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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
538/810

第535話 式前日の二次会~子爵への一歩

2016年10月28日に第一巻がGCノベルズより発売致します。

ISBN-10: 4896375912

ISBN-13: 978-4896375916


どうぞよろしくお願い致します。

 扉を開けると、和モダンの風のさっぱりした空間が広がる。将来的に、イギリスのお城みたいにビリヤードルームにしたいなと思って作った部屋だ。やはり、貴賓を集めて雑談と言えば、ビリヤードルームだろうと思っていたのだが……。新品の台を買うと百万くらいするし、床の補強をしないと四百キロを支えるのはちょっと難しい感じがする。それに買ってすぐ届けてもらえないし、届けてもらう場所も無い。日本の自宅の近くのどこかに倉庫を契約しようかなと本気で思い始めた。もう、味噌臭が酷くて寝辛いの……。エアコンが付いているレンタルルームでも良いや。


「ふむ……。内装の様式は見た事もないが落ち着くな」


 ロスティーが一頻り、室内を眺め、ソファーに腰かける。上座に座ってくれたので、そのままテラクスタ、ノーウェの席が決まる。テーブルの上にはビールを入れた瓶がワインクーラーの中に入っており、氷がかろりと音を立てる。暖炉は赤々と火を上げて、部屋はほっとする暖かさに包まれている。ワインクーラーの横にローストした木の実に塩をしたものを詰めた皿が置かれているので、小皿に分けて、皆の前に置く。栓抜きでビールのコルクを抜き、皆の前のグラスに注ぐ。


「後はこちらで対応する。下がるがよい」


 ロスティーが各員の侍従に向けて言うと、皆、主人に視線を送る。頷きが返ると、部屋から出ていく。扉が閉まった瞬間、静寂の中、ぱちりぱちと薪の燃える音だけが響く。ロスティーが目を瞑り、暫し何かを感じるかのようにソファーに背を預ける。


「気持ちの良い空間だな。我が孫よ」


「故郷の内装を参考にしただけです」


 そう答えると、くくと笑いながらロスティーが目を開ける。


「お道化るなぁ。まぁ、良い。では、色々と話はあるが、折角集ったのだ。良い時を」


 ロスティーが杯を上げると、テラクスタとノーウェが同じく掲げる。それを見て私も杯を上げる。


「良い時を」


 唱和すると同時に皆が、グラスを傾ける。こくりこくりと飲み、ぷはぁぁと、息を吐く。


「ほんに飲みやすい……。酒精が半分と言ったか。歳を取ればこの程度の方がありがたいな。さてと、ここからは身内の話か」


「飲めば飲む程、喉が渇く気すらするね。(あに)ぃはどうかな?」


 兄ぃ? ノーウェがいう相手はテラクスタしかいないが……。


(ぼん)の言う通りですよ。しかし、原料は大麦。醸造にかかるのは一月(ひとつき)。酒は生産地が丸儲け。そんな美味い話があるとは、驚きました」


 坊? 状況が掴めずに不思議な顔をしていると、ノーウェが気付いたのか口を開く。


「元々、テラクスタ伯爵閣下は父上の部下だったんだよ。将才があってね。一軍を率いていたんだ。前に言ったでしょ。商家か軍人でもなければ貴族は務まらないって。兄ぃは、軍人からの貴族だよ」


「テラクスタは親の代からの部下だな。十の頃からうちの軍におった。その頃ノーウェが生まれてな。大きゅうなったら、兄ぃ、兄ぃと後をつけ回しておったよ。上の兄達も忙しい身でな。中々相手も出来ん。流石に成人も迎えていない子供は基礎訓練が主ゆえな。時間が有ったら、共に遊んでおったな」


 ロスティーが後を継ぐ。


「あの頃はトルカに開明派の男爵がおったが、交易口の管理者としては荷が重いようでな。後継もままならん状況だったな。ただ、南は南で保守派が少しずつ領土を広げておってな。海と、内陸側に町を作ればなんとか飢えを凌げると言う事で、乱発しておったのだよ。一旦その食い止めとして、テラクスタに入ってもらった」


「あの時は多大な援助を頂きました。その後もトルカを中継に、安値で物資を送って頂いたおかげで、なんとかこの地位です」


 テラクスタが若干照れくさそうに話す。


「で、トルカの領主が亡くなった後だが、誰も立たん。しょうがなく、ノーウェに任せたが、なんとか持ち直してな。その後は元々の町だったノーウティスカを拡大して今に至ると言う訳だな」


