第537話 式前日の深夜 レイ達の帰還
2016年10月28日に第一巻がGCノベルズより発売致します。
ISBN-10: 4896375912
ISBN-13: 978-4896375916
どうぞよろしくお願い致します。
久々の炭酸飲料と言う事でくぴくぴと飲んでいたので、流石に少し酔った。殆ど酔わないけど、次の日に残るタイプだったのだが、歳を取ると体質も変わるか……。部屋に戻ると、リズが二匹と戯れていた。扉の開く音で振り返ったリズが満面の笑みで飛び込んでくる。咄嗟にはっしと捕まえる。
「あー、ヒロだー。ヒロー好きー。大好きー」
でろーんとそのまま軟体生物のように、背中側から後方に崩れ落ちそうなので、しっかりと抱き直す。あー、飲まされたかぁ。婆ちゃんじゃないな。戦犯はあの二人か。人の婚約者を何だと思っているのか。そう思いながら、ふへへーと意味不明に笑うリズを抱き締めて、ベッドに向かう。ぽてんと転がると、ヒロ好きーとか言いながら、もぞもぞと布団の中に潜り込んでいく。見ている限りは面白い。枕に頭を乗せると、良い笑顔で、寝息をたてる。明日の朝から忙しいけど、頑張ってねと頭を撫でて、私も仮眠を取るかと振り向くと、タロとヒメが待機していた。
『まま、ぴょん、するの!!』
『とぶ!!』
リズの飛びかかる姿を見て、うずうずしている気配を感じる、緊張感が高まる瞬間。ひょーっと飛びかかってくるタロを右腕でキャッチし、ヒメを左腕でキャッチする。
『たのしいの……まま、たのしいの!!』
『ゆえつ!!』
何か、ヒメが難しい言葉を覚えている。興奮する二匹を箱にぺいっと入れると、くるりと振り返り、箱の縁にでれんとのしかかり、もっともっとと伝えてくる。
『もう寝る時間』
そう伝えると、しゅんとする。まぁ、二匹もちょっと寂しかったのかな。軽く撫でていると、大人しく丸くなり、尚も撫でていると、安心したように耳だけをぴくぴくさせながら、そのまま眠りに就いた。
ふわぁと欠伸をしながらベッドに潜り込む。ノックの音で目が覚めるか心配だが、あまりに眠い。リズのほわほわと温かい体温に触れていると、いつの間にか意識を失っていた。
耳の中の血潮のさざ波が聞こえてきそうな深夜、ふと目を覚ます。一瞬、ここがどこか分からない感覚に陥るが、すぐに覚醒する。ざわつきと言う程度では無いが、館の中で人の動きが活発になっている気配を感じる。酔って暑かったのか乱れた服装を直して、リズを起こさないようそっとベッドから抜け出す。
扉を開くと、夜も遅いので待機の侍従達は下がっている。きょろきょろと辺りを見回していると、廊下の端で走っていく侍女を見かけたので声をかける。案の定、レイの先触れが到着したらしい。人の足なので、先触れと言ってもそこまで余裕も無い。すぐにレイは到着するか……。応接室の準備は整っていると言う事なので、先に向かっておく。疲れた人間を待たすのは忍びない。お茶の用意だけ頼み、応接室に向かった。
頭を覚醒させる為にストレッチをしながらレイを待つ。アルコールはまだ抜けきっていないが、少しふわふわする程度までには収まった。こきこきと首を回していると、ノックの音が部屋に響く。誰何すると、侍女で、レイ達が館に到着したとの事だった。達? と不思議に思ったが、待てば良いかとソファーに座り込む。暫く待つと、再度ノックの音。レイ達のようなので、返答する。かちゃりと控えめな音が響き扉が開かれる。そこには、少し懐かしいと感じさせるレイの顔と、リナが一緒に付いていた。あれ? ずれて戻るものとばかり思っていた。
「おかえり、レイ、リナ」
そう告げると、ほっとした表情が両者に浮かぶ。ソファーに座らせると、丁度お茶の声がかかる。そのまま運んでもらう。
「まずは一息いれようか。お疲れ様、二人とも」
レイはいつも通りだが、リナは寒がりなので若干寒そうにしていた。嬉しそうに温かなハーブティーを飲み、安堵の溜息を吐いている。
「改めて、ただいま戻りました、男爵様。リナさんとは帰りの間に情報を共有しておりますが、ご説明はどうしましょうか?」
レイがいつものきりっとした顔で訊ねてくる。
「別々で良いよ。それぞれに聞いた内容で不備がありそうなら、その場で指摘をお願い出来るかな」
その言葉に、二人が頷きで返す。レイとリナがそれぞれ目線で語っていたが、レイの方がこほんと喉を整える。
「こちらは予定通り、集落に到着しました。警護の兵は……」
レイの話が続く。集落に関しては、警護が四人、後は女性が三十人程と、子供が十人ちょっと。軍装の汚れを見れば、分かるか……。つきりと胸の奥が痛む。集落の制圧後の待機で、戦場方向から戻って来たのは四人。これは時間差を置いて集落に向かってきたとの事なので、森の中に置いていた伝令か……。きちんと考えている。ふぅーむ、やっぱりオークの全貌が見えない。伝令を用意すると言う事は情報を重視していると言う事だ。厄介だなと改めて心に留める。遺体に関しては、集落の構造物を利用して焼いたのが半数程度、残りは埋めてきたらしい。慣れない穴掘りまで行ったと言う事なので、別途慰労金は出しておこう。
リナの方はやはり、物資の補充が散発的に来ていたが、一昨日の段階でそれも止んだとの事。様子を見ながら、諜報隊は残して自軍の半数以上の集団が来た場合は戻って報告すると言う形でリナは報告の為いったん戻ってきたようだ。情報が途絶えた段階で、補充を止めたか……。と言う事は、二日か三日の距離に中継地点が有りそうだな。ロスティー達と相談して、ざっと探索した方が良さそうだ。
戻って気が緩んだのか、疲労もあってか、リナは大分辛そうなので、別途報告書をまとめてもらうと言う事で、部屋に戻ってもらう。
「あ、レイは少しだけ良いかな?」
そう問うと、不思議そうなレイの顔が返ってきた。




