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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第242話 これからの話~フィアの場合

 もう一度休憩を挟み、昼ご飯の休憩ポイントに辿り着く。いつものように採取と薪拾いを指示する。薪はまだしもここまで冷え込むと採取はきついだろう。狩りは諦めて、採取に回ってもらう。

 案の定、葉物の野菜は枯れている。冬野菜やキノコの類になるが、キノコも本当に安全と確信しているものしか採取していないようだ。『認識』先生に聞く限りは、毒は無い。大丈夫だ。

 余程子供の頃から教育されているか、冒険者の先輩から言われるんだろうか?まぁ、普通に『認識』先生を頼る事も出来ないので当たり前か。私も日本の山に入る事はあるが、図鑑を持っててもキノコを採取しようとは思わないな……。


 珍しく飯場で複数種の酢漬け野菜が有ったので買いこんだ。この国だとピクルス的な食べ方より塩漬けにする方が多い。調味料としてお酢の方が高いのも有るのだろうが。

 お酢は後でイノシシの塩漬けでも煮込む時に使おう。脂物をお酢で煮込むのは好きだ。砂糖も蜂蜜も有る。


 と言うか、間違い無くあの飯場は村の生活より豊かだ。隊商との交流が侮れない訳が分かる。東側の文化はどんどん取り込みたい。料理の幅も広がる。

 国の玄関としては貧しい様を見せる訳にはいかない。


 そんな事を考えながら、燻製肉を煮込み塩漬け野菜を投入する。生野菜が無いのが辛いな。スープを味見するがやはり結構しょっぱい。うーん。冬の最中に贅沢な話なのかな。

 採取の時に毒の無い葉野菜を私も探す方が良いかな?


 そう思いながら、煮込み状態を確認し、皆に取り分ける。ピクルスもどきは皿にあけておく。


「雪も降らず順調に進んでいるけど、油断は出来ないと思う。まぁ、気を付けながら進もう。では、食べましょう」


 そう言って、スープを口に含む。うん。しょっぱい。皆も普通な顔をして食べている。一般的な野営食ってこんな感じなんだろう。


「うわっ! すっぱ! リーダーこれ、大丈夫?」


 フィアがピクルスもどきを食べて叫ぶ。


「酢漬けだから、酸っぱいよ。冬の最中に生の野菜が食べられるんだから贅沢言わない」


 そう言うと嫌そうな顔で匙で掬い、我慢してますと言う顔で食べる。まぁ、確かに砂糖も入っていない酢漬けだから容赦無く酸っぱいが。この国の人間はあまり酸味に慣れていない。どちらかと言うと腐敗を警戒している感じだろうか?


 隊商に簡易な地図を見せてもらったが、東の国は一気に北側に広がっているようだ。ワラニカ王国は比較的南側のどん詰まりになっている。下手したら、大陸の西の果てなのかとも思う。

 まぁ、そう言う意味で北側にある為、保存食には気を使っているようだ。塩だけでは無く栄養も考えて、保存食を作っている。そう言う意味では、この国はイージーモードなのだろう。初めて来たのがこの国で本当に良かった。もっと寒い場所なら、早晩凍死していた気もする。


「しかし、新鮮な野菜を食べられるのはありがたいです」


 野菜好きロットがうんうん頷きながら、ピクルスもどきを食べる。飯場の食堂でも野菜は入っていたが、基本はスープの具材だ。生野菜を体が欲している。そう言う意味では良く分かる。


「でも、もうちょい優しい味でもええと思います」


 チャットが若干涙目でぽりぽり齧っている。


「あら?でも慣れれば悪くないわよ。お酢を飲む事も有ったから特に苦にはならないわ」


 ティアナは大丈夫っぽい。と言うかお酢を飲む健康法とかこっちでも有ったのか……。あれ、食前食後のタイミングを間違うと胃が荒れるから危ないんだよなぁ。


 ロッサとリナは何事も無い顔で黙って食べている。両者とも冒険者家業の過酷な部分を味わっているので、物が食べられるだけ幸せとかそう言う世界なのだろうか。ドルは顔色も変えていないが冷汗はかいている。やせ我慢か。