 そこまで告げると、ロスティーがグラスをぐいっと空ける。そこにビールを注ぐ。


「なるほど。それゆえに身内ですか」


 聞くと、皆が頷く。


「さてと、どこから話しをするか……。まぁ、儂からかな。アキヒロ、喜べ。策は成った」


「と言う事は、関税自主権は?」


「うむ。素案の通り話は通した。ただ、ユチェニカの首までは落とせなんだな。騒ぎの主体だったが、実行した訳ではないと言う事で、罪を一等減じて生涯幽閉となった」


「それは……。無念ですね。王の命をかけてもですか」


「その辺りの判断はやはりこちらに不利だな。勝手に死なれて、こちらに擦り付けるとはと散々向こうの小雀に騒がれたわ」


 ロスティーが、かかと笑うと、少し寂しそうに俯く。


「宰相、外務大臣と言うても、出来る事は限られておる。条約に関しても向こうの王家の譲歩故な。金輪際、王の首を外交の駒にするのは勘弁してくれとの事だ。向こうも他人事では無い故な」


「いえ。致命の楔は打てました。まずは、良しとなさっては如何(いかが)でしょう。一見、損はしていると見えるでしょうが、一年、三年、五年と経てば、じわりじわりと効く猛毒ですので」


 心の軋む感じを胸の奥に押し込み、私がそう告げると、ロスティーが苦笑を浮かべながら、顔を上げる。


「そう……だな。これに関しては詳細は書面で渡す。後は……」


「あ、話の腰を折りますが、私からよろしいでしょうか?」


 そう聞くと、皆が首を傾げる。ソファーから立ち、部屋に置いておいた、サンタ袋を持ってくる。中身をざらりと、テーブルに少し零す。


「これを皆様の近衛の方に配りたいのですが。許可を頂けますか?」


「なんじゃこれは……」


「君の紋章……金額……『リザティア』の歓楽街のみ使用可能……期日?」


 ノーウェが木札をぺらぺらとめくりながら、呟くように聞いてくる。


「はい。歓楽街でのみ使える、お金のようなものでしょうか」


 そう告げると、ぎょっとした顔で、皆がこちらを向く。


「金の偽造……と言う訳では無いので、神様のお咎めは無しか……。しかし……五万はある。それに、歓楽街のみで使用可能と言うのは?」


「長い旅でしたので、連れて来られた兵もお疲れでしょう。でも、こう言う時に金を渡しても、そのまま蓄えに回して我慢するじゃないですか。なら一層、使える場所と期日が決まった金を渡しちゃえば使わざるをえないでしょう」


 のほほんと言うと、皆がはぁぁと深い溜息を吐く。


「慰労金は出すが、やはり貯め込む者もおるのでな。公平感が出ずに中々困るのだが……。このような形で解決させるか……」


「木札には通しで番号を振っております。酒保の方で名簿と照らし合わせてお渡しします。なので、誰がどのように使ったかも、換金の際に分かります。勿論、誰かに売ると言うのも可能ですが、その場合はその人間が別番号で多く使ったのが分かります。その辺りの情報は提示出来ますし、後で探れば大体把握も出来ます」


 そう告げると、テラクスタが口の端をひくつかせる。


「そうか、領収書と照らし合わせれば、丸裸なのか……。これは、酷いな」


「近衛ともなれば、出世頭です。今後色々と交流する機会も有るでしょう。その際に、何を好むのか知っておけば、色々役にも立ちますしね」


 にこやかに言うと、皆が、苦笑を浮かべる。テラクスタはちょっと驚愕混じりだが。


「今日に始まった事ではないけど……。何にでも付加価値を付けるよね、君」


 ノーウェが苦笑のまま言ってくるが、ユニークIDに人間が紐づけられるなら、データベースの構築は可能だ。それを利用しない手は無い。会員証ビジネスと考え方は一緒だ。地域振興券と会員証ビジネスの複合になっているが、別に個人情報保護法がある訳ではないし、有効に利用するまでだが。


「あー。その帳簿、売ってくれないかい? 額面上の金額を払うから。慰労金は出すつもりだったけど、ちょっと金額は多いかな。でも、その分誰が何にどう使うか分かるのは助かる。頼むよ」


 ノーウェが笑いながら提案して来ると、他の二人も頷く。元々、催事予算から接待費として出すつもりだったので、それが浮くだけの話だ。まぁ、その分きちんとデータベースは詳細に記載しておこう。正直、誰がどの店で誰と何をしていたか、丸裸だ。欲望の町で欲を見せた姿がそのまま克明に分かる。そんな情報、中々手に入るものじゃ無い。そりゃ、価値は十分か。


「分かりました。こちらで持つつもりでしたが、そこまで仰るなら」


「助かるよ。あぁ、名分は君からの慰労金と言う事で兵達には伝える。恩も今回の対価の内で良いよ」


「ありがとうございます」


 ありゃ。そっちまでくれるか。かなり儲けた。机の上の、札も袋に戻して、そのまま席を立つ。扉の外で待つ侍従に袋を渡し、カビアに例の件を実行するように伝えるようお願いする。


