第503話 初めての戦争、戦後処理
書籍化作業に関して、更新に影響を及ぼさないように頑張ってきましたが、仕事との兼ね合い上難しくなってきました。数日、夏休みという形で更新のお休みを頂きたく思います。ご迷惑お掛け致しますが、よろしくお願い致します。
沸き上がる兵達の中、『探知』でロットとティアナを探す。ロットはまだ遠方の方だが徐々に戻ってきている。ティアナは兵の塊の向かいのようなので、通り抜けようとすると、何かぺちぺち叩かれる。どうも遠くで戦っている姿は見られていたらしい。こら、腹はぷよぷよするな、誰だ。だー、邪魔だーと両手を上げると、大歓声が沸く。もう、箸が転んでも楽しい子かよ。そう思いながら、人の波を掻き分けてティアナに近付く。
「おーい、ティアナー」
「あぁ、リーダー。あは、大変ね」
ティアナが我慢しているのか、する気が無いのか、半笑いで駆け寄ってくる。
「助けようよ、本当に」
「皆、喜んでいるのよ。私にはとてもとても」
ティアナの我慢が限界に達したのか、ちょっと決壊して後ろを向いて、プックスクスとか笑っている。
「面白がっているよね? 首尾の方は?」
「あー、面白かった。オークよね、本当に予想なの? いたわ。こちらで二匹。逃げられると厄介だから、見つけ次第殺したわ」
「それはしょうがないよ。どちらにせよ情報は引き出せないし。後はロットの方か……」
『探知』を再度使って、そろそろ近付いて来るかと振り返ると、フィアと七等級のリーダーが近付いて来る。
「お疲れ様。フィア、頑張ったね」
「ふふん、どうよ。僕もきちんと頑張れば出来るんだよ?」
「はは、嬢ちゃんの勢いには負けた。こっちのも食われると思ったぜ」
リーダーが苦笑を浮かべながら、フィアの頭をぽんぽんと叩く。
「ご苦労様でした。助かりました」
「いや、そりゃこっちの台詞だ。あそこまで準備を整えてもらったんだ。最低限の仕事くらいこなさなきゃな」
リーダーが苦笑を浮かべたまま答える。今回後から参加した斥候が戻ってきていると言う事はもう、伏兵も無いのだろう。後続に関しては森側の斥候からの伝令待ちだが、動きがないところを見ると、大丈夫だとは考える。
「確認の必要は有りますが、冒険者の方々が抜けても大勢には影響が無いでしょう。先に町に戻って頂いて大丈夫ですよ」
そう言って、手を差し出す。
「そうか? 悪いな。あんまり楽だったんで、処理の手伝いくらいするつもりだったが」
申し訳なさそうに頭を掻きながら、リーダーが言う。懐を漁り、今回の契約の羊皮紙を差し出してくる。
「いえ。十分に働いて頂きました。兵数が少なければ取り逃がす可能性もありましたから。それにこれ以上は契約の範囲を超えます」
「律儀だな、あんたは。はは、冒険者上がりだってぇのに、細かい。こりゃ、大成しそうだな」
「商家の人間のようだとは、よく言われます」
そう言いながら、契約書の内容を再度確認し、手が入っていないのを確認した上でサインを記す。
「では、またの機会に。良い働きをありがとうございました」
契約書を渡すと、リーダーが再度くるくると丸めて、懐に仕舞う。
「いや。あんただったらまた一緒に仕事がしてえな。何かあったら呼んでくれ」
「はい。今日は町にお泊りでしょう?」
「おう、風呂つうのが有名なんだろ? ばたばたしてて行く暇も無かったしな」
「では、歓楽街の温泉宿に泊まられては如何ですか? 損はさせませんよ?」
にこりと笑って言うと、にこりと返ってくる。
「ははは、こっちゃそれなりに格があるんでな。安い部屋には泊まれねえ。そうなりゃ、今回の儲けが吹っ飛ぶわ。あぁ、それが狙いか?」
「ばれましたか」
そう言って、お互い笑い合い、どちらともなく手を差し出し合う。
「七等のネスティア。あんたの指揮は的確だった。また、仕事しようぜ」
「今回は偶々です。それでも、これからも怪我無く働いて頂けるよう努力します。その際は是非ご助力を、ネスティアさん」
「はは、じゃあな。嬢ちゃんも頑張れよ」
そう言いながら、冒険者の方に向かってネスティアが背中を向けて手を振りながら去っていく。今回の冒険者全員分の契約を一括管理しているので、まとまって冒険者ギルドに向かうのだろう。冒険者の集団からは、飲む気満々の会話がだだ漏れで苦笑が浮かぶ。まだまだ今日は日が高いと言うのに……。まぁ、そう言うのが冒険者の流儀なんだろうな。
冒険者達を見送っていると、ロットが戻って来てフィアと抱き合うと、いそいそとこちらに向かってくる。
「どうだった?」
「こちらで四匹ですね。その聞き方ですと……」
「ティアナの方で二人。ロットの方が森側まで入り込んでくれたから、その数なのかな……。そうそう、装備と言うか荷物はどうだった? 食料は持っていた?」
「今、運んでいる最中ですが、荷物は最小限しか持っていません。中を見ましたが、何かの木の実と干し肉だけですね」
「と言う事は、帰路分程度しか考えていないのかな」
「そう考えます」
ティアナの方を見ても、同様だったようで、頷きが返るだけだ。と言う事は、取り逃がしていても集落には戻るか……。レイが上手くやってくれれば問題は無いし、駄目でも逆サイドの出口はリナが塞いでいるか……。
「分かった。考えても仕方ないや。結果を待とう。あ、おーい、チャットー」
丁度冒険者達に混じって、魔術士の集団がこちらに向かってくる。使わずに済んで良かった。手の内を完全にさらけ出すなんて愚の骨頂だし。
「リーダー、出番が無いよって見るしか出来ませんでしたけど、大丈夫なんですか?」
チャットが、慌てたように聞いてくる。
「怪我はしたけど、すぐに治せる程度だったし、大丈夫」
「他に兵もいてますのに。また、いらん事考えてたんでしょ?」
あー。怪我したところを見られたからか、かなり焦っているな。訛りがちょこちょこ顔を出す。
「考えは有ったよ。手の内は見せられないしね。あぁ、聞きたい事が一点」
「何でしょう?」
「こんな文字って知ってる?」
懐から出した紙に漢数字の四を書く。先程のローブの入れ墨の件。チャットが知らないならますます怪しい。
「んー。ほんまにこれでしたか? 右側も伸びていませんでした?」
「そう言われると、記憶が曖昧かもしれない。実物は後でくるよ。見覚えはあるの?」
「はい。魔道具に刻む印の一つです。意味は確か魔術そのもんを指しています。定型句の最初に刻む物ですから」
あれ? 漢数字じゃ無いのか? 印なんて意味不明なので、見ていない。象形文字っぽいし、『識者』先生も訳してくれないので気にしていなかった。どっちだ……。何かのミスリードじゃ無ければ良いんだが。実物を見てもらうべきか……。
そうこう言う内に、リズやドル、ロッサも集まってくる。出番の無かったクロスボウ兵と軽装歩兵に死体を集めるようにお願いする。特に悪感情も無く、片付けを始めてくれる。お仕事が少なかったのは理解してくれているようで、無理の無いように手分けして対処を始めてくれる。
バタバタと片付けをしていると、監視役と重装歩兵が相手にしていたオークの死体が集まってくる。見分開始かな。




