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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第533話 式前日の夕ご飯~前菜、サラダ、スープの直前まで

 その後も柔らかな雰囲気のまま、小さなお茶会は続いた。茜が濃くなり、紅とも赤ともつかない色になった頃、ノックの音が微かに響く。ペルティアが声をかけると、ノーウェとテラクスタ夫妻、ベティアスタが戻ってきたようだ。暫くすると、ノックとノーウェの楽しそうな声が響く。あらあらとペルティアが席を立って扉を開ける。


「あれ、母上でしたか」


「ノーウェ、騒がしいな。テラクスタも一緒になって何をやっておるのだ」


 ロスティーが呆れた顔で、告げると、しょんぼりと男性陣が頭を下げる。ガレディアとベティアスタは反省の色は見せているが、それ以上に歓喜の念が強そうだ。テカテカしているし。余程エステの効果に喜んでいるのだろう、ふわふわして聞いているのか、いないのかも謎だ。


「明日はめでたい日です。少しばかり羽目を外されても良いかと」


 私がそう言うと、ロスティーが苦笑を浮かべる。


「孫の方が落ち着いていると言うのは、情けないと思わんのか。はぁぁ、その顔では懲りんか……。で、楽しめたのか?」


 ロスティーが問うと、皆が頷きを返す。ノーウェが口を開こうとしたのをロスティーが手で制する。


「そろそろ夕餉の頃だろう。その場で聞こう。では我が孫よ、頼めるか? 楽しき時を過ごし、少し話し過ぎた。半端に食べた所為か、腹も動き始めたのでな」


 ロスティーが優しく告げると、ペルティアも頷く。


「畏まりました。では、用意を見て参ります。暫しご歓談下さい」


 席を立ち、そっと手を伸ばすとリズがふわりと手を置き、そっと立ち上がる。二人で目礼をして、部屋を後にする。部屋に戻る途中に会った侍女に状況を確認すると、用意はほぼ終わっているとの事なので、着替えの時間だけ、調整してもらう。蔵からはもう運んでもらっているので、用意は必要無いと。取り敢えずアレクトリアには内緒と言う事で、話は通している。でも、明後日以降、視察で温泉宿に行く事になったら、ばれるんだろうな……。説明が面倒だ……。


 そんな事を考えながら、部屋に戻る。途中で捕まえた侍女にお願いして、リズの着付けを頼む。私も正装に着替える。明日も着るので汚さないようにしないと。タロとヒメがひらひらするのを見ると、出番かと言う感じで立ち上がるので咥え紐を渡すと、すぐにその事を忘れたように二匹で引っ張り合いっこをしながら白熱している。やっぱり獣可愛い。ぱたこんぱたこんと転がり合っているのを眺めていると、侍女の声がかかる。振り向くと、ドレス姿のリズが立っている。


「やっぱり、綺麗だ。見るだけで幸せになれる」


「もう、恥ずかしいよ……。はぁぁ、ちょっと怖い」


「ごめんね、無理させているね」


「ううん。どこかでは通る道だと思うから。お婆様もいらっしゃるし。そう考えての事なんでしょう?」


「元々身内しか呼ばないと言う話だったから。ちょっとガレディア様はきつそうな感じだけど」


「そう……かな? 見ている限りはお優しそうな方だったけど……」


 んー。『認識』先生のスキル内容で先入観が生まれたのかな。でも、苦手意識が無いのなら、良いか。


「分かった。じゃあ、行こうか」


「うん」


 二人、手を携えて、来賓用の食堂に向かう。いつも使っている食堂は皆とお客様に使ってもらっている。ベティアスタもそちらだが、ロット達もいるので話は出来るだろう。それとは別に、貴賓が来た時の為に、もう少しこじんまりとした食堂も作っている。偶にお遊びで調度を土魔術で作っては置いたりしているので、無意味にグレードが高い感じになっているのは、反省点か……。つるりとした黒曜石っぽいカウンターとかお洒落かなと思ったんだけど、埃が目立ちますって怒られた。ピアノブラックは掃除が大変らしい。


 扉の前に立つと、侍従達が扉を開いてくれる。奥のお誕生日席にロスティーと言う並びになるはずだが、身内の席なのでペルティアと共に上座側に並んで座っている。その目前にテラクスタ夫妻、ノーウェはペルティアの横に座っている。私達はガレディアの横か。


 リズが部屋に入った瞬間、女性陣から賛美の声が上がる。ロスティーとテラクスタが頷くと、席を立ち、リズと一緒に暫し、話し始める。


「ふむ。まぁ、こうなるわな」


 ロスティーがやや苦笑を浮かべながら、嬉しそうに、少し誇らしげに漏らす。テラクスタもほぅと溜息ともつかない息を吐く。


「綺麗な娘とは思っていたが、服装が変わるだけでここまで印象が変わるか……。映えるな」


「儂の見立てが正しかったのだろう」


 呟きに、ロスティーが得意げに返すと、テラクスタとノーウェ、私が一斉に苦笑を浮かべる。爺馬鹿の片鱗が出始めているなと少しおかしくなる。一頻り話し終ると、女性陣が席に着く。


「お待たせ致しました。それでは食事を始めましょう」


 そう告げると、侍従、侍女達が用意を始める。透明度が高くないグラスが置かれ、赤みを帯びた金が注がれる。泡は薄く、上る気泡もぷちぷちと心許ないが、この国では初めてになるのかな。


