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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第496話 二児の母のテヘペロって需要あるのでしょうか?

「あら、美味しいわね……。骨を煮込むのが良いのかしら? もう、色々分からない事が有って楽しかったわ」


 ティーシアが顔を輝かせて言う。


「楽しそうでしたが、冷や冷やしましたよ。カビア、助かった」


 カビアに声をかけると、目礼が返る。


「いえ。性格はお伺いしておりましたし、気さくな方と言う形で昨日中に家中(かちゅう)には伝えておりましたが……。来られた次の朝からとは思いませんでした」


 カビアがじっとティーシアを見つめると、可愛く上目遣いで、てへっと笑いながら、舌をペロっと出す。


「元々リザティア様があまり家には手を出されませんので、どのような方なのだろうと言うのは話には上がっておりました。そう言う意味では御母堂が身近に触れ合ってくれるのは嬉しいでしょう。仕える方の顔が見えるのは何にせよ喜ばしい事ですし。その上で、リザティア様をお立てになるのですから」


 そうなんだよなぁ。援護射撃って分かっているから、中々強くも言えない。


「もう、ただの部外者がしゃしゃりでているだけなんだから良いわよ。働いている人達の大体の人となりは分かったから。今後は表立っては出ないわよ」


 ティーシアが笑いながら言う。その言葉に私とカビアが苦笑を浮かべる。はぁぁ、全てはリズの為かぁ……。


「そう言えば、お聞きした事が無いのですが、ティーシアさんって元々のご出身は?」


「ワラニカの王都の方よ。商家の次女だったの。ねぇ、あなた」


 急に振られたアストが喉を詰まらせて、けほけほと咳き込む。


「父がね、狩り狂いでね。子供の頃から色んな森に連れていかれたわ。トルカの南の森の豊かさは有名でね。その時に案内してくれたのがアストなの」


 アストが少し恥ずかしそうにそっぽを向く。


「格好良かったわよ。仕事をかっちりする人なのに寡黙で。でも手助けは忘れない。ふふ。私、それで好きになっちゃって、そのまま転がり込んだの」


「あぁ、分かりました。狩りのメレディア……。毛皮系の豪商です。ダイアウルフの毛皮の件でも一枚噛んでいる筈です」


 カビアが納得したように頷く。ダイアウルフのオークションに絡むとか上級貴族並みの資産が有るって事なのか……。お嬢様じゃん……。だから使用人の扱いも出来るし、きちんとした教育論も有ると言う訳か……。機織り機とか汲々としている猟師の家には分不相応だと思っていたけど、嫁入り道具としたら話も分かる。しかし、よく結婚を許したなぁ……。


「ふぅ……。それで苦労をさせていれば世話は無い。アキヒロが来なければいまだに借金生活だからな……」


 アストが眉根に皺を寄せて絞り出すように声を出す。それをにこにこしたティーシアが抱きしめる。


「それでも一緒にいるのが良いって言ったのは私なんだから。楽しかったし、これからも楽しいわよ」


 あぁ、きっとリズのあの強さは母譲りなんだろうな。ご馳走様と言うところか。


「状況は分かりました。リズの援護は感謝致します。その上で一点お伝えしなければなりません」


 私は顔を真剣な物に戻し、両手を軽く組み、テーブルの上に乗せる。


「お迎えして恐縮ですが、現在『リザティア』は東の森に住むオークの侵攻に晒される可能性が有ります」


 そう言うと、アストが顎に手を当てて、ふむぅとため息とも相槌とも言えない物を吐く。


「現在、『リザティア』はオーク侵攻を前提として準備を進めております。そう言う意味ではお二人にはご不便をおかけするかと思いますが、そこは申し訳無いですがご了承下さい」


「それは構わん。転がり込んだのはこちらだからな」


 アストが口を開く。


「その上で、お仕事をと言う話であれば、ティーシアさんに関しては猟師小屋の横に加工場と蔵を用意しております。そちらで石鹸と油かすの量産をお願いしたく思います。勝手がわからないと思いますので……」


「はい。別途一名侍女を付けます。そちらに作業を引き継いで頂ければと思います」


 カビアが後を継いでくれる。


「分かったわ。仕事が有るなら、助かるわ。何もしないと実家にいる時と一緒だもの。楽しくとも何とも無いわ」


 にこりと微笑みティーシアが頷く。


「アストさんは猟師を続けられると言う話ですが、東の森に関しては安全は担保されております。レイ」


「はい。現状でも猟師ギルドより猟師が森に入っておりますが、オーク達は『警戒』を駆使しているのか人間に接触する事は有りません。それがいつまで続くのかは未知ですが、現状で危険は無い物と判断はします」