「かなり重いから、ワゴンでも使って」


「か、畏まりました」


 侍従が、なんとかかんとかえっちらおっちら進んでいくのを見届け、部屋に戻る。

 ソファーに座り直し、木の実を口に放り込み、ビールのグラスを傾ける。ぷはぁとグラスを置くと、テラクスタが若干得体の知れないもの見るような目でこちらを見てくる。


「兄ぃ、一々驚いていても無駄だよ。この町の商家は完全にアキヒロ君の管轄下だ。故に出来る話でもあるよ。はぁぁ、その為に歓楽街なんて町を別に作ったよね?」


「治安維持が第一の目的ですよ? ただ、狭い中に押し込めば管理は容易になりますしね。目的も、飲むか遊ぶか異性を買うかしかないですし。分かりやすいじゃないですか」


 朗らかに言うと、テラクスタが頭を押さえながら、溜息を吐く。


「町の設計段階で、ここまで考えているとは……。元冒険者とは到底思えない」


 テラクスタの言葉に、ロスティーとノーウェが爆笑する。


「我が孫と言うのは、伊達ではない。夢のような町を作れと言うたら本当に作りおる。して、一皮剥けば、この有様だ。どこまでも現実の利潤を追求しておるよ」


 ひーひーと腹を抱えながら、ロスティーが絞り出すように言う。一頻り笑った後はぽりぽりと木の実を食べながら飲む。


「私からは以上です」


「では、先程の……あぁ、オークの話か。伝令の分は話を受け取ったがの」


 ロスティーが顎に手をやり、ノーウェの方を向く。


「まず、西の方に向かったと言っていたのはトルカの北の森に入っていった。結界に引っかかったから掃討済みだね。補充物資しか持っていなかったから、間違い無く、潰した集落に向かうつもりだったんだろう。集落のオークが攻め込んだ後の補充だろうね。北はちょっと分からない。まだ、伝令も鳩も受け取っていないね」


「森の様子は各地で確認はさせておるし、集落など出来れば潰しておるな。防備は各町、各村で防壁はある故、何か有れば援軍を待てば良いだけだろう。そこは案じなくても良い」


 ロスティーが断言する。


「では、私のところですか……」


 今回のオークの襲撃の詳細を説明する。まだクロスボウの事は言えないので、そこは弓兵と言う事で誤魔化しながら、話を進める。


「ふむぅ……。平地の会戦で策を弄するか。ノーウェからオークの見直しを求められておったが、間違い無いか……」


 ロスティーが呟く。


「そう……ですね。我が国だけの話では無いのかも知れません。その辺りの情報は入っていませんか? ロスティー様」


「むぅぅ……。それは……だな……」


 あぁ、男爵には教えられないか。国家間の書状のやり取りだ。国家機密扱いになる。男爵風情には出せない。良かった、カビアとの悪だくみが役に立ちそうだ。


「少々お待ち下さい」


 席を立ち、棚から大きめの巾着を取り出す。席に戻り、テーブルの上で袋を引っ繰り返す。ざらざらと、金貨、百万ワール金貨が流れ出してくる。


「これは……なんだい?」


 ノーウェが怪訝な顔で聞いてくる。


「今年度の税収です。作付面積から算出される予定税収は分かったので、用意致しました。塩が早めに流通し始めたのと、歓楽街の売り上げ、後は『リザティア』の土地の売買分が有りますので、余裕を持って支払い可能です」


 そう告げると、テラクスタが口を開けたまま、わなわなしている。


「これから……町開き……では、ないのか?」


「はい。ただ、もう経済は回っています。元々、商業と農業の両輪で回す町ですので、作物が出来る前でも収入は幾らでもあります。予算には一切手を付けていないです」


 そう告げると、テラクスタががくりと肩を降ろす。ノーウェは作付面積と税収額を確認し、金を勘定している。


「君は、本当に……。うん、十分だ。と言うか、ちょっと多い」


「はい。足りないと問題なので。お釣りをもらおうかと」


 そう告げると、ぶふっとロスティーが噴き出す。


「我が孫にかかると、領地の税も店の買い物感覚か。笑えるわ」


「うーん。税免除期間だから、一回国庫に入れて、再度国庫から出す形になるね。子爵の条件は男爵として税をきちんと収められる事だから。条件は満たす。でも、子爵になると、税が増えるけど……それも考慮の内なんだよね……。増額分なんて、この調子ならはした金か」


「そうですね。余裕はまだまだ有りますし、民が増えればもっと経済も大きく回せます。『リザティア』の容量的には十万人は収容出来ますので、将来的にはこの町の商業だけでも他の領地分の税収を賄えるかと思います」


「商売……だけでか?」


 テラクスタが呆然と呟く。


「完全収容の場合ですよ? そこまでいけば、町の治安の問題も出ますので。別に新たな町を建設しないと駄目でしょう。まずは、現状重要な情報が入って来ないのが辛いのと、交戦権が無いのが痛いです」


「まぁ、親が伯爵になるのだ。異例ではあるが条件は満たすか。推薦状はノーウェが書け。儂が承認する。では、それを前提として話をするか……」


 ロスティーが居住まいを正し、真剣な表情で口を開いた。

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