第501話 初めての戦争、掃討戦の終結
鬨の声を上げながら、左右の疎らな木々と草むらを抜けて、オーク達が殺到して来る。隊列っぽい隊列は無く、各々の判断で殺到している様子だ。ただ、こちらの事情からするとやや面倒臭い。
左右に二台ずつ間隔を空けて展開した馬車に一回で撃てるのは五人ずつ。計十本の弾幕しか作れない。隊列を組んでくれるならその周辺に叩き込めば勝手に当たるが、バラバラだと狙いが被ったり、照準をきちっと合わせないと当たらない。本当に相性が悪い。
馬車の横と背後には軽装歩兵が展開している。馬車に取りついたり、馬車の横を抜けて来る相手への壁として展開してもらっている。本当ならここに予備の弓兵を並べたいのだが、相手に目が有るかもしれない今、目立つ場所に展開出来ない。
これ、正規兵相手の戦術じゃ無いな……。基準が乱戦に引き込んで引っ掻き回す戦術だ。オークが単体で考えだせる戦術とは思わない。不正規戦闘の類だ。武器が銃なら、現在の地球でも普通に成り立つ。
オークの叫びに負けない勢いで太鼓の乱打が聞こえる。ロッサが冷静に見切って照準を合わせるように指示をしている。
オークの第一波が草むらから抜けて、馬車に張り付く寸前まで迫ったところで鐘の音が響く。ブツっと言う発射音と共に、接近したオークがもんどり打って倒れていく。止めは後で良い。あの状況なら、死んでいなくても継戦能力は無い。
射出した後は太鼓のゆっくりとした連打が響く。馬車の五人が控えの五人と交代するのだろう。その間に背後で再度クロスボウを引き直す。故障が出たなら予備兵と交代だ。外の予備兵の引いたクロスボウを渡しても良いが、狭いので取り落としや事故につながるので禁止している。クロスボウ兵達は、横の人間と相談しながらどれを狙うか決めている。
再度太鼓の乱打が聞こえる。第一射から免れて馬車に取りついているオークも少数いるが、射出口が上部にあるので、槍で攻撃する事も出来ない。かと言って横に向かっても軽装歩兵が用意して待ち構えている。死地だ。絶望に顔を歪めながら、馬車に延々と槍を突きたてようとしているが、装甲板は貫けない。
オークの第二波が接近しきる寸前に、再度鐘の音。草の上にどざっと倒れ伏すオーク達。軽装歩兵の方に向かって来られたら少々の怪我は覚悟したが、馬車に気を取られているなら問題無いかな。同じ流れで第三波が駆逐されたところで、接近して来るオーク達の足が止まる。恐怖と不審で動けなくなったのだろう。ここか……。
「伝令!! ロッサに馬車に張り付いている相手以外への射撃を停止。フィアに軽装歩兵への進撃を指示。蹂躙しろ」
「は!!」
伝令達が、走り出す。『警戒』で確認出来るオークの伏兵はじりじりと後退を始めている。鐘の乱打が聞こえる。自己判断で身近な敵を撃つ指示だ。これで至近の敵は制圧完了だし、後は浮足立っている相手だけだ。
伝令が届いたのか、軽装歩兵達から鬨の声が上がる。左サイドではフィアが、右サイドでは七等級のリーダーがそれぞれ先陣を切って走り出す。統制された人の波がオークの残党に襲い掛かる。
後の兵を置いて、『敏捷』を全開にしたフィアが、物凄い勢いで草むらの中を疾走し、オークに切りかかる。背中を見せていたオークはあっさりと倒れ伏す。他のオーク達もその様子を見て、逃げるのを諦めたのか、構えるが士気は限りなく低い。フィアが切りかかった勢いのまま飛び込み、美しい斬撃で盾の合間を縫い、首元を切り裂いていく。鎧袖一触、触れれば倒すような勢いで左側の敵はフィアが屠っていく。あー。確かに士気は下がっているけど、フィア一人で何とかなりそうなところが怖い……。訓練頑張っていたしな……。その勢いのまま後ろの兵が殺到し、大波が薙ぎ倒すかのように残りを倒していく。
右側は人の波が綺麗に集中していく。斥候が指示を飛ばし、個々のオークに蟻が群がるように殺到し、次の獲物へと向かう。その流れが淀み無くスムーズに進んでいく。人を使うと言う部分ではやはり一日の長が有るのかな。
これで、釣り野伏自体は食い破った。後は、前方でバヅンバヅンとショットガンでも当てているような音が響いているローブのオークの片付けか……。
「伝令。仲間達各員に告げて。私はこれから重装歩兵の支援に向かう。皆はオークの残党及び斥候と協力して監視している相手を探し出して対応。問題があれば、重装歩兵の方に伝令を出して」
「分かりました!!」
残っていた伝令の大部分が、一気に走り出す。さて、正念場かな……。
気合を入れ直して、ホバーで重装歩兵の方へ向かう。しかし、何の音なんだろう。土魔術で石礫と言っても音の重さが違うし、あんなに並行魔術を行使したらあっと言う間に過剰帰還だ。
ざんっと草むらを突き抜けて、重装歩兵の後ろに降りた瞬間、ローブで顔を隠したオークが右腕を振るう。それに合わせて、何か銀色っぽい塊が勢いよく飛来する。重装歩兵達が一斉に盾を上げて壁を作り、そこに当たった瞬間、金属音を響かせる。
「ドル!!」
「リーダーか。あれは厄介だな。三匹程倒してからはずっとこの連続だ。盾を構えさせられて、その後は……」
残りの六人のオークが草むらに隠れるように低い姿勢で接近して来て、槍を重装の隙間に差し込もうとする。それを盾を取り回して防御すると、さぁっとオーク達が引き、ローブが再度腕を振るう。がー、練度高いな。
「いつかは疲労でこちらが優勢になるが、もう森も近い。連打されては取り逃がす」
同じことの繰り返しと言っていたが、敗色が濃厚な事を悟ったのか、じりじりと後退していたのだろう。もう、森の入り口寸前まで来ている。
近付いてきたオーク達の見える部分にレティクルを張り付けて、土魔術を叩き込む。風だと照準をきちんと合わして露出している部分に当てないと貫通しきれない可能性もある。そこそこ大きめの石なら高速で当てれば、効果は出る。うめき声を上げながら倒れ伏すオーク達。残りは、ローブだけか……。倒れたオークの止めはドル達に任せてホバーで大回りに森の前に出る。ローブがざぁっと草むらを掻き分けて重装歩兵から足早に離れてこちらを睨みつける。
「どうせ言っても理解出来ないだろうけどさ。さぁ、始めようか。ここが君の死地だよ」
グレイブを構え、相手の視線を食い殺しながら、集中を始める。




