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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第524話 もふもふした天然ジゴロ

 そよ風を浴びつつカップを傾けていると、リズがぷるっと震える。


「寒い? そろそろ、戻ろうか」


「地面に直接座っていると、少し寒いかも。動いていたら気にならなかったけど」


「温かい物の方が良かったかな……」


「ううん、喉が渇いていたから、冷たくて美味しかったよ」


 そんな会話をしていると、てーっとタロとヒメが走って戻ってくる。接近してくると分かったが、何か茶色い物をタロが銜えていた。

 目を細めて良く見ようとすると、その前に目の前に走り込んでくる。


『まま!! とったの!! おおきいの!!』


『ぱぱ、とった!!』


 二匹が瞳を輝かせて、しっぽを振りながらそっと茶色い物を地面に置く。どうもげっ歯類っぽい何かだけど、結構大きい。下手なウサギぐらいの大きさが有る。止めは刺されており、ぐてぇと地面に転がっている。


 『馴致』で感じなくても、キラキラした目で褒めて褒めてと訴えているので、二匹の鼻の上や耳の後ろを重点的に撫でてあげる。


『まま、たべるの!!』


 ぺしっとタロが前脚でこちらに獲物を転がす。ヒメも大人しく後ろで座って見ている。ん? 自分で食べないのか?


『ぱぱ、たくさん、でも、たべない』


 ヒメがじっとこちらを見ながらウォンと鳴く。あぁ、狩りで沢山獲物を持ってきたのに、私が食べていないのを心配しているのか?


『まま、よわるの、いや』


『ぱぱ、よわる、むかし』


 そっか……。前の調子が悪かった時の事を思い出しているのか……。二匹共、獲物の前で座ってじっとこちらを見ている。しっぽは地面を掃くようにゆっくり振られている。ぺろっと空気を舐めるような仕草を見せる。


『お食べ』


 優しく微笑み、二匹の頭を撫でながら伝える。二匹して首を傾げながら、食べて良いって聞こえたけど本当に良いの? と伝えてくる。でも、しっぽはきゅいっと立ち上がる。


『良いよ』


 そう伝えると、タロが銜えてヒメの前にそっと下ろす。ヒメがくんくんと匂いを嗅いでタロの鼻と鼻をくっつけ合うが、暫くすると、しっぽを振りながら、器用に前脚と牙を使ってお腹の皮を剥き、内臓からはくはくと食べ始める。タロも肉が見えると、ちゃっかり近付いて食べ始める。まだ、獲物の処理は苦手なのか。でもヒメ的には獲物を貰った形になっているので、好感度はやっぱり上がる。ふーむ、タロは天然ジゴロ系男子なのだろうか……。


 でも、それなりに大きいから、夕ご飯はかなり減らさないと駄目かな。

 そんな事を考えていると、骨もぱきぱきと食べて、毛皮の一部に残った血液を舐めてペロペロと自分の口を舐める。そこそこお腹に溜まったのか、少し伏せて休憩モードに入る。耳は立てているが、お互いにグルーミングしながら目を細めている。


「大きくなったね」


「そうだね」


「でも、お母さん、ちょっと太ったかなって言ってたよ」


「そう? 分量的にはきちんと調整しているつもりだけど。運動不足かな……」


「ぷっ……ふふ……。飼い主に似るんだ……」


 リズが後ろを向いて顔を伏せて肩をぷるぷるさせている。


「あ、酷い。これでも結構、筋肉戻って来たのに」


「ごめん。うん、大丈夫。少し、ほっそりしたね。苦労させているのもあると思うけど」


「それは大丈夫かな。自分自身ではまだ無茶とは思っていないし。ちなみに富貴の象徴はどうしたの」


「うん。ヒロは好きよ。寝ている時にお腹を突くとぷにゅっとした後に固いの。何だか楽しくて(つつ)いちゃう」


 リズがにこにこと微笑みながら言う。


「それは止めてあげて。きっと睡眠が浅くなると思うから」


「えー……。気持ち良いのに」


 阿呆な事を話していると、二匹も落ち着いたのか座って構って構ってと寄ってくるので、深めの皿を作って水を生む。差し出すと、凄い勢いでしゃばしゃばと飲みだす。涼しいけど、それなりに走り回っていたし、喉も乾くかなと。底に少し残る程度まで飲み干すと、満足したのかすりすりと寄ってくるので、リードを着ける。


「さて、ちょっと遅くなったし、西門まで戻って乗合馬車で帰ろうか」


「うん。楽しかったよ」


 リズがリードの逆の腕を絡めてくるので、きゅっと固定する。ほのかな柔らかさと温かさを感じながら、門へと向かう。


 タイミング良く公園前までの馬車も待機していたので、そのまま乗り込む。空は軽い茜色に染まりながら、徐々にその赤みを増している。


「ゆっくり出来て良かった」


 公園を歩きながら呟くと、リズがそっと腕を絞めてくる。その笑顔を眺めていると自然と笑みが零れだす。


 領主館に着くと二匹が何も言われていないのに足をひょいっと上げる。布で拭うと別の足を上げる。ちょっと可愛い。拭い終わり、首輪を外すとかかっと部屋の方に走り出す。


「おかえりなさいませ、領主様」


 二匹を追いかけながら廊下を歩いていると、執事が声をかけてくる。


「何かあったかな?」


「森より伝令が戻りました。明日の夕刻から夜半にかけてレイ様が戻られるとの事です」


 深々とした一礼の後の言葉。あぁ……、待機期間も過ぎた。話も聞きたいし、用が済んだなら休んで欲しい。レイが帰ってくるか。


「そうか、ありがとう」


「いえ。では、失礼致します」


 再度深々と頭を下げ、そのまま静止する。私達が部屋に向かい扉を開けた辺りで動き出す気配を感じた。


 扉の前で待っていた二匹は早速箱に戻って、くるりと丸くなり、二匹の世界を作り始める。

 リズはソファーにぽふんと腰かける。


「レイさん、戻ってくるんだ」


「そうだね。リナは大回りだから、もう少しかかるかな。結婚式までに戻って来てもらえると良いんだけど」


「うん、一緒に出て欲しいなぁ」


 リズが囁く。月初を町開きとして伝えた手前、そろそろ待ちくたびれている商家の人間もいる。そう考えると、ちょっと待てない。申し訳無いなと思いつつ、ギリギリ間に合うだろう日程で動いている。


 その後はいつも通り、お風呂に入り、食事と流れる。タロとヒメが夕ご飯を差し出すと、食べ終わり、次はみたいな顔で眺めて来たので終わりって伝えるとショックを受けていたが、夕方に食べたのを伝えると、そんな事も有ったと納得するのがちょっと面白かった。


 今日の分の仕事もカビアが殆ど片付けてくれていたので、商家絡みや土地の売買など額面の大きい物の処理だけで済んだ。


 蝋燭の灯りを消して、ベッドに潜り込む。流石に結構な距離を歩いたので全身が心地良い疲労感に包まれている。リズの寝息を子守唄に、呼吸を合わせて、眠りに就く。やっと、レイが帰ってくる。思った以上に心の中で大きな存在になっていたなと、改めて感じた。

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