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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第527話 おいでませ『リザティア』

 大路を抜けて公園に差し掛かる頃になると、整然と隊列を組んだ集団が近付いてくるのが見えてきた。

 門を大きく開け待っていると、入門後に、隊列が待機し大きく広がる。その中を整然と馬車が進む。皆で整列する玄関前で嘶き一つなく馬車が美しく停車する。

 

 馬車の扉が開くと、やや厚手の上下にマントを羽織ったノーウェが降り立つ。


「お久しぶりです、ノーウェ様。お越し頂き光栄です。長旅の後です。体調は如何(いかが)ですか?」


 告げると、いつもの苦笑が浮かぶ。


「君は本当に変わりないね。久しいし、その変わりなさは救いだよ。ありがとう、大丈夫。暫く世話になるけど、よろしくね」


「畏まりました」


「こっちには畏まらなくていいよ。紹介するね」


 ノーウェが振り返ると、長身の男性と同じくらいの背丈の迫力のある美人、そして。


「久しいな、アキヒロ殿」


 ベティアスタがにこりと笑ってくる。とその瞬間、こつんと切れ長の少し垂れた目に優しい光を宿した長身の男性に頭を小突かれる。その際に、体格に見合った筋肉がちらりと袖の隙間から覗く。


「ベティ、こちらの挨拶がまだだ」


 低く深いバッソ・プロフォンドの音色が響く。渋いな、この声。


「初めまして、テラクスタ伯爵閣下ですね。遠路遥々(えんろはるばる)お越し頂き光栄です」


「初めてだな、アキヒロ君。テラクスタ・ベーオンズだ。こちらは妻の……」


「ガレディアです」


 こちらは少し冷やりとしたものを感じさせる、細目の女性が低めの声で答える。そっと目礼をしてくれたが、首の筋肉の動きを見る限り、かなり鍛えている印象だ。細君と言うより女帝と言うべきか……。


「指揮個体戦の英雄か。後程、一手手合わせ願いたいな」


 テラクスタがにこりと微笑みながら言ってくるが口の端が引き攣る。『認識』先生に確認したけど、この人、『片手剣術』『両手剣術』『馬上槍術』『盾術(大・中・小)』軒並み2.0を超えている。近接戦の達人だ。そんな人間の相手なんて嫌だ。断固お断りだ。


「いえ、私は魔術士ですので。ご期待に沿いかねます」


 愛想笑いで躱そうとしたが、今度はガレディアが微笑む。


「大丈夫ですよ。彼は魔術戦もきちんと対応出来ます。修行と思ってお付き合い願えるかしら」


 はぁぁ……。こっちはこっちで『片手剣術』『盾術(小)』が2.0を超えている上に、『術式制御』や『土魔術』『水魔術』が3.0に近い。魔法剣士ってなんだよ。近接戦と魔術の併用とか無理だぞ。シミュレーターを見ている間に切り殺されそうだ。

 でもここまで言われて断ると、後が面倒臭そうだ。


「分かりました。ご用意致します。あと、リズ、来て」


 テラクスタの表情が輝くのを見ながら、玄関の辺りで佇んでいた可愛い感じでコーディネートしたリズを呼ぶ。


「私の婚約者のリザティアです」


「あの、初めまして、リザティアです」


 少し気後れしながら、カーテシーを披露すると、テラクスタとガレディアの表情が優しくなる。


「初めまして。希代の勇士を射止めたお嬢さん」


「今後ともよろしくね」


 二人の表情に緊張が解けたのか、リズがふわりと微笑み、こちらこそよろしくお願い致しますとお辞儀している。てか、勇士って誰? 勘弁してくれ。


「さて、今日は晴れておりますが、風は冷たかったかと。温かい物でも如何(いかが)でしょうか?」


 そう告げると、ノーウェとテラクスタが顔を見合わせる。ん?


「歓待はありがたいけど、我々は後回しで良いよ。明日の主役のご家族の方を優先しよう」


 ノーウェがそう告げると、後続の馬車から男女がわらわらと降りてくる。見覚えのある顔も混じっているので理解した。あれ、フィアの家族か、と言う事は近隣の親族を態々連れて来てくれたのか。


「これは……お手数をおかけ致しました」


「いや、ついでの話だからね。それに閣下はもう楽しみにしていたから、早く温泉宿に連れていかないとうるさいんだよ」


「ノーウェ!!」


「あなた、本当の事でしょう。昨夜から楽しみで眠れないのは分かりますが、延々ころころと横で転がられる身にもなって下さい」


「ガレディア……」


 テラクスタが眉を八の字にしてガレディアの名を告げると、ノーウェとガレディア、ベティアスタが笑いだし、釣られて私とリズも笑ってしまう。


「ふぅむ。恥ずかしい話だが、聞きたい事は多いのでな。途中で見た畑も見事なものだし、少々不可思議なものもあった。その辺りを含めて色々と気になってはおる」


 弱り切った顔でテラクスタが言うのにノーウェが被せる。


「体が冷え切っているのも確かだしね。出来れば身綺麗にしたいのもあるかな。先に向かわせてもらえればありがたい。父上もまだだよね?」


「はい。ロスティー公爵閣下は夕刻から夜半の到着予定です。では、カビア」


 呼ぶと、すいとカビアが近付いてきて、美しく礼をする。


「お呼びでしょうか?」


「侍女長と一緒に閣下方を温泉宿までお連れして欲しい。接待は任せる」


「畏まりました。では、伯爵閣下、奥方様、お嬢様、ノーウェ様」


「うん、こちらの馬車で行こうか。アキヒロ君、また後でね。夕餉には間に合うように父上も調整すると思うからそれくらいには戻るよ」


「はい。楽しんで頂ければ幸いです」


「あ、忘れていた。もう一件。気にしていたよね」


 ノーウェがもう少し後続の馬車に視線を送ると、御者が扉を開き、介添えしながら女性達を降ろす。その腕には。


「人魚の方々のお子さんですか?」


「うん。約束通り。全員元気。乳母役の子供さんも一緒だから。少し手数をかけるけど頼めるかな」


「はい……。本当に……。本当に、ありがとうございます」


 私がそう言うと、テラクスタを始め、全員が淡く微笑む。


「じゃあ、いってくるね」


 ノーウェ達が馬車に乗り込み、そのまま玄関前のロータリーをぐるりと回って、橋の方に向かって行く。近衛の方はそのまま兵舎に入るようで、隊列を組み直し馬車を追いかける。


 私がふぅと息を吐くと、リズがそっと袖を握ってくれる。小さく頷きを返し、表情を笑顔に直し、固まっているゲスト達に向き直る。


「皆さん、ようこそお越し下さいました。『リザティア』へ」

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