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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
539/810

第536話 式前日の二次会~今後のテラクスタ領の動き

2016年10月28日に第一巻がGCノベルズより発売致します。

ISBN-10: 4896375912

ISBN-13: 978-4896375916


どうぞよろしくお願い致します。

「儂も親書故、開けてはおらん。伝令より、話を聞いたと言う程度だな」


 ロスティーがこくりとグラスを傾け、唇を湿らせる。


「ダブティアに関しても、複数個所での同時攻撃が有ったそうだ。曖昧なのは現在情報を集めきれていない故だな。問題は北部の各国だが、確たる話ではないが、大きな被害を受けたらしい」


「曖昧……ですね?」


「まだ、明確な情報が入ってはおらぬ。鳩でのやり取りでの話だからな。詳細は不明だな。ダブティア側も状況の確認に汲々としている」


「親書の封印はどなたですか?」


「ユチェニカ伯爵名義。連名でダブティア王だな。代筆扱いになる故、王の親書と同格になる」


 そりゃそうか。移動期間を考えれば、情報量も少なくなる。向こうの王都から、ユチェニカ伯爵領に複数の鳩を出して、書状の形式にまとめて、早馬で移動したと見るべきか……。


「ユチェニカ伯爵は幽閉されたのでは? 息子さんが代理と言う話ですか?」


「うむ。醜聞故、すぐには公表は出来んそうだ。あそこの息子が今は政務を仕切っておる」


 ふーむ。情報がまとまるのを待たずに、王命に従ってさっさと行動出来るのなら、優秀なのかな。少なくとも被害が出ていると言う事実だけでも届けられれば良いと考えるのならば正しいか。


「ロスティー様は手紙をどうなさるお積りですか?」


 私が聞くとロスティーがぽすりと背もたれに体を預ける。


「王都に向けて鳩で攻撃が有った旨と親書の受け取りの旨は出しておる。親書は伝令が今走っておるな」


「うん。途中で会ったから、トルカとノーウティスカで乗り換え用の書状は渡しているよ。取り敢えず、現時点で最速で移動している筈だね」


 ノーウェがにんまりと続ける。そこはリレー出来たか。しかし、やっぱり途中の駅は欲しいな。トルカまでの三日、四日分はさっさと作るべきかな……。しかし、統治要員がいないのがきついな……。カビアは代官をやってもらわないと駄目だし、はぁぁ、また人材をもらうか。


「分かりました。ならばロスティー様はこちらで待機しても問題無いのですね」


「うむ。それなりに大所帯故な。移動しても手間がかかる。それならば、続報をここで待つのが望ましい。王都向けの鳩はまだおるのでな。それに流石に体力がもたぬ」


 ロスティーが瞑目し、苦笑いを浮かべる。そりゃ隣国からの移動に、途中での待機期間も有る。報告するにせよ、この休憩は情状酌量の余地は有るか。移動しない方が報告の速度は上がる。鳩が途切れた段階で移動する方が効率的なのだろう。


「急ぎの政務が有るのに、結婚式に出る為に留まって頂くのであれば問題となるでしょう。そうならない根拠が有ると言う事に安心しました」


 そう告げると、ロスティーとノーウェが顔を見合わせ、同時に苦笑いを浮かべる。


「こちらの都合は気にするな。無理ならば無理と最初から伝える。しかし、その考え方自体は正しい。ただ、男爵の判断では無いがな」


「為政者にとっては政務が最重要だからね。そう言う意味では、正しい。しかし父上も流石に耐えられないよ。ここらで一度休まないと、兵ももたない」


 ノーウェが肩を竦めながら言うと、グラスを呷る。


「そうですか、良かったです。では、ゆるりと疲れを癒して頂く事にしましょう」


 私はグラスを掲げ、こくりと飲み干す。


「アキヒロ君、知りたい話は終わったかな?」


 三人で、笑いあっていると、テラクスタが話しかけてくる。


「はい、大丈夫です、閣下」


「あー。身内の場で、そう呼ばれるのはちょっとな」


「では、テラクスタ様と」


「うむ。それで構わない。色々と問いたい事は山とあるが。まずは畑の事だ。あの整然と並んだ、麦畑。あれにはどのような意味があるんだい? それが何かの秘匿事項と言う事であれば無理に聞き出す事はしないが」


