第522話 ウェディングドレスはマーメイドラインがすらっとして好きです
「うちのカビアが寄らせてもらったかと思います」
「家宰の方ですか? はい。政務用の服装一式の直しをご依頼頂きました」
「その際に寸法は把握されていますか?」
「えぇ。控えております」
その答えに満足し、手を組み直し、ソファーから前のめりになる。
「出来れば、政務用の服装を一式作って頂きたいのです」
その言葉に首を傾げる店主。詳細を説明すると、破顔し、間に合わせると約束してくれた。
「お若い方でしたが、そうですか。喜ばれるかと思います」
「経験はありますし、よくやってくれます。少しでも報いれればと考えます」
「そうですか。分かりました。こちらも間に合わせるよう調整致します」
後は支払い周りの調整など含めて雑談を終え、双方飲み干したカップを置いたところで立ち上がる。布の覆いの外から店員さんの呼び声が聞こえたからだ。
「用意の方が出来たようですね」
店主が誇らしげに告げる。余程の自信作なのだろう。店内に戻ると、ロットとドルの二人も呼び出されたのか戻ってきていた。双方小さな袋を手に持っているので、サプライズにしたらどうかと告げると、いそいそと懐に隠す。
三人で、奥の試着室に通されると、そこには可憐に咲き誇る四輪の花が立っていた。
リズが胸元が可憐なハイネックのAラインのドレス。私との背の差が有るので、少し装飾を胸元に集めて、可愛らしい雰囲気を出してもらった。
フィアは、少し大人っぽくスクエアネックのスレンダーライン。本人が闊達な感じなので、少しギャップを感じさせるデザインになっている。
ティアナは少し肌を見せる感じのVネックのマーメイドライン。全体的に細身なので、すらっとしたシルエットが印象的に感じる。
ロッサはオフショルダーのプリンセスライン。おしゃまなお姫様と言う感じだ。折角なのでハートカットネックにしたらとデザインを見せたら顔を真っ赤にして拒否されたので、オフショルダーで手を打ってもらった。
絹は流石にこの量を用意するのは不可能なので、生成りの綿が中心で首元の一部に絹を誂えてもらった。レースはこの世界にも既に存在しているが、そこまで種類がある訳ではない為、今回新しいレースの編み方を伝えたところ大歓迎された。
横を見ると、ロットとドルの二人が口を半開きにして眺めていたので、尻を叩く。小声で褒めて褒めてと呟くと、それぞれの相手の元に向かう。
「リズ……」
告げると、少し上気した顔で俯いていた顔を上げる。
「えへへ……。どうかな?」
「綺麗だ。ごめん、それしか言えない」
やはり、金と白のコントラストは美しい。瞳の色と相まって目が奪われる。あぁ、私の奥様はこんなにも美しいんだって世界に自慢したくなる。
「ありがとう……。嬉しい」
にこりと微笑み、汚れると嫌だからとさっさと奥の方に行ってしまう。あぁ、勿体無い。でも結婚式の時に堪能出来るから良いか。
「ティアナも良く似合っているよ」
「ふふ、ありがとう。でもカビアがどう思うか……よね」
こうなると思っていたから誘ったのに。
「喜ぶと思うよ。こんなに綺麗なお嫁様なんだから」
「リーダーに言われると、なんだか恥ずかしいわね。早く結婚式にならないかしら。カビアに言われる方が嬉しいもの」
きりっとした顔を少し赤く染めながら、ティアナが囁く。
「そりゃそうだよ。見せるべき相手に見てもらいたい物だろうしね。具合はどう?」
「思ったより窮屈では無いわね……。動きにくい物ではあるけど。服のデザインまでやるのね」
この辺りは各デザインを紙に落とし込んで、実際に仕上げられる方法を店主に模索してもらった。ドレスの常識が変わると言っていたが、まぁ、変わるだろう。
「少しだけね。気に入ってもらえた?」
「ばか、リーダーに言っても仕方ないわ。私がカビアに問う言葉よ」
そう言ってはにかむように微笑み、奥の部屋へしずしずと歩いていった。
ロッサはドルに何を言われたのか、恥ずかしそうに奥の部屋に去っていく。フィアは動きにくいーっと連呼していたが、ロットに何か言われて上機嫌で奥の部屋に向かう。
「しかし、素晴らしい仕上がりでした。ありがとうございます」
店主に言うと、被りを振る。
「頂いたデザインがあってこそです。勉強になりましたし、今後流行るでしょう。美しいシルエットだとは思っておりましたが、実際に着て頂いた時に、ここまで映える物と想像もしておりませんでした。やはり、この仕事はこれが面白いですな」
服だけでは分からない、人が着て初めて分かる美しさみたいなものだろうか。
「調整はこれで完了ですね。着付けには、当日ご訪問致します。カビア様の分に関しては、急ぎ仕立てますので、少々お待ち下さい」
店主がそう言うと、一礼し、事務所の方に戻っていく。急ぎの仕事をお願いしたので、その準備もあるのだろう。
余程嬉しかったのか四人が興奮気味に、奥から出てくる。少しクールダウンしてから帰ろうかと、喫茶店に寄って少し雑談をする。女性陣はウェディングドレスの話で持ち切りだ。男性陣はしょうがないなと微笑みながら、お茶と軽食を楽しみ、落ち着いてきたのを見計らって、駐車場に向かう。
待っていたテスラと合流し、馬車に乗り込む。
「一緒に来たら良かったのに」
皆ががやがやしているので、御者台の方に向かい聞いてみると、若干俯き、答える。
「内緒にして下さい……。ご一緒すると、着たくなりそうですので……。でも、恥ずかしいですよね?」
そう言われて、意味が分からなかった。
「いや、恥ずかしくないと思うけど。テスラ、可愛いよ? 似合うと思うし、戻って作る?」
聞いてみると、真っ赤な顔で、振り向き、馬車が揺れる。慌てて、手綱を調整する。
「いえ、大丈夫です。あの……ありがとうございます」
そう言いながら、テスラがぱたぱたと手で顔を扇ぎながら領主館への道を誘導してくれた。




