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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第500話 初めての戦争、開戦

 森の浅い場所まで迫っている旨の報告を聞き、地図で詳細な場所を確認する。そこからは、まばらな林と背の高い草むらが続くが、抜ければ見晴らしの良い草原だ。そこを戦場にする為、手前まで移動を開始する。動く兵を見ているが兵の皆の様子はそう悪くない。ノーウェの兵だと練度が高過ぎて良く分からないが、少なくとも現状に不満を抱いている兵はいないようだ。きちりきちりと指示に反応してくれる。戦闘が始まれば大混乱だろうし、現状でこれならまだましなのかな。


 伝令の頻度が上がり、所定の位置に陣を敷いたタイミングで森を出たとの報告が入る。と言う事はそろそろ進軍して、こちらの視界に入る頃かなと考える。

 陣としては、重装歩兵の三十の内二十を壁に十を予備兵力として中央に配置させる。重装歩兵の両斜め後ろに装甲馬車の側面を展開する。六十を車内に配置して残りの七十は予備兵力として馬車の後方及び中央に配置する。軽装歩兵は一旦中央後方に纏まってもらい、追撃戦の時に一気に前に出てもらう予定だ。

 態々演説の必要は無いかなと眺めながら思う。皆にとっては、戦争と言うより魔物狩り、それも自分達より少数相手の戦いで考えている。今変に何かを言っても、モチベーションを損なうだけだろう。


 そんな事を考えていると、視界の先に微かに動くものが見える。馬車から体を乗り出して前方を見ているロッサ。見ると、こちらに振り向き、頷きを返してくる。


「総員戦闘準備。オーク共が視界に入った。これより、戦闘を開始する」


 伝令に告げると、すぐさま走り出す。波のように全体の雰囲気が変わっていく。通信機器なんて無い。もう、この環境で何とか戦うしかない。思考を切り替えて、前方を睨み続ける。


 徐々に敵の姿が鮮明になってくると共に、こちらの兵全体に困惑の雰囲気が広がってくる。敵は百人強。それはずっと斥候から伝えられた情報で変わっていなかった。それが、目前に現れたのは三十程度の集団だった。森を出てからの伝令がまだ到着していない。敵に発見されないように大回りにこちらに向かっているので、敵の方が先に着いたのだろう。何が起こった……。


 こちらの陣を見つけたのかオーク側に動きがみられる。三十程度の集団が悠然と隊列を組んで、進軍してくる。意味が分からない。見晴らしが良いので、軍を分けても攻めきれない。それも分からないのか?


 徐々に近づいて来るオークの軍。その編成を見て、何を考えているのか予想が付いた。


「畜生!! 誰だ……誰が教えた……。どうやって!?」


 予備兵力を乗せた馬車の壁面を叩き、呟きが漏れる……。一当てすれば、間違い無く分かる……。


「伝令!! 重装歩兵部隊に通達。前に出て、攻撃を開始。ただし、衝突した地点より前進する事は許可しない。その場で待機して応戦。相手が後退した場合はそのまま見送れ。これは厳命。絶対に追うな」


 考えが正しければ、オークは間違い無く引く。くそ、参謀が欲しい。この世界の軍事常識が分からない。でももし、考えが正しくて、人間側に無い戦術をオークが使ったのなら……。


 伝令が伝わったのか、重装歩兵が横列を維持したまま向かって左側に進軍していく。左に盾を持っているので正面衝突よりやや斜めになって左手から右手に切りつけるように動く方が動きやすい。距離的に十分と見たか、十人横列の先陣のドルが右前方に駆け出す。それに続くように前列が走り、やや遅れて後列が進みだす。後列の殿(しんがり)はリズだ。

 目前に迫った段階で、オーク達が腰に下げた桶から何かを投げ始める。糞と泥の塊か……。重装歩兵達はその身を覆う大盾を軽く上げて、全てを盾で受け止める。それはもう、考慮してある。大盾の覗き穴さえ防がれなければ継戦能力は変わらない。ここからだ。

