第473話 永久機関って言う響きに憧れます
広告で申し訳無いです。少しだけ告知です。
新作の『アソールト ―殺戮の対価―』連載を始めました。
小説家になろう
http://ncode.syosetu.com/n2569dl/
カクヨム
https://kakuyomu.jp/works/1177354054881207438
こちらもどうぞ、よろしくお願い致します。
「男爵様」
「ん、何?」
「揺れますので、戻られてからの方が良いのでは?」
戻ってから時間が取れるか分からなかったので、天秤棒と桶のデザインとポンチ絵を描いていたら、様子を見たのかテスラに窘められる。
「館に着いたら、絶対何かあるんだよ。寝る時間削らないといけないから嫌だー。まだ決裁書類溜まっているし」
「いえ。男爵様が良いのなら何も言いませんが……。なるべく揺らさないように進めます」
「助かるよ。最近、妙に忙しくてね。いや、自業自得の部分の方が多いんだけど」
「男爵様は……ご自身で仕事をお作りになられているかと……」
テスラが遠い目をしながら、申し訳なさそうに言ってくる。
「あー。うん。自覚はあるんだけどね。儲けの種は多めに作っておかないと心配だよ。育つまでに時間もかかるし」
「それだけ種をお持ちと言うのも凄い話ですが」
そんな感じで雑談を楽しみつつ、天秤棒の設計図をフォルダに仕舞う。これはカビアに渡して大工に持ち込んでもらえば良いか。
急ぎで決裁しないといけない書類を取り出し、ポクポクと揺らされながら、読み進めていく。
町開きの屋台の配置とか政務の方に渡してしまいたいけど、将来的に利権が絡みそうだし中々難しい。歓楽街の方の屋台は商工会が、がっちり仕切っているので、その辺りは心配無い。この手の一時のお祭りゆえにここまで決裁が上がってきている。ざーっと並びを確認して、食べ物の匂いが干渉しそうな屋台だけを配置換えして、決裁する。
次の書類は……あれ? 公衆トイレの増設願いか……。人が増えたって言ってもそこそこの数を配置している。男女も分けた。んー、あぁ十等級の仕事を増やしたいからか……。これ、冒険者ギルドの横領じゃ無いのか? ハーティスに文句を言っておこう。何か嘘臭い理由を述べているけど、証拠を提示してもらわないと。陳情も上がっていないし、民の方が必要としていないから、却下。
次は、職人と政務の女の子の婚姻許可願いか……。合コンの成果が出ているなぁ。肉食系を通り越して猛獣系とかになってないと良いけど。政務の女の子の身許は確かだし、職人もネスの所の新人だ。ちょっと歳の差があるけど、本人が納得しているなら良いかな。家も女の子の方に頭金を支払うだけの資産もあるみたいだし問題無いな。どうせ、すぐに貯蓄も出来るカップルだ。安心安全と言う事で、決裁と。
館に着く頃には念の為に持ってきたフォルダが半分くらい片付いた。隙間時間、超重要。使えるか使えないかで、仕事の量が劇的に変わる。睡眠時間もだけど。
箱を手に、馬車から降りる。執務室に直行してカビアを呼ぼうかなと思ったら、部屋の方からチャットが走ってくる。あれ? もう帰って来たのか。早いなぁ。お昼かな?
そう思っていると、がしっと服の裾を掴まれる。
「分かりました!! 説明しますさかい、時間下さい」
「はい。って、執務室で良い?」
「行きましょう!!」
チャットが何だか興奮気味に言うと、裾をそのまま引っ張っていく。だめー、伸びちゃう。急ぎ足で追いながら、執務室に入る。中ではカビアが書類の整理をしていたが驚き顔でこちらを振り向く。
「男爵様、如何なさいました?」
「いや、ちょっと魔道具の件で。お昼まだだよね。お茶、淹れてもらってくれないかな。あ、こっちは決裁済みの書類。ここから否決」
「分かりました。書類は確認しますが、人払いはいりますか?」
「念の為にお願い。カビアはどうする? 聞く?」
「精神衛生上、聞かない方が良い気がしますので、必要な時にお教え下さい。お茶は用意させます。暫しお待ち下さい。書類は部屋で確認致します」
そう言うと、カビアが箱を持って部屋を出ていく。
「さて、チャット。私の服と言う尊い犠牲が出かけたけど、何か分かったの?」
何とか伸びずに済んだ。でも握りしめられたところが皺々になっている。後で伸ばしておかないと……。
「そないな小さな事はええんです!! 分かりました、理由が」
小さな事、違う……。中々服屋に行く暇もないから、まだノーウェティスカで買った中古の服を着ている。馬車に乗っていないと領主って分からないんじゃないかなと思うよ?