 リズは結構酸っぱい物を家でも作ったりしていたので、慣れたっぽい。美味しそうに食べている。


 レイは普通に食べている。カビアは駄目っぽい。匙で切った一切れを食べて、崩れている。意外な弱点だ。


「大丈夫?食べられないなら貰うわよ」


 ティアナがカビアに気を使ってか、酢漬け野菜を引き取る。それを見たリズがぴくっと何か反応した。振り向くが特に表情も変わっていない。あれ?何だったんだろう。


 そんな感じで昼ご飯を済ませ、食休みの間に馬の面倒を見る。マッサージ地獄に参加するのはあれなので、狭い所にいるタロの精神状態の為、散歩をする。


『しらない、におい!!おおい!!』


 クンクンブルドーザーは今日も元気に発車している。外ではトイレを自由にして良いと学習してしまったので、躊躇が無くなってしまった。うーん。村とか『リザティア』ではどうしよう……。


 ()いた端切れをお湯で洗い、馬車の外の棒状の補強材に縛っておく。走っている間に乾くだろう。 


 馬の調整も終わり出発する。後続がいないのでスピードが出せる分、前回の野営地よりも距離を稼ぐようだ。


 流石に政務に疲れてきたので、玩具でタロの相手をしながら、皆に遊戯の感想を聞いてみる。元々テスターとして遊んでもらっているので、ちょくちょく吸い上げはしないといけない。


「んと、有れば有るだけ遊ぶかな?」


 リズが痛い子な発言をする。


「いや、生活はどうするの?」


「んー。生活は頑張る。その上で時間を作ってでも遊ぶかな?」


 あー。社会人ゲーマーっぽい台詞だ……。


「フィアは?」


「僕は、我慢出来ないかな?ロット、その辺り含めて面倒見てくれる?」


「家の事くらいは任せたいのだけど。その程度はやるよね?」


 夫婦漫才が始まった。フィアは駄目な子かぁ。自制が弱めなのでしょうがないか。


「ロットは?」


「フィア程では無いです。生活を考えれば自制は出来ます。ただ、遊びたい欲求は有りますね」


「生活を考えないで済む程、金が貯まったら?」


「そこまで行くと、普通の人は遊んで暮らしますよ?私もそうなるかも知れません。ただ、まぁ、今はリーダーの仕事を手伝うのが楽しいので、そうは思いませんが」


 ふむ。ロットは自制可能と。


「チャットは?」


「んー。リズと一緒ですね。頑張る時は頑張って、遊ぶ時は目いっぱい遊びます」


「研究とどっちが大事?」


「それを聞きますか? んー……。研究……ですね……」


 大分間が有ったが大丈夫かこのエルフ。研究者でも嵌まるか……。うーん。


「ティアナは?」


「ロットと一緒ね。仕事と区別は付けるわ。ただ、遊んで暮らせるだけの状況が有れば少し考えるかも……知れないわね」


 現実主義のティアナでもその辺りの回答か……。


「ドルは?」


「鍛冶仕事優先だな。ただ、時間が空く時は空く。そん時は遊ぶな、間違い無く」


 ドルはメリハリ派か。


「ロッサは?」


「あたしは、仕事です。遊ぶのは楽しいですが、生活出来ないのは怖いです。なので、遊べる時に遊べる人がいれば遊びます」


 苦労性だけど、庶民の感覚はこの辺りか……。


「リナは?」


(それがし)はまだそうは遊んでおらんので、良く分からんで御座る。ただ、出来れば遊びたいと思わせるだけの何かは感じるで御座るな」


 嵌まる気配は有るか……。その道のプロでも魅了するか……。


「これって何の為に聞いているの?」


 リズが聞いてくる。


「故郷でも、遊戯に夢中になって身を亡ぼすって事象は起きていたんだ。他の領地や他国の人間がどうなろうが関係無いけど、自領の民には生活の潤い程度で収めて欲しいかなって」