 速度を微妙に落としながら、ドルの一撃がオークの端に入る。進撃の端緒。ここから、やすりで削るように重装部隊がオークの軍を削っていく。相手も槍で突こうとしているが重装相手には役者が不足しているし、大盾に身を隠したままのこちらに通る訳もない。みすぼらしい軽装の歩兵が完全に削られた瞬間、少し距離を置いていた十名程が一気に逃走を始める。装備の質が全然違う集団。やはりか……。勢いのまま追いそうになる兵をドルやリズが制止している。戦場の興奮に流される事無く、何とかその場で立ち止まり、陣を再編し始める。


「伝令。弓兵部隊の馬車を縦列に変更。陣の左右を固める形に変更。装甲板も付け直して。後、斥候隊からロットとティアナを呼んで欲しい」


「恐縮ですが、オークは前進して来ます。横側に防備を置くのですか?」


 伝令が恐る恐るのように聞いてくる。そうだろうな、その常識なんだろう……。この世界では。


「オークの本命はこのまま引きずり込んでの三方面での攻撃だよ。信じて欲しい」


「分かりました。差し出がましい事を申しました、直ちに命令を実施します」


 そう言うと、伝令達が飛び出すように駆け出す。オーク達は逃げ出した後に追って来ないのを戸惑ったように様子見をしている。滑稽だな……。でもその滑稽さはこちらが何をやろうとしているか知っているからだろうな。あぁ、他の場所の人間は寡兵相手に大損害だろう。



 これ、釣り野伏だ。



 伝令が伝わったのか、ロットとティアナが向かってくる。


「どうしました、リーダー?」


 ロットが不思議そうな顔で聞いてくる。このタイミングで呼び出したのと追撃をしないの、どちらもだろうな。


「オークの目的が分かった。森を出てからの動きを見ている斥候が戻れば分かるけど、本命は森から伸びた林辺りに潜んだ後続での挟み撃ちだよ」


「オークよね……。そんな事を考えているの……?」


 ティアナが不審そうに聞いてくる。


「確実な事は分からないけど、あの中途半端に戸惑っている集団がおかしいよね。あれ、こっちの軍が動き出したら間違い無く逃げる。それは、良い。問題はもう一つ。絶対に監視の目が付いている。私だったらそうする」


「監視……ですか?」


「状況を見る為だけに単独で点在する兵がいるはずだ。斥候隊は最小限の予備を残して軽装歩兵の予備から二名ずつを護衛に抽出。森から林の方まで散開して欲しい」


「どこと言うのは分からないのね?」


「分からない。ただ見える場所には、いる筈。そいつらを逃がすと面倒な事になる。頼りにしている」


 そう言うと、ロットとティアナが少し考えた後に頷き、走る。

 もう、魔物と見るのは止めた。相手は人間以上に狡猾な指揮官が指令を出している。現場の考えじゃ無い。こうしろって言う形で命令されているのだろう。だから、状況が変わるとあんなおかしな行動になる。それにそこまで狡猾に考えているなら、結果が知りたい筈だ。その目を全部摘むと言うのも一つの情報を渡す形になるが、クロスボウの情報を抜かれる事に比べれば些細な事だ。


 ロット達がフィアと相談して、予備兵力から人員を抽出して即席のパーティーを作っていく。時を同じくして、森側で待機している斥候からの伝令が向かってくる。


「オーク達は森から出た後に軍を分けて林に伏せています。遠目の為詳細までは追えませんが、林の左右に配しているようです」


 これだけ情報収集に重点を置いていても、この速度でしか最新情報が入らない。ノーウェなら不審に思って待つかもしれないが、他の魔物を舐めた指揮官は間違い無く最初の一当てで術中に嵌まる。そのまま情報を得る事も無く前進して、挟撃されるだろう。畜生、これでどれだけの被害が出るか……。西側に向かった集団はノーウェが何とかするだろうけど、北に向かった集団はロスティーがいない。もしかすると、もしかするか……。いや、今は考えてもしょうがない。


「分かった。引き続き、伝令を頼む」


「畏まりました」


 そう言うと、馬に乗って伝令が、また大回りに森の方に駆けていく。流石に襲われる事は無いだろうが心配は心配だ。何が起こるか本当に分からない。戦場の霧と疑心暗鬼に心が曇っていくのが分かる。あー、もう。責任は自分に有る。信じる事しか出来ない。なら何をするかなんて、分かっている事だろう。


