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異世界に来たみたいだけど如何すれば良いのだろう  作者:
第二章 異世界で男爵になるみたいだけど如何すれば良いんだろう?
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第183話 小さな子犬は兎に角、愛情を注がないと情緒不安定になります

 タロが眠っている事も考えて、そっとドアを開ける。箱の方からごそごそと音がしている。転がったり、ずりずりしているんだろう。


 リズの装備を外し、綺麗にまとめる。そっとベッドに潜り込ませる。アルコールでの睡眠の所為か、普段かかない(いびき)が聞こえる。

 冒険で乱れた髪を丁寧に、手櫛で(くしけず)る。乱れていた髪が、艶やかなストレートに戻る。


 匂いに気付いたのか、タロが興奮しだす。


『まま……まま!!まま、まま、おなか、すいた、まま、まま!!』


 ひゃんひゃん、必死で鳴いている。もう、親に縋りたいのか、それが他の欲望なのかも分からないのだろう。

 箱に近づくと、尚ひゃんひゃんが必死になる。


『まま!!まま!!まま!!まま!!』


 手の平で抱き上げた瞬間、最高潮に達する。興奮したのか尿も漏れている。あぁ、生まれたばかりの子犬なんて母親に包まれて、食っちゃ寝がお仕事だ。

 ただでさえ親の愛に飢えているのに可哀想な事をした。


 尿の処理をして、ベッドに寝ころび、お腹の上に四肢を広げてぺたんと寝転がせる。両手で柔らかく、優しく撫でて行く。手の平の体温で、タロの体温が下がらないようにする。


『ままー、ままー、さみしい、さみしい、ままー、ぬくいー』


 あぁ、過去形での概念がまだ無いか。寂しかったし、不安だっただろう。ティーシアも最低限の食事の相手はしてくれるが、甘える所まではしてくれない。

 ここにあまり手を出し過ぎると、タロが混乱する。「私(まま)」「ティーシア(ごはんくれるいいひと)」「リズ(きがいをくわえないひと)」辺りの序列認識だろう。


『さみしかった?』


『まま、いない、まま、さみしい、さみしい、まま』


 嬉しそうに膨らんだお腹の上をずりずりと這い回る。すんすんと匂いを嗅ぐと安心したへにゃっとした顔に戻る。


『おなかすいた?』


『おなか、すいた、まま、おなか、すいた』


 ふむ。空腹も戻って来たか。不安が解消されて抑圧されていた他の欲望も正常化してきたかな。

 キッチンに向かうと見覚えの有る(かめ)が置かれていた。しかしキッチンに行くまでも一悶着有った。タロがまた置いていかれると混乱し始めたのだ。

 中を覗くと底に白っぽい液体と、独特の匂い。腐敗臭はしないので、今日搾乳分だな。小さな(びん)に移し、小さなタライを持って、部屋に戻る。


 瓶を湯煎して温めて、匙で小指を浸し、口元に持って行くと、反射的に吸い始める。


『まま、うまー、うまー』


 もう、必死で吸い付いてくる。ん?違和感が……。取り敢えず、満足いくまで飲ませてあげて、けぷっとさせる。ちょっと嫌がるかもしれないけど、口を開かせる。

 拍子抜けに素直に口を開く。歯茎の辺りを触れると、肉の奥に硬い物を感じた。あぁ、歯か。早いな。先程吸われている時に、ちょっと硬い物を感じた。原因はこれか。

 犬の成長は本当に早い。どんどん大きくなるだろう。


『ままー、ぬくいの、ぬくいの』


 ん?お風呂か?気に入ったのかな?


『お風呂はいる?』


『ぬくいの?ぬくいの!ぬくいの!』


 ふむ。お風呂は理解しているか。まぁ、風邪に注意していれば良いか。


 キッチンの(かまど)の残った薪を除いて、火魔術で炎を生む。キッチン全体の温度が上がるまで、何度か生み続ける。

 それまでは、椅子に座って、股の辺りの窪みにぽすっと入り込ませる。タロが動けなくて、じたばたとしている。


『きゃっきゃっ!』


 喜んでいるので良いか。目が開くまでは、匂いに包まれるのが幸せで安心出来る筈だ。優しくわしゃわしゃすると、もう有頂天に喜ぶ。


『まま!まま!』


 あれ?へその緒が取れている。ずりずりしている間に取れたか。まぁ、これで生後4日くらいかな。

 そのままキッチン全体が暖まったので、お湯をタライに入れる。脚から徐々に浸けていくがじたばたし始める。


『まま、もっと、もっと』


 慣れたのか、気持ち良いのを分かったのか、さっさと浸けろと催促してくる。

 ぽちょんと浸けて、首を縁に置く。


『ふへー、ぬくい、まま、ぬくい』


 もう、温泉に浸かるおっさんのように四肢をだらんと広げてリラックスしている。流石に先程尿を漏らしたので、ここでは漏らさない。

 この子は本当に大物だ。優しく、骨に負担が出ない力で全身を揉みながら洗う。


『あふ、きゃっきゃっ、ままぁ』


 この子的には舐められているのと同じだ。一番愛情を感じるのだろう。顔もきちんと洗ってあげる。耳も蓋をしてしっかり汚れを落とす。


『まま……ねむい、ね……』


 あぁ、やっぱり寝たか。お腹一杯で、お風呂だ。そりゃ寝るコンボだ。頭の毛を分けて温度を計りながら、温まったのを確認し、掬い上げる。

 大きめの端切れ何枚かで水分を優しく拭う。でろんとしているので、垂れたあいつを思い出し、和む。


 部屋に戻り、箱の中を綺麗にして、毛皮も新しい物に変える。洗濯は明日しよう。ぽてんと箱にいれると、無意識なのかもぞもぞと潜り込んで行く。

 顔の辺りにきちんと空間を開けて、毛皮で包んであげる。すぴーすぴーと小さな寝息が聞こえる。まぁ、もう少し経ったら、またご飯だろう。


 私も、疲労の限界なので、お風呂は明日の朝ご飯の後にする。兎に角、疲れた。ベッドに潜り込む。横ではリズがアルコール交じりの鼾を鳴らしながら眠っている。

 抱きしめると、いつもより体温が高い。あぁ、寒い夜にはリズ必須だな。そんな事を思いながら、すっと眠りに落ちて行った。


 そうして12月30日は穏やかに、終わっていった。外の風はどんどんきつくなっている。本格的な冬は始まった。

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