「では、遠路遥々お越し頂きありがとうございます。その感謝の念を少しでもお伝え出来ればと思い、今宵お時間を頂きました。楽しんで頂ければ幸いです」


 グラスを上げると、怪訝な顔が返ってくる。目前には、ビールと小皿が一つ。この国のルールだと全部の皿を出してしまうが、熱い物も冷たい物も台無しになる。美味しいタイミングで美味しい物を食べてもらいたい。


 ロスティーがふむと頷き、グラスを上げると、皆が一斉にグラスを上げる。


「持て成し、感謝する」


 そう言って、グラスを傾け、赤金をごくりと口にする。その瞬間、皆の目がぱちくりと瞬く。


「新開発のお酒です」


 そう告げた瞬間、唖然とした顔で皆がこちらを振り向く。


「酒を……開発したの……かい?」


 ノーウェが声を絞り出すように問うてくる。


「はい。ワインは葡萄の汁を残していたものが発酵して出来たのが起源でしょう。果汁が余った物を放置していたら出来たと言うところですか。では、他の物を発酵させたらどうなるか。気になりませんか?」


 そう告げると、ロスティーとノーウェが額を押さえる。

 

「君は、そう言う人間だったね……」


 くぴりとグラスを傾けると、口の中で転がす。


「ふむ……。ほのかな甘みと苦み、それにコク……。なんだろう。慣れた味なのだけど、ここら辺りまで出かかっているんだけど……」


 ノーウェが首元を指し示しながら、ギブアップ宣言のように首を振る。


「原料は大麦とホップ、後は若干の砂糖です。生産そのものは一月もかかりませんし、酒精もそこまで強くないです。一般的なワインの半分くらいですか。もう少し時間をかければ、若干は強くなりますが」


 そう告げると、リズを含めて、皆が納得した顔をする。大麦は一般的に食べられているし、ホップも健胃薬として売られている。


「そんな単純な物で、このような味に。しかも飲めば飲む程、こう、喉が心地良い……」


 テラクスタがごくりごくりと飲み干す。すかさず、侍従が新しいグラスを用意し氷を入れたワインクーラーから瓶を取り出し、注ぐ。


「お風呂上がりに飲むのが一番美味しいです。ワインでは少しきついですし、この喉越しを楽しんで頂ければ。また、常温ですと香りとコクをより一層楽しめます」


「喉は乾いていたけど、本当にこれは美味しい。冷たい飲み物と言うのも斬新だ……」


 ノーウェもくいと呷ると、次のグラスに移る。


「アキヒロ君の家宰に水は程々にと言われていたが、この事だったか」


 ふふふ。カビアには新しい酒を作ったから、喉を乾かして戻らせてと伝えていたが、効果は絶大だ。女性陣もワイン程アルコールがきつくなく、また若いビールなので甘みとコクの方が強く、気に入ってもらえたようだ。ペルティアですら、こく、こくと美味しそうに少しずつ楽しんでくれている。


「して料理だが、これだけなのか?」


 ロスティーが聞いてくる。


「いえ。皿を一度に出すと、温かい物は冷めますし、冷たい物は温もります。頃合いを見計らってお出ししますので、順に召し上がって頂ければと思います」


 そう言うと、ふむぅと合点がいかない感じで納得してくれる。テラクスタはかなり驚愕顔だ。そりゃ、順に出すには手間もかかるが、元々そう言う設計で厨房からワゴンまで作っている。


「折角なので、今回作った新しい飲み物、ビールに合う物を揃えております」


 皿の上には、香辛料を減らしたヴァイスヴルストを半身にして、乾燥させたバジルとニンニクを磨り潰した物とオリーブオイルを混ぜて皿の周りに引き塩を軽く振った物。そして、ザワークラウトを乗せている。

 まだ、温かなヴァイスヴルストからはほのかに湯気が立ち上る。皿も温めたのでそうそうは冷めない。


 白いはんぺんのように柔らかなソーセージを切り分け、ソースを付けて口に入れる。うん、夏の味覚だ。バジルも香りが飛びきっていないし、ほのかなニンニクの香りとマッチしている。口の中の油をザワークラウトを食べる事によって、酸味で打ち消し、ビールで流し込む。はぁぁ、やっぱりビール、好きだ……。


 周りも見よう見まねで、ヴァイスヴルストを頬張り、にやけ、ザワークラウトを口に頬張り、酸味に驚き、ビールを流し込み、ほっとした顔になる。


「どれから、意見を言うかは迷うけど、このキャベツを漬けた物って、お酢じゃないよね。香りが違う」


 ノーウェがザワークラウトを指さしながら、告げる。


「これもキャベツを塩と一緒に発酵させました。自然に生まれた酸味ですので、調和が生まれるかと」


「確かに、ソーセージの油とこのキャベツは合う……。ビールと言ったか、手を伸ばさずおれない気にさえさせる……」


 テラクスタが苦笑を浮かべながら、ぱくりぱくりと進めていく。女性陣もにこにこと微笑みながら、食べてくれる。まずは、成功かな。


 食べ終わった辺りで、侍従が皿を下げて、春野菜の温野菜サラダが出てくる。これに関しては一般的な食材だし、ドレッシングには拘ったが、インパクトは無い。皆も驚き疲れているようなので、少し期待値を下げておくのが狙いだ。


 次のスープが運ばれた瞬間、テラクスタとガレディアがくんくんと嗅いで怪訝な顔をする。


「海の……香り?」


 私は心の中でにやりと笑う。さて、和食はお気に召してもらえるだろうか。南の海の領主が海の資源をどう扱ってきたのか、これからどう扱うのか、ここが分水嶺だろうなと一層の微笑みを浮かべて観察する事にした。

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