 馬車の準備が終わり、全軍を重装歩兵の壁まで前進させる。


「全軍傾注!!」


 私が叫ぶと、ざわついていた軍がシンと静かになる。


「相手側の目的はこのまま森近くまで引きずり込んで、左右からの挟撃である。弓兵部隊は出現した左右の軍を打撃。その後に逃亡する場合は軽装歩兵での追撃を行う」


 そう言うと、状況を把握したのか、全員が真剣な顔でこちらを見てくる。


「相手を舐めるな。何をしてくるかは分からん。それでも友軍はいる。それだけを信じろ。必ず戻るぞ!!」


 そう告げると、ダスダスと槍や盾を地面に叩きつける音が連打され始める。しじまを流れる潮騒のように静かに少しずつ激しくおう、おうと言う掛け声が聞こえてくる。それが最高潮に達した段階で、右腕を上げる。辺りがさぁっと静まり返る。


「全軍、進撃開始。狩りつくせ!!」


 右腕を振り下ろした瞬間、重装歩兵達が力強く、一歩、また一歩と踏み出す。

 それに合わせ、左右に展開した馬車がゆるりと進みだし、軽装歩兵達が前に出る。

 斥候部隊は左右に大きく散開し、ローラー作戦のように『警戒』で監視役、あるいは伏兵を探し始める。暗殺は無いと思うが、それも考慮しないと駄目な世界か……。


 こちらが動き出すと、やっと前方のオークの集団が逃走を始める。その中にいる、ローブのような物を纏った一体。あれがこの軍の指揮官だろう。釣り野伏の釣りは難易度が高い。高い練度の集団が指揮官に連れられて初めて成功するような物だ。細かい指示を出しながらでないと、釣る事も出来ない。あれが本命。あれが左右の軍に指示を出せば、用済みだ。その時点で狩れれば良し。はぁぁ、勇者でも何でもないんだがな……。


 ホバーで一気に前に出て、重装歩兵の壁に到達する。


「ドル、あれ見える?」


 こちらに気付いたのか、リズも寄ってくる。


「あの一匹だけ服がおかしい奴か?」


「あれが本命。指揮官の筈。あれは、私が叩く」


「ヒロ!?」


 リズが叫んでからしまったと言う顔になる。左右の兵がこちらを向くが、何でも無いと伝えると安心したようにまた歩き始める。


「何を隠しているか分からないから、遠距離から倒しちゃう。弓兵は側面への対応で一杯一杯だし、ロッサも指揮で手一杯になっちゃう」


「ふうむ……。指揮が前に出るのは感心出来んが……」


「北の森のオーク見ていたよね。向こうの親玉が何をしてくるかが分からない。正直、こんな戦いで損害が出るのも馬鹿らしい。敵の左右の軍が動き始めたら、私に出来る事ってほぼ無い。クロスボウでやっても良いけど、馬車の中以外から撃っている姿を見られるのは嫌だ。軽装歩兵の追撃が始まるまで、とにかく怪我をしないように守るのを優先にして欲しい」


「分かった。狩れるのは狩るが……。先程の楽さに慣れてしまっただろうからな……。兵達には厳重に通告しておく」


「うん、あの残りは厄介だ。本当に選抜されてこちらの追撃に耐えると信じられている筈だから」


「ヒロ……。無茶はしないでね」


 リズが重装の面当てを上げて心配げな顔を晒す。


「大丈夫。無茶はしない。必ず戻るから」


 リズの軽く頬に手を当てて、微笑む。

 視界の端に林が見えて来る。重装歩兵に付けている斥候に反応は無い。伏兵をかなり下げているのだろう。『警戒』対策までやるか……。なんて面倒な……。


 再度、下がって密集した中央に戻る。

 森の外縁ぎりぎり辺りまで後退したローブっぽい物を着たオークが、腕を上げると、空中に爆炎が広がる。暫くすると、各所の斥候が反応する。


 さて、第二ラウンド。本命の始まりかな。

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