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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第509話 魔道具の刻印の謎、そして新たな魔術

「魔道具に使われている刻印です。四と六。私が知っているだけでも漢字らしいものが使われています。これは、何なのでしょうか?」


「ふむ」


 アレクトアがくゆらせていたカップを傾ける。こくりと喉が動き、カップを戻す。ぱちりと指を鳴らす。ふわんと四色の球体が目前に浮かぶ。


「お前の世界で言う四元素説は地球型環境では非常に分かりやすい概念だ。それぞれが相互転化すると言う流れもある種、的を射ている。また、漢字を使ったのは他の世界で意味情報として多用されているからだな。文字その物に力が宿っている。それを利用した方がコストがかからんと言うのもある。何より表語文字の方が記載の際に多くの情報量が扱える」


 四色の球体が四の文字を模るとふわりと消える。


 ふぅむ……。四元素説と言う事はプラトンとかアリストテレスとかの話か……。『識者』先生も魔力そのものはプリマ・マテリアと表現していたか……。万物が流転すると考えれば、単純に四元素説を受け入れるのが知識が無い間は理解しやすいのかな。実際に第五元素が存在しちゃっているしな。漢字に関しては、言霊とかの考え方に近いのかな。それに四元素を表現するのに、漢字の四は好都合なのだろう。


「原子物理学も量子力学も無い世界で、元素の話をしても理解は出来ん。まだ人類には早いな。研究者の間でもまだまだだ。そこらの鍛冶屋の方が余程真理に近付いておる。不純物の混じった鉄を製錬し、どれだけの炭素を混ぜるかを試行錯誤しているのでな。そうやって人は学ぶものだ」


「では、六は? 光と闇とかでしょうか?」


 そう告げると、くくとアレクトアが笑う。


「ゲームのやり過ぎだ。六に関しては、四元素に収束と拡散の意味を付与しておる。エントロピーの概念と同じく、魔素は拡散し続ける故な。ただその属性として淀み新たな魔素溜まりとして生みだし始める。そう言う意味では、魔術は収束と拡散の連続なのだよ」


「質量が保存されていない?」


「プリマ・マテリアは純粋なエネルギーだ。そこにベクトルを与える事により、その方向性を持った事象となる。その根源が魔素なのだよ。それは界を隔てた上位世界に届き、事象を発生させるトリガーの役目も負う。その為、管理は慎重にしておるがな。多くても少なくても問題が発生する。地球はそのバランスが崩れておる故に色々と弊害が起きておる。平衡は大事と言う事だな」


 魔術の無い弊害かぁ。特に意識した事は無いけど、この世界に比べて生きている感覚が希薄な感じはしていた。そう言う原初の生の躍動みたいなものなのだろうか。これに関しては分からないな……。


「まぁ、その辺りは細かく気にしても詮無い」


 アレクトアがフォークを片手にチーズケーキを切り分けて、口に入れる。咀嚼している間にまた質問を重ねる。


「五は無いのですか?」


 アレクトアがこくりと飲み込み、顎に手を当て首を傾げた。


「五行思想か……。意味合い的には、なお分かりやすいがな。ただ概念的に相剋が発生する故、この世界には適用しておらん。現実と言えばそれまでだが、魔術の事象上で相剋が発生するとなると、魔術に優劣が生まれる。そうそう身に付けられる物ではないし、得手不得手もある。そのようなものに優劣が付く状況は好ましくは無いのでな」


 『獲得』先生が有るので分かりにくいが、この世界のスキルは得るまでに多大な労力と気付きを必要とする。それを考えると、妥当な考えなのだろう。


「属性で思い出しました。『属性制御(鉱)』と『属性制御(念)』をオークから得ましたが、なんでしょうか、これ?」


 聞くと、再度カップをくゆらせ、ぽすっともたれかかる。しばしの沈黙の後、口を開く。


「識別上、属性と付けているが、系統と思って構わん。その二点はここ十年程で新しく生まれた概念だな」


「生まれた? イメージの話ですか……。『属性制御(鉱)』の方は何と無く分かりますが、『属性制御(念)』とは何なのでしょうか?」


「観念動力だな。そちらの言葉だと、テレキネシスやサイコキネシスと言った方が分かりやすいか」


 はぁ!? なんでそんな概念が生まれる……。地球上でも空想の産物だ。思いが現実世界に影響を及ぼす事なんて無い……。あぁ……この世界はイメージが事象を発生させる。魔術が端緒か……。


「しかし、そんな幻想を抱けるほどに、人間に余裕があるとは思えませんが……」


 そう言うと、アレクトアが微笑みを強くする。


「経緯の詳細は話せん。そもそも魔術が何故生まれたかも説明しておらんだろう。人類の思いは無限故な。私達はその思いに賭けた。この世界、遍く生き物達が存在する中で思いを馳せる生き物が生活圏を広げるにはやはり理由が有るのだよ」

 

