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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第495話 ティーシアが厨房を制圧しました

 目を覚ますと、ほんのりと部屋が光に満ち始めている。窓から覗くと、太陽が顔を出し始めたところだ。雲は散って、昨日までの雨の名残は濡れた地面しかない。四月二十五日は晴れかな。

 タロとヒメはぐっすり睡眠中だ。耳がくてんとしているのが可愛い。リラックスしているなと思いながら、部屋を出る。


 厨房で二匹の朝ご飯をもらおうと料理人の人に声をかけると、困惑気味な空気が返ってきた。何か有ったのかと見てみると、ティーシアが厨房に立っていた。


「ティーシアさん、何をしているんですか?」


「あら、おはようアキヒロさん。やっぱり早いのね。もう三日も働いていないから、体が鈍っちゃって。お手伝い」


「あー、そうですか。ゆっくりして頂いても良いんですが……」


 そう言うと、悪戯っぽい表情を浮かべながらティーシアが答える。


「だーめ。お世話になるって言っても最低限の仕事はするわよ。皆さんがどういう方なのか知りたいのも有るしね。それに色々と私の知らない調理方法もご存じのようだし、勉強になるわ」


「分かりました。どうせ、他の仕事もしたいと言うお話になるんですよね?」


「当然。働かないと、倒れるわよ? 暇なのは苦手なのよ。それにこの珍しい調理法はアキヒロさんの考案でしょ? 気になるわ」


 ふふふと笑いながらティーシアが宣言する。

 はぁぁと溜息を吐きながら、厨房内に声をかける。


「はい、皆さん、注目。昨日トルカから来て下さったティーシアさんです。リズのお母さんです。出来れば仲間と思って一緒にお仕事をして下さい。細かい労務条件は後で開示しますが皆さんと条件は変わりません。料理の基礎は出来ますので、色々教示をお願いします」


 そう言うと、戸惑っていた厨房の雰囲気が氷解する。きちんと紹介しないといつまでもぎこちないままだろうし、下手したら貴族の親族の遊びか邪魔みたいに思われそうだ。


「ありがとうね、アキヒロさん」


「いえ。ティーシアさんの性格は分かっていますから」


 そう答えると、嬉しそうにティーシアが微笑み、奥の方に向かって行く。先程まで戸惑っていた料理人達も、ティーシアを迎え入れて、朝ご飯の準備を進めていく。


「と言う訳で、タロとヒメの朝ご飯をもらえるかな?」


 そう言うと、横で様子を窺っていた料理人が慌てて、用意に走ってくれる。


「すみません、お待たせ致しました」


 料理人が笑顔で、イノシシ肉と鳥のモツを用意してくれる。鶏じゃ無いようだけど朝の狩猟で獲れた物なのかな。

 イノシシのモツは大腸と脂身は油かすに移行だろう。ティーシアも来たし、トルカの油かすの権威が来たからには量産が始まるのだろう。『リザティア』でも生産はしているが、全然需要に供給が追い付いていない。

 ワラニカの隊商はトルカで買う事も出来るのであまり『リザティア』で買い漁らないんだが、ダブティアの方にしてみれば日持ちのする肉でスープに入れるだけという手軽さ、それにコクが出ると言う利点で保存食系ではかなり人気が急上昇中だ。そもそも乾燥しているので軽い故、荷物にならないのも好ポイントらしい。町でも、オートミールを油かすと野菜を煮込んだスープで出す店も出ており、徐々に好評になっている。なので認知もされている。そのタイミングで原産地トルカの第一人者の登場だから、フィーバーが始まるのかな。


 そんな事を考えながら部屋に戻る。昨日、少し寝るのが遅かったからか二匹は扉を開けても寝ている。少し離れた場所に食事の皿を置くと、たしたしと前脚で何かを引っ張る仕草をする。可愛いなと少し眺めていると、ヒメが目を覚ます。


『ぱぱ、イノシシたべた!!』


 ウォフっと鳴きながら、それでも目の前に肉が有る事に混乱している。どうも覚醒間際の夢で肉でも食べていたのかな。ヒメが起き上がったのに触発されたのかタロも起きる。目の前の肉に突進しようとするが、待てをして二匹が落ち着いたところで良しをする。食べ終わり水を飲み終わるのを待ってイノシシの大腿骨を背後からひょこりと見せる。ぱたぱたぱたとしっぽを凄い勢いで振り、二匹がはっはっと興奮し始める。ほいっと渡すと、がつがつと噛み始める。そろそろ木の骨の玩具も在庫が心許ない。小さめの頃は良かったが、最近興奮したら、噛んで粉々にしてしまう。大工に頼もうかなと思いながら、ベッドに近付く。


 昇り始めた太陽に照らされたリズはほのかに輝き、まるで女神のようだ。って『祈祷』で聞かれたら怒られるか? 流石に伴侶最高は有りですよね?


