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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第498話 ぬくぬくもふもふ

 もらってきた肉を取り分けて、タロとヒメにあげて、水を生んだ辺りで限界を感じた。世界がふわふわしている。


「リズ……起きて……」


 軽く揺すると、細く瞼を開ける。その瞬間がばっと起き上がり、肩を掴まれる。


「ヒロ……顔色悪いよ。大丈夫なの?」


「書類の処理が終わらなかったから、ちょっと寝不足なだけ。大丈夫。朝は食べようかなと思っていたけど、もう、無理かな……。リズは食べてきて。私、少し、寝る……よ」


「ヒロ……ロ……」


 リズが起き上がったのを確認した瞬間、力が抜けてベッドに倒れ込む。そのまま周囲の音も認識出来ず、吸い込まれるように、眠りに就く。


 夢も見ず、ただ泥のように眠った。ふと、顔の近くに気配と柔らかな呼吸を感じる。半覚醒のままリズの悪戯かなと手を伸ばすと、随分毛深い。あれっと思って意識が覚醒する。


「あ、こら。タロ、ヒメも。ベッドに上がったら駄目って言ったよ!」


 目を覚ますと、タロとヒメが顔のそばで伏せて、ふんふんと嗅いでいた。


『まま、よわっているの。ぬくいの、いるの』


『ぱぱ、ぬくいよ』


 二匹がたしたしと前脚でベッドを叩きながら『馴致』で伝えてくると、そっと寄り添ってくる。心配してくれているのかな。


『今だけ、特別。ベッドには上がったら駄目だからね』


『うんなの』


『わかった』


 仰向けに寝転がると、それぞれ脇の辺りに入り込んで鼻を耳の裏辺りに擦り付けながら、くんくんと嗅いでいる。暫く嗅ぐと安心したのか、二匹共そのまま肩のあたりに顎を置いて目を瞑る。ほんわりと温もりを感じながら、私も目を瞑り、再度闇の中に落ちていくように意識を失う。どこか遠くでクスクスと笑うような音が聞こえたけど、夢か幻だろうか。


 再び覚醒したのは、赤い光が目にかかって眩しさを感じたからだろう。薄く目を開けると、夕日の明かりが差し込んでいる。あぁ、一日寝ちゃったか。昼くらいには起きると思っていたけど。左右を見ると、タロとヒメが入れ替わっている。箱の方を見ると皿が片付けられているのでお昼を食べてからまた登ってきたのかな。

 そっと腕を抜いて、頭を撫でると二匹共すぐに覚醒する。


『まま、よわってない?』


『ぱぱ、なおった?』


『もう、大丈夫だよ』


 そう伝えると、二匹が撫でていた指先をペロペロと嬉しそうに舐めてしっぽをふりふりする。そっと抱きかかえて、ベッドから降ろすと安心したように箱に戻って二匹が寄り添うように丸くなる。弱った仲間を温めて治す感じなんだろうな。


 ぐいっと体を伸ばして、軽くストレッチをする。体に違和感を感じなくなったところで、部屋を出て執務室に向かう。何か動きは有っただろうか。


 執務室をノックすると、中からカビアの声が聞こえる。扉を開けて中に入るとレイとカビアが地図を挟んでソファーに座っていた。


「男爵様、御加減はよろしいのでしょうか?」


 カビアが若干心配な色を浮かべて聞いてくる。


「大丈夫。寝不足が溜まっただけだから。寝たら治った。それより動きは有るかな?」


 カビアが、レイの方を向いて頷く。


「動きは有りません。ただ、定期連絡の報告ですと集落への荷物は入って来ていますが、各地へ送り出す動きが無くなりました。補充を完了させつつ、動こうとしているのだろうと推測致します」