 人類……か。はぁぁ、悩みの種は尽きなさそうだな……。でもきっと世界のバランスと見た場合にはそれで均衡が取れるのだろう。


「魔術の構文とパラメータをお教え頂く事は可能でしょうか」


「『属性制御(鉱)』は質量と速度だな。属性鉱。質量。形状。出現位置。速度。で実行可能だ」


 構文的には土と一緒なのかな。鉄の元素情報と性質と真球をイメージする。


「属性鉱。10グラム。形状は真球。右掌十センチ上空。速度無し。実行」


 パチンコ玉より二回りほど大きい白銀色の球体がぽとりと掌の上に落ちてくる。


「ふむ、純鉄だな。もう少し不純物を混ぜねば、意図にそぐわぬ物となろう」


 アレクトアがそう言うと球体を握り、手を解くと何も無くなっていた。


「将来的には使う事も有ろうが、今は過ぎた物だな。解いて、再度散らした。気にするな」


 純鉄自体は柔らかいし、使い道も特殊鋼材や触媒程度しかないか。もう少し、色々と元素を混ぜ込まないと駄目だな。そう思いながらシミュレーターで先程の手順を実施してみると、実行出来るようになっていた。ちなみに、オークが実行していたような数を生もうとするとWarningが表示される。あそこまでいくのは、2.00以降なのだろうな。


「土の時に懲りた故、速度を0にしても質量を無限には出来んぞ」


 うっ……。穴は埋められているか……。そりゃ、鉱物の山なんて作った日には色々と問題も起きるだろう。


「どちらにせよ、人間鉱山になる気は無かろう。故に鉱物の偏在は気にしておらん」


 あぁ、読まれている。そりゃ、日がな一日鉱物を生み出すだけの人生なんて嫌だ。


「では、『属性制御(念)』は?」


「『属性制御(念)』に関しては、質量と速度がパラメーターだが構文は無い。明示的にイメージして思う事で発動する」


「曖昧……ですね?」


 そう言うと、アレクトアがにやりと笑う。


「想像力とはそう言うものであろう?」


 ふむと頷き、一般的な不純物混じりの鉄の塊を生み出す。掌の上に乗せた塊が浮き上がるイメージを与えると、ふわりと浮き上がる。前後左右上下に動かし、螺旋状に動かす。


「自由ですね」


「ふむ。本来魔術とは自由故な。イメージが追いつかぬ故にパラメーターを決めて制限を加えねばならなかった」


 眉根に皺を寄せながらアレクトアが呟く。


「『属性制御(念)』は魔術そのものが継続魔術故、長く使うと過剰帰還が起こるぞ」


 そう言われて、イメージを止めるとぽとりと鉄の塊が降ってくる。

 オークのあの異常な魔術の使い方は、作り出して操るのを別にしていたのもあるのか……。あんな背後に滞空して襲うような軌道は描けない……。となると、あの鉄の礫の乱打も同じか……。少し訓練が必要かな……。


「聞きたい事はこれだけか?」


 鉄の塊を手の中で転がしていると、アレクトアが問うてくる。


「そう、ですね。はい。今、喫緊の疑問は以上となります」


「そうか。アキヒロよ、(ゆめ)忘れるな。私達は赦した。遍く生き物は糧を得ねば生を繋げぬ。お前を赦すと言う事はそう言う事だ」


 真摯な眼差しに背筋が伸びる。


「はい。本当にありがとうございます」


「では、またな」


 そう告げると、アレクトアが再度空間を軋ませ、するりと闇に入り込む。その後は何も無い、ただ先程までの執務室が広がっていた。

 ふぅぅと息を吐き、ソファーに座り込む。


<告。『祈祷』が3.00を超過しました。>


 む、遂に3.00を超えるスキルが……。でも、3.00超えたらどうなるんだろう。皆目見当もつかない。1で明瞭化、2で教会扱い、3でどうなるんだろう……。うーむ。


「さてさて、色々と宿題も出来ちゃったな」


 テーブルを見ると、去り際に消したのか、何一つ残っていない。


「ふふ。お茶はもう少し飲みたかったかな。将来に期待だな」


 そう呟きながら、ソファーから立ち上がり、内鍵を開けて執務室を後にする。

 部屋に戻ると待ちくたびれたのか、リズが雌豹のポーズで眠っていた。転がして足を伸ばしていると、ふわりと瞼を開ける。


「あー、ヒロだぁ……」


 寝ぼけながら、両手を差し出してくるので近付くと、ふわりと抱きしめられる。


「ヒロ……ヒロ……」


 やや不明瞭に舌ったらずに繰り返されるのを聞いていると、ふと悪戯心がもたげてくる。かぷっと唇を銜えそのまま、蹂躙する。

 暫く続けていると目が覚めたのか、きゅっと抱きしめられる。


「寝ぼけているのに襲うのは、ずるいよ?」


「襲いたくなるほど可愛かったから、かな?」


 そう答えると、ふふと笑みを深め、リズが力いっぱい抱きしめてくる。


「狼さんに襲われちゃうのかな?」


「ちょっとだけ恥ずかしかったね。でも、襲おうかな」


 念力で蝋燭の灯心を摘まむイメージを浮かべると、部屋が暗くなる。ふむ、この感覚か……。


 少しだけ、この先を思いワクワクしながら、柔らかい物に溺れていく事にした。

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