「難しいわねそれは……。どこか遊べる場所を制限してしまうとか、そう言う対応が必要よ?」


 ティアナが回答してくる。まぁ、碁会所みたいな設備で遊ばせるか。個人所有は禁止にして、様子を見ながら広げていく感じかな。


「そうだね。そう言う設備で皆で遊んで、親睦を深めてもらうと言う趣旨で広めよう」


 そう言うと、納得したのか皆が頷く。

 まぁ、その辺りが落とし所か。他国の力を削いだり、王家の力を削いだりと色々画策は出来る。遊戯も使い方次第では兵器だ。


 そんな話をしていると、再度の休憩が挟まれた。馬車に戻ると、日は傾き始めている。


「もう少しで野営地です。もう少々お寛ぎ下さい」


 レイがそう言うと、馬車を発車させた。


 明るい内にとタロを膝に乗せて書類を読み始める。造船系の貴族を探しているんだが、中々見つからない。


「カビア、船作りに強い貴族はいるかな?」


「南側は公爵閣下の影響が弱いです。その中でも何家かは、はい。御座います」


 カビアが即答する。


「その中で影響力が高いのは?」


「テラクスタ伯爵閣下ですね。ノーウェ子爵様の町から南に下った一帯を治められています。男爵様の領地からは他の貴族領を挟みませんので、隣となります」


「あー。あの空白地帯か。あそこは何故空白地なのかな?」


「平地が少なく森林が深い為、開拓が困難です。道を通す程度で有れば可能でしょうが、割に合いません」


 将来的に炭の消費が増えた場合はその辺りを削り取る形かな……。でも、パニアシモが絡んでいると、勝手に植え直されている可能性が有る……。


「海沿いに町が有る形なのかな?」


「村と言った方が良いでしょう。漁で生計を立てられる規模です。そこまで大きな村は作られません」


「船は作っているのに?」


「漁獲量を上げる為に、都度改善をされている筈です。ノーウェ子爵様とは同じ開明派で隣領と言う事も有り仲は良いと伺っております」


 ノーウェに魚を贈ったのはこの人かな?


「うちとも隣同士か。仲良くしておこうかな」


「分かりました。ご挨拶の際に誘導致します」


「その際はよろしく」


「畏まりました」


 そんな話をしていると本日の野営地に到着する。前に休憩で止まった場所かな?何と無く見覚えが有る。


 皆に薪集めと狩り、採取を指示する。


 薪が程々に集まった段階で、一旦火を焚く。気温がかなり下がり始めている。戻って来次第、暖を取らないと風邪をひきそうだ。空を見ると、徐々に雲が広がり始めている。明日は雨か雪かも知れない。

 それからも薪を集める。戻って来た時には、リズとロッサ以外の皆が集まって火を囲んでいた。狩りはまだ時間がかかっているようだ。程無く暗くなりそうなので、先に料理の準備を始める。

 塩漬けのイノシシ肉をお湯で茹でて、出来る限り塩を抜く。油と一緒に塩気を捨てる。鍋を洗い、昆布を水から炊き出汁を取る。昆布を引き抜き、イノシシと根菜、昼のお酢を入れ、蜂蜜、唐辛子を加えて炊いていく。醤油が有れば良いのだが、無いので諦める。

 炊き始めて有る程度経つと、2人が戻ってきた。手には雉系の鳥を10羽程持っている。


「ちょっと暗くて時間がかかったよ」


 リズが寒そうに焚火に近寄る。ロッサが捌き始めようとするので、一旦焚火に呼ぶ。


「温まらないと風邪をひくよ」


「はい。分かりました」


 そう言うと、ほっとした顔で焚火で暖を取り始める。この子は相変わらず無理をする。


 鳥は明日の朝で問題無いか。


 鍋の重い蓋を開けるとぐつぐつと煮えたイノシシと根菜が見える。匙で押すと崩れそうだ。もう良いかな。


「うわ、酸っぱい臭いがする!」


 フィアが嫌そうな顔をする。


「炊いたから、酸味は飛ぶよ。大丈夫だから」


 フィアが微妙に信じていない顔でこちらを見る。


 小皿を作り出し、肉と根菜を分けていく。


「では、海への1日目と言う事で、無事到着しました。予定よりも早く進めていますが、明日の天気次第の部分も有ります。今日は寒いので夜番も大変ですが頑張りましょう。では、食べましょう」