「侵攻が始まる前後は危険と考えますので、その際は猟師達全ての侵入を禁止します。加工品の備蓄も有りますし、トルカからの供給も受けられますので。それに猟と仰ってもすぐには無理かと思いますし」


「あぁ。地理の把握をせんと何も出来ん。その辺りは猟師ギルドの方と調整する」


 猟師ギルドの方で、ある程度のテリトリーを各員に管轄させる。その辺りの地理感を掴ませる為に慣れた現場の人間が先達として新規の猟師に配属される。一緒に現場を回りながら、地理感を把握させるらしい。その間の補償も出るので人気だし、実力を認められていると言う事で栄誉な事とは聞いている。


「まず浅い層ではオークに出会う事は無いです。取り急ぎは現場慣れしている人間とご調整下さい。猟師ギルドまでは……」


「はい。侍従を一名案内としてお付け致します。ご用意が出来れば仰って下さい」


 カビアが卒なくつなぐ。


「お二人とも、よろしいでしょうか?」


「こちらは異存無い」


 アストが言うと、ティーシアも頷く。


「後は現場の方か……。ドル、重装の件はどう?」


「抽出した三十名は全員参戦を決めたらしいしな。整備は済んだ。クロスボウの矢も量産はある程度終わっている。問題は大盾だな」


「間に合わなそう?」


「間に合いはするだろうが……」


「あぁ、ネスか。倒れられたら奥さんに悪いし、ドル頼めるかな」


「リズとリナの分は整備もほぼ終わったしな。訓練も重要だが、装備も重要だろうし、俺はそちらを対応する」


「うん。お願い」


 食事を終えた皆を見渡し、すくっと立ち上がる。


「さぁ、想定される日まではもう時間も無い。皆、もう少し頑張ろうか」


 そう言うと、おうと言う掛け声と共に、皆が立ち上がる。それぞれの部屋に向かい、それぞれのやるべき事をこなしに行く。


 私も準備を進めよう。このくそったれな、ふっかけられた戦争でも、少しでも意味を見出す為にも、為すべき事を為そう。


 ここから、少し時間は進む。


 アストは相棒の猟師と一緒に東の森のテリトリーの把握に励んでいる。獲物の濃さはトルカの南の森とそう変わらないらしい。森の規模が大きい分、生息数は多い。生態系を崩さない程度に狩っていっても、都市が完成した後でも胃袋を満たすだけの余地はあるようだ。


 ティーシアは侍女と一緒に楽しそうに油かすを作っては、その油を石鹸に変えていっている。油かすでも市場に出回っている品の中には焦げ臭い物も有る。弱火で油が溶けるギリギリの温度を保ち、長い時間をかけて絞り切った油かすは純粋に香ばしい。乾燥が終わり、市場に出れば大ヒットだろう。余程なら、高品質品として温泉宿の限定品にしても良いかなとも思っている。


 ネスの所に顔を出すと、奥さんに叱られたのか、一時期の痩せた感じは無く隈も無くなっていて安心した。大盾の仕様説明をしたらゲラゲラ笑っていた。


「男爵様におかれましては、盾の最終形をご所望ですか?」


 なんて、ニヤニヤしながら言うから、こちらも笑ってしまった。ネスの凄さはやはり先を見る事と、限界を理解する事だろう。積層型の装甲に関しても話してみたが、短期間での開発は難しいようだ。こちらも炭素含有量の微妙な割合は記憶に無いのでどこかでまた一回日本に戻るかとは考えている。


 仲間の皆もそれぞれの兵達と交流し、少しずつ指揮の形を作っていっている。チャットも冒険者の魔術士達と協力してチームを作り上げていっている。若干フィアが軽装部隊と冒険者との連携に四苦八苦しているようだが、ティアナに斥候隊の指揮を任せたロットがフォローに入って調整を進めている。追撃の要なだけにしっかりと連携して欲しいなとは考える。


 こちらも戦術レベルではどう戦うかは決めたので、動きに関して参加者に説明はした。冒険者に対しては守秘義務契約を結んだので、この戦術が漏れる事は無い。ただ、自分達も利用するだろうなとは考えるので、その内に広まるだろう。ただ、そこまで気にしていては人も使えないので諦める。


 そんな感じで、リズといちゃいちゃしつつ、タロとヒメにいちゃいちゃされつつ、決戦の日は近付く。後悔はしたくない。出来る事はやってしまう。戦争もビジネスも段取りが肝心だ。相手を読んで用意をきちんとした方が勝つ。それを忘れないように、今日も決裁書にサインを書く。もう、サイン書くの飽きた……。

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