 レイが答える。


「と言う事はカビアの予想通り、明日か明後日で確定かな。兵の方はどうかな?」


「はい。男爵様がお休みの間に予定通り、南側の平地で実戦訓練までは行いました。連携に関しても訓練上は問題有りません」


「本番とは違うけど、訓練で動けるなら上出来かな。後はどこまで実戦で出してくれるかだね」


「兵達も元々は兵士ですので、今の動きは出来るでしょう。冒険者に関しても皆さんが良くまとめて下さっています。大きな混乱は無いかと考えます」


「レイがそう言うなら問題無いかな。ただ、戦場で絶対は無いから。状況によっては戦術に修正も加えないとね。まぁ、相手次第だね」


 そう言うと、レイが力強く頷く。戦場を駆け続けた人間がはっきりとアピールするのだから、予想外の事象なんて茶飯事なんだろう。


「柔軟性は持たせた筈だし、指揮にも慣れてくれたからそこは信じる事にする。レイは済まないが集落の方を頼む」


「畏まりました。諜報の方も戦える者を抽出しておりますので、被害は最小限に抑えます」


 レイが当たり前のように言ってくれるが、それが一番難しいと思うのだが。本当に頼もしい。


「カビア、今日の段階で急ぎの案件は有る?」


「いえ。通常の決裁書類だけですね。戦時用の書類に関しては昨日の段階で出揃いました。後は戦時中の議事録と戦後処理ですね」


「はぁぁ、それも憂鬱だけど、終わった話ならまだ気楽か。明日は伝令の結果次第だけど準戦闘状態で待機。動きが有り次第、出発の流れかな。もし動きが無かったら明後日に持ち越しだろう。ちょっと皆には面倒をかけるけど、こればかりは相手の有る事だから仕方が無いしね」


「はい。参加者もそこは分かっております。明日、明後日には動きが有るだろう旨は伝えておりますので、指示を出し次第集合は可能です。ご安心下さい」


 レイが軽く微笑みながら、言う。


「レイに関しては、集落を制圧した後は討ち漏らしが出た場合に集落に戻ってくる分も処理してもらう形になる。二日ほどは申し訳無いけど我慢して欲しい」


「計画通りですので、お気になさらず。食料含めて荷物の準備も完了しておりますし疫病防止策も頂きました。水魔術士も一人頂きましたので問題は無いでしょう」


 疫病対策と言っても、死体を一カ所に集めて、近付く時はマスク代わりに布を口に巻いて行動する事。後、布に関しては使い終わったら煮沸する事程度だ。体調不良者が出ているなら、戻ってから神術で治すしか無いかな。


「水だけは気を付けて。じゃあ、よろしく頼むね。あぁ、カビア、書類頂戴。進めておく」


「よろしいのですか? まだ体調が……」


「大丈夫。寝たら治る程度だから。進める物を進めておかないと、後が辛くなるだけだし」


「分かりました」


 そう言って、カビアが数冊のフォルダを手渡してくれる。


「では、引き続き頼むね」


 そう言って、部屋を出る。部屋に戻ると訓練から帰ったのかリズが装備を外している最中だった。


「手伝おうか?」


「あ、ヒロ。大丈夫? 朝は酷い顔色だったけど。んー。治った……のかな?」


「うん、寝不足なだけだから」


 そう言いながら、リズの背面のベルトを外していく。


「ありがとう」


 全てのパーツを外し、すっきりした様子のリズがソファーに座って、ふにゃっとした笑顔で言ってくる。


「どういたしまして。現場の方はどう? 順調?」


「ドルもいるし、大丈夫。フィアがちょっと苦戦しているけど、だいぶ慣れてきたから安心して見れるようにはなったよ」


「そっか。本当なら、動きは見ておきたかったけど、寝ちゃったしなぁ」


「あ、昼を食べ終わった時に見たけど、何だかタロなのかヒメなのかヒロなのか分からない感じで笑っちゃった」


「はは。さて、準備も終わったか……。始まるね」


「うん。でも、怖くない。ヒロがそばにいるから……」


「んー。恐怖は大事だよ。でも過剰に怖がっていないのは良いと思う。被害が出ないように頑張るしかないよ」


「そうだね……。一緒に、生きて帰ろうね」


「うん。まだまだ色々始まったばかりだしね。こんな所で躓いていられないよ」


 そう言って、リズをそっと引き寄せて、おでこに口付ける。


「無茶だけはしないようにね」


「うん。必ず帰ってくる」


「私も、援護する」


 見つめ合い、呟きあい、どちらからともなく、そっと口付ける。ゆっくりといちゃいちゃするのも久々だなと思っていると、部屋がノックされる。夕ご飯のようだ。二人で苦笑しながら、食堂に向かう。


 ここからまた、少し時間が進む。


 四月三十日は予想通りか動きは無かった。皆も思った以上にリラックスした雰囲気で過ごしているようなので、安心した。

 三十日が明けて、五月一日になった夜中に伝令が駆け込んでくる。


「昼前より炊事の煙の量が明らかに変化しております。それに途絶える事も有りませんのでご報告に上がりました」


 律儀に暦通りか……。レイとも協議し、明日早朝に各員に通達の上、昼前には迎撃の準備を整える形で進める事にした。

 さて、戦争の始まりかな。

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