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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第502話 初めての戦争、一騎打ちの終結と新たな謎

 魔素から魔力に変換する勢いが増えた瞬間、ローブの眼前に煌く物が広がる。再度、魔力が高まり、ローブの腕が振るわれる。その瞬間、煌きがこちらに走る。相手の腕の動きに合わせて、そこそこの厚さの石板を二枚、間隔を空けて目前に出すが、一枚目が砕け、二枚目にも亀裂が入る。鈍い音と共に、石板が足元に落下する。一枚目をちらっと見ると重そうな塊が幾つか突き刺さっている。これ……鉄の塊か? 土魔術で鉱物は生めない。厳密には鉱物混じりの石は生めるが、どこまでいっても混じるだけだ……。何の魔術なんだ。それにこの数。明らかにおかしい……。


 こちらの動顛が伝わったのか、ローブの微かに見える口元がにやりと釣り上がる。再度腕が振るわれると、今度は目前に赤い煌きが生まれる。瞬間、一気にホバーで森のぎりぎりまで後退する。制動をかける暇も無く、小枝や藪を折りながらクッションにして止まった瞬間、先程いた場所が爆炎に包まれる。最悪な二択だな……。


 ローブが悠然と両腕を広げて挑発して来る。森から出て、ゆっくりと向かって行くと、地面の一部がキラリと輝く。ふと嫌な予感がしてホバーで横に飛びのくと、タスっと地面に尖った金属片が刺さる。そこそこの長さが有る。あんな物が刺されば怪我で済まない。しかし、意味が分からない。どのタイミングであれを出現させた? 魔術は放てば基本的に前進するだけだ。後方に迂回しての経路なんて設定出来ない。それに、魔素から魔力に変換する予備動作も無い。不可解だ。何かタネがある。


 出し惜しみせずにクロスボウを射かけて、殺した方が良かったかな……。どう考えても面倒臭い相手だ。そんな事を考えながら再度グレイブを構える。


 ローブの魔力の精製が始まる。一拍置いて相手の目前に煌きが走る。確認するかしないかで、大きく横にホバーで移動しながら徐々に接近していく。向こうは打ち払いのタイミングを外したのか鉄の塊を浮遊させたまま、こちらの動向を伺っている。心なしか、腕の震えが見える。あぁ、過剰帰還か。苦しいだろうな。

 ローブに向かい一直線の進路を取ると、相手が打ち払いの仕草を見せたので、一気に九十度角度を変えて横っ飛びに進路を変える。脳みそがGに耐え切れず血の気が引くが真横を鉄の塊が勢いよく抜けていくのを見ると、読み通りだと考えて良いだろう。後、何かが割れるような音が頭の中で響いた。何、今の……。


<『術式耐性』を超える魔術を受けた為、消去しきれず『術式耐性』の膜状結界が割れました。再構築までは五分程かかります>


 識者先生の囁きが頭の中で響く。『術式耐性』って減算ではなく消去だから、閾値を超えると効果が現れないどころか、そのまま通しちゃうのか……。知れて良かった。過信するところだった。


 見ると、ローブがこちらを向きつつも嘔吐を始めている。もう、限界なんだろう。こちらは最初の石板を生んだのと、後はホバーだけ。魔術戦は如何(いか)に魔術を無駄遣いせずに相手を制圧するかだ。あんな勢いで撃っていれば限界もすぐに来る。そもそも戦術の段階でエラーを起こしている。きっと絶対の自信を持って今までやって来たんだろうけど、一人で戦うには限界が存在する。それが分からなかったのが敗因だろうな……。

 虚しい気持ちを抑えながら、土魔術で石槍を作り出し、放つイメージを作り上げる。ローブの下に何を着込んでいるかが分からない。これで行ければ良し。駄目なら頭部周辺に延々風魔術を叩き込めば良いか。そう思いながら土魔術を放とうとすると、ローブが再度魔力の精製を始める。くそが死なば諸共かよ。

 魔術の維持を諦め右にホバーで飛ぶと、ナイフのような煌きが左腕のギリギリを抜けていく。それで力尽きたのかゆっくりとローブが倒れる。これで終わりかな。そう思った瞬間、前方の重装歩兵から声が微かに飛ぶ。


「ヒロ!! 後ろ!!」


 その声を聞いた瞬間、再度右にホバーで飛ぶが、左腕にざすっと言う音と共に、熱さが走る。その後、脳髄に走る、痛み。見ると、左前腕の中央辺りにざっくりと切れ目が走り、血が噴き出し始めている。痛みで集中が途切れそうになる中、何とか神術で治癒するイメージを作り上げて、実行する。痛みが消えるが、幻痛に体が強張る。

 ローブの方を見ると、もうびくびくと細かく震えるだけだった。兜か何かを着込んでいても知らない。痛みの記憶に浮かされるように、風魔術を並行で生み出し、ローブの頭に叩き込む。きゅぼっと言う音と共に、ローブ全体がたなびき、頭部が破砕するのが分かる。再度魔術を構築しようとすると、後ろから抱き着かれて押し出される感触を得る。


 <スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。対象の持つスキル『属性制御(鉱)』1.36『属性制御(念)』1.72。該当スキルを譲渡されました。>

 <スキル『獲得』より告。スキル『獲得』の条件が履行されました。対象の持つスキル『属性制御(火)』2.12『術式耐性』1.12。該当スキルを統合しました。>


 <告。『属性制御(火)』が2.00を超過しました。>

 <告。『属性制御(鉱)』『属性制御(念)』『術式耐性』が1.00を超過しました。>


 『獲得』先生と『識者』先生の声。


「ヒロ、もういい、もういいよ。もう終わった」


 背中の硬さとほのかに伝わる温もり……。

 終わり……終わり……終わった……?


「あぁ……リズ。ごめん。ちょっとぼーっとしてた。うん、終わったね」


 初めての負傷。痛みがあそこまで思考を奪うとは……。


「他の状況は?」


「ヒロが倒した分は止めを刺したよ。後ろの様子は分からない」


「分かった。ドルと一緒に重装歩兵隊を下げて。後は残党狩りが終わったら、戦争も終結。お疲れ様」


「もう、ヒロ、無茶し過ぎだよ」


「ごめんごめん。さぁ、凱旋しておいで」


 そう言って、リズの背中を押す。


「うん。死体はひとまとめにしている。そいつも移動させないと」


 リズが、ローブを指さす。


「そうだね。後片付けはしておくよ。ドル達に伝えて」


「分かった」


 リズが頷き、走っていく。スキルの譲渡が行われたのなら止めは入っているはず。ローブに近付き、めくると、軽装の革鎧に、全身の入れ墨。この衛生環境で入れ墨と言うのもあれだが、そもそも入れ墨の文化が有ったのかと思っていると、首元に彫られた小さな四の漢数字。


「識者先生、何か別のマークを変換して見せている?」


<視界に変更は加えていません>


 釣り野伏と良い、この漢数字と良い、何か気持ちの悪い、嫌な予感を感じる。それに今まで知らなかった魔術……。オークに何か有るのか?


 そう思っていると、陣の中央の方で歓声が上がる。今は、良いか。まずは戦争の終結を祝っておこう。ロット達がどうだったのか。まずはそこからかな。向かってきた兵にローブの死体を別にするようにお願いし、陣の中央に向かう。

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