「その話をするのであれば、一般的な収穫量が確認したいですね。ノーウェ様、小麦の収穫倍率は大体どの程度ですか?」


「ん? そうだね。気候によるけど、均した数字なら四倍を切る程度かな」


 大体予想通りかな。でもそれで、五十%持っていかれると、きついな。


「分かりました。まず、収穫量が四倍を切ると農家がきついです。大麦を主食にすると言っても収入が増える率が低いです」


「私の領地でもそう変わらないが……。いや、下手をすると、下回る程度だが……」


 テラクスタの眉根に皺が寄る。


「まず、種蒔きですが、風に乗せて、ばらばらと蒔いていますが、あれは止めましょう。その時点で多くが鳥の餌になっています。それに均一に蒔ける訳では無いので、密集地と過疎地が出来ます。密集地は水を求めるのに、過疎地は水をそこまで求めない。また、土の栄養分を過剰に吸う場所が偏在します。それに密集してしまうと、芽が出た時期で、遅い麦は十分な光を受ける事が出来ないので、成長が妨げられます。その辺りは今までの経験で感じた事は無いですか?」


 そう告げると、ロスティーを始め、三人が素直に頷く。


「今回設計した畑は、全て等間隔に穴を掘り、複数蒔いて埋めています。この時点で、鳥の餌になる確率は減ります。また、芽が出た後も水は均一に注げば良いだけです。土の栄養分も均一に吸収するので、どこかの発育が良く、どこかが悪いと言う状況になりにくいです。また、空間が適度に空きますので、光を多く受ける事が出来ます。生育に支障が出ません。なにより、畝を作る事により、根が張りやすく、複数の麦がそれぞれを支えにする為、風などで倒れる心配も減ります。刈り取りの際に、複数を同時に刈り取れますので、効率が格段に上がります」


 一息に告げた後、グラスをひっつかんで、ごくごくと飲む。瓶が空いたので次の瓶の栓を抜き、こぽこぽと注ぐ。


「畑一つで、そこまで……。しかも、刈り取りの効率か……」


 テラクスタが呆然と呟く。


「また、途中で土の中の栄養分が足りなくなりますので、肥料を撒きます。この辺りで八倍近くなるだろうとは見ています。まだ机上の空論ですので、実施してどうかですが」


 そう告げると、三人がぶふっと噴き出す。口にビールを含んでいるタイミングで無くて良かった。


「一気にそこまでを予測しているのか?」


 テラクスタが首を傾げながら問うてくる。


「はい。領地は有限です。それぞれで効率的に育てていかないと、無駄に畑を広げる羽目になります。そうなれば、人手がどんどん必要になります。それは無駄です。また、平地を作る為に森を切り開く必要も出ます。そうなると、野生動物が森から畑の食物を狙うようになります。人間と自然、どちらにも良い影響は与えません」


 そう言うと、テラクスタが、うぐっと言葉に詰まる。お母さん達が困っていた問題の根本はここだ。効率を求めず、量で解決しようとするから、どんどん非効率になっていく。森と隣接してしまえば、野生動物との生存競争なんて別のファクターが入り込む。そんなのはごめんだ。


「農業改革は現在、資料としてまとめている最中です。結果が出て出来上がれば、開明派にお配りするつもりです」


「ふむ。それはありがたいが、良いのか? 秘密にすれば、独占できるだろうに」


 ロスティーが心配そうに言う。

 こちらはこちらで将来的に肥料などを売れれば良いので、痛くも痒くもない。原料が安くなれば、加工品で稼ぐのが容易になる。


「今は、個人の益より、国力の増進に努める時です。オークの件ですが、次に来るのは支援要請でしょう。そうなれば、支援用の食料、動員する兵と共に輜重も考えなくてはならなくなります。食料の増産は喫緊の課題です。一時的に備蓄を放出するにせよ、また貯めなくてはならないです」


 そう告げると、ロスティーとノーウェが呆れたように笑う。


「うん、その見方は正しいだろうね。被害を受けていない国が支援をしなければ、色々な火種を生むだろうしね。しかし、それは男爵の考える事では無いかな。君は本当に面白い」


 ノーウェが笑い過ぎで目元を拭いながら言う。テラクスタはぽてっと、背もたれに倒れ込み、放心している。今までのやり方でも収穫は出来るので固執するのは分かる。でも、農家の人も少しずつ新しい試みを取り入れながら、増産しようと努力している。そこに支援するだけでも何かが変わっていたはずだ。


「ただ、改革には先立つものが必要でしょう。先程の夕ご飯でお出しした干物の製造方法、味噌の調味方法は開示します。そちらで資金を稼いで、充当して下さい」


 そう告げると、テラクスタが怪訝を通り越して、何か異様なものを見るかのような顔をする。


「それこそ、金蔓。秘匿中の秘匿内容だろう。何故私に?」


「干物も味噌も製造を拡大するには全く人手が足りないからです。国中に販売網を拡大するにせよ、生産が追いつきません。また、調味料なんて、出回ったからすぐに使う話では無いです。皆さんは色々な食事に慣れてらっしゃるので抵抗感無く食べましたが、通常の庶民はもっと保守的です。塩や砂糖、酢と同じように調味料として使えるだけの安定した流通量と調味料としての実績を生まなければ、誰も買いません。その為に、お渡しします」


