第249話 無音潜行可能で発信音無しソナー付きの潜水艦とか脅威以外の何物でも無いです
後は細々した事務レベルの話だ。一旦はベルヘミアの集落100人弱を領民とする事で合意に至った。全ての人魚さんを一気に領地に招く事は不可能だし、無責任だ。私の、私達の腕は無限に広がる訳では無い。掬い上げられる所から少しずつ。実績を積んで、拡大していけば良い。
「将来は海戦も視野に入っています。その場合は、敵方の船への工作をお願いするかも知れません。その辺りはご了承下さい」
「はい。直接の戦力としては難しいですが、船に穴を開ける等の手伝いは可能です。それは仰って頂ければ対応します」
ベルヘミアがキリっと答える。まぁ、兵力として数える気はない。どちらかと言うと使い減らない魚雷や機雷と言ったイメージだろうか。敵が馬鹿正直に私の領地の中に船を着けるとは思わないが、将来的には海戦は大いに想定される。その際に一方的に相手の足を無力化出来るのは強みだ。未来への軍事への投資と考えればこんなに安いものは無い。
「そう言えば、魔術の得意な方はいらっしゃらないのですか?」
他の人魚は調べる間が無かったので分からないが、この3人は『術式制御』は無い。
「集落の中にはいます。水と風がほぼです。土も若干名はいますが」
ガディミナが答える。まぁ想定通りな気もする。船への工作、海岸線における魔術での奇襲、領海侵犯相手への警告行為、色々役割は多い。正直、ここまで優秀なのに使えない方の頭がおかしいんじゃないかとも思うが、私が現代日本の知識、歴史が有るからの結論だろうな……。勿論、3人共『警戒』持ちだ。海の中が過酷なのが分かる。だが、優秀なレーダー付きの潜水艦がどれだけ通商航路と戦艦達に被害を与えたか。将来的な海岸線の一次防衛は任せられる。そこで時を稼いでもらって村の避難と『リザティア』本軍が対応すれば良い。よし、海側の安全はある程度担保出来る。良かった。超安価だ。
「後は、ちょっと確認したいんですが、白っぽい輝く石を内包した貝って有りますか?後海底の明るい所に色とりどりの石っぽい植物みたいなのは生えていないですか?」
珊瑚は有った気がするが、海上から眺めただけなので、どのくらい有るのかは分からない。
「あ、白い石に関しては、これですか?」
そう言うと、ポリミリアが首からぶら下げた袋を開ける。大小バラバラだが、真球に近い真珠が零れる。花珠は流石に時期を狙って採っている訳では無いので無いが、良質真珠っぽいのは幾つかある。天然物で大珠だ。太陽に照らされ濡れたようなほのかなピンク色に輝く。
「美味しくないので食べない貝ですが、石が綺麗なので貝を見つけたら中を確認します。石が有ればそのまま開けちゃいます」
ガディミナが微笑みながらそう言う。まぁ、美味しい貝じゃ無いし、食べないか。開けてそのまま放っておいても勝手に何かの餌になる。しかし真珠は出来るのか……。養殖は熟練の技術が必要だけど試してみるのも悪く無いかな?投資はイカダと網だけだし。
「結構生息しているんですか?」
「はい。ちょこちょこは見ます。私達も綺麗なので何と無く集めていますが、特に利用価値も無いので処分には困っています。観賞用でしょうか?」
おふ……。これ、磨けば光るし、ある種宝石なんだけど……。まぁ、価値観の問題か。んー。これも商売の種かな。漂白ってどうやったっけ?養殖まで行かなくても、天然物で指輪の石にしたり、ネックレス、ブレスレットのトップには出来る。価値を一気に上げちゃおう。温泉宿のお土産物屋さんの華だな。
「分かりました。利用価値は有るので買い取ります。また見つけたら集めて頂けるとありがたいですし、将来的に自分たちの手で増やす事も出来ます」
「そうなんですか? 私達は当たり外れで喜んでいましたが、増やせるんですね」
「貝の中にこの石の元を入れれば、勝手に大きくしてくれます。その辺りは落ち着いてからですね」
「はい。後は色付きの石みたいな植物は、有ります。海岸から少し離れた場所に沿って、延々生えています。ちょっと採って来ますか?」
ガディミナがそう言うとポリミリアが海に飛び込む。
後は海産資源についても聞いてみるが、岸側はかなり南国寄りな魚や貝が多い。ただ、海流が変化する部分からは北側っぽいのもいる。ここ、海産物関係者にとって、天国じゃ無いのか?
そんな話をしているとポリミリアがぴょんこぴょんこと近付いてくる。
「こんなのだけど」
なんか、人の頭より大きな珊瑚を手に持ってくる。幹は太いし、枝は繊細だ。色合いは桃に近い。これ見た事ないけど、ボケさんごじゃ無いのか?エンジェルスキンだっけ?置物としては一級品だ。怖い……。
「おぉ、風情が有りますね……。家に飾ったりしても綺麗だ。沢山有るんですか?」
「うん。延々生えているよ」
これも置物として売ろう。数は出さずに希少価値を前面に出そう。確か水深300mくらいに生息していた記憶が有る。人魚さんじゃないと採取も出来ない。
「減らない程度に少しだけ採取して、これも売りましょう。その儲けで海側の村が大きく出来たらと思います」
宝飾ギルドがどう出るかは謎だが、入手経路が分からなければ税の対象にも出来ない。これも収獲税の対象に紛れ込ませておこう。相手は鉱物系の宝石しか見ていないはずだ。有機物系の宝飾までは手が出せまい。その間に産地としてちゃっちゃと利権を確立しちゃおう。
そんな話を元に雑談をしていると先程海に行ったポリミリアが仲間とも話して、火の通った食事を食べたいと言う話になったらしい。塩や香辛料は結構な量を持ってきているが、どのくらい来るんだ?
「んー。子供達は食べた事が無いから、子供達に食べさせてあげたい。交渉の際にも付いていけないし、パンくらいだから」
「分かった。連れておいで。材料はお願い出来るかな?」
そう答えると、ポリミリアが頷いて、再度海へ飛び込む。あぁ、また海鮮フィーバーか。ちょっと飽きそうだが、後ろで聞いている皆は喜んでいる。うーん。価値観の相違か。
そんな感じで、夕暮れ近くまで話し合いを進める。事務レベルでの協議もほぼ合意に達した。元々領民として求めるのは海産物の確保が基本だ。後は軍事力の提供か。この2点は領民の義務でもある。後はおまけの部分で、そのおまけが結構な金額になりそうなのが怖い。色々な養殖事業を始めたら、税収トップになりそうな気がする。しかも国に無税でがっぽがぽです。堪りません。
皆には薪拾いをお願いした。人数が増えれば一気に作らないといけない量も増える。その為の準備に走ってもらっている。さぁ、新しい領民の歓迎会と言う名の祭りの始まりかな?
 