『是』


 テルフェメテシア、もう少し隠して。聞いてない。確認、確認だけ。

 よくわからない事に若干疲れながら、リズを軽く揺する。ふわっと瞼を開けたリズが目をぱちぱちとした後に、安心したようにほっと息を吐く。


「ん、どうしたの?」


「ううん。なんだか、今までの事が全部夢だったみたいな気持ちになったの……。でもヒロがいる……。その事に安心したの」


「きっとお父さんやお母さんに会ったから、安心したのかもしれないね。大丈夫、私はここにいるよ」


 微笑みながら、抱き起こす。


「あ、私、また、寝過ごしちゃった?」


「良いよ。する事が違うんだから。ゆっくりと休んだら良い。役割分担。それじゃ嫌?」


「ううん。でも、ヒロ、甘やかし過ぎ?」


「奥様を甘やかすくらい甲斐性が無いと、貴族なんてやってられないよ」


 そっと持ち上げて、ベッドから降ろす。


「さぁ、ティーシアさん、もう起きて働いていたから。何か手伝えることが有れば手伝いに行こうか」


「もう、お母さん……。どこに行っても一緒なのね……」


 リズが苦笑を浮かべながら、私を扉の方に向けて着替えを始める。


「変わらないのは才能だと思うよ。健康に生きてくれるのが一番だし」


「ヒロ、ちょっと甘すぎ。でも、ありがとう。二人の事考えてくれて」


「私の父母でもあるからね。大事だよ」


「ふふ、嬉しい。じゃあ、行こっか」


 リズが上機嫌で微笑み、扉を開ける。それに着いて、食堂に向かう。


「あら、リズ起きたの。おはよう。もうそろそろ出来るわよ」


 食堂では、ティーシアが髪の毛を括ってテキパキと作業を進めていた。料理人も負けじと対応しているが、いつもよりペースが早い。今後は皆ちょっと早起きになりそうだなと苦笑しながら、手伝いを申し出ると、料理人達に遠慮される。


「ほら、悠然となさいな。貴方達は変な気を回さなくて良いの。先に食堂で座ってなさい」


 ティーシアがにこりと迫力の有る笑みを浮かべて、迫ってくる。


「お母さん、危ないよ。でも……」


「皆、矜持を持って現場で働いているの。私はただの部外者だから良いの。貴方は当事者よ。きちんと評価をしてあげなさいな」


 ティーシアがリズの耳元でそっと囁く。そのまま肩をぽんと押す。


「お母さん……」


「さぁ、皆もそろそろ起きて来るわよ。頑張りましょう」


 ティーシアが叫ぶと、料理人達が一斉に返事をして、最後の仕上げにかかる。はは、人を伊達に使っていた訳じゃ無いか。


「リズ、席に着いて待とうか」


 そっと肩を抱いて、囁く。こくんとリズの頷きが返る。


「ヒロ……難しいね」


「ん? 人を使う事?」


 食堂の席に着くと、リズがしゅんとしながら、呟く。


「んー。さっきの件は私が悪いから謝るけど。人を使う件に関してはあまり気にしない方が良いよ」


「でも、お母さんが言ってた……」


「あれは意識の問題だしね。リズは泰然自若としていれば良いと思うけど」


「ヒロ……時々凄いよね……。私、ちょっと分からないよ」


 リズが呆れたように見つめて来る。サービス業に慣れた身としては、対価にサービスを受ける事には慣れているから気にもならない。どれだけこちらが気を遣うかだけだ。


「リズ、これに関しては考えたら疲れるだけだから。こういうものなんだって割り切った方が良いよ。その上で、良い所、悪い所だけ見ていれば良い」


「そう言う物なの?」


 リズが若干上目遣いで見つめてくる。


「そうだね。好き嫌いが有るのも人間だしね。合う合わないは勿論有るし。ティーシアさんの言い分も正しいけど、全部じゃないよ。長い時間で磨かれる感覚でも有るから。私、いつも言っているよね。リズは頑張っているって」


「うん」


「別にあれ、リズを慰める為に言っている訳じゃ無いよ。リズが本当に頑張っているから言っているだけだし。人は頑張り過ぎてもいけない。何かをすべきって考えると辛くなっちゃう」


「すべき……。うん、働いている人をきちんと見るべきって少し考えていた……」


「そうなると、もう苦痛だよね。人を見る事は義務じゃ無い。家を守る一つの手段だしね。言い方は悪いけど全員解雇して自分で回しても良い。大変だけどね」


「ヒーロー……!」


「ごめんごめん。でも、その程度の話。誰かにやってもらいたいなら、誰かを信じるしかない。それを信じられるかどうかだけだから。払った対価分働いてくれれば御の字程度で良いよ」


「そんなので良いの……?」


「人を見る目なんてね、余程長く生きて人間観察を繰り返さないと成長しないよ。だから、気長で良い。ティーシアさんが言いたかったのはもう少し未来の話だよ。だから、頑張らない。頑張ったら駄目。頑張っていると言うのは無理しているのと一緒だから」


「頑張らない……」


「でも怠けて良いと一緒じゃないよ。自分が出来る事をやれば良い。それで足りないなら誰かが教えてくれる。それが無理なら相談すれば良い。そうやって自分の出来る事を増やしたら良いよ」


「分かったような……分からないような……」


 私は苦笑を浮かべ、リズの頭をぽんぽんと撫でる。


「それも追々で良いよ。今は私もいる。無理だと思えば止める。だから、自分の生きたいように生きてみて。足りなかったり変な方向に進んだら言うから」


「うん、分かった」


 太陽のように明るい笑顔を浮かべ、リズが頷く。同時に扉が開きロット達が入ってくる。さて、朝ご飯かな。

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