 そう告げると、ノーウェが腹を抱えて笑い出す。


「兄ぃ、考えるだけ無駄だよ。彼の頭の中はもっと大きな絵を描いて進んでいる。個人の益より、全体の益を上げる事により、もっと大きな益を還元させるつもりだよ。ちまちま作るより、皆に作らせて、特許使用料を取った方が楽だって思っているんじゃないかな、きっと」


 信頼の有る作り手が流通する事により、販売が楽になると言うのは間違い無い。いきなり味噌を他領地の市場に放り込んでも、誰も買わないだろう。


「また、塩ですがこれに関しては専売します。ただ、船をこちらの港に着けてくだされば、原価でお渡しします。空荷が嫌なら、薪や食料を積んで頂ければ交換でも結構です」


 そう言うと、テラクスタががばりと起き上がる。


「それは、好条件だが……。良いのか?」


「身内の話です。経済は回さないと澱みます。どんどん儲けて、設備投資に回して下さい。そうすれば、国全体として活力を取り戻すでしょう」


「ははは。伯爵の身で、男爵に国とはを論じられるとは思わなかった。しかし、正しいな……」


 テラクスタが苦笑と言うには歪んだ顔で俯く。


「それに海藻の漁には人魚さんの助けが必要でしょう。人員は手配します。乾物の生産をそちらでも始めましょう。とにかく場所を食うので、出来れば分散したいのです」


「しかし、人魚には一度逃げられた身だが……?」


「人魚さんも同じ人です。過去男爵の地で生活していた時も、差別されながらでも人として働き、誇りを持って生きていました。それを国の為と保護して飼い殺しにされるとなれば、嫌がるでしょう。自活出来る方々です。ただ、種の存続の為、交流を必要としているだけなのですから。共存する。それだけで良かったんです」


 そう告げると、テラクスタががくりと肩を落とす。


「そうか……。そうだな。同じ人か。私が傲慢だったか……」


「いえ。国として見た場合はそう言う考えに行きつくでしょう。ただ、人魚さん達には人魚さん達の生き方が有ります。それは尊重されるべきだと考えます」


「分かった。領主として、領民を借りる。手数をかけるが頼めるか?」


「はい。手配は進めます。受け入れの用意をお願いします」


 そう告げると、そっとテラクスタが手を差し出してくる。がちりと握り、握手を交わす。


 ここからは談笑の時間となった。トイレに行きつつ、土魔術で生んだカップに水を生み、チェイサーにしつつ、今後の領地経営をどうするかを腹を割って話し合う。テラクスタの顔も少しずつ明るい物となっていく。その頃に酔いが回ったのか、テラクスタが、そしてノーウェが舟を漕ぎだす。ビールの口当たりの良さに量が調整出来なかったらしい。


「ふふ。良い歳をして他愛ないな。して、我が孫よ」


「はい」


「今宵の夕餉だが、あれはペルティアの為か?」


 ロスティーが優しい目で問うてくる。


「お爺様の為でもあります。しかし、ばれましたか」


「ははは。あれだけ塩気も脂も無い料理だ。それに、態々肉の時でもこちらには脂身の少ない小さなものを、他には脂身の有る大きなものを分けておったしな。世話をかけた」


「いえ。お気になさらず。もともとそう言う調整をする為にあの形式でお出ししましたし。お腹の調子は如何(いかが)ですか?」


「ふむ。夕餉ともなれば、胃が軋む事も有るが、それは無いな……。下手をすればまだ入る……」


「はい。本日お出しした料理はそう言う物です。消化が良く、体に負担が無く、それでいて満足度が高い物……ですね」


「そうか。嬉しく思う」


 そう言うと、ロスティーがソファーから立ち上がる。


「明日の式を楽しみにしておる」


 そう告げると、パンパンと手を叩く。扉が開き、侍従達が入ってくる。


「それぞれの部屋に運んでやってくれ。では、アキヒロよ。また明日な」


「はい。お休みなさいませ。ロスティー公爵閣下」


 幸せそうな寝顔のノーウェとテラクスタを担ぎ、侍従達が、部屋を出ていった。さて、後はレイの帰還を待つだけか。少し夜更かし気味だが、仮眠でも取れれば良いかなと思いながら、部屋に向かった。

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