 そう言って、皿のイノシシに匙を当てる。塩漬け肉だが、柔らかく炊けている。ほのかに香る昆布とお酢の香りと一緒に口に入れる。

 解けるようにほろほろと肉は崩れるが奥から塩味が出てくる。うーん、美味しいけどちょっとしょっぱいか。蜂蜜で甘みは出ているが塩気のきつさに負けているな……。あぁ、醤油が欲しい。

 個人的には美味しいけど、満足では無いと言う感じだが、周囲の評判は上々だ。


「うわ、塩漬け肉なのに甘い。すっぱいけど、これなら食べられる!」


 フィアが昼と違って嬉しそうに食べ始める。


「塩漬け肉と言えば塩味しか感じないと思って御座ったが、これは中々……。イノシシの味もする上、複雑玄妙な味もするで御座るな。ふぅむ……」


 リナが感心したように食べている。


「脂と酢って合うのね。さっぱりとして幾らでも食べられる感じだわ」


 ティアナの口にも合ったようだ。


 根菜を含め、綺麗に鍋が片付いた所で、後片付けをしながら順番に風呂に入る。後片付けの手伝いがフィアだったので、前に考えていた話を聞いてみる。


「フィア、出来始めている男爵領を見た訳だけど、何か心境の変化とかって有るかな?」


「変化? いや、無いよ?」


「そっかぁ。いや、怖いとか、パーティーから離れたいとかそういう風に思ったりするのかなって」


「何で? これから儲けて行くんでしょ? 聞いてる話でもそうなっているし、僕もそう思う。そこから離れるとか、馬鹿じゃん。それに、ロットもいるし、東の森だって有る。食いっぱぐれないのに何で離れる話になるの?」


 あぁ、この子、こういう子だった。気にするだけ無駄だ。


「うん、そうだね。これからもよろしく」


「こちらこそ、リーダー。超頑張るよ!」


 そう言って、にっこりと微笑む。うん、この子は大丈夫だ。黙ってても勝手に最後まで付いてくる。


 その後は、皆の風呂の世話をしながら、鍋で朝貰った鶏の頭を煮る。タロも成長期なので、カルシウムを定期的に摂取しないといけない。明日の朝用に煮ておく。夜番の人に面倒は見てもらおう。


 レイが風呂を上がったので、最後に私が入る。タロはリズが入れてくれた。


 体を洗い、樽に浸かる。ぼーっと考えるが、フィアに変化は無かった。実利主義と言うと語弊が有るが、逞しい子だ。きっと何が有っても最後まで一緒にいると言う、そんな気がする。


 樽から出て、樽の掃除含め後片付けをする。


 テントに戻ると、湯たんぽとタロに囲まれぬくぬくしているリズがいた。


「ぬくそうだね」


「幸せだよ」


 にんまりしながら、毛布に潜り込んでいる。色々考えていた自分が何か馬鹿のように思えて、苦笑が漏れる。


「あ、またその顔だ。何か有ったの?」


「いや、幸せだなって改めて思っただけ」


 そう言って、毛布に潜り込み、リズを抱きしめる。


「んー。結構冷たくなっている。ぎゅっとしてあげる」


 リズがそう言うと、強く抱きしめてくる。じんわりと温かさが伝わってくる。頭の上ではタロが丸くなってお腹を押し当ててくる。


『まま!!ぬくいの?』


 タロも温めてくれるらしい。頭を撫でて、湯たんぽの上の箱に戻す。少しお湯の温度は低めにしているので低温やけどになる前に冷めるだろう。


「ありがとう、リズ。幸せだよ」


 そう告げて、軽く口付ける。微笑むリズの顔を間近に見ながら、目を閉じる。移動だけだったけど、何か色々考えた一日だった。ゆっくりと寝られれば良いなぁ。そう思いながら意識を手放した。

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