「理由って、そんなに大層な話なの?」
「どちらかゆうたら、リーダーが異常や、ゆう話になりますけど」
あー。興奮しているのか大分訛っている。しかし、私が異常と?
「学者と魔術士共同で調べたんですけど、結論としては魔素から魔力に変換して利用している量と、核が周囲から魔素を取り込んでいる量が均衡しているか、下手したら取り込んでいる量が多いゆうんが原因です」
「核はその辺りに置いていても魔素を取り込むって言っていたけど、そんなに大量に取り込んでいるの? 見ても殆ど分からない。魔素を魔力に変換して、また魔素に戻している流れは感じるけど」
「その辺り、ずっと研究してはる魔術士の方が確認してくれはったんですけど、魔素が動かしている間も常時増えているんで、間違いは有りません。ただ、増加量ゆうても元々ほんまに微量ですし、リーダーの魔術の効率が良すぎるゆうのが結論ですね。この魔術の使い手を紹介して欲しいゆうて逆にうるさい程でした」
「ん? と言う事は、これ、もしかして、永遠に灯り続けるの?」
「魔素の少ない場所に置いたらあかんかもしれませんけど、普通に置いている限り、永遠に灯ります」
永久機関じゃん……。いや、核が働いている分のエネルギーが何かによるけど、それでも結構規模の大きな話だ。エネルギー革命が起きかねない。
「大問題?」
「大問題になりそうなんで、抑えています。少なくとも口外せんようには伝えています。ただ、リーダーが今後魔道具を作る際は、問題になる思います」
「良かった。まぁ、試作だし、内緒と言う事で。でもそうか……。消費より補給の方が上回っていたかぁ。核の魔素の補給量とか、消費量が明確になるかも知れないね」
「それなんです。要は同じ規模の火球を二個にしたらどうなるか、三個なら? 四個ならゆうて、もう、大紛糾状態ですさかい」
「この火球が単位になりそうだよね」
「笑いごっちゃありませんよ?」
どうも苦笑が漏れていたらしい。
「分かってる。でもちょっと研究協力は忙しくて無理かな。先にクロスボウに装着する魔道具の方を作りたい」
「鹵獲防止ゆうてたやつですか?」
「うん。そっちが優先。その上で余裕が有るなら、協力する」
「分かりました。この魔道具は研究の為に譲って欲しいゆわれてますが、ええんでしょうか?」
「悪用しないなら大丈夫だけど。ノーウェ子爵様の絡みの人材だよね? 信じるしかないか」
「ほな、渡しておくようにします。もしかすると、魔道具の歴史、製法ががらりと変わるかもしれへんゆうて、大騒ぎですから」
チャットが大きな溜息を吐く。丁度ノックの音が聞こえたので、お茶を運んでもらう。チャットも延々怒鳴り声だったので、んくんくと喉を潤す。
ハーブの香りを楽しみながら、口に含む。
「しかし、あの精度で魔術使っている人っているのかな。探すのもまた至難だと思うけど……」
「実際には、もっと規模の小さい火球で流れが同じくらいになるように調整するゆうてましたね。最低限この流れになれば均衡するゆう線は見極められましたさかい」
「この町から面白い魔道具が出てくれるなら嬉しいね」
「そない呑気な話や無いんですけどね……」
「まぁ、秘匿事項で。ノーウェ子爵様の諜報の方とも話を合わせておいて。あー、カビア経由で話が出来るはず」
「分かりました。規模が小さいゆうても手元を照らす程度なら十分ゆう仕様もありますさかい、出せば売れるんでしょうね」
チャットが何かを計算している。
「民間に出すかは別かな。ただ軍の制式装備にはしたいよ」
「その辺りからですか。分かりました。学者達と魔術士の方は調整しますさかい、まずは報告までで」
「ありがとう。例の魔道具の件、早めに片付けたいから手が空いたら教えて」
「はいな。ほな、戻ります」
そう言うと、チャットがたーっと執務室から出て行く。忙しいな。エルフの人も移住の許可を出した後は、町中に結構増えてきているけど、皆大らかだ。森の中で忙しなく生きると言う事が少ないと言うのもあるだろうけど、チャットは特別なんだろうな。あー、エルフの人にオークの話聞きたいのに時間が無い。誰かに頼むかな……。
しかし、永久機関か。と言うよりも事象に対して消費するエネルギーが少ないと言うならありがたい。鉄を溶かして完全にぐずぐずにするだけの熱量を出せるのなら御の字だ。試験が終われば制式化して、クロスボウの教練を始めるか……。講師はロッサだろうな。レイの編成が終わり次第、重装の壁役と合わせて、調整かな。
うん、仕事が後から後から湧いてくる。お昼くらいゆっくり食べたいなぁ……。大きめの溜息を吐きながら、未決裁の書類を広げる。愚痴っても仕方ないから、お仕事さー。頑張るぞー。




