「男爵様……。出来れば事前に仰って下さい……。胃に悪いです」


 項垂れながら、カビアが絞り出すように言葉を紡ぐ。


「驚いた? 折角の結婚式だし、色々目玉が無いと面白くないかなと」


「男爵様!!」


「冗談だよ、冗談。まぁ、家宰と言うのは冗談じゃないから。これからも、よろしく」


 ぺこりと頭を下げると、盛大な溜息が聞こえる。


「分かりました。失礼致しました。お気持ち、ありがたく頂戴致します」


 小さな声で、呟くのが聞こえるので、にこやかに顔を上げる。


「良かった。ティアナも喜ぶと良いね」


 そう告げると、改めて、顔が紅潮する。


「はい」


 素直に返事をすると、いつもの冷静な様子で朝の嵐は去っていった。うん、驚いた。


 それから暫く待つと、侍女が支度が完了した旨を伝えてくる。今日の主役は馬車に乗って、先に教会の控室に入る形になっている。

 玄関でテスラが若干緊張した顔で手綱を握るのを微笑ましく眺めながら、私とリズ、ロットとフィア、ドルとロッサ、カビアとティアナが馬車に乗り込む。


 お昼前までは教会への人の誘導や、町の調整、群衆への対応を行う。私達はぼへーっと待つしかない。お互いに顔を見合わせて、苦笑を